54 魔王城へようこそ! 3
「それではお次の方、どうぞ!」
そうこうしているうちに、一行はようやく魔王城の正門へと辿り着いた。
さすが魔王城を自称するだけあって、正門はとても豪華で荘厳だ。
夜間には雰囲気作りで閉じられる門は、馬車が四台は通り抜けられるほど広く、それでいて城壁は分厚い。その堅牢さからは勇者と対峙する魔王の本気が伺える。
もっとも、攻めて来る相手がいるわけでもないので、全てハリボテなのだが。
そんな正門の壁、というかくり抜かれた壁の中に受付が複数存在していて、分りやすい魔族っぽい角を付けたキャストが流れ作業で入城処理を行っている。
「経験者の方はパスの購入、またはご提示後、城門を通ってくださーい! 初入城の方は適性判断があるのでこちらへお願いしまーす!」
そこからは係の人の指示に従って、魔王城に入るのが初めての人と、そうではない人に分かれる。
経験者は前回までの冒険の情報を読み込んでそのまま城内へ、そして初めての人間は、一度職業を調べに行く事になる。
だからここではメガネ一人だけが別行動になる。
……なるはずだったのだが、そんな受付の一つにて。
「ええと、すみません。冒険の書のしおりはお持ちでないんですよね? 更に前回の進行状況や設定したネーム、ステータスやジョブの状況が分からないとなると、冒険の書の呼び出しは少し難しいですね。恐らく大分お時間を頂くことになってしまいますが……どういたしますか?」
「…………始めからにします」
と、前回来た時の冒険の書のしおりや、その冒険内容を欠片も覚えていなかったドラ子は、めでたくメガネと同じ初入城者の集まりに組み込まれた。
経験者組の生暖かい視線に見送られながら。
「そもそも、前回の冒険の書のしおりを貰った記憶すら無いんですけど……」
困り顔でぼそりと漏らすドラ子である。
その隣でメガネは、一層冷ややかな目で彼女を見ていた。
「元気だしてくださいよドラ子先輩、魔王城経験者でしょ」
「……いや、あの、先輩、なんていうか、あの」
「レベル0の俺に色々教えてくださいよ、ドラ子先輩」
「ナマ言ってすみませんでした!」
直接的なことは何も言ってないが、言葉のナイフで、仕返しのように間接的にひたすらチクチク刺すメガネ。
ドラ子が取っていた謎のマウントは、晴れて無かったことになったのだった。
魔王城が大人気アミューズメントダンジョンだとしても、毎日の来城者の全員が経験者ではない。
魔王城に限らず、どこのダンジョンもそれなりの新規がいて、ダンジョンというものは成り立っている。
というわけで、メガネとドラ子が連れて行かれた控え室にも、それなり程度の初入城者が、仲良く順番待ちと相成っていた。
「前回も、ここで結構、待たされたのは覚えてますね」
「前回待たされたのに、今回もわざわざ待たされるとか、よっぽど並ぶの好きなんですねドラ子先輩」
「マジで勘弁してくださいよぉ」
ジョブ判定の間は、雰囲気を重視して、まるで教会だか神殿だかのようになっていた。
奥に奉ってあるっぽい謎の女性像の前に魔法陣が敷かれていて、その魔法陣の上に人が立つことで、ぱっぱと診断が行われていく。
立ってから魔法陣が輝くまで、一人二、三分程度。魔法陣が起動し終わったら、出力された魔力用紙を手に、職業相談用の窓口へと向かう。
待っている人々は、用意された長椅子に座り、一人ずつ順番に呼ばれていく感じだ。
むろん、厳かなのは雰囲気だけで別にお喋りを見咎める神様が見ているわけでもない。
だから、ドラ子はなんとはなしに隣に据わるメガネに雑談を振っていた。
「先輩。実は私、前来たときから思ってたことがあるんですよ」
「ん?」
唐突にドラ子が口に出したのは、このダンジョン設定の不思議だった。
「そもそも、レベルってなんなんですかね」
ざっくりした問いかけであった。
メガネもドラ子を弄るのはやめて、その話題に乗る。
「どういう意味の疑問だ?」
「や、だから、この魔王城って、なんかみんなジョブのレベルがどうだの言ってるじゃないですか。でもそもそもですよ。そもそも、レベルってなんなのかって話です」
レベル、レベル、と皆が簡単に受け入れているので疑問を差し挟む余地はなかった。
だけど、ドラ子はずっと思っていた。
「だって私達って、レベルがどうたら、ってルールの世界で生きてないじゃないですか。強さってのは、そんな単純に数値化できるものじゃないでしょ。だというのにここで強さがレベルという形で数値化されているのは、なんなんだって」
「ああ、そういう疑問ね」
ここ──つまり魔王城には『レベル』というものが存在していて、それが各個人の強さということになっている。
だが、本来、ドラ子達人間は『レベル』というものが設定されている生き物ではない。
