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総合ダンジョン管理術式『Solomon』保守サポート窓口 〜ミミックは家具だって言ってんだろ! マニュアル読め!〜  作者: score


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82 魔王城へようこそ! 31


「よくぞ逃げずに戻ったな『勇者』よ!」

「あ、俺職業『武器商人』になったから」

「なんで!?」


 冒険者ギルド『魔王城前支店』から戻って来たメガネは武器商人になっていた。

 メガネの直前の発言で少し不安を覚えてはいつつも、きっと勇者になって戻ってくる、と内心で信じていた魔王エリちゃんは、ちょっとショックを受けていた。

 そしてその有様を見た老人達は露骨に鋭い目でメガネを睨み、赤毛の後輩は『またなんかやる気だよこの人』と生暖かい目を向けていた。


「ああでも、上級ダンジョン攻略してサブジョブが解禁されたとかで、サブは勇者にしてきたから」

「つ、つまり勇者というわけだな!」


 周りの余りのアウェー感から、メガネが申し訳程度のフォローを入れると、エリちゃんもまた気を取り戻す。

 それで良いのか、と思っているドラ子の横で、白騎士は一人思案顔であった。


「どうしたの白騎士ちゃん?」


「勇者と武器商人の組み合わせのシナジーが分からないんです。通常、勇者はメイン職業として破格の性能を持っています。その中でも特に強いのは、レベル1から使える『抜剣』スキルなんです。これは自分と特に相性の良い『聖剣』と契約を交わし、それを武器として扱えるようになるというスキルなんですが、これが武器商人とはとても相性が悪いんですよ」


「そ、そうなんだ」


「はい。武器商人とはその名の通り、武器全般を商う職業です。その特徴は鍛治士と似ていて、複数の武器を装備できる『マルチウェポン』という特性なのですが、これは装備できるだけであって使いこなせるわけではありません。鍛治士であれば、自分で素材を集めて武器を作る『武器作成』によって、ギルドに作って貰うより強力な専用武器を装備できますが、武器商人はそういった補正もありません。鍛治士と比べた利点は武器の持ち込み制限が緩くなることくらいで、敵の属性が多岐に渡るダンジョンなんかで複数属性の予備武器を大量に持ち込めるのが強みですね。ただそれにしたって、通常は召喚した『聖剣』を育てるために『聖剣』一本で戦う勇者との相性は言ってしまえば最悪でして、メガネ先輩が何を思って選択したのかが皆目……これは私の魔王城知識を根底から覆すような何かが──」


「あ、あー、始まるよー! 白騎士ちゃん帰っておいでー!」


 この同期、魔王城が絡むとほんとやべーなと思いながら、ドラ子は話題を逸らすように声をかけた。

 果たして、眼前では気を取り直したエリちゃん十四世が、魔王らしく口上を述べるところであった。


「おほん! 改めてよくぞ逃げずに戻ったな勇者よ! そなたの勇気に免じ、今一度魔王が約束しよう! 余に破れれば貴様を余の『宿敵』と認定し、余に勝てれば貴様の望み通り『魔王城』を次のステージへと進めてやろうではないか!」


 そう言い切った魔王様は、テンションが振り切っている様子だったが、反対にメガネの目は大分死んでいた。

 具体的には、定時の直前に面倒くさい作業を言い渡されて、残業が確定したときのような顔であった。


「カワセミ先輩。今のメガネ先輩『さっさと終わらせて帰ろう』って思ってますよね?」

「ドラ子ちゃん。今は突っ込んではいけない所よ……」

「あ、はい」


 思考の海に溺れてしまった白騎士の代わりに、ドラ子はカワセミに声をかけてみたが、彼女は苦笑いを浮かべつつドラ子を窘めた。

 だが、その表情には、メガネの良い所だから邪魔をしないでくれという圧が確かに込められていた。

 その良い所は、今こんな感じである。


「さぁ勇者よ! 魔王らしく初めの一撃はそなたに譲ってやろうではないか!」


 魔王エリちゃんは、不敵な笑みを浮かべながら両手を広げる、魔王の余裕のポーズを取った。


「あ、一発目無敵だって知ったから余裕こいてる魔王がいる」

「うるさいぞ! そこの負けドラゴン!」

「ぐふぅっ」


 そしてドラ子は白騎士とカワセミに声をかけられないからと、当事者をやっている魔王にまで野次を飛ばしてみたが、返って来たのは心のデリケートな所に刺さるナイフであった。

 ──ついでに、次は自分が話しかけられると思って密かに身構えていた鳥の巣頭くんは、その体勢を解くのに一ターンかかった。

 もちろん、そんな外野の状況など特に気にすることもなく、メガネは魔王に尋ねる。


「初手を譲ってくれるなら助かるが。本当に良いんだな?」

「魔王に二言はない! さぁ! 魔力を全力で消費するくらいの大技を撃ってくるがよい!」


 はっはっは、と挑発する魔王エリちゃんであったが、流石にそれに乗るメガネではなく、彼は淡々と『攻略準備』を開始する。

 一撃を放つまで動かないのなら、落ち着いて『準備』ができるというものだ。


「それじゃお言葉に甘えて」


 しっかりと言質を取ってから、メガネは右手を前に突き出し、静かに言った。




「聖剣召喚」




 その声は、静かに魔王城の広間に響く。

 その直後、空気が震え出す。

 ジジジジと空間に稲妻のような閃光を撒き散らし、何かとても『大きな力』が無理やり空間を切り裂いて現れようとしているような、強烈な振動が世界を揺らす。


「な、なにこの揺れは?」

「ま、まさかこれは!」

「知っているの白騎士ちゃん!?」


 それまで思考の迷路を彷徨っていた白騎士が、ドラ子の呼びかけに頷く。


「かつて討伐に成功した魔王様の最大レベルは80という話をしたことがあると思います。そしてそのレベル80の魔王様を倒したパーティの勇者が持っていた聖剣もまた、契約するときにこのような天変地異まがいの現象を引き起こしたと言われているんです!」


