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総合ダンジョン管理術式『Solomon』保守サポート窓口 〜ミミックは家具だって言ってんだろ! マニュアル読め!〜  作者: score


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48 内部依頼『イベントの処理がおかしい』1



「どっか遊び行きたいなぁ」


 麗らかな、というには幾分太陽が張り切りすぎている夏の日。

 日々積もっては少しずつ切り崩していくお問い合わせの山から目を背け、ビルが立ち並ぶ窓をぼんやり見つめながら、角の生えた少女が言った。

 そんな後輩の言葉を聞いているのかいないのか、そもそも話しかけられたのかも微妙な場面ではあるが、メガネの男性は淡々と返す。


「行ってくればいいじゃん」

「違う、そうじゃないです」


 先輩の気のない返事に、ちっちと喉を鳴らしてドラ子は言う。


「可愛い後輩が『どこか遊びに行きたいなぁ(はぁと)』って言ったら『よし、行こう』ってどこか連れて行ってくれるのが、出来る先輩だと思いませんか?」

「可愛い後輩ならな」

「表に出ましょうか先輩」

「良いから仕事しろ」


 と、午後のだるい雰囲気ゆえか、やや絡み調子である後輩を軽くあしらいながら、メガネはまた一つ、自分に積もったチケットを片付けていく。

 そんな時、ドラ子の前フリのおかげで、ふと思い出したことがあった。

 それは、ある意味『遊び』が関わる仕事の話であった。


「ドラ子。お前魔王城は好きか?」


 質問がかなりざっくりしていて、流石にドラ子も即答はできなかった。


「どの魔王城ですか?」

「あの魔王城」

「だからどれっすか……」


 この宇宙にたった一つしか魔王城がないのなら、あの魔王城でも話は通じる。

 だが、普段からチケットを通して神だの魔王だのと呼ばれるようなのを相手にしている以上、天空の城だの魔王城だのもその数だけあっておかしくない。

 そんな魔王城群雄割拠の時代で、あの魔王城と言われただけで何故ピンと来ると思うのか。

 例えるなら、あのカップラーメン買って来てと言われても、どれだか分からないのと同じであった。

 と、ドラ子が思っているところで、そんなドラ子の感想とは裏腹な、テンション高めの声が二人の会話に割って入った。


「魔王城ってあの魔王城ですか!?」


 そのテンション高めの人物は、夏の暑い時期にも関わらず、不快感など微塵も表情に出さないことで、謎に噂されている白騎士(仮)であった。

 彼女は相変わらず遠慮がちに淹れて来たコーヒーを片手に、ぐいぐいと話に入る。


「どうしたんですか? 魔王城に遊びに行くんですか?」

「いや、そういうわけではなくてだな……」

「……あ、そうなんですね」


 いきなりの調子に、メガネも上手い返しができずに否定の言葉を返す。

 途端、落ち込む白騎士。

 そんな後輩の顔を見たメガネも、うっと言葉に詰まった様子で、思わず言う。


「……遊びにいくか?」


 白騎士は、その誘いにパァッと顔を輝かせた。


「本当ですか!!」

「おいこらメガネェ!!」


 その隣。自分が遊びに行きたいなぁ、と言った時とは正反対の態度に、思わず声が出るドラ子であった。

 とはいえ、白騎士の話しぶりから、ドラ子もようやく先輩の言っている魔王城がどの魔王城なのか見当がついたのだった。


「先輩。魔王城ってあの魔王城ですか」

「だからそう言ってるだろ」

「分かんないっすよ。いきなり言われても」


 今話題に出ている魔王城は、この世界の人間なら、まぁほぼ全ての人間が名前は知っている魔王城なのであった。




 魔王城──それは、この世界で最も有名なダンジョン。

 より正確に言うなら、超大規模なアミューズメント施設複合型ダンジョン。

 そして、有り体に言えば、ダンジョンの技術を用いた『遊園地』であった。


 魔王城が開設したのはドラ子が生まれるよりも随分と前のはずだ。

 もともとのコンセプトは、遥か昔にあった『勇者と魔王』の伝説を体験できるダンジョンというもので、体感型のゲーム施設みたいなものだろうか。


 この世界は、随分と昔は結構ガチ目な剣と魔法の世界であった。

 言い換えれば魔王と勇者の時代であった。

 だが、時は流れるものだ。

 今でも剣や魔法は存在するが、そんなもんでバチバチやってたのは何代も遡るご先祖様の話で、もっぱらそれらの技術は社会を回す歯車となって久しい。


 今はもはや、個人の武力などどうでもいい時代なのだ。

 そんなことは小学生でも理解しているし、剣や魔法で世界征服しようなんて真面目に考える人間はまずいない。


 だけど、こう、本能的にあるのだ。

 中等部の二年生くらいになると、無性に自らの血筋に眠る力を解放させたくなる衝動が。

