64 魔王城へようこそ! 13
「上級ダンジョン攻略おめでとうございます!」
「いえーい!」
時刻は夕方の六時。
場所は再びギルドの食堂。テーブルには様々な料理の数々。
この場は半分以上、祝勝会の様相を呈している。(※酒はない)
というのも、攻略開始から実に五時間をかけて、結成初日のチームSolomonは推奨レベル50の上級ダンジョン『絡繰り大名屋敷』を攻略したのだった。
ちなみに攻略にかかった時間の八割はドラ子とメガネのレベリングの時間だった。
この二人をレベリングしないと、二人はともかく残った三人の上限が上がらなくてボスに苦戦必至だったのである。
この攻略が終わった時点で、遂にドラ子のレベルは39にまで上昇していた。
これは、一般的な魔王城ユーザーが数ヶ月かけて何度も魔王城に通って到達するくらいのレベルであった。
普通であれば、一日どんなに効率的にレベリングをしたとしても、精々25が良い所であろう。
それが可能だったのは、大名屋敷にて『無限湧き』とも思える、モンスターのリポップ罠を活用したからである。
「しかし、メガネ先輩はさすがですね。ギルドの情報を見ただけであんな効率的なレベリング方法を発見するなんて」
「……いや」
白騎士は目をキラキラさせながら、自身の先輩を讃えた。
「だってここ『超不人気ダンジョン』ですよ! 上級の中でも一番人気ないから、情報も全然無かったじゃないですか!」
「……まぁ」
「だってメガネ先輩ですよ白騎士ちゃん! どんな小さな痕跡からでも回答を書き上げるプロフェッショナルですよ! 少しの情報があれば問題無いんです!」
「確かにその通りですね! 流石です先輩!」
白騎士がさらにハイテンションになれば、白騎士に釣られるようにカワセミもハイテンションになっていく。
メガネは救いを求めるように、自分に対してはやや険のある態度で接して来ていた、攻略サポート部の男子に目を向ける。
そんな彼は、少し悔しそうに目を背けた後、
「ま、まぁ、あんたの実力は攻略サポート部でも、ちゅ、中の下くらいであることは、み、認めてやる」
「……お、おう」
と本当に認めているのかどうか分からない感想を零すのであった。
「なにこれ」
このメガネ先輩フィーバーを、用意した料理を頬張りながら冷めた目でドラ子は見つめていた。
この『絡繰り大名屋敷』は、簡単に言えばトラップが殺しにくる系のダンジョンである。
設定としては『絡繰りに心を奪われた大名が魔に落ち、自らの屋敷を罠だらけに改装して、その守りとして大量の絡繰り人形を放った』というものだ。
なぜ絡繰りだったり大名だったりと和風なのか、なぜ機械人形ではダメだったのか、については諸説あるが、侍系統の装備が良く手に入るダンジョンを、どうにか上級に作りたかった運営の意向だろうというのがユーザー側の見解だ。
だが、同時にこの『絡繰り屋敷』は頗る評判が悪かった。
出てくる絡繰り人形の強さは、上級の中でも弱い方。更に徘徊している人形の数もそうでもない。
それに引き換え、出てくる宝箱の数は比較的多くて、侍向けだが前衛剣士職にも流用できる装備や素材、それらのレシピも多い。
そういう意味では、上級上がり立ての冒険者たち御用達に思えるが、ただ一点で評価をどん底まで下げている。
それは『トラップがえげつない』ことだ。
モンスターにリソースを割かない分、このダンジョンはふんだんにトラップを配置している。
一つの宝箱を見つけるのに、五つの罠を見つけるとまで言われている。
それも、洋風のダンジョンでは余り見ない絡繰り屋敷ならではのものも多く、これまでのダンジョンの感覚だと初見殺しにあうことも。
さらに罠の内容も状態異常系だったり、敵を呼び寄せるものだったりで、かかったらダメージを受けて終わりといったシンプルな内容が少ない。
そのため、斥候役の居ない上級上がり立てのパーティがうっかり足を踏み入れたら、麻痺罠で痺れているうちに絡繰り人形に嬲り殺されるなんて状況がよく発生する。
斥候役を入れるにしても上級クラスの技能を解放していないとあまり役に立たない。
さりとて斥候役が充分に育った後では、敵のレベルや報酬が少々物足りない。
といった要因で、上級ダンジョンの中でも特に不人気とされているのだった。
白騎士が、そこをあえて選んだのは、メガネが十分な斥候技能を身につけていると考えたからであり、そこさえクリアできれば簡単な上級ダンジョンに早変わりなのだ。