 その白騎士の解説を待っていたかのように、やがてそれは現れた。

 メガネの手に収まるのは、輝くような白銀の刀身を持つ、美しくも凄まじい力を感じさせる、美麗な剣であった。


「や、やはり! 映画で見たレプリカと一緒です! あれこそ最強の勇者が持っていたと言われている伝説の聖剣──その名も──」


「お前は聖剣『ああああ』で」


「────え」


 そして白騎士が、かつての聖剣の名前を叫ぼうとしたところで、メガネは無慈悲に名付けを終えていた。


「…………メガネ」

「…………勇者よ」

「…………先輩」

「…………あのさぁ」


 魔王城の聖剣は、基本的に召喚した本人が名前を付ける事によって契約を完了する。

 だいたいの魔王城ユーザーは、そこで『エクスカリバー』とか『デュランダル』とか『クラウソラス』とか『カシナート』とかカッコいい名前(本人談)を付ける。

 だが、センスが死んでいる人間は平気で『究極無敵剣』とか『最強ソード』とか『邪剣カオスゴールデンダイナミックアトミック稲妻ブレード』とかカッコいい名前(本人談)も付ける。

 というわけで、歴代の勇者が聖剣をなんと呼んでいようと、メガネにとってこの聖剣は『ああああ』になるのであった。

 その、あまりにもあんまりな名付けに対して、この場にいる誰もがメガネに対して白い目を送った。

 そしてなにより。


《──! ────! ────!!!》


 メガネが握る聖剣自身が、めちゃくちゃピカピカしながら唸っていた。

 誰がどう見ても、意志ある聖剣が抗議しているのは明白であった。


「あの、先輩」

「なんだドラ子」

「その、もしかしてなんですけど、聖剣さんめちゃくちゃ名付けのやり直しを要求してませんかね?」


 呼び出された聖剣の名前が余りにも気の毒で、ドラ子は思わず口を出していた。

 それを受けて、メガネは手に持った聖剣に尋ねる。


「名前に不満があるのか?」

《──! ────!!》


 尋ねられた聖剣は、まるで頷くように、先程までとは違った感じで唸る。

 それを受けたメガネはニコリと笑って言った。


「そうか。名前が嫌なら帰って良いよ。代わりを呼ぶから」

《──》


(黙ったああああああああああ!)


 そして聖剣は、不満なんてありませんとでも言いたげに沈黙した。

 メガネは静かに息を吐いてから、ドラ子に向き直る。


「名前に不満は無いらしいぞ」

「今、ひどいソードハラスメントを見ました」


 ドラ子は、パワハラに似た悲しい現場を目撃してしまった気分であった。

 というか、こういうのって普通、聖剣側が持ち主を選ぶものだと思っていたが、どうして持ち主側がこんなに権限強いんだと疑問にも思った。

 とにかく、強大な力を持った聖剣『ああああ』の登場でしばし固まった空気も、少しの時間を置いてようやく解れ出す。


「と、とにかく勇者よ、それで準備は整ったということか」

「いやまだだ」

「……まだ?」


 勇者が聖剣を召喚して、これ以上何をするのか。バフをかけるのだろうか。

 そう思ったエリちゃんを尻目に、メガネは聖剣を前に『武器商人』のスキルを発動した。


「えーと、『仕入れ模倣』」


 そのスキルを発動したことで、聖剣のショックから回復した白騎士がハッと目を見開く。


「まさか、聖剣にも!?」

「白騎士ちゃん! 解説!」

「はい! 武器商人のスキルの一つに『仕入れ模倣』というものがあります! これは簡単に言えば、その武器をどうやって手に入れたかを知るためのスキルでして、鍛治士の『製造模倣』と違って、武器を作る素材などを知ることはできません。ただし、その仕入れルートが自分も利用可能であれば、そのルートを使って同じ武器を仕入れることができるんです! もちろん対価は相応にかかりますが!」

「じゃあ今は何やってんの先輩は?」

「模倣です! 聖剣の仕入れルートは召喚されるものなので当然不明ですが、その仕入れ方法を模倣することで、武器商人は『聖剣のようなもの』を『呼び出せる可能性』があるのかもしれません!」

「つまり?」

「先輩が何やっているのかは! 見てみるまでわかりません!」


 つまり、なにやらまた仕様の穴を突こうとしているのかな、とドラ子が理解したところで、メガネは聖剣『ああああ』を魔王城の床に突き刺し、眼前に再び手を伸ばした。

 そして、こう呟く。



「魔剣召喚」



 再び、大気が悲鳴を上げる。

 先程聖剣を召喚した時と同じようで、それでいて、少し禍々しさを感じる揺れと、暗い閃光の瞬きの後、その剣は現れた。

 いつの間にかメガネの手には、闇夜のような黒い刀身に、寒気を感じる魔力を秘めた、重厚な直剣が収まっている。

 誰もが固唾を呑んで見守る中、メガネは言った。



「お前は、魔剣『いいいい』だな」



 魔剣『いいいい』が抗議の唸りを上げ、聖剣と同じように黙らされるまでの所要時間はおよそ十秒であった。


今更ですけど白騎士(仮)の解説は読み飛ばしても多分大丈夫です

理屈をつけているだけなので

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― 新着の感想 ―
[良い点] メガネ先輩のネーミングセンスが解釈一致です本当にありがとうございます [一言] もっと増えたりするのか、ここから更にえげつないナニカがあるのか…もはやこれを読むのが生き甲斐まであります
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