 もちろん、自分の秘められた力を期待して、血筋を親や祖父母に聞いたところで、自分が取り立てて特徴のない雑種であるという現実を突きつけられることが大半だ。

 だが、雑種というからには、薄らとおとぎ話の勇者や魔王の血が眠っている可能性もゼロではない。

 というか、自分には眠っているに違いない。自分は特別な人間だ。

 そう願わずにはいられない、どうしようもない疼きがあるのだ。



 それを本格的に追体験したかった誰かが、この現実世界で魔王と勇者の物語を全力で遂行するために作ったのが、魔王城である。



 このダンジョンはかなり特殊で、自身の能力ではなく自身の『潜在能力』によって、初期のステータスや選べるジョブが変わる。

 そして、魔王城を攻略するためのステータスを決定したら、入場料を払っていざダンジョンへとなる。

 魔王城は大きな城下町と魔王城を中心に、数々のダンジョンやお店が集った複合ダンジョンだ。

 大まかな目的は各ダンジョンで魔物を倒し、ステータスを上げて、魔王城の最深部で待っている魔王を倒すことだ。

 魔王城そのものはかなり難易度が高いダンジョンとなっていて、入城者は自分にあったダンジョンを選択しながら少しずつ攻略していくことになる。


 時には友人達とパーティを組み、時には酒場で意気投合した他人と高難度ダンジョンに潜り、時には趣向をこらされたトラップを搔い潜り伝説の装備を手に入れ、そして散々遊んだら自身の一日の成長を『冒険の書』に記載し、現実世界に帰還する。

 そして現実世界で疲れた人間は、再び自分が主人公となる世界を求めて魔王城に『戻ってくる』のだ。


 やっていることはMMORPGなんかと大差はないが、自分の本当の姿はこの魔王城での姿なのだ、と心の中で信じている重度の魔王城ユーザーも少なくないとか。




「かくいう私も年パスで通ってまして自慢じゃないですけどもう三回は魔王城攻略まで成功してるんですよもちろん新しいダンジョンや季節イベントは一通り回りますしパレードは何回見ても飽きないんですよね美味しい料理や効率的なダンジョン回しのルート構築も任せてください行くんなら絶対にみなさんを楽しませる自信がありますよ」


「白騎士、ステイ、ステイ」


 そしてつらつらと魔王城の魅力というか、自分がいかに魔王城というダンジョンを好きなのかをプレゼンし始めた白騎士を、なんとか宥めるメガネであった。

 ダンジョンが好きでこの会社に入ったことは知っていたが、特に熱心な魔王城ファンであったのは知らなかった。


「はっ、すみません、私一方的に喋ってしまって」

「いや、大丈夫だ。安易に誘った俺が悪かった」

「そんなことないです! それでいつ行きます!?」

「落ち着け」


 このまま行くと、白騎士のセールストークだけで業務が終了しそうであった。

 メガネとしても、世間でそれなりに魔王城が人気であることは知っていたが、ここまでグイグイ来られると対応に困る。

 果たして、白騎士とほぼ同世代のドラ子はというと、対照的にやや冷めた様子であった。


「魔王城すかぁ。いや、遠足で一回行きましたけど、私なんか火力系のジョブしか選べなかったんですよねぇ」

「イメージ通りじゃん」

「私の知的なイメージを汲んで欲しいです」

「……お、おう」


 ドラ子はあれだろう。

 雑種とは正反対の血筋だから、ご先祖様に変に憧れることもない。

 そもそも、種族的にぶっちぎりで強いから、強さに憧れることもない。

 魔王城のコンセプトから見れば、最も外れた人間である。


「大丈夫ですよ! そんなドラ子さんでも楽しませる自信があります!」

「えー」

「ドラ子さんは何か興味があるダンジョン無いですか!? 案内しますよ!」

「うーん」


 ドラ子があまり乗り気じゃないと見たか、白騎士はずいっとドラ子に顔を寄せ、キラキラとした瞳で魔王城へドラ子を誘う。

 普段は礼儀正しい同期の姿に少し引き気味のドラ子であるが、ぽん、と何か思いついた顔で言った。


「あ、あれは見てみたい。付き合い立てのカップルが魔王城に行ってパーティを組み、即破局するっていうお約束の場面」

「それは魔王城の見世物じゃねえよ」


 確かに魔王城名物ではあるが、決して魔王城が提供しているアミューズメント的な何かではない。


「それでしたら、良く見るのは氷雪平原とか、炎華山とか、キングコングジャングルとか、気候的に片方が種族的に快適でも、もう片方が不快なダンジョンに多いかもですね」

「ほほう」

「そんなん真面目に案内するのもやめろ」


 少し興味を持ったドラ子ともども、馬鹿な目的で遊びに行きそうになるのを押しとどめ、メガネはため息を吐いた。


「とりあえず、その魔王城に関連して一つ、思い出したチケットがあるんだ」


 そう言うと、ドラ子と白騎士はそろってきょとんとした顔をする。


「先輩。なんか今、魔王城からのお問い合わせがウチに来