65 魔王城へようこそ! 14
祝勝会もそこそこに、あまり遅くなっては先方に迷惑がかかるということで、チームSolomonはボチボチ本来の目的地へ向かうことになった。
つまりは、魔王城で働いている設計サポートの人達が待っている『裏側』だ。
「でも良いんですかね、こんな遅い時間におしかけて。もう業務時間終わってるんじゃ」
「珍しく当たり前の気遣いするじゃん」
ドラ子の口から出たとは思えない発言に、思わずメガネは言った。
そんな扱いをされて、赤髪のドラゴンは僅かにムッとする。
「何を言いますか、この気遣いがドラゴンの形を取ったとまでいわれる私に対して」
「それ自分で言ってても、ちょっと苦しいなとか思わない?」
「思ったら負けかなとは思ってます」
「その時点で既に気遣いの人じゃないよ」
多分、本当の気遣いの人だったら、自分なんてまだまだです、と謙遜する所だろう。
だが、別に本気で言っているわけでもないので、メガネはさっさと話を進めた。
「まぁ、時間に関しては問題無い。むしろ日中は忙しくしてるだろうしな」
「でも、もう仕事終わってるんじゃ。ウチの会社で言えばとっくに定時過ぎてますよ」
「まぁ、今回の件は仕事ってわけじゃないからな。お前だってバリバリの仕事中に知人が遊びに来る方が嫌だろ」
言いながら、メガネは自分たちの後ろを歩いている、女子二人の姿を見た。
「でも感動です! この仕事やってて良かったです! まさか魔王城の内側を見られるなんて!」
「うふふ。白騎士ちゃんは本当に魔王城が好きなのね」
「はい! 本当はウチの会社と魔王城のキャストの募集で迷ったんですけど、やっぱり魔王城はユーザーとして楽しみたいなと思って。でも、それはそれでやっぱり好きな場所の内側って気になっちゃうじゃないですか!」
「悪夢の城の悪夢が醒めちゃうものね」
後ろでは白騎士がこのはしゃぎようであり、それを受け止めるカワセミは終始、微笑ましいものを見る目であった。
どう見ても、遊びに行く子供の姿である。
なお、道行く他の客たちも、会話の内容はよく聞こえてないだろうが、大はしゃぎの白騎士を見て微笑んでいる。
優しさに溢れる光景と言えよう。
ちなみに『悪夢の城』とは魔王城の通称の一つである。最初は『夢の城』と言われていたが『平和な日常生活から離れて、魔物との戦いに明け暮れるのがお前らの夢か?』という現実的なツッコミが魔王城サイドからされたという経緯があって、そこまで言うならと『悪夢の城』になった。みんな悪夢みて喜んでるけど。
いずれにせよ、非現実的な世界という意味ではそう変わらない。
「大丈夫なんですか先輩。白騎士ちゃん、あの期待っぷりだと現実を知ったらぶっ壊れるんじゃ?」
「なんでお前はすでに魔王城の現実を知っているサイドの物言いなんだよ」
「だってSolomon製でしょ?」
「…………」
あまりにも的確な指摘に、メガネは何も言えなかった。
これもまた、Solomonの信頼度が成せる業と言えよう。
「ていうか先輩、今更なんですけど」
「なに?」
「今日は、結構楽しかったです」
メガネが何かと思って身構えるが、出て来たのは今日の感想だった。
「それは、良かった。そういう感想なら、特に白騎士に聞かせてやれよ」
「いえ、それはそうなんですけど、ここから先はちょっと」
「ん?」
と思った矢先に、雲行きが少し怪しくなった。
「いえ、今日は確かに楽しかったんですよ。前来た時と違って、なかなかに大暴れできましたし。良く分かんないけど上級ダンジョン攻略したとかで、すごいことしたみたいですし。やっぱり、ガンガン新しいことやってる内って何でも楽しいじゃないですか」
「まぁ、どんなゲームだって基本的には最初から中盤あたりが一番楽しかったりするな」
これはあくまで個人的な意見であるが、どんなゲームも序盤から中盤の、どんどんと新しい事ができるようになって成長が実感できるあたりが一番楽しいのだ。
そしてそのあたりからゲームクリアまで、ストーリーの楽しさとかで乗り切れると終わった時の満足感も一入である。
のだが、それは終わりがあるゲームの話であり、ドラ子はこう思っていた。
「でも新しい事なんてもうほとんど無さそうな、コアな魔王城ユーザーって、何を目的として何回も魔王城に通ってんですかね」
「それはお前……なんでだろうな」
ドラ子の問いかけに、メガネは答えを持っていなかった。
だって、自分も別に魔王城ユーザーではなかったから。
