68 魔王城へようこそ! 17
魔王城のライトなユーザーにはあまり関係ないことだが、ある程度遊んでいるユーザーには常識になっているものの一つに、サブジョブがある。
これは、メインとなる職業と同時にセットする補助的な職業のことであり、メインジョブのレベルの半分まで、サブのジョブのレベル分も能力が適用されるというものだ。
具体的に言えば、白騎士のメインジョブを聖導術士レベル76だとすれば、サブジョブに騎戦騎士をセットすると半分のレベル38まで能力が加算される。
基本的にガチ勢はこのメインとサブの組み合わせでもって職業を考える。
例えば戦士系メインにサブで飛脚を組み合わせて戦闘中のスタミナを増加したり。
例えば魔法系メインにサブで弓士を組み合わせて遠距離攻撃の命中率を向上したり。
例えば斥候系メインにサブで薬師を組み合わせて状態異常付与率を底上げしたり。
もちろん、このメインにこのサブという鉄板の組み合わせは存在する。
だが、有用だからとテンプレをなぞろうとしても、そのテンプレ編成が自分に適性があるとは限らない。
サブにしても適性G以下をメインの半分まで上げるのはなかなかの苦行ということだ。
そんなわけで、このメインとサブの組み合わせを、自分なりに考えるのもまた魔王城ユーザーの楽しみなのだとか。
単純なステータス上昇の他に、有用な職業専用スキルなども存在するので、このあたりをどう組み合わせるかが腕の見せ所なのである。
だが、そんな自分だけの組み合わせなんて考えてられないし、かといって適性Gを頑張って上げるのも嫌だというのもまた、ストレートなユーザーからの声である。
実際、使えるか分からない組み合わせを試すために、何ヶ月もかけてレベルを上げるのは、一般人には苦行なのだ。
そんなユーザーにお勧めされるのが『コラボ職業』なのである。
「コラボ職業は全ての職業が適性Cで獲得できるんです。少しやる気になれば確実に職業を貰うことが出来ますし、ガチ勢がコラボが終わる前にジョブの検証も済ませてくれますから、ぼちぼち遊びつつ最後に必要な職業を報酬で獲得することができます」
「なるほど」
テンションが上がりまくっていた白騎士に、相変わらずの軽い気持ちで理由を尋ねたドラ子は、怒濤の解説を受け生気を失った目でそう呟いた。
その熱量には、設計サポートの老人方も軽く引いていたが、白騎士の説明はまだ終わりではない。
「そしてコラボ勇者です! まずコラボ職業は最大レベルが50でステータス上昇もやや控えめという欠点はありますが、それを差し引いても自分に適性の無い職業を選択できるという魅力があります。『勇者』は『魔王』と並んで最強職の一画に入れられる超有能ジョブでして、戦闘職であればサブジョブにとりあえず突っ込んでおくのが間違い無しなんです。それはレベル1から使えるパッシブスキル『光のオーラ』が全ステータスの割合上昇というぶっ壊れでして、さらにアクティブスキルの『聖剣覚醒』を行うことで更なるステータス向上が見込める全戦闘職垂涎のサブジョブなのですが──」
「白騎士。ステイ、ステイ」
「──勇者の適性もまた99.9999%の人間がH以下の……はい、先輩?」
「このまま喋ってると先行体験の時間がなくなる」
「はっそうでした、す、すみません」
全自動勇者解説マシーンと化した白騎士を流石にメガネが止める。
ついでにドラ子は、生気のない半目でただ頷くマシーンと化していた。
正気に戻った白騎士は、流石にこの状況で暴走気味に解説していたのは、やや恥ずかしく思ったのか、少し頬を染めながら俯いた。
「がはは。元気の良いお嬢ちゃんだ!」
「おうとも! こんな子に遊んでもらえるんなら作った甲斐があるってもんよ」
老人たちのフォローに、白騎士が更に肩を狭くした。
と、白騎士の暴走もそこそこに老人達は、今回のコラボダンジョンのルール解説に入った。
今回は、コラボ先のゲームの仮想体験が主な目的だ。
ユーザーは用意された12のキャラクターから一人を選んで、そのキャラクターをイメージしたレベル50ジョブのステータスでダンジョンの攻略を目指す。
難易度はイージー、ノーマル、ハードの三種類あり、難易度によって敵の強さが変わるが、クリア時に貰える報酬引換用のコインもまた変わる仕様である。
攻略は1名〜6名を想定しており、人数が少なくなるとお供として自動戦闘AIがパーティーメンバーに加わってくれる。ボッチにも安心である。
「というわけじゃ、せっかくだったらアレじゃな。経験者と初心者でそれぞれ別れてみて欲しいの」
簡単なコラボダンジョンの説明をしたあとに、ダイキリ爺さんはそう言った。
