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総合ダンジョン管理術式『Solomon』保守サポート窓口 〜ミミックは家具だって言ってんだろ! マニュアル読め!〜  作者: score


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97 お問い合わせ『雑草をどうにかしたい』2



「まあ、私も分かって来たので、実はそう難しいことはないと踏んでるんだよね」


 眼鏡の先輩から突き放されたときは絶望的な顔をしていたドラ子だったが、少し落ち着いたところで、そう結論を出していた。

 現在地は、保守サポート部の福利厚生の一つであるウォーターサーバーの前であり、ドラ子に捕まっているのは、コーヒーのおかわりを淹れに来た白騎士であった。


「確かに、私達も半年近く働いてきましたし、なんとなくお問い合わせ内容から、簡易なチケットかが分かるようになってきましたよね」


 仕事の合間にうっかりドラ子に拘束された白騎士であったが、その心境には少しだけ余裕があった。

 日々のお問い合わせに忙殺される保守サポート部ではあるが、今日は週末である。

 Solomonのお問い合わせの回答は、目安として『三営業日以内』に送られることになっている。


 そう──『営業日』なので休日は〆切のカウントが進まないのだ。


 こういうタイミングでの簡易チケットは、もし回答作成が遅れてしまったとしても、心に余裕を持って週明けに提出することができる。

 そういう意味では、今このタイミングでくるチケットは、気楽な部類だった。


 ──もっとも、ゴーレム部長がレビュアーだった場合は『この程度のチケットで週を跨ぐのは有り得ません』と言って、当日中の回答作成を要求されるのだが、それは置いておこう。

 ────更に言えば、仕様調査が必要なチケットが重なったときは、全く心休まらない休日になる点も、今は考えなくていい。


 白騎士は、自身の抱えているチケットの状況から、今は少しだけ心に余裕のある状況だった。だからこうして、ドラ子に大人しく捕まっていた。


「ドラ子さんは、もう回答方針の目星は付いてるってことですね」


 そして『お問い合わせ内容から簡易と分かるチケットならば気楽ですね』という気持ちで、白騎士はドラ子に返した。

 のだが、ドラ子はきょとんと白騎士を見つめ返した。


「え?」

「え?」


 何を驚愕されているのか、白騎士は分からなかった。

 反対にドラ子は、白騎士が何を言っているのか分からなかった。


「白騎士ちゃん、お問い合わせ読んだだけで、簡易か仕様調査か見分けて方針も浮かぶとか、もうそんなベテランみたいなことできるの?」

「え、ええと、そういう話じゃないんですか?」

「いや、私が言いたいのは、メガネ先輩の思考の話なんだよね」


 一体どういうことなのか、と白騎士が視線で問うと、ドラ子は少し悪い顔になった。


「だから、メガネ先輩って、基本的には鬼畜な癖に、ところどころ後輩に甘いところがあるじゃない? だからこうやって突き放した態度を取るってことは、裏を返せば、そういう態度を取っても回答が作成可能という目測のもとにやってるわけ。そこから逆算すれば、今回のチケットは、過去回答とかにヒントがあるから、私でも十分回答可能な簡易チケットって分かるって話」

「…………えっと」


 白騎士は返答に困った。

 ドラ子と白騎士は、共にメガネが教育係として付いている(ほぼ)同期であった。

 しかし、白騎士は優等生なところがあったので、始めの頃はともかく、最近ではそれほど頻繁にメガネに相談することはなくなっていた。

 そんな彼女だから、お問い合わせ内容からではなく、メガネの態度からチケットの難易度を推測するというドラ子の行動が、想定の範囲外過ぎて何も言えなかった。


「メ、メガネ先輩を信頼してるんですね」


 そして出た言葉は、こういう当たり障りの無いものなのであった。


「信頼というか、利用できるものはなんでも利用しないとね」

「…………は、はぁ」


 もしかして、自分の同期ってちょっとアレな子なのかな、と白騎士は心の中で思う。

 根が純粋な白騎士をして、今のドラ子の言動は、ちょっとアレなのだった。





 白騎士を捕まえた後の軽い雑談から戻り、ドラ子はお問い合わせに添付されていたダンジョンの情報を解凍しながら、改めてお問い合わせ内容を読む。


(雑草ねえ。んなもん、土があればどっからでも生えてくるのに、気にし過ぎじゃないんですかねえ)


 ドラ子の心情としては、そんなものだ。

 今回のお問い合わせを送って来た相手が、どれだけ雑草を気にしているのかは知らないが、雑草なんてダンジョンを経営してればいくらでも目にするものじゃないか。

 そんなもん放っておいても、ダンジョンにはいくらも影響無いんじゃないだろうか。

 だから、こんなお問い合わせが送られてくること自体そもそもおかしいのでは?