神様が決めたルールでそういう世界はあるかもしれないが、少なくともここは違う。
だというのに、なぜ魔王城では独自に『レベル』というものが存在しているのか。
そういう疑問に対して、メガネはどう答えたものかと少し考えた。
「まずドラ子。お前はレベルというものを大雑把に考えすぎている。多分だが、魔王城でのレベルは『魔王城独自』のものだ。つまりダンジョンが規定しているだけの『入城者達のレベル』だというのを最初に覚えておいてくれ」
「……? はぁ」
つまり、魔王城におけるレベルとは、魔王城内部でだけ通じるローカルな設定だという話である。
わざわざ、確認をされるまでもないのでは、と思ったがドラ子は頷いた。
「時にドラ子。お前はレベルってのはどういう値だと思う? 具体的に、レベルが低いとどうで、レベルが高いとどうなると思ってる?」
順番が進んで、椅子を一つずらしながら、ドラ子はメガネに問われた質問の意味を少し考えて答えた。
「一般的な話で良いんですよね? レベルっていうのは個人の強さを端的に表した数値だと思ってます。レベルが高ければ身体能力が向上し、体力や魔力が増え、使える魔法も増えるなどして戦闘力が上がる。逆にレベルが低ければ、身体能力は低く、死にやすく、戦闘の手札も少なくなる。そんな感じです」
「ゲーム的な考え方だな」
「だって現実に、貴女のレベルはいくつです、とかいって教えてくれる便利な装置があるわけじゃないです。でも、身体能力とかは計れますから、擬似的にレベルというものを設定すれば、なんとなく決められなくはないと思います」
Solomonと提携している会社が作っている『ギルドカード』の『ステータス判定機能』とかはまさにそういう感じだ。
だが、それはあくまでその『会社』が『独自規格』でもって、レベルというのを暫定的に算出しているにすぎない。
言ってしまえば、独自のスポーツテストの点数の合計を競っているみたいなものだ。
それ=戦闘力=レベルと言われるとしっくりこなかった。
だが、メガネの青年の答えは肯定だった。
「その認識で合っている。というか、ここ魔王城で使われているのも、恐らく提携会社──ラプラス社あたりが設定した『ラプラス標準レベル規格』のはずだ。ついでにこの規格はウチのSolomonでも採用されていて、モンスターとかのステータスの基準はこの規格だ」
「あ、そうなんですね」
「つうかSolomon使ってるダンジョンで、わざわざ規格を変える必要がないからな」
と、ドラ子が身構えていた答えはあっさりしたものだった。
この魔王城はSolomonで動いている。ではSolomonで採用されているステータスの規格がそのまま当てはまる。
だったらあとは、ステータスの閾値なりなんなりを定めれば、自ずとレベルは設定できるというわけだ。
だが、それでレベルが決められるとなってから、むしろドラ子の疑問は増した。
「いや、おかしくないですか? 仮にそれでステータスが設定されるのは分かりましたけど、レベルが一律1から始まる道理はないですよ。言っちゃなんですけど私、素の状態でその辺の人と比べて十倍は強いですよ。だったらレベル10からスタートでもおかしくないですよね? なのにどうして、魔王城はみんなレベル1なんですか」
ステータスの規格というものがあるのだと受け入れたドラ子の疑問も、また当然であった。
レベルが強さの指標なら、レベル1はレベル1の強さでなくてはならない。
だったら、ここで職業診断なりを行ったところで、強さにはばらつきが無いとおかしい。
その辺の子供と一流のアスリートが、同じレベルであるはずがないのだ。
だが、魔王城では最初はみんなレベル1からスタートだし、それで色々と不満が出たという話を聞いたこともない。
これはどういうカラクリなのか。
「…………その説明をすると少し長くなるけど良いのか?」
「どんと来いです。まだ時間かかりそうですし」
また一つ席をずらしながらドラ子は言う。
彼女達の前には、まだ十人程度は待っている人間がいる。少し長くなるくらいが丁度よかった。
メガネも少し面倒くさそうな顔ではあったが、暇なのは事実なので説明を始めることにした。
「まず結論から述べるが、魔王城のレベルに関しては、ここがアバター再生成式の限定ダンジョンだから、一律レベル1からのスタートにできる、ということになるな。コラボダンジョンとかを沢山作れるのもそのおかげだ」
「パードゥン?」
暇つぶしの話題を誤ったかな?
聞き慣れない単語が出て来てしまったところで、ドラ子はそう思った。
やはり日曜に間に合わなくてすみませんでした。
そしてまだ魔王城に入れてません。次の次くらいでやっと、きっと。