「ギルドに……いやネットに情報共有を……でも、それをするには一流の斥候兼ダンジョン技師がいるか……でも可能ってことは共有したほうが」
「……あのだな」
ひとしきりメガネを誉め称え、飲み物(※酒ではない。魔王城で酒は提供されているがまだ仕事が残っているので)を呑みながら騒いだあと、白騎士は魔王城ユーザーモードに入った。
このぶつぶつ言っている内容は、先程メガネが編み出した効率的レベリングを、他の魔王城ユーザーにも共有するかということだ。
メガネが行ったことは簡単だった。
まず各フロアを熱心に調査して、罠の種類と場所、それに戦いやすい広間を確認する。
それが終わったら、効率の良いフロア──すなわち罠の内『敵を呼び出す罠』が多くて『それを一本線』で結べて、かつ『終点が広間』になるフロアを選択する。
あとは、メガネが敵を呼び出す罠だけを発動させながら、絡繰り人形を大量に釣ってきて、広間で大技を待機していた他の面々がブッパして片付ける、の繰り返しだ。
メガネは罠のついでに時間でリポップした敵も釣りながら、罠の再設置間隔ぴったりにそのトレインを繰り返した。
結果、楽に、安全に、それでいて高速での狩りが行えたことで、今まで効率が良いとされていた狩場を大きく上回る経験値効率を叩き出したのだ。
もっとも、更にレベルが上がれば経験値の減衰も入るので、いつまでも最高効率というわけにはいかないが。
「なんにせよ凄いことですよ先輩! 今まで『作った奴絶対性格悪い』とか『魔王城でもっとも要らないダンジョン』とか『次回の入れ替え候補No.1』とか『むしろボスが屋敷から出られなくなった可哀想な人に見える』とか散々な評価だったゴミダンジョンが、一転人気ダンジョンに──」
「──俺だ」
「──なる、はい?」
白騎士の賞賛に割って入るように、メガネはぼそりと声を上げた。
それがどういう繋がりだったのか分からず、白騎士は聞き返した。
「先輩? 俺だ、とは?」
そんな白騎士の問いに、ばつが悪そうに飲み物(※決して酒ではない)を含んだあと、メガネは静かに言った。
「……開発サポートの協力要請があって、このダンジョンのコンセプトを企画、設計したのは、俺だ」
「…………先輩が、絡繰り屋敷を、設計?」
「そうだ」
「じゃあ、あの、性格の悪い罠の配置とか、人の弱い心をくすぐり罠に嵌める宝箱の配置とか、人のケツを執拗に狙って召喚される人形呼び出し罠の配置とか」
「俺が、コンセプトを出した」
白騎士は中途半端な半笑いで固まった。
カワセミも、これには流石ですとは言えなかった。
鳥の巣頭くんも、相手の実力を認めたのが何とも言えない雰囲気となった。
「あっはっはっは! 流石です先輩! どうりで初見のダンジョンなのに罠を次々と看破できるわけですね! だって自分が設置しそうな場所に罠があるんですもん! そりゃ性格の悪い先輩ならすぐ見つかりますよね!」
そしてドラ子だけが大笑いしていた。
他の三人が『おい馬鹿やめろ』と心の中で思うようなことでも、それを止められない少女なのであった。
そして、後輩の遠慮のない物言いに青筋を立てつつも、実際その通りだったのでメガネは何も言えなかった。
なにより、自分の協力したダンジョンがぶっちぎり不人気と言われて、割と普通にショックだった。
「……不人気なのか……トラップ系ダンジョンは……」
「で、でも先輩! 侍職の方とかは何回も周回してますから!」
そうやって白騎士がフォローしようとしたところで、丁度彼らのテーブルの近くをその侍職の男が通りかかった。
「マジやってらんねえわあのクソ屋敷。レア刀のレシピ拾ったら二度と行かねえ」
「ほんとそれな。開発者ぜってー陰険だよ。俺等の苦しむ顔を想像してほくそ笑んでるに違いねえ」
そんな愚痴を零しながら通り過ぎて行く男達の後ろで、メガネはテーブルに突っ伏した。
「俺が陰険メガネだよ。笑えよドラ子」
「あっはっはっはっは!」
ドラ子は言われるまでもなく笑っていた。
だが、他の三人は、どうしようもなく笑えなかった。
それから、コラボダンジョンの設計を行っている出向社員の元に向かうまで、祝勝会にしてはやや大人しい食事会を楽しんだ?のだった。
※ドラ子はプライベートの遊びのときは無礼講だと思っています
すみません、多忙により次の体感土曜日は更新をお休みします。
来週の体感水曜日からようやっとコラボダンジョンへ




