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総合ダンジョン管理術式『Solomon』保守サポート窓口 〜ミミックは家具だって言ってんだろ! マニュアル読め!〜  作者: score


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70 魔王城へようこそ! 19


「開発中のダンジョンを体験させて頂いてありがとうございます。とても楽しかったです」

「ほほ、それはよかった」


 冒険から戻って来た白騎士パーティのうち、カワセミが開口一番にそう言った。

 それを受けたダイキリは嬉しそうに答え、ギムレットも満足そうに頷いている。

 ……そこで礼を言うのは白騎士ではないのか、と思った方も居るかもしれない。

 だが、白騎士は取り込み中であった。


「なぜ最後に役割を放棄して大技をしかけたのですか? あれで体力を削り切れたから良かったものの、もしダメだったら反撃でこちらのパーティが崩壊する可能性は考えなかったのですか?」

「……すみません」

「謝れと言っているのではないんです。なぜ、そういう行動に出たのかを私は知りたいんです」

「いえ、その、いけると思ったから」

「行けると思ったらなんの相談も無しに独断で行動するのですか? 攻略サポート部ではそのように教えているのですか?」

「…………すみません」

「だから謝れと言っているのではないんです」


 廊下から響く声を、一同は聞こえないことにしている。

 老人達の眼の前で言っているのではないので、彼女なりに空気を読んでいるのだが、ここまで聞こえる声量でダメ出ししていたら同じことだ。

 どうやら、ダンジョンのボスに放った最後の一撃は鳥の巣頭くんの独断専行であったようだ。

 鳥の巣頭くん的には『目立つなら今しかない』的な軽い気持ちで放った必殺技だったようだが、パーティリーダーである白騎士は、なぜそんな行動を取ったのか理解に苦しんでいる様子だ。