ドラ子とメガネは、揃って魔王城ユーザーがどうして魔王城にここまで惹かれるのかを考えるが、答えは出ない。
そこに、救世主が現れる。
「ふっ! ならば僕が教えてあげようじゃないか!」
「あ、居たの?」
「居たよ! ずっと居たじゃないか!」
それは、実はこの移動が開始されたときからずっと、ドラ子とメガネのほんの少し後ろを歩いていた鳥の巣頭くんであった。
別に無視されていたわけではなく、メガネはことあるごとに軽く話題を振っていたのだが、鳥の巣頭くんは地味にメガネと打ち解けていないので、あまり会話できていなかったのである。
ちなみにドラ子は無視していた。
そんな彼だったが、自然と出来上がっていたこの人数分けの中、ドラ子チームでは唯一の魔王城ユーザーである。
二人が魔王城の話をしたのを見計らって、自分が会話に入るタイミングをずっと計っていたのだった。
「どうしてもと言うなら仕方ないからな、僕が教えてあげても」
「あ、別に良いっす」
「そこは聞こうよ!?」
勿体ぶった言い方が鬱陶しくなったドラ子に袖にされ、彼は半泣きになった。
「いやちょっと気になっただけで、別にそこまで知りたいわけでもないし」
「でも今丁度そういう話題だったじゃん!」
「いや、丁度明日の天気の話でもしようかなって思ってたとこだし」
「それは明日話せよ!」
ドラ子は鳥の巣頭くんの使い方が少しわかってきていた。
彼は叩くといくらでも反応を返すため、ドラ子にとって暇つぶしのおもちゃと認識され始めていた。
「まぁ、ドラ子は置いといて、実際、魔王城ユーザーが魔王城に戻って来てしまうのはなぜなんだ?」
「…………ふ、ふん。そこまで聞きたいなら教えてやろうじゃないか」
ドラ子は「余計な事を」とメガネを睨んでいたが、メガネの知ったことではなかった。
そして、ドラ子とメガネが彼の言葉を待っていると、彼は大分溜めたあとに言った。
「そこに、ダンジョンがあるからさ」
「あ、先輩、明日って午後から天気悪くなるらしいじゃないすか」
「まじか。明日は家でまったりするわ俺」
「聞いてよ!」
聞いたからこその対応ではあった。
そこにダンジョンがあるから来ると言われても、二人は『ふーん』としか言えなかっただろう。
だが、結局のところ、彼の答えは真理でもあるのだ。
たとえば、ゲームに熱中しているとき、親に『何が楽しいの?』と聞かれて論理的に答えることができるだろうか?
もちろん、ゲームの魅力を語ることはできる。
こういうバトルのシステムがあって、こうなると気持ちよく戦えて、こういうギミックのダンジョンはこうで、ストーリーのここが良くて。
そうやって、楽しいと思える要素をあげることはできる。
でもそれは、自分が楽しいと思えているから、楽しいのだという話である。
ゲームのバトルが好きじゃなかったら、バトルのシステムとかどうでも良いのである。
親はそんなのはひっくるめて聞いているのだ。『ゲームなんてやって何が楽しいの』と。『なんのためにゲームをやるのか』と。
それを言われたら最終的に『そこにゲームがあるからやる』という答えに行き着くのではないだろうか。
目的があるからゲームをやるのではない、ゲームそれ自体が目的なのだ。
将来のためにゲームをやっている子供は、ゲームを仕事にする目標があるごく一部くらいだろう。
魔王城ユーザーにだって目先の目標はある。
より難しいダンジョンを攻略したいとか、レベルを上げたいとか、この装備を作りたいとか、いつか魔王に挑戦して魔王城の殿堂入りに乗りたいとか。
でも、それをひっくるめて、なんのために魔王城に来ているのか、と問われたら。
そこに、魔王城があるから、としか言えないのではないだろうか。
「結局、人には人の楽しみ方があるってことだ。お前だってなんで飯喰ってんのって言われたら困るだろ?」
「生命維持に必要な食事を、より豊かにするというのは、生活の質を高める上で重要なことなんですよ? 人間の三大欲求って知ってます? 食事をないがしろにするっていうことは、三分の一死んでるってことなんですよ?」
「お前食事必要ねえだろ」
「心の三分の一が死んでるってことです」
「ふっ、ぼくにとっての魔王城も食事と同じさ」
「魔王城食わなかったら死ぬの?」
そうして、目的地である魔王城裏口通用門(という設定)につくまで、鳥の巣頭君は多少会話に入ったり入らなかったりなのであった。
コラボダンジョンに向かうとは言ったが着くとは言ってなかった()




