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総合ダンジョン管理術式『Solomon』保守サポート窓口 〜ミミックは家具だって言ってんだろ! マニュアル読め!〜  作者: score


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53 魔王城へようこそ! 2


「とりあえず今日の流れはどんな感じだっけ?」


 行列に並んで数十分ほど。

 そろそろ正門が近づいて来た頃合いで、適当なお喋りを打ち切ったメガネが白騎士に尋ねる。

 今日の予定と言っても、決まっているのは設計サポートの人に挨拶に向かい、その流れでコラボダンジョンを先行体験させてもらうことだけだ。

 それだけなら二、三時間で終わるだろうし、そもそもそれだけのために始発で来たりはしない。

 挨拶は夕方の予定として、それまでの時間をどう遊ぶかは、魔王城マニアである白騎士に一任していた。


「そうですね。一応確認ですけど、みなさん魔王城にはどれくらい? レベルと職業は?」


 事前に白騎士は確認を取っていたが、それを共有する意味でも再度尋ねた。




 ここ、魔王城は先述したように、体感型の冒険ゲームのような施設ダンジョンだ。

 初めてここを訪れた人間は、まず自分が就ける職業──ジョブを判定し、そこから好みのジョブを選んでレベル1からスタートする。

 この判定に関しては、魔王城側では判定基準を明らかにしていない。本当に素質を発見する何かがあるのか、それともランダムで適当に選んでいるのかは定かではない。

 一説では、実際の遺伝子から見る素質だとか、これまでの人生経験で決まるとか言われており、時間を置いて判定し直しててみたら適性が増えていたという例もあるらしい。

 そんな謎基準だが、実際に適性があるとされたジョブは、やはり馴染みが良いと言われているので、それなりに信用されていたりする。

 ……まぁ、このジョブ判定がまた悲喜こもごもなのである。


 実は、魔王城で用意されているジョブのうち、就けないジョブというものは一つもない。


 前衛、中衛、後衛に特殊職まで合わせて、五桁はあると言われているジョブだが、実は就こうと思えばどんなジョブにでも就く事はできる。


 ただし、そのジョブで楽しめるとは限らない。

 というのも、魔王城のジョブにはランクというものが定められているからだ。


 このランクは、ジョブの能力を左右するものではない。

 ランクAの剣士とランクDの剣士で、ステータスに違いはない。

 個人がどれだけそのジョブに『合っている』かという目安なのだ。

 この『合っている』というのが曲者で、どういう意味かといういうとランクが高いほど『レベルアップの速度が早くなる』のである。


 戦士のランクAとランクBでは、レベルアップに必要な経験値が二割違う。

 ランクBとランクCでも二割違う。

 だからランクAとランクGではレベルアップに必要な経験値が6.4倍も違う。

 それでいて、ジョブごとに一応明確な格差はないものだから、戦力的な意味で適性の低いジョブに就く意味はほとんどない。

 苦労してもしなくても、戦力は同じなのだから。

 だから、特別な理由が無い限り、魔王城に遊びに来た人間は、自分に適性があると判定されたジョブから、好きなジョブを選んで遊ぶ形に落ち着く。


 それでも適性無しでなりたいジョブに就くは自由だ。ただし、それなりの覚悟がいる。

 魔王城に、お金と時間をジャブジャブと注ぎ込む覚悟が。


 なお、救済措置というわけではないが、ジョブ判定で出るジョブとは別に、基本職として戦士や剣士、アーチャーや黒魔導士みたいなものが用意されている。

 これら基本職は誰でもランクBなので、仲間内で役割に拘りがあるのなら、基本職を選んでおけば問題はなかったりする。

 ……魔王城の熱心なユーザで、基本職に就いている人間はほとんど居ないが。


 というわけで、大抵の人間は適性のあるジョブを聞かれれば、基本職以外でランクC以上くらいのものを挙げる。

 だいたい、そのくらいが一般人も無理なく楽しめるレベルの適性とされている。


「はいはい! 私!」


 白騎士の提案に、真っ先に手を挙げたのはドラ子だった。

 彼女は遠足で一度来ただけだという割に、自信ありげに言った。


「来たのは遠足で一回! ジョブは忘れました! 確かレベルは8くらい!」

「よくそれで自信ありげに手を挙げられるなお前」