 その原動力が、ただカワセミに良い所を見せたかった、であると理解するまでには今暫くの時間が必要かもしれなかった。


「それで、爺さんたちとしては満足の行く結果だったのか?」

「ふむ。思ったよりも簡単に攻略されたのは否めんが、ダンジョン慣れしていない客にもクリアしてもらうことを考えればこんなもんじゃろう」


 見ている分には何の問題もないさくさくプレイであり、簡単過ぎるようにも思えたが、それがイージー難易度であるならばそれも止む無しである。

 魔王城ユーザーは白騎士のようなガチ勢ばかりではない。

 むしろ、魔王城に遊びに来た事がないコラボ先のファンに、無理なく楽しんでもらう難易度設定の方が肝要だ。


「イージーはどんな初心者の攻略でもなんとかなる、というのを目安にしておるからの。それを考慮すれば、むしろ少し難しくしすぎたかとも思っておる」

「確かに。道中の敵の配置や、ボスの強さは、全くの初心者には少し難しいかもしれませんね」

「お嬢ちゃんもそう感じたかの。じゃが、この辺りは先方の意向もあっての。ゲームの再現としてあまり簡単にするわけにもいかんかったのじゃよ」

「なるほど、それでしたら、難易度に影響しない範囲で気付いたことが──」


 それからカワセミは攻略サポート部らしく、ダンジョンアタック中に気付いたことや気になったことのフィードバックを始めた。

 ほとんど最終調整に入っているだろうダンジョンのため、大幅な改修は無理だろうが、それでも両老人は興味深そうに話に耳を傾けていた。

 そうこうしているうちに廊下の話し声がなくなり、慌てた様子の白騎士としょんぼり顔くんも戻ってくる。


「すみません、ちょっと話し込んでいて遅くなりました! とても楽しかったです!」

「……はい。楽しかったです」

「一人全く楽しそうな顔してないんよ」


 ドラ子が思わず突っ込んでしまうほど、鳥の巣頭くんの顔は沈んでいた。誰に対しても基本的に礼儀正しい白騎士であるが、鳥の巣頭くんにとっては天敵なのかもしれない。




「さて! それじゃそろそろ私達も行きましょう先輩!」

「おう」


 白騎士を加えた面々で改めて意見の交換がなされたあと、前情報はそこそこにドラ子とメガネのチームもダンジョンに挑むことになる。

 白騎士達がそうであったように、メガネ達もまた難易度イージーの設定だ。

 一度攻略を見てしまったがために、全くの初見プレイにならないが大丈夫だろうかとドラ子は心配したが、老人達はそれで構わないと言った。


「ふん、お手並み拝見と行こうか。初心者だけでどこまでやれるのかをな」

「あ?」

「ひっ」


 鳥の巣頭くんは少し元気になっていた。

 もっとも、元気になると挑発しかしないのなら、少ししょんぼりしている方がマシだったかもしれない。

 ドラ子に相変わらず睨まれて怯む青年を少し呆れた顔で見た後に、メガネは視線を老人達に移す。

 二人は、なんというか、そわそわしていた。


「先に言っておくけど、変な事企んでいるならやめておいたら?」

「な、何も企んでおらんわい!」

「そうじゃそうじゃ! もし何か起きたとしても不幸な事故じゃからな!」

「これから何か起こすやつの言い方なんだよなぁ」


 はぁ、とため息を吐いたあと、メガネはやれやれと首を振った。

 まぁ良いか、と、これから起こるかもしれないトラブルを覚悟する。

 今でこそ気安い関係を築いているメガネと老人達だが、初期はそうではなかった。

 文字通り、メガネはこの二人に『殺したいほど恨まれていた』のだから。


「それじゃ案内するぞい!」


 頑張って下さい! と応援する白騎士やカワセミの声を背に、ギムレット爺さんの案内に従ってダンジョンの仮設場所へと向かう。

 魔王城の城下町とは全く違う殺風景な廊下の途中、わくわくした様子でドラ子は言う。


「先輩! 私勇者! 勇者がいい!」

「まぁ、良いんじゃねえかな」

「やりぃ! やっぱり私って勇者が似合うじゃないですか?」

「……そうか?」

「ふっ」

「なぜドヤ顔になる」


 ドラ子の得意気な顔に疑問符を浮かべるメガネだったが、案内しているギムレット爺さんはドラ子の声に同調した。


「儂もお嬢ちゃんは勇者が似合うと思うぞい」

「ですよねー! やっぱ分かっちゃいますよねー! 私の持つ、天性の勇者オーラが」


 ドラ子の自信の根拠はやはり勇者適性:Eであったが、それをメガネは知る由もなかった。

 ただ、こいつが調子乗ってると碌なこと無いんだよな、と密かに思っただけだ。

 程なくして、三人はダンジョンの仮設入口へと辿り着く。


「やっぱりそんな遠くないな」

「何言ってるんですか先輩! ささ! 行きましょう!」


 逸るドラ子に促されるように、メガネもまた仮設入口へのドアをくぐる。

 部屋の中は先程モニターで見ていたのと同じである。

 奥にはダンジョン内部に転移するための魔法陣があり、壁には合計で12の装備品らしきものが陳列してある。

