10話
「真面目な話、優しいとか頼りになるとかそういう、うちだけがわかってればいいとこを除くと、料理が上手いのとバスケしてる時が凄い格好いいとこ、かなぁ?」
千夏が考えてそう言葉を告げるのに、藤堂さんと櫻井さんがそれぞれ反応した。
彼女が、彼女の友人たちに彼氏である僕の良いところを目の前で言うという、考えようによっては随分な状況である。
「へぇ、佐藤ってバスケやるの?」
「佐藤くんって料理できるの?」
藤堂さんは女子バスケ部だからだろうし、櫻井さんは分からないが、料理に何か思うところがあるのだろうか。
「うん、ミニバス時代からやってて、中学もバスケ部だった。今はちょっと家の事情もあってバイト優先でさ、毎日は練習出れないからってのもあって部活には入ってないんだけど、ストリートバスケ行ってるんだよね。千夏も見に来てくれたことが何回かあってさ……後、料理はまぁ、一人暮らしだから自分でご飯は作らないといけないし、千夏は美味しそうに食べてくれるから特に最近は凝ってきてて」
そう僕が言うと、藤堂さんと櫻井さん、それに法乗院さんまでもが微妙な表情になった。
「…………佐藤ってさ、実はめちゃくちゃ凄いやつ?」
代表するように、藤堂さんがそう言うのに僕は首を振って否定する。
「うーん、ちょっと生活環境が特殊なだけで僕自身は普通だと思うけど」
「……正直千夏の目線も入っているとはいえ、今のところ、千夏の彼氏である佐藤は、優しくて、頼りになって、料理が上手で手料理を作ってくれる上に、バイト?もしてて一人暮らしができるほど生活力もあり、バスケまで上手いという、超が付くほどの優良物件になってるんだけど」
「いやいや、流石に持ち上げすぎだと思う……」
藤堂さんが僕の事を見て、そして千夏の事を見て、何故か頷いた。
「何か、心配いらない気がしてきた……」
「今思いついたんだけど、千夏ちゃんお弁当とか作ってもらったら? で、佐藤くんと一緒に食べるの。料理得意で、彼女のためにお弁当作ってあげる男子は、多分高評価ポイントだと思うな!」
藤堂さんが何かを諦めつつあるが、櫻井さんがそう案を出してくれる。
お弁当か、正直一緒に住んでいた時に作ってあげたこともあるのだが、夕食の残りお弁当だったので、ちょっと張り切って作ってみるのもいいかもしれない。
そう思ってささっと動画検索で幾つかめぼしそうなものをお気に入りに入れておく。
「ハジメ、作ってくれるの?」
忘れない内にとスマホを操作するのを見て、千夏が嬉しそうに聞いてくるのに僕は頷いた。
「うん、千夏さえ良ければ」
「えへへ、女の子としてどうかと思うけど、とりあえずうちは作ってくれたらめっちゃ嬉しいです」
そう笑ってくれるだけでも、作ってあげようという気になるから、これは惚れた弱みというやつなのかなぁと思う。
「……あんた達って、油断するとすぐ二人の世界に行くわね。これ、逆の意味でフォローしないと死人が出るんじゃないかしら。主に羨望とか嫉妬で」
藤堂さんが何かを考えながらブツブツと言っている。
「ところで、ストリートバスケと言うのはどういう物なのですか? 以前、知人もやっていると言っていたのですが、生憎と私はよく知りませんでしたので、普通のバスケと違うのでしょうか?」
そんな中で、ふと法乗院さんがそう質問してくるのに、特にバスケには変わりはないけど何と説明したものかな、と僕が言葉に迷っていると、千夏が代わりに答えた。
「体育館とかじゃないけど、雰囲気があるところで、大人の人とかも沢山いて結構楽しいよ? 玲奈も見に行ってみる?」
「あら、是非見たいです」
「そういうことなら私も行ってみたいかも、部活以外のバスケってどんなもんなのか興味あるし、千夏が言うように、佐藤がどのくらいのレベルなのかも知りたい」
「ねぇハジメ、今日ってどうなの? あ、バイトお休みして行くのは良くないか」
「うーん、こないだ先輩に代わってあげた時は、急遽デートが入ったとかだったから、正直一言断っておけばいいかな」
そういえば彼女がやばいらしい、で出てきたから、大丈夫でした、ありがとうございますって送っておこう。
そう思ってスマホを見てみると、真司からも新学期前に行くけどお前は行くのか?と連絡が来ていたので、もしかしたら行くかも、と返しておく。
