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二番目な僕と一番の彼女  作者: 和尚@二番目な僕と一番の彼女 1,2巻好評発売中
2章 僕と彼女と感情の名前

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5話


 南野と玄関に向かうと、一人の女性、南野の母親だろうか? が倒れ込んでいるのが見えた。

 

「お母さん!? どうしたの? 大丈夫!?」


 南野が走って駆け寄っていく。

 父親は出ていってしまったと聞いていたので、やはり南野の母親だったが、状況はそれどころではなかった。


「ちょ……すごい熱、ねぇ、お母さん大丈夫!? ねぇってば」


 人が倒れているのを見て僕も同じくらい驚いていたが、南野が慌てている声で、僕の頭がクリアになっていく。南野の言葉に、南野の母親が頭を起こす。熱のせいだろうか、目の焦点がうまく合っていない感じだった。


「……千夏……? ごめんね、ちょっとしんどくてお仕事……早退してきたんだけど。なん、だか……頭がふらふらして……」


 そう言って、またぐったりと倒れ込んでしまう。

 それにすがりつくようにして、南野が抱き起こそうとするが、母親の体格は南野と同じ位のようで、完全に力を失った身体を支えきれない。

 

「お母さん? え、ちょっとお母さん?」


「ちょっと南野ごめん、僕が起こすよ……お母さんって持病とかは? 薬とか飲んでたりする?」


 そう言って、失礼を承知で脇の下から腕を差し込むようにして、首を支えながら抱き起こすと、確かに凄い高熱だった。これはまずそうだ。父親が生きていた頃、インフルエンザが悪化してひどい状態になったことがあるが、それが思い起こされた。


「あ、ありがとう。多分、持病とか薬とかは無いと思う。…………ただ、最近は働きすぎなくらい働いてて、いつも栄養ドリンクの瓶があるくらい」


「栄養ドリンクって……お母さんちゃんとご飯食べてんのかな…………いや、それよりこの熱はまずい、南野、この辺で大きい病院ってある?」


「え、うん、国道沿いに市民病院があるのが一番近いけど」


「わかった」


 そう言いながら僕は、配車アプリで現在地にタクシーを呼びつつ、地図アプリで病院を探した。

 7分程度か、これなら救急車呼ぶよりもこのままタクシーをキャンセルしないで待ったほうが早く着けそうだな、そう判断して、病院に電話をかけ、コール音の間に南野に指示する。

 慌てている場合は、何か言われたことをやっていた方がいいはずだ。


「南野、もしわかったら、お母さんの健康保険証とか、そういうの持ってきてくれる? 決まった場所なのか、それか財布の中にあるかもだけど、探してみて」


「う、うん」


 そうして、病院に理由を話した僕はタクシーで行く旨を伝える。

 ちょうどよく近くを走っていたタクシーが迎車で到着する通知が来たのを見て、南野の母親をお姫様抱っこの要領で抱き上げようとした。

 が、結構な重さだ、それなりに鍛えているつもりだったが、人一人を抱えたまま外に行けるかは微妙だった。


「南野、病院に連絡した。タクシーも呼んだから……それでごめん、格好つけといてなんだけどちょっと一人では背負えなさそうだから二人で肩を貸してこのまま行こう」


「えっと…………保険証あった! うん、ホントありがとう、佐藤」


 母親の財布から保険証を見つけ出した南野にそう言うと、南野はすぐにもう一方の肩に手を差し込んで、二人で支えるように立つ。


「…………ちなつ、ごめんね、あなた?も」


 意識は朦朧(もうろう)としていても、完全に無いわけではないのだろうか。そう力なく呟いた南野の母親に大丈夫ですよ、と声をかけて、南野と呼吸を合わせて玄関を開けてタクシーまで歩く。数分前の甘い空気など霧散していた。



 ◇◆



 タクシーで料金を払い、南野の母親に肩を貸しながら降りる。

 病院の受付には南野に先に走ってもらった。

 その後、感染症の疑いとのことで別の出入り口を案内されて、自発的に歩行できなかった南野の母親はそのままキャスター付きの担架で運ばれていき、僕と南野は後を追った。


 その後、慌ただしく診断が行われ、タイミング良く空いていたという個室に、南野の母親は入院することとなった。

 インフルエンザなどの感染症では無いようだったが、過労に栄養失調、それに風邪が悪化した肺炎からの高熱で、すぐに病院に連れてきて正解だったと医師は言ってくれた。


 点滴をセットするのと、身体を拭いて着替えを行うということで、僕だけは病室の外に出て、備え付けられていた長椅子に腰掛けている。


 先程までは意識していなかったが、僕の脳裏によぎるものがあった。

 病院の匂い。

 ここではない光景が、(つむ)った目の裏に広がる。

 少しだけ、病院というものは苦手だった。


「佐藤……大丈夫?」


 そんな中、少し心配そうな、不安そうな声が僕の名前を呼んだ。


「あぁ、大丈夫だよ、お母さんはどう?」


 首を振って、(まと)わりつくような悪夢を振り払う。

 そうして目を開けた僕の言葉に、南野はおずおずと言葉を続けた。


「うん、今少しだけ意識を取り戻してね……佐藤にもお礼を言いたいって」


「え? 大丈夫なの?」


「うん、というか、この後は薬も飲んでその作用で寝ることになるだろうからって…………後、妙に頭が冴えちゃってるみたいで、その、男の子を、親がいない間に家に連れてきてたのにも何か思ってる感じかも。うち、うまく言い訳できてなくて……その、何か言われたらごめん」


「そっか、わかった」


 そういうことであれば、ここで問答しているより急いだ方が良いのだろう。

 そう思った僕は了解の意を伝えて立ち上がり、扉を開けた南野に続いて病室へと入った。



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― 新着の感想 ―
[良い点]  佐藤、(はじめくん・・・は、はじめ!)べ、べつにあんたが頼もしいなんて思ってなんかいないんだからね!  か、勘違いしないでよね!
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