目覚め
一
ひぐらしの鳴き声で、ふと目が覚める。
ここはどこだろう。いつもの布団とは全く別の場所の気がする。
床はかたく、風通しも悪い。ジメジメしている。
汗もかいていて、何だかお腹の辺りが少し変。これは一体なんなんだろう。
わたしがふと左を見ると、薄暗い中、ナニカががポツンと置かれているのが見えた。
上半身のみ起こし、その『ナニカ』に手を伸ばした。この暑さの中では、体を起こすことでさえ億劫だ。
やっとの思いで掴んだナニカを、光のある方へ当てる。
ネックレスだ。十字架のネックレス。
しかしよく見ると血が着いている。ネックレスに血が着くなんて、一体ここで何があったんだ。
そう思いながら、わたしは光が差し込んでいる隙間に近づく。
襖のようなドアだ。ほんの三ミリぐらいだが、隙間が空いている。
わたしがドアに手をかけようとした瞬間、スパーンとドアが開けられた。
途端に涼風がわたしの身体を包み込む。今まで暑くてたまらなかった身体が、一気に冷たい風に襲われ、とても気持ちが良い。
「柚木っ」
「うわぁッ…」
どうやらドアを開けた犯人は、幼なじみの藤堂慧衣のようだ。
慧衣は昔から存在感はあるが、気配を消すのが上手い。気付いたら後ろにいて、いつも驚かされる。
それにしても、彼女は何故こんなとこにいるのだろうか。
「なぁ、ここどこなん」
慧衣に問うと、返事はすぐに帰ってきた。
「ここは本堂や。うちの神社の本堂。なんでこんなとこいるん」
本堂、ということは本尊仏が安置されている場所か。
…入っても大丈夫なとこなのかな?
わたしは不安になりながらも、慧衣と一緒に本堂から出て、慧衣の家にあがらせてもらうことにした。