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二番目な僕と一番の彼女  作者: 和尚@二番目な僕と一番の彼女 1,2巻好評発売中
1章 捨て猫と彼女と僕

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9話


 猫を拾って二週間ほどが経っていた。

 幾度かを二人で過ごすことになっても、僕と南野の学校での関係は特に変わらなかった。

 こちらはいつも通りにしていたし、元々関わりがあるわけでもない。ただ、その日は少しばかり勝手が違った。


「これでホームルームは終わるが、ちょっとすまんが雑用があってな、30分程度だと思うんだが、今日の日直の二人、後で職員室に来てもらってもいいか?」


 担任の権堂(ごんどう)がホームルームの後、僕ともう一人の女子生徒に向けて言った。


 まぁ面倒だが巡り合わせなら仕方ない。

 本日は金曜日だが、バイトは18時からだったから時間はあった。

 そう思って頷くと、もう一人の女子の方がこちらを見ていた。堀北雅美(ほりきたまさみ)だったか、確か女子バレー部で背が高くて今後期待されているとか聞いたことがある。


「あー、先生すみません、部活もあるんでちょっと厳しいかなって」


「あぁそうか、じゃあ仕方ないな、とは言っても一人だけに任せるのものなぁ。他に頼まれてくれるやつはいないか?」


 そう言われて手を挙げるやつはいないだろう、と思うような聞き方で、権堂がクラス全体を見渡した。

 わざわざここで巻きこまれてくれるほどの友人関係は構築した覚えがない。

 雑用が何かは知らないが、これは一人で頑張るコースかな、そんな事を思っていたところ――――。


「あ、じゃあ私も帰宅部なんでやりますよ」


 聞き慣れた声がした。

 ぎょっとしてそちらを見ると、南野が手を挙げているのが見えた。


「南野か、そうだな、じゃあ二人に頼むわ、職員室に来てくれるか。資料室の鍵を渡すからそこの掃除と風通しを頼みたくてな」


「はーい」


 そう言って南野がちらっとこちらに目配せして出ていく。


「おい『二番』、運が良かったな、どうだよ、南野と一緒なら俺が代わってやってもいいんだぜ?」


 僕も行こうかと鞄を持って立ち上がると、前の席からそんな揶揄が飛んでくる。

 少し髪を茶髪に染めた、サッカー部の石澤だ。

 運動部の仲間とよくつるんでいて、南野にもよく絡みに行っているのをよく見かけていた。


 正直、いちいち相手をするのも、無視をするのも面倒な手合だった。


「そうだね、まぁ面倒でもあるけど、役得だと思って行ってくるよ」


 そう肩をすくめて返すと、「じゃあ代わろうか?」という言葉でも期待していたのだろうか。石澤がちょっと不満げな顔を見せた。

 とはいえ、一週間前の僕であればそう言っていたかもしれないが、今の僕はそうする訳にはいかない。

 なぜなら、2回ほど僕のポケットにメッセージ着信のバイブが鳴っているのだから。

 見なくてもわかる。南野だろう。

 これで、石澤が代わりに向かったら何を言われるかわかったものではない。


 ここ数日のやり取りで、そのくらいは南野の事をわかっては来ていた。


「なんだよ、お前も一丁前に南野狙いか? あいつはガード固いぞ」


「そういう訳じゃないけど、まぁ帰宅部だしね、そっちは部活頑張って」


「ちっ、帰宅部は暇でいいよな」


 これで、最近はほぼ毎日のようにメッセージでやり取りをして、晩御飯も何度か共にしていると知ったらどんな顔をするのだろうか?