「いいよ、ここからも遠くは無いし、部活も考えたらタイミング無さそうだし、興味あるなら行ってみる?」
そうして僕は、いつものバスケの場所に彼女達を連れて行くことになった。
バイトに行こうとしていた時から考えると、何故こうなっているのかと思わなくもない。ただ、千夏が友人達と自然体で付き合えるようになったのも嬉しいことだし、僕としても彼女の友人に認めてもらえたというのは、何というかとてもホッとする出来事だった。
◇◆
そうして藤堂さん達を連れて扉をくぐると、千夏を連れてきた時の喧騒が再来するように、何故か頭を抱えて世の中の理不尽を叫ぶ大学生と社会人という不可思議な現象が見られた。
「何でだ、高校生はあんなに青春しているというのに何故俺には春が来ない! どこでルートを間違えちまったんだ?」
「…………リア充って、高校生の時からリア充なんだな、死ねばいいのに」
「ハジメ、お前は……お前だけは仲間だと思っていたのに」
よしあんた達黙れ、連れて来にくくなるから大人の余裕ってやつをちゃんと見せてくれ。
とりあえず絡んでくる自称大人の男達をかき分けつつ、コートに向かったのだが、藤堂さん達にも何だか変な目線を向けられた。いや、いつもはもう少し落ち着いた人達なんだよ。僕を変な目で見ないで、あれらの仲間じゃないから。
今日は残念ながら美咲さん達は不在だった。
だが、代わりといってはなんだが、ゲンさんが珍しく少し早めの時間なのに居る。
何だかんだで千夏とのことを相談に乗ってもらったりと付き合いもあるので、友達です、と紹介すると、ゲンさんは真顔で僕の方を見て、そして後ろの女の子達を見て呟いた。
「なぁハジメ…………お前の学校には、お前以外には美形しかいないのか? だとしたら何て不憫な」
「馬鹿なんですか!? そんなわけないでしょ! ってか久々に会って失礼ですねゲンさん」
「……だってよ、千夏ちゃんを連れてきた時も美人だと思ったけど、お前以外に知ってるのと言えば真司だろ、それに今日の女の子たちと、安心する見た目のやつはお前しかいないじゃねぇか…………ってかいつの間にハジメは女の子を侍らせてバスケに来るようなやつになっちまったんだ……」
「……いや、そんな世を儚むような顔で言われても。千夏の友人がストバス見てみたいっていうので連れてきただけですよ」
僕とゲンさんがそんなやり取りをしているのに笑いながら、千夏が挨拶をする。
「こんばんは、ゲンさん」
「千夏ちゃん、それに千夏ちゃんの友人も、いつでも歓迎するから楽しんでいってくれ」
「ゲンさん、扱いが違いすぎません?」
どこかキリッとした顔でゲンさんが言うのに、僕は疲れたようにツッコむ。そうしていると、後ろから近づいてくる気配がした。
「……今日は随分と大所帯だな、ハジメ。情報は解禁か?」
「やっほー千夏ちゃんあけおめ! 今日はお友達も一緒?」
「色々とあってね、明けましておめでとう、真司」
真司との気安いやり取りをしつつ、そちらを振り向くと、真司が藤堂さんたちを見て一瞬固まっていた。
にこやかに手を振るカナさんは千夏と随分と仲が良くなったみたいで、僕としても一緒に来やすくなってとても助かる。懸念はこのモテ男があっさりと違う女の人を連れてこないかだが、今のところ一番長く隣にいるのがカナさんなので、このまま続いてほしくはある。
「え? 相澤? っていうか佐藤と相澤って絡みあったの?」
藤堂さんが反応し、真司がそれに億劫そうに頷いた。
「まぁな、ここには中学の頃から世話になっててな、ハジメとは、高校に入ってから少しして、1ON1で負けて以来の付き合いだ……まぁそれ以降負けはないけどな」
「それはまた、千夏と佐藤よりも、あんたが佐藤と絡んでる方が余程意外だわ」
「……そりゃどうも」
「…………?」
何故だか、真司に少し違和感を覚えた気がした。だが、その思考がまとまる前に、挨拶もそこそこに真司はカナさんを連れてベンチの方へと歩いていく。
「あ、これってさ、私も参加できるの?」
「できるけど、スカートだとちょっとまずいんじゃないかな?」
そして、真司には興味を失ったような藤堂さんに答えつつ、僕は真司の後ろ姿を見ていた。
同様に真司に目線を向けている人がいたことには、気づかなかった。




