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二番目な僕と一番の彼女  作者: 和尚@二番目な僕と一番の彼女 1,2巻好評発売中
2章 僕と彼女と感情の名前

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6話


 病室に入ると、南野の母親はベッドを操作して身体を起こしているところだった。

 左手は点滴のために管に繋がれているが、先程までよりも幾分か顔色は良いように見えた。


「こんな格好でごめんなさいね。初めまして、千夏の母です。この度は大変なところを本当にありがとう」


 そうして、こちらを見ながら頭を下げてくる。

 ただし、先程までのうつろだった目とは異なり、その目はしっかりとこちらを値踏みするかのようだった。こちらが本来の彼女なのだろう。自然と背筋が伸びるのを感じる。

 そのため、こちらとしてもきちんとする必要がある。そう思った僕は改めて対大人用の立ち振舞いへと切り替えた。


「初めまして、千夏さんのクラスメイトで、佐藤一といいます。この度は大事にならなくて良かったです。後……こんなタイミングで言う事では本来ないんですが、ご不在の間に勝手に上がり込んでしまってましてすみません。ご不安かと思いますが、千夏さんとは友人です。今回はクレープの美味しい店があると誘っていただきまして、食べる場所ということでお邪魔させていただいてました」


 きっとお礼というのもあっただろう。でも、それだけではないと思っていた。

 なので、きっちりとそこまで、はっきりと伝える。

 大人相手であっても、きちんと伝えるべきことは伝える。言葉がおかしくても誠意をもってはっきりとした嘘や誤魔化しをしなければ、子供の言葉でも聞いてくれる大人が多いことを僕は知っていた。


「…………あら」


 そんな僕に、少し呆気に取られたように、南野の母親は口を開けていた。

 そういえば、ちょっと名前を聞かないと、何とも話しづらい。そう思って言葉を続ける。挨拶よりも緊張してしまうのは、叔父に仕込まれたパターンにないからか。


「そして失礼ですが、お名前を伺ってもいいでしょうか? 千夏さんのことをいつも南野って言ってるのもあるんですが南野さんと呼ぶのも変ですし、()()()()とも()()()()()と呼ぶのも失礼な気がしまして」


「ふふ…………ふふふ。そうね、改めてになるけれど、私の名前は涼夏(すずか)よ。ハジメ君、でよかったかしら。随分と礼儀正しい子ね。まるでうちの営業とかと話しているのかと思っちゃったわ」


 運んでいた時は必死で気づかなかったが、笑った顔が南野によく似ていた。


「恐縮です。ちょっと色々ありまして、こういった初対面の方との挨拶は叩き込まれているので、生意気に聞こえたらすみません」


「いいのよ、うちの子なんて全然駄目でね。本当に同い年なのよね? それにしても千夏にこんなボーイフレンドがいるなんてね…………正直、とても助かったのもあるのだけど、偶々私が早く帰ってきただけで、いつもは夜遅いのに男を連れ込んで、って最初に思っちゃったのは否めないのよね。最近の子は進んでいるって聞くし」


 最初の挨拶が功を奏したのか、幾分か表情も雰囲気も柔らかくなっているし、冗談も言ってもらえるのはありがたいことだった。


「ちょ、ちょっとおかあさん!? 何を言ってるのよ」


 対して、冗談に使われ、無言だった南野が慌て始める。


「あら、ハジメ君がいい子なのはわかりました。でも、親のいない家に断りもなく男の子を連れ込んだのは頂けないと思っているわよ。確かに私も最近は仕事仕事だし、寂しい思いをさせてしまっているのもわかってはいるのだけれど……それに最近帰りが遅そうだったのは、そういうことだったのね」


「ちが……わないけど、うちらはそういうんじゃないから」


「…………まぁこの話は置いておきましょう。それに、ちょっと数日入院するようにお医者さんにも言われてしまったし。お金についても、着替えとかもちょっと取ってこないと」


 ただ、ちょっと夜も遅くなってしまうからね、そう考えるように、涼夏さんは言った。


「あ、そういうことでしたら、お金はひとまずお貸しできますので、今日のところは売店で買って、明日以降必要なものを持ってきてもらう感じではどうでしょう? 足があったほうがいいと思いますし、遅いからタクシーで送るつもりでしたし」


「え?」と南野が言って、そして涼夏さんは渋い顔をした。


「そんな、お金を貸すって言っても、貴方も高校生でしょう? そういえば、親御さんには…………」


「細かな話は、千夏さんも知っていますし、後でお伝えするとして…………僕に親はいません、事故で死別しました。ですが、バイトや運用でそれなりに稼いでいますので」


「それは……それに稼いでいるって言っても」


「えっと……(具体的に話すのは(はばか)られるんですが、親の遺産の運用配当と、月々の切り抜き動画の収入やバイトでこれ位は)」


 なおも疑うように、躊躇う素振りを見せる涼夏さんに、口元を近づけて少しばかり具体的な金額を言う。南野に聞こえるように言うには、自慢しているようで気が引けた。そもそも叔父さんが居なければ何もできていなかった身だ。


「――――!? 驚いたわ…………わかりました、貴方には子供扱いしたり遠慮するほうが失礼なのかもしれないわね……この場は一旦甘えさせていただきます。じゃあ、申し訳ないのだけど、ちょっとだけ出ていてくれる? 千夏にその……下着とか必要なものを伝えるから、後うちの口座の暗証番号とかも伝えておくから」


「あ……はい、じゃあ南野、ちょっと外にいるから」


 そう言って、僕は病室の外に出た。

 正直、南野の母親との初対面ということで大分緊張はしたものの、悪い印象にはならなかったのではないかとほっとした面もあった。


 緊張のおかげか、病院の匂いは気にならなくなっていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] ああ…そうか…病院の匂いにトラウマあってもおかしく無いもんなぁ… 身内が倒れた事に対してすぐにでも何かしてあげたいという思いが勝ったか
[良い点]  や、やるじゃん・・・ でもまだハジメのこと認めた訳なんかじゃないんだからね!  こんなかっこいい事言えるんなら、少しはその・・・へ、ヘタレなとこ、直しなさいよね・・・[壁]ちらっ_-)…
[一言] よく天涯孤独の男との結婚は反対されたって話を聞くがこの母親もはたしてそのタイプだろうか・・・?
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