 ちょっと暗い優越感を覚えて、そんな自分に首を振って教室を出る。

 果たして、南野は少し出たところでこちらを待っていた。


「遅い」


 少し口を尖らせて小さく言う。


「はぁ、ちょっと誰かさんのファンに捕まっててね」


 そう答えつつ念のためスマホを取り出して確認すると、案の定目の前の美少女からだった。


『(南野)自然な初絡みゲット』

『(南野)まだ? 待ってるから一緒に行こうよ、これなら別に変じゃないしさ』


「不自然だったと思うけど」


「え? 嘘!?」


「あれは、誰も手を挙げないで僕が一人でやるか、誰かが嫌々指名されるのが自然の摂理にのっとった流れだったと思うけどな。南野の友達だって、え?って顔で見てたじゃないか」


 こうして職員室に向けて廊下を歩きながらも、南野は色んな人間に声をかけられる。

 そして僕のことを見て、疑問に思いつつ、日直で職員室に呼ばれててさー、という南野の言葉に納得して立ち去っていく。


 正直、一人なら誰にもエンカウントしないはずの短い道のりなのに、南野の人気ぶりを改めて実感する。事情を知っている僕からしても、その様子はあまりにも自然だった。



 ◇◆



「あー、開放感!」


「いや、掃除しようよ」


 資料室は、二階の職員室の隣の角部屋だった。

 結構なプリントが積み上げられていて、カーテンも少し埃っぽかった。

 そんな中、南野は随分と楽しそうだった。口調が変わるわけでも無いのだが、何となく雰囲気が変わる。


「ふふ、放課後、美少女と密室に二人きりの気分はどう?」


「そうだね、美少女と家で二人きりなのと同じくらいにはドキドキするかな」


「ほほう…………ん? それっていつも通りってこと?」


「…………逆に聞くけど、何でここの方がドキドキすると思ったのさ。あ、シュレッダーはこれだね、二つあるから南野はそっち。それにしても溶かす業者とかもいるんだから、生徒に頼むんじゃなくて業者に頼めばいいのに、うわ、この辺とかこないだの小テストのミスプリントじゃん」


 確かに一人だと少し大変な作業っぽかった。

 ただ、そんな僕の態度が南野には不満だったようでそれが態度に――――


「うちは不満を表明します」


 いや、態度だけではなくはっきりと言葉でも表現していた。


「さくさく終わらせて帰ろう」


「不満! ふまーん!」


「……あのさ、僕にどうしろっていうのさ?」


 頬を膨らませてアピールしてくる南野に、根負けしたように僕は振り向いていった。

 そんな顔をしていても整って見える事に、遺伝子レベルでの差を感じる。


「もう、ノリ悪いなぁ、隠れた関係の男女がさ、学校内で自然と二人きりになってるのに、ほら、物語だと色々あるでしょ! ほら?」


「あー、つまり南野は、自分が物語のヒロインばりの美少女だと言いたいわけだね、うん、そうだねそうだね、よく考えたら確かにクラスでやっかまれるイベントは消化してきたかな」


「ち、違うからね! 変な解釈しないでよ? 確かに日々努力はしてるけどさ。……ってやっかみイベントって何?」


 ノリが悪いと言われたので、思い浮かべたラノベ達を元に、(からか)うように言ってみる。最も、学年で人気の美少女って意味では十分属性も満たしてはいるのが南野と言う少女なのだが。

 まぁ、それよりも南野はやっかみイベントの方も気にしたようで、怪訝な顔をしてこちらに問うてくる。


「まぁ、石澤に、暗に代われってアピられて絡まれた、かな」


「石澤かー、確かにベクトルがこっち向いてたりするよね。と言うか直接的に胸とか足とか視線感じるし正直得意じゃないんだよね。立ち位置的によく話はするけどさ」


「そうなんだ」


 視線はわかるというが、ふと、自分に置き換えると少し不安になる話題だ。

 いや、失礼な目線は向けていないつもりではあるのだけど。


「でも代わらなかったんだ、ありがと」


「いや、だってさ。あの流れで僕も代わったら南野怒るでしょ?」


「そりゃそうだよ、何のために雅美の代わりに立候補したと思ってんの? ってなる」


「だからだよ」


「ふふー」


 そんな話をしつつ、サクサクとシュレッダーにかけていきながら南野は上機嫌だった。

 僕も、こういう気の置けないやり取りは、楽しかった。



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