 そんな気持ちでいたドラ子だったが、解凍したダンジョンのデータを見て、口をあんぐりと開けてしまった。


「なんじゃこりゃ」


 添付されていた画像データを見やれば、そこには地面を埋め尽くして、足の踏み場も無い程に増殖した雑草の海があった。

 よくよく見れば、このお問い合わせのダンジョンは洞窟型である。

 つまり、日光の良く当たる地面とかではなく、薄暗い洞窟の地面にびっしりと謎の雑草が生い茂っているのだ。

 それも、通路と言わず、小部屋と言わず、至る所に。


「……お、思ったよりも、ヤバい案件なのでは?」


 デバイスを見つめながら、少し声を震わせたドラ子は、流れるように画像の雑草を適当に検索にかけてみた。

 送られて来たデータには、その雑草の特性データも入っており、即座にデバイスは雑草の正体を類推する。




 推定『マナミント』の類型。

 特徴として、魔力の満ちた地面であれば、どのような生育環境でも爆発的に増殖する。

 しかも、増殖する際には他の植物の成長を阻害する。

 その驚異的な繁殖力から『イビルミント』などとも呼ばれ、気に入らない相手の庭にこれらの種を撒く行為は通称『ミントテロ』とも称される。




「このダンジョンマスター、誰かの怨みでも買ったんじゃないんですかねえ???」


 それも、およそ、普通に生きていれば向けられることはまず無い程の怨みを。

 それくらい、ヤバい雑草だった。

 いや、雑草というか、分類的にはハーブなのだが。

 この繁殖力を考えると『勝手にハーブが生えて来たラッキー』とか言って喜べるレベルでないことだけは確かである。

 なにせ、ガーデニングなど全く興味のないドラ子をして『ヤバい』ということは知っているレベルのハーブなのだから。


「と、とにかく、まずはマニュアルを当たってみるか」


 一旦、ドラ子は手に入れた情報を脇に置いて、マニュアルを当たってみることにした。

 少し考え、『雑草』『ハーブ』『ミント』などで軽く検索をかけてみるが、それらに該当する項目はヒットしない。

 つまり、マニュアルでは『イビルミント』が増殖した場合の対処法を想定していないということだろう。

 ドラ子はそう判断した。


「マニュアルに載ってないとすれば、過去回答?」


 まあ、こっちもそんなピンポイントで載っているわけ……

 そう思って過去回答で検索をかけた直後に、即座にヒットするものがあった。


「んん?」


 一番にヒットしたお問い合わせの差出人に、見覚えがあった。

 それは、確か、ゴーレムの土が変わった気がする、とかいうお問い合わせを送って来た相手である。

 つまりは、Solomonを使って農業を営もうとしている頭がおかしい人間だ。

 だが、同時に植物には確かに一家言ありそうな人物でもある。


 雑草、という単語でヒットした過去回答はこんな感じだ。


 ──────


 件名:雑草処理

 差出人:異世界37 契約番号756 新米の種籾

 製品情報:Solomon Ver8.4

 お問い合わせ番号:10883010022


 本文:

 Solomonを使った雑草処理の手順について。

 動画をアップロードすることに問題はないですか?


 ──────


「いやバージョン古いな。そして本文短か」


 相変わらず、本文で何が言いたいのか良く分からない人だった。

 だが、その回答はドラ子の興味を大変にそそる。

 本文の曖昧な部分に丁寧に回答前提を置かれているその過去回答は、端的にまとめるとこういう結論であった。


『こちらとしては、公序良俗に反しない限り、Solomonを利用したダンジョンに関する動画をアップロードすることに、何かを言うつもりはない』


 そして、アンケートではこの種籾氏は『それなら動画を上げます』と返していた。


「これは、来たんじゃない?」


 それは、まさしくドラ子が今求めている情報に繋がる何かだ。

 正直、植物に詳しくないドラ子と違って、この、Solomonで農場を作ることに命を燃やしているなにがしさんの方が、Solomonを使った雑草処理に詳しいだろう。

 ていうか、もしかしたらこの人がアップロードした動画を見れば、今回のお問い合わせの相手の問題も全て解決したりするんじゃないだろうか。


(……いやいやいや。流石の私でもそれはダメだって分かりますから)


 少し考えて、ドラ子は自分の考えを自分で却下した。

 ただでさえ、保守サポート部が保証できる範囲の回答を心がけろと常日頃、メガネとゴーレム部長に口を酸っぱくして言われているドラ子である。

 回答で『ユーザーが上げた動画があるから、それを見て対処してね』と答えることが許されないことくらいは分かる。


 だが『動画を見てね』が許されなくとも、動画を参考にドラ子が回答を書く事が許されないわけではない。


「幸い、明日から休日ですし、その間にこの種籾氏の動画を確認して、それを参考に回答を書いてやれば良いんですよ」


 そして、ドラ子はとりあえず、簡単な回答方針を提出し、中身については動画を参考に休み中に考えようと決めた。

 それで良いのかドラ子。

 そう突っ込む相手が、悲しい事に今は誰も居ないのであった。







 ──────


 ハイパーイケメン蝙蝠:ねえメガネくん

 ハイパーイケメン蝙蝠:ドラ子ちゃんに行った簡易チケットの回答方針なんだけどさ


 メガネ:なんでしょうか


 ハイパー(以下略):『雑草の処理の仕方を案内する』ってだけで来てんのよ

 ハイパー(ry:そりゃそうなんだけど、彼女ちゃんと仕様理解して言ってる?


 メガネ:多分大丈夫じゃないですか。簡易チケットですし


 ハイパー:まぁ、そうかぁ……?


 メガネ:最悪、蝙蝠さんが回答用意しといてくださればそれで


 ハイパー:今確信した

 ハイパー:なんか企んでるよね君?


 メガネ:気のせいですよ


 ハイパー:もし俺が回答書く事になったら貸しだからね


 メガネ:了解です


 ──────


今週末予定が詰まっており、更新できない可能性が高いです。

申し訳ありません。


可能であれば少し遅れて、それが無理でも来週の体感水曜日には通常通りに更新します。

最近水曜33時とかに更新してる気がしますが、体感水曜日です……!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ゴーレム農家さんそういえば動画制作者だった!wktk [一言] ハイパーイケメン蝙蝠という字面と最近の偉そう度合いでうっかりメガネ先輩の上司ということを忘れてたけどこの人それなりの立場だし…
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