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総合ダンジョン管理術式『Solomon』保守サポート窓口 〜ミミックは家具だって言ってんだろ! マニュアル読め!〜  作者: score


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96 お問い合わせ『雑草をどうにかしたい』1



「検証環境の管理って具体的に何やるんですか?」


 麗らかな昼下がりの午後。

 クーラーをがんがん効かせた社内にて、赤髪の少女がぼそりと言った。

 それを受けた眼鏡の青年は、口に運んでいたコーヒーをそっとデスクに戻し、温度の無い瞳で後輩を見つめた。


「もしかして喧嘩売ってる?」

「なんでですか」

「お前が共有の検証環境破壊したの忘れてないからな」


 メガネの追及に、ドラ子はぐっと喉を詰まらせる。

 ドラ子は確かに一度、メガネが主に管理している保守サポート部共有の検証用ダンジョンの生態系を誤って破壊したことがある。三つくらい一遍に。

 だが、それはもう過ぎたことである。

 具体的にドラ子が何か罪を償ったとかそういうことは無いが、それはそれとして終わった話なのである。


「それはもう良いじゃないですか。今のは純粋な好奇心です」

「お前の好奇心が、サバンナにキラーパンサーの群れを放つことは知ってる」

「いつまでも終わったことウダウダ言う男はモテませんよ」

「過去の罪を無かった事にする女がなんか言っとる」


 お互いにニコニコとした顔で言う。

 そして即座に険悪な雰囲気になる二人であったが、少し経てばその熱も冷める。

 もはやいつものことだったからだろう。

 生意気な後輩も、辛辣な先輩も。


「それで、何が聞きたいって?」

「ですから、ふと思っただけです。ダンジョンの管理って、具体的にどんなことをやってるのかなぁって」

「ふむ」


 これは、意外と仕事でダンジョンの保守をやっているだけでは、気付かない所かもしれない。

 普段のドラ子達の仕事は、言わばトラブルシューティング──問題が起きた箇所への対処となる。

 お問い合わせへの回答というのは、何かの問題を抱えたダンジョンの問題を解決することであり、何の問題もないダンジョンの管理などは業務の外だ。

 まぁ、Solomon的には何の問題もないのに、その仕様がクソなせいで問題と認識されてお問い合わせが来る事もあるが、今は置いておこう。


 ドラ子は、問題の解消についての知識はそれなりに築いてきたが、問題が起きていないダンジョンの管理は良く分かっていなかった。


 とはいえ、メガネはどう伝えたものだか少し悩む。


「つっても、ダンジョンの管理っていうのは、言えばだだっ広い庭を管理するのと根本的には変わらんぞ。術式を利用しながら、植生の管理をしたり、要らないものを排除したり、想定外に減ってるモンスター補充したり、壊れている場所を保全したり、侵入者を排除したり、捨てられたゴミを片付けたり、何かテロの痕跡を発見したら上層部に報告したりとか」

「庭というには物騒な言葉が聞こえた気がしますが」

「ウチの会社には悲しいことに、真剣にクーデターを起こそうとするアホがいくらか居るからな。ダンジョンの中で密談しようとする奴は居る。ログを残さないようにコソコソと」

「ペンギンさんだけじゃないんですか」


 この会社大丈夫かな、と一瞬思うドラ子だった。

 そして、ブラック寄りのグレーなところを思うと、別に大丈夫じゃないなと確信した。


「要するに、管理っていうのは、良くも悪くも変化を起こさないようにしとくことだ。普通の検証環境なら、環境自体の時間を止めとくなり、構築情報だけ残して削除したりしとけば良いんだが、オープン環境はそういう訳にも行かないからな」

「なんでです? 悪巧みに使われるのもアレですし、オープン環境も別に時間止めとけば良いじゃないですか」

「Solomonの耐用試験とかも兼ねてるんだよ。驚くことにSolomonとかいう術式は、開発が行うテストでは発見できないバグが大量に含まれてるからな。日々、実際に運用してみて見つかる不具合もあるから、色んな環境を社内でも保有してるんだ」