 装備品の前には説明のパネルが用意されていて、どういった職業に就けるのかを解説していた。簡単なゲームのPVも見られるらしい。


 ガチャリ。


 そんな様子を眺めていた二人の後ろで、ドアの鍵がしまったような音がした。

 メガネは開かなくなったドアを睨みながら、その向こう側にいる相手に尋ねる。


「爺さん。なぜ鍵を閉めた?」

「これから攻略に挑むのじゃろう。使用中であることを示すのにロックは必要じゃ」

「白騎士たちの時はあんたも部屋の中に入ってなかったか?」

「こ、細かいことは無しじゃ! 儂は戻るからの! その扉はダンジョン攻略に成功するか、失敗して戻ってくれば開くぞい!」


 逃げるように、老人の気配が遠ざかる。

 メガネは一つ状況を理解した。

 つまり、自分たちは今、ダンジョンを棄権することができなくなったらしい。


「何を心配してるんですか先輩! 勇者ドラ子に任せてもらえばどんな敵も一網打尽ですよ!」


 言いながら、ドラ子は勇者の装備品が置かれた場所に向かう。

 そこで装備品に触れながら転職の意を示せば、晴れてコラボ職業に転職完了だ。

 だが、喜び勇んで転職に望むことはなく、ドラ子は首を傾げている。


「あれ?」

「どうした」

「なんか、初期ステータスが見れるんですけど、レベル1って出るような?」

「何?」


 その言葉を受けて、メガネも近くにあった装備品の前でステータスを確認してみる。


『闘技王ヘイロー レベル1』


 ドラ子が語ったとおり、表示されるレベルは1であった。

 メガネがその状況を確認するのを待っていたかのように、部屋のスピーカーから声が聞こえた。

 ダイキリ老人の声だとすぐに分かった。


《すまんメガネ! どうやら設定ミスがあったようじゃ! 全ての職業がレベル1になっとる!》


 謝っているのとは裏腹に、とても、機嫌が良さそうな声だった。

 どうせ聞こえていると考え、メガネは返す。


「設定ミスがあったならさっさと戻せよ」

《すまんのう! 攻略中はいじれんのじゃ! 一度攻略を終えてくれれば戻せる!》

「…………」


 絶対に嘘だろうとメガネは思った。

 ドアに鍵がかかったのも、職業がレベル1なのも故意である。

 となれば、それだけではないと踏んだ。


「言いたい事はそれだけか?」

《あとじゃな! 間違って難易度設定もハードになっとる! がはは! すまん!》

「ぶっ殺すぞじじい!」


 100%故意だと確信した。

 先程ギムレットの爺さんの帰りが遅かった理由は、この設定変更を行っていたからだ。

 彼らは、メガネにレベル1の状態で、難易度ハードのダンジョンに挑んで欲しかった。

 そして、それをした理由もなんとなく心当たりはある。


《まぁ心配するな! 一回『攻略失敗』して戻ってくれば再設定できるからの! そう! 失敗すれば良いだけじゃ! 死んでも問題ないんじゃからな!》


 つまり、老人達はメガネに『ダンジョン攻略を失敗してほしい』のである。

 たとえ、恥も外聞もかなぐり捨ててどんな手段を使おうとも。


《それじゃ健闘を祈るぞい!》

「くたばれくそじじい」


 メガネは思い切り、画面が映されているだろう方向に向かって中指を立てた。

 一連のやり取りが終わり、メガネはふーっと重い息を吐く。

 そして、ぽかんとした顔で、二人のやりとりに取り残されていたドラ子を見る。


「……あの、先輩。わたし、話に全くついていけてないんですけど?」

「あー、巻き込んで悪いな。端的に言えば俺は実は爺さんどもに死ぬほど恨まれていてな。その私怨でまず間違いなく死ぬダンジョン攻略を強制されたってわけだ」

「さらっと明かして来た状況がヘビーなんですけど!?」


 説明を受けたとしてもドラ子は付いて行けてない。

 とはいえメガネはこれ以上、説明する気にもなれない。

 いま大事なことはそれではない。

 メガネは少し瞑目したあと、はっきりと言った。


「決めた。ドラ子、俺の言う通りに動け」

「……はい?」

「俺はもともと、普通に遊んでやるつもりでここまで来たが、相手がその気ならこっちもその気でやる」

「……と言いますと?」


 伺うような視線を見せる後輩に、メガネは言った。



「俺を本気にさせたことを後悔させてやる。攻略するぞ。このダンジョンを」



 ドラ子はそう言った先輩の顔に少し驚いていた。

 良く分からない状況だったが、その顔が少しだけ『楽しそう』だったのだ。



すみません推敲中に寝落ちして投稿遅くなりました……(体感土曜日崩壊)

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― 新着の感想 ―
[良い点] メガネ先輩の本気!メガネ先輩の本気!!! 爺さんよくやった!!!!! [一言] わくわく
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