 つまりズブの素人であるという情報しかなかった。

 メガネは呆れていたが、白騎士はうんうんと満足気に頷いている。


「大丈夫ですよ。確かアタッカー系のランクAが三つくらいでしたよね?」

「多分!」

「それだけ分かれば十分です。しかしランクAが三つは凄いですね」


 白騎士の素直な賞賛に、ドラ子はふふんと胸を張った。

 職業ランクに貴賎はないが、Bランク以上が三つというのが平均的なユーザーの適性ラインらしい。

 これより多いとより楽しめて、少ないといじける人がいる。

 ドラ子はAが三つということでBはもっとあるのだろうし、普通に考えれば充分魔王城にハマる素質があったと言えるだろう。

 ただ、致命的に性質が向いてなかっただけで。


「次は一応、私が」


 ドラ子に続いて控えめに手を挙げたのは、カワセミだった。


「魔王城に来たのは、多分五回くらいですね。メインは支援系のエンハンサーランクAでレベルは26。他にランクBが白魔導士と、吟遊詩人、それに……」

「それに?」


 カワセミが言いよどんだところで、メガネは特に意識せずに続きを促した。

 カワセミは少し顔を赤くしながら、ぼそりと続ける。


「……夜の踊り子、です」

「…………ごめん」


 恥ずかしがりながら俯くカワセミに、メガネはばつが悪そうに謝った。何故だか鳥の巣頭も落ち着かない様子で視線を彷徨わせている。

 その様子を見たドラ子は、こそりと白騎士に尋ねた。


「白騎士ちゃん。夜の踊り子ってなんなの?」

「基本的には、踊り子と一緒でダンスや歌で支援するタイプの後衛職ですよ。ただ……」

「ただ?」

「……装備がその、なんというか扇情的な意匠でして。転じて、夜の踊り子のランクが高い人はその、え、えっちな人だとかいう噂がありまして」

「なるほど」


 説明していた白騎士も、途中でちょっと恥ずかしくなっていた。

 それを聞いたドラ子は、カワセミとメガネの間にさっと割込み、カワセミを庇うようにしながら言った。


「先輩、セクハラですよ。見損ないました」

「しょうがないだろ!」


 不可抗力ではあった。

 とはいえ、言いにくそうにしていたのなら、踏み込まないという道もあった。その道を選ばなかったのはメガネである。

 つまり、メガネの思慮の浅さがセクハラを招いたのだ。


「き、気にしてませんから大丈夫です。だから、先輩もその、気にしないで、ください」

「お、おう」


 言葉とは裏腹にかなり気にしてそうなカワセミに、メガネもたじろいだまま返事をするしかできない。

 どことなく変な空気になって、カワセミがいたたまれなくなっていたところ。


「つ、次は僕の番だな!」


 そんな空気を壊すように、声を上げたのは鳥の巣頭こと『†ストームブリンガー†』であった。

 普段は彼に厳しいドラ子も、今ばかりは生暖かい目で彼の行動を見守っていた。


「魔王城には何度も来ている。メインは暗黒騎士レベル56、他にも闇魔導士、ソードダンサーもレベル20ほどはある」

「あ、サブジョブも解放してるんですね。それで、それらのランクは?」

「……うっ」


 白騎士も空気を変えようと鳥の巣頭の話に乗っかり、それとなく尋ねてしまった。

 今度は彼がまた言いにくそうにしたあと、ぼそりと言う。


「ランクはCだ……全部」

「あ……すみません」

「いや、いい」


 ランクCというのは、快適に遊べるという意味での最低ランクのようなものだ。

 だからランクCというのは、別に恥ずかしがることではない。選びたい職業がランクCだったのなら、喜んで良い程度の適性だ。

 だが、サブジョブ含めて全部Cというのは、結構見栄っ張りというか、意地っ張りというか、なんというかである。

 そういう認識が魔王城ユーザにはあるゆえの、なんとも言えない雰囲気だった。


「ランクAとかのジョブはなかったの?」


 そして、特に魔王城ユーザではないドラ子は、そんな空気を知る由もなく、当然の疑問として尋ねた。

 それに鳥の巣頭はぷいっとそっぽを向く。


「お、お前に教える義理はない!」

「ふーん」


 突き放すような態度に、ドラ子は内心で少し苛立った。

 そして隙があれば、面白い結果になりそうだから暴こうと心に決めた。


「それで先輩は?」


 その邪な思惑を悟られぬよう、ドラ子は努めて笑顔でメガネに話題を振った。

 メガネは特に何も思う事は無さそうに、淡々と答える。


「プライベートで魔王城に来たことはない。だから適性も何も知らない。以上だ」