「へー」


 少し聞いた話だと、オープン環境を構築しているのは保守サポート部のみならず、他の部署でも同じ事らしい。

 確かに、モンスター生産管理部あたりは、もはやオープン環境が仕事場と言っても差し支えないだろうし、自社術式を積極的に使わないで他社の術式を利用する理由もない。

 設計サポートや開発サポートは、保守サポートよりはもっと検証環境らしいダンジョンというが、どこが不具合を良く見つけ出すとか、そういったことはないらしい。

 どこも等しく、たくさん見つけるから。


「保守サポート部のは、今は俺が主に管理してるけど、俺より前はゴーレム部長が管理してたし、俺もそろそろ後輩に譲るべきかもだしな」


 メガネはそう言ったが、ドラ子は少し渋い顔をする。

 先程の管理の仕事の話を聞いた限り、片手間で終わらせる仕事にも思えない。

 あと、何か問題を見つけたら報告するというのが、大変そうだった。


「えー、ちょっと面倒だなぁ」

「白騎士には一回話は通してあるし、良い返事も貰ってる」

「…………」


 ドラ子は唇をすぼめて、不満そうにメガネを見る。

 ダンジョンの管理は面倒くさそうと思ったが、それはそれとして一切期待されていないというのは少し業腹なドラ子であった。


「ドラ子も興味があるなら、白騎士と一緒に共同管理でも良いが」

「いや、今のはそういうアレじゃないです」


 そして、譲歩されてもそれはそれで困るという、難儀な気持ちであった。

 別にやりたいわけではない。

 やりたいわけではないが、それはそれとして、多分一番仲が良いのに、自分をスルーして白騎士に話を持って行くメガネが気に入らなかっただけだ。

 多分メガネが真っ先に自分に話を持って来ても難癖付けたのは間違いないが、それはそれ、これはこれであった。

 言うならば、ドラゴン的に気に入らなかったのだ。(傲慢)


 と、そんな話をしていたところで、チャットツールSlashから通知がある。

 新規お問い合わせが届いたお知らせであった。


 ────


 オペ子:Toドラ子、Toハイパーイケメン蝙蝠、CCメガネ

     以下の新規チケットのご対応をお願いします。


     回答者『ドラ子』

     レビュアー『ハイパーイケメン蝙蝠』

     チケット番号#20023020722『雑草をどうにかしたい』


 ────


「珍しく、管理系のお問い合わせだな。丁度良い」


 話していたタイミングで、ピッタリの内容のお問い合わせであった。

 メガネは、お問い合わせ内容の詳細を開きながら言う。


「ドラ子、これ俺はアドバイスしないから、自分で機能見ながら考えて回答してみろよ。過去回答みたり白騎士と相談しても良い」

「うへえ」

「面倒そうな声出すな。いつまでも俺からアドバイス貰えると思うなよ」


 先輩からの突き放すような物言いに、非難めいた目を向けるドラ子だが、言っていることはもっともなのでそれ以上強く言えなかった。

 そして自分でも、お問い合わせの詳細を眺めてみて、うーんと唸った。


 ぱっと見た限りだと、面倒そうに読めたからだった。

 少なくとも、自分は即座に返せる答えを知らなかった。



 件名:雑草をどうにかしたい

 差出人:異世界889契約番号4──駆け出しダンジョンマスター

 製品情報:Solomon Ver28.4

 お問い合わせ番号:20023020722


 本文:

 いつもお世話になっております。

 貴社製品にてダンジョンの構築を始めていくらか経ちました。

 ですが、最近になって困った事になっています。

 ダンジョンの内部に、それも通路と言わず、部屋と言わず、広間と言わず至る所に雑草が生い茂ってしまっております。

 植えた記憶はありません。

 このままだと、ダンジョンではなく、ただの荒れ地になってしまいます。

 Solomonにてどうにかする機能がございましたら、是非ご教授ください。



気づいたらブックマーク100件を超えていました!

改めて、こんなニッチな作品を読んでくださってありがとうございます!


そしてブックマーク50件超えたときに書こうと思ってた宣伝をまだ書いてないことにも気づきました……

もし前々作あたりから読んでくださっていた方がいましたら、すみません、ちゃんと書きます……!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 久しぶりに「ハイパーイケメン蝙蝠」という名を見ると字面のインパクトが凄い ハイパーイケメン蝙蝠(※淫魔系統) [一言] ま、まぁ農業が出来るくらいだから雑草くらい生い茂ってもおかしくない…
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