5名で挑めるのなら、この5人でパーティを組む想定だったメガネたちは、少しだけ相談を挟む。
「と、先方は言っているがどうする?」
メガネが軽く面々に問うと、最初に返したのは白騎士であった。
「こちらは遊ばせてもらう立場ですし構わないのではないでしょうか。ダイキリさん方にしてみても、生の感想は多ければ多い方が良いでしょうし、お役に立てるのならば」
「まぁ、言い分自体は確かにそうなんだが……」
白騎士の言っていることはもっともだった。
そもそもこちらがワガママを通すような場面ではない。
魔王城経験者の目線と、コラボ目的で来た初心者の目線がそれぞれ得られるのならば、その方が良いというのも、分かる話である。
だが。
「でも白騎士ちゃん。私や先輩を初心者に分類するのは、どうかと思うよ」
「そ、それは、そうですよね……」
ドラ子の素朴な意見に、白騎士もうっと声を詰まらせる。
コラボダンジョンでは、ステータスやスキルが全て用意されたものになるから、先程までのような基礎ステータスの暴力は起こらないだろう。
だが、それを差し引いてもメガネの能力を初心者と分類するのは、無理があると思えた。
思えたが、だからと言ってどうしても五人で挑みたいという話でもない。
そこに大人の意見を入れたのはカワセミだった。
「どうしても、というわけでもないのなら、受けても構わないのではないでしょうか。ただ、私も経験者と言えるほどではありませんが」
「まぁ、そうだな。問題ないだろう」
結局、強硬に反対する理由もなかったため、メガネ達は老人達の要請に従ってパーティを二つに分けることになった。
経験者チームは、白騎士、カワセミ、鳥の巣くん。
初心者チームは、メガネ、ドラ子になる。
「それじゃ、最初は経験者に攻略して貰うかの」
「入口はこっちじゃから付いてきてくれ」
ギムレットの爺さんに連れられて、先に経験者三人がダンジョンに挑むことになった。
少しだけカワセミは残念そうな顔をしており、反対に鳥の巣頭くんは嬉しそうだった。
残されたメガネ、ドラコの二人とダイキリの爺さんは、オフィスに設置されている一際デカいモニターを見る。
程なくして、三人がダンジョンの入口に転移する魔法陣の前で、ジョブの選択を始めているのが見えた。
「それで、何を企んでるダイキリ爺さん」
「なんじゃ? 儂にはなんのことじゃかさっぱりじゃが」
ドラ子の横で、メガネとダイキリの爺さんが不穏な会話を始めていた。
ドラ子だけがなんで二人が喧嘩腰なのか分からず、交互に二人を見る。
「とぼけるなよ。テストプレイなんてもう散々やってるはずだ。今更、5人できたパーティを二つに分ける意味がない」
「テストプレイはいくらやっても足りんくらいじゃ。そのくらいお前さんも知っとるじゃろう?」
「それはもちろん知ってる。だが、あんたらがテストプレイが必要だと考えるようなダンジョンに、会社関係とはいえ部外者を入れる筈がないとも思ってるけどな」
「ほっほ、なるほど言いたいことは分かった。じゃが、何か企んでるなら先にお前さんらを向かわせとるとは思わんかね」
「どうだかな」
そんな腹の探り合いを間近で見せられたドラ子は、あれ? もしかしてメガネ先輩とこの人達仲悪いのかなと素朴な疑問を感じた。
だが、触らぬ神に祟り無しと深く聞かないことにして、職業判定の際に貰った魔紙になんとはなしに魔力を注いでいた。
先程魔王の適性を調べたときと同じように、今度はなんとなくで勇者の適性を調べようと思ったのだ。
そして、魔紙はすぐにドラ子の求める職業を全面に浮かび上がらせた。
「まっ」
出て来た結果に、思わずドラ子は叫びそうになり、慌てて口を塞いだ。
「ま?」
「ま?」
そんなドラ子に、先程まで無駄にバチバチやっていた二人が揃って顔を向ける。
ドラ子は咄嗟に魔紙を隠して言った。
「ま、まだサブジョブが解放されたりはしてないですね、なんて」
少し苦しいか? と思いつつドラ子は笑って誤魔化した。
「ああ、あれはそれなりに面倒なクエストの報酬らしいからな」
「メインのレベルが上がれば攻略自体は難しくないから、是非挑戦してほしいのう」
とはいえ、二人はなんとなくで出したドラ子の言葉に、ふむふむと頷くのみだった。
(あ、危なかった。思わず先輩にドヤ顔職業診断するところだった。まさか私が勇者:Eの適性まで持っているなんて)
そう、ドラ子は勇者の職業に関しても希有な適性を持っているのだった。
これを白騎士にバラしたら『魔王勇者やりましょう!』と、向こう十年は魔王城に連行されかねない。
そう思ったドラ子は、どのタイミングで自慢するべきかと隣の先輩の顔を見ながら悩むのだった。




