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神滅のヘッズベル  作者: くろえ
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第3話 コンビニとお嬢様

しばらくは毎日12:00投稿予定です。

 翌日、いつものように学校へ登校し、その後いつものようにバイトへと出向く。ちなみにその日のバイトはコンビニのレジ打ちだ。スーパーよりも二〇円時給は安いものの、賞味期限切れの弁当やらを持ち帰ることができるのでお得だったりする。


「いらっしゃいませー」


 夜の八時過ぎ、店の自動扉が開く音が聞こえ、冷凍唐揚げをフライヤーへと流し込みながら適当に接客をしている時のことだった。入店してきた客を見て俺は思わず「げっ」と口走る。


 天驚院音遠だ――。

 あんなお嬢様でもコンビニに来るんだな……。


 天驚院が俺の顔を覚えているか微妙なところだが、できれば関わりたくないという思いから顔を伏せて彼女の行動を見ていた。何も買わずに帰ってくれることを切に願う。

 俺は金持ちが嫌いだ。それは至極単純な妬みだ。金を持ってる奴が羨ましい。なに不自由なく日常生活を送れる奴が憎たらしい。

 天驚院は店内をうろうろとしながら何かを探している様子だった。

 俺は全身から「はよ帰れ」オーラを全開で放出していたが、その努力も虚しく彼女はレジの前まで来てしまった。


「い、いらっしゃいませ」


 俺は引きつった笑顔でそう言った。しかし天驚院は目をきょろきょろと泳がせて、俺のことなど気づいていない様子だ。


「あ、あの……」


 口元を抑えてわずかに頬を赤らめながら音遠は俺に話しかける。どうでもいいけど胸でけぇ……顔を直視できねえんだからせめてそこは控えめにしてくれ。


「ゲ、ゲームで使うカードがここで買えるって聞いたのですが、どこにあるのでしょうか?」


「ゲーム……? ひょっとして電子マネーのことですか?」


 こいつ電子マネーの買い方も知らんのか。コンビニ入るのも初めて臭いし。


「それです! 電子マネーです!」


「それでしたら、あちらの棚にありますよ。千円から一万円まであるので、お好きなのをどうぞ」


 天驚院は電子マネーの棚を物色し、やがて二千円分のカードを手に取り再びレジへと戻ってきた。

 俺は慣れた手つきでレジを打ち会計を済ませると、溜め息を一つ吐いて、帰っていく音遠の背中を見つめていた。すると彼女は自動扉の前で振り返り笑顔で言った。


「ありがとうございました。えっと……桜庭黄金くん」


 ――気づいてたのかよ。


 まだクラス替えしてから一ヶ月ちょいで、教室のザ・キングオブ空気である俺の名前まで記憶しているとは思わなかった。


「どういたしまして」


 無表情のままそう答えた俺に対し、彼女は会釈をして帰っていった。


「ゲーム……するんだな」


 バイトが終わり家路についた俺は道すがら考えていた。

 天驚院音遠、俺の見立てが正しければ――、バスト89のEカップ。

ほんとどうでもいいわ。


 家に着いた俺はシャワーを浴び、そしてバイト場から貰ってきた弁当を食べながらPCの電源を入れる。適当にプレイしているいくつかのオンゲのログインボーナスを受け取ってから、神滅のヘッズベルへとログインした。

 ゲームをプレイする為には、VRゲーム専用のバイザー〈トリニティ〉ともう一つ、コントローラー代わりに使う専用のグローブを嵌める必要がある。このグローブによって、仮想空間内に表示された仮想キーボードを操作することができ、視界が塞がった状態でもゲームをプレイすることを可能としている。

 暗中から開けた視界の先には、昨日と同じ未来都市オケアノスの街並みが広がっている。そして、目の前にはミモちゃんがいた。何故かバレエダンサーのようにつま先立ちで回りながら踊っている。


「何してんのさ」


 俺の言葉にピタリと動きを止めてこちらへ向き直った彼女はただ一言。


「踊ってたの」


「そりゃ見れば分かります。なぜ踊っていたのか訊いてるんだが」


「暇つぶしなの」


「お、おう」


 うん、相変わらずの不思議っぷりですね。でも可愛いからいいんじゃないかな。


「待たせてごめんな。それじゃあチュートリアルやろうか?」


 ミモちゃんは小さく頷くと、とてとてと緑色のポータルへと走っていった。

俺もその後に続く。

 二人同時にポータルの中へ入ると、ワイヤーフレームだけの空間へと出た。そこには大型の電子モニターが空中に浮いており、映像が映し出されるカウントダウンが始まった。


「なんだこれ?」


 カウントが終わり映像と共にナレーションが入る。

 どうやらゲームのオープニングのようだ。


 ――星暦四〇五九年、人類は未だ宇宙へ進出する手段を持たずに地球という惑星に生きていた。そして幾多の大戦争の果てに無数にあった国々は滅び、地球の人口は激減し今は二つの大国がこの星を半分ずつ支配している状態だった。

 南半球を支配する〝ウラノス〟。

 北半球を支配する〝クロノス〟。

 この二つの国家は現在も争い続けている。しかしウラノスとクロノスはお互いの領土を奪い合う争いに、あるルールを設けた。

 それは限定的代理戦争・ヘッズベル――。

 大量破壊兵器の類を用いずに、定められたルールの中で公平に戦うことで、人類の存亡を守る戦闘競技。君たちはそのヘッズベルで、一人の戦士として自国の領土を拡大するために戦うことを運命付けられている。

 さぁ、己の眠れる力を呼び起こし戦え! いざヴェットシュピールッ!!


「ヴェ、ヴェット? なんて? 最後なんて言った?」


 渋い声質のナレーションと、無駄に壮大なオープニングが終わったところで俺は苦笑いを浮かべていた。隣で同じ映像を見ていたミモちゃんが小さく拍手をしている。


「ヴェットシュピール……ドイツ語で勝負とか試合という意味なの」


「あのオープニングのどこにドイツ要素あったのさ……」


「それは」


「うわッ!?」


 ミモちゃんが何かを言いかけた時だった。突如、足場が円状に広がり俺達は奈落へと落ちていった。


「うわあぁ――!!」


 ――っと大袈裟に驚いてみたが、なんのことはない。現実の俺は今も椅子に座りPCモニターの前にいる。視界こそフリーフォールのようになっているが、落下している感覚は当然ないのだ。

 二人が次に来た場所は荒廃した市街地だった。その光景は胸に七つの傷を持つ救世主が、砂塵舞う荒野を一人歩いた末に辿り着くような世紀末感を彷彿とさせる。


「さぁて、お次はなんだ? モヒカン頭の輩でも出てくんのか?」


 俺が辺りを見渡し次に起こるイベントを待っていると、蒼く晴れ渡った大空から何かが落下してくる音が聞こえはじめた。その音が次第に大きくなり、上空を見上げていた俺の視界に黒い物体が入る。


「あれ、落ちてくるな」


「落ちてくるの」


「あ、これやばくね?」


 次の瞬間、壮絶な爆発を伴ってそれは地表へと激突した。

俺とミモちゃんはその爆風に吹き飛ばされて地面を転がる。


「なんじゃこりゃあ!」


 いきなりの展開に驚いていた俺だったが、やがて土煙の奥に丸い影がふらふらと浮き上がった。それがこちらへと近づいてくる。


『グーテンモーゲン、新たな戦士たちよ』


 姿を現したその影はモノアイカメラを赤く輝かせた、丸いロボットのような奴だった。こんなのどっかのアニメで見た気がする。

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