 そう。メガネは仕事で魔王城に訪れたことは何度かあるにせよ、客として魔王城に来るのはこれが初めてであった。

 それを聞いたドラ子は、ここだ、と思った。


「え? 先輩この世界で生きて来て魔王城来た事無いってマジですか? なんで来たことないんですか? もしかして学生時代いじめられてて不登校だったりしました?」

「一回しか来てない奴が、どうしてマウントを取ろうと思うんだ?」

「一回だろうとここでは私が先輩ですよ?」


 ドラ子は歪んだ笑みを浮かべてメガネに言った。

 そして、半分仕事とはいえプライベートであるが故の優越に浸りながら続ける。


「まぁ、先輩がどうしてもって言うなら? 私が教えて上げてもいいですよ? ん?」

「レベル8の分際で……」

「んー? レベル0がなんか言ってます?」


 ドラ子はとても楽しそうだった。

 対照的に、メガネの額には青筋がこれでもかと迸っていた。


「わかりましたから! 大丈夫です!」


 これ以上空気が悪くなる前に、白騎士はそれぞれの紹介をまとめた。


「みなさんのメインジョブを考えると、アタッカー1にタンク兼アタッカー1、それに支援が1ですね。となると、ヒーラーとスカウトが欲しいですね」


 意外なことにバランスは悪くない。レベルのばらつきはあるが、役割もばらけている。


 ドラ子のジョブは良く分からないが、脳筋系のアタッカー。

 カワセミのエンハンサーは味方へのバフと、少しの攻撃や補助。

 ストブリンの暗黒騎士は、防御がやや低い代わりに攻撃も行えるタンク兼アタッカー。


 となれば、あとは斥候と回復役が居ればパーティは回る。

 レベル差に関しては、まぁ、少し気を使ってドラ子あたりにレベルを合わせれば良いだろう。

 レベルを均す機能も、魔王城には当然のように備わっている。


「メガネ先輩には、できればヒーラーかスカウト系の何かの適性があって欲しいですね」


 パーティのバランスを考えた白騎士が、何気なく提案すれば、メガネは「そうだな」と軽く頷いた。


「白騎士の職はなんだ? そっちに合わせてこっちは基本職のヒーラーかスカウトにするぞ」


 メガネのそれは、バランスを考えればありがたい申し出であった。

 だが、白騎士にとってはちょっと驚きの提案でもある。


「え? でも基本職ってあんまり楽しくないですよ!? やっぱり自分らしいジョブを選んで遊ぶのが魔王城の醍醐味ですし!」

「今日は良いよ。俺は仕事のつもりで来てるし」

「……あ、はい、先輩がそう言うなら……」


 仕事の先輩にそう言われてしまっては、白騎士としても引き下がるしかなかった。

 ただ、魔王城の魅力を全力で伝えようとしてた白騎士にとっては、少しだけ寂しい展開ではあったのだろう。

 少しだけ、意気消沈している様が、彼女とそれなりに接する機会が多いドラ子には分かった。

 だから、それを見かねたドラ子は、少しだけメガネを刺す。


「先輩。だったら、次にプライベートで来たときは、ちゃんと楽しむんですよね?」


 ドラ子は、先程メガネを煽っていたときとは別種の、まっすぐに先輩を責めるような目で睨んだ。

 メガネはその顔に、少しだけ驚いた表情を見せ、諦めたように小さく息を吐いた。


「ああ。今度はちゃんと遊びに来よう。それで良いか白騎士?」

「……はい!」


 今日は仕事だが、次はちゃんと遊びに来る。

 そんな口だけの約束でも、白騎士は嬉しそうに言った。

 普段の仕事中には見せない、自然体の笑みがそこにはあった。









「ついでに、白騎士ちゃんのジョブとかレベルは?」


「私ですか? とりあえずメインは聖導術士のレベル76、騎戦騎士レベル72、虎獣人(雷)レベル69で全部ランクAです。他にランクC以上でアタッカー2種、タンク2種、ヒーラー3種、支援系4種とスカウト1種をレベル40前後に、あとその他系や、他の戦闘系を二十以上はレベル20程度まで上げておりまして、その他に──」


「もう良いから! もう分かったから!」






『迂闊に魔王城ガチ勢にジョブを尋ねてはいけない』


 ネットでまことしやかに噂されている真相を、思い知ったドラ子であった。


まだ魔王城に入れなかった……


次の更新なんですが、少し忙しい予定があって遅れるかもしれません。

可能なら体感日曜日に、ダメだった場合はすみませんが体感水曜日に更新になりそうです。

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