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二番目な僕と一番の彼女  作者: 和尚@二番目な僕と一番の彼女 1,2巻好評発売中
3章 僕と彼女と翼の欠片

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16話


 朝、普段とは違う気配に僕は目覚める。周りを見渡して、あぁ、そういえば家じゃないんだったとぼんやりとした頭で理解していく。

 あの後、どの県にもあって一人で入るのにも抵抗がない牛丼屋さんでご飯を食べつつ、アプリで予約して素泊まりで泊まったビジネスホテルは、意外と寝心地が良かった。


 千夏からは、いくつかのメッセージと、僕に対する感謝と、後は、ちょっとばかりむず痒くなる感じの愛情表現スタンプが沢山来ていた。


 近くにいるから、とは言ったものの、初めての街だから勝手がわかるわけでもない、ただ、せっかくの城下町ということで、ちょっと散策でもしてみようかと思っている。


 千夏が、おばあちゃんと仲直りできるといいな、僕はそう思う。

 どんなおばあちゃんだったのか、どんな親戚の人たちなのかは全然知りはしないけれど、それでも、喧嘩をしたままというのは、どうしようもなくなってしまうものだから。


 ホテルのフロントに外出してくる旨を告げて、ホテルの目の前にあるコンビニに入る。

 観光地でもあるからか、コンビニの雑誌コーナーには幾つかの旅行雑誌や現地のおすすめフードなどが表紙になっている本があった。

 それをちらちらとめくって流し読みをしつつ、このまま歩くならと思ってペットボトルの飲み物を手にとってレジに向かう間でふと、スイーツコーナーに並んでいるプリンを見て過去の光景が蘇る。


『何で私が食べようとしてたプリン食べちゃってたのよ!?』


『え? あれって僕のじゃなかったの?』


『違うってば! お兄のアホ! 100円のプリンと300円のプリンの味も分からないくせに他人の楽しみにしてたのを食べちゃうなんて、馬鹿、死んじゃえ!』


 何でも無い日の美穂とのいつものような喧嘩。怒られることも怒ることもあって、この時はプリンごときで大げさな、と思っていた。

 そして、まさかそれが最後の会話になるとは、あの時の僕は勿論のことながら、美穂も絶対思っていなかった。


(そんなこと言って、自分が居なくなっちゃうやつがあるかよ)


 こうして、ふとしたことで記憶を思い起こせるようになったのも、最近のことだ。

 それを思い出したから、というわけでは無いが、昨日、千夏が泣いているのを見た時には、連れて行かないと、と思ってしまった。

 喧嘩したまま、相手に居なくなられるのは、とても後味が悪い。本当に。


 それにしても、我ながら計画性もない行動をしたものだ。


「さてと、それにしてもどうやって過ごそうかな。せっかく知らない町とはいっても、この辺は普通にパルコとかファミレスとかあるだけだしな、とりあえずブラブラとはいってもどうしようか」


 独り言を呟きながら、先程の雑誌のお勧めであった道を思い出しつつ歩く。

 幸運なことに、今年はもうバイトは入っていない。年始は少し入っているけれど、年末は実家に帰らない大学の人達が結構ガッツリ入ってくれていた。

 軍資金としても問題はないし、先に帰る選択肢はない、ホテルの近くにもあった漫画喫茶などで時間を潰してもいいが、何となくもったいない気分にもなる。


『(千夏)おはよう、ハジメ。昨日も、ありがと!』


『(ハジメ)おはよ、おばあちゃんはどう?』


『(千夏)おばあちゃんは、今朝一瞬目を覚ましたんだけど、まだゆっくり寝てます』

『(千夏)何だかね、ハジメの事話したら、従姉も伯父さんも伯母さんも、凄いハジメのこと褒めてた。何か嬉しくなっちゃった』


『(ハジメ)千夏の話す僕がめちゃくちゃ美化されてないか心配』


『(千夏)ありのまま話してるから大丈夫!』

『(千夏)それで、気持ちは嬉しいけど、困ったらいつでも来ていいから、って伝えるようには言われてる』


『(ハジメ)ありがと。でも暇つぶしはいくらでもありそうだし、状況次第で観光できればいいし、千夏と合流できた後用の下見でもしてるからさ、気にしないで大丈夫だよ』

『(ハジメ)この後、きちんと話せるといいね』


 千夏からメッセージが来て、やり取りをする。特にあてもなくブラブラしていたが、千夏に下見と書いてみて、咄嗟に思いついたことながらそれもいいかなと思った。


(とりあえず城に行ってみようかな)


 何というか、こんなにも目的のない時間は初めてかもしれなかった。


 普段は、バイトだったり、学校だったり、バスケであったり何かしら決まった時間に予定がある。

 暇なときでも、漫画や本を読んだり、ゲームをしたりアニメを見たり。


 家に居れば時間が足りないと思う程だが。

 今ここでは僕はやらないといけないことがあるわけでもなく、目的もない。ただ、時間だけはある。

 もしかしたらこういうのを贅沢な時間の使い方とでもいうのだろうか。

 そんな事を思った。



 松本城までの道のりは、確かに城下町だった跡を思わせる建物が立ち並んでいた。石碑などもあって、ゆっくりした時間があることからも、時折スマホで調べたりしながら僕は歩く。

 到着した城では、雪まつりというものがやっていた。中も気になったが、年始までやっているようで、折角ならやっていることだけ覚えておいて千夏と一緒に来よう、そう思って城は外から見るだけにする。

 堀の外まで近づいて見たお城は、随分とミニチュアサイズに見えた。ただ、雪がかかった堀や城郭はとても綺麗だった。


 堀に白い鳥がいるのが見える。白鳥まで居るのか、そう思って立ち止まっていると、辺りを見渡した拍子にふと、その看板が目に入る。

 路地に面した和菓子屋さんの隣、目的を持って歩いていたら見逃しそうな程小さく、そのお店はあった。


(へぇ、これはまた、いい時間つぶしになりそうかもしれない)


 僕はそう思って、店の暖簾をくぐって中に入る。

 そして、僕はこの緩やかな時間をその店の中で過ごすことに決めたのだった。




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― 新着の感想 ―
[良い点]  家族との思い出をまた一つ思い出したハジメ。  以前、『ハジメには誰も居なかったけど、千夏にはハジメが居る』表現があったように、今回、千夏が後悔無く振る舞う事ができたなら、過去のハジメとい…
[良い点]  忙中閑あり。  ゆっくりしなさいな。
[一言] 2年後に閉店になることが発表された松本パルコの痕跡が、大好きなこの作品の中に刻まれたことをうれしく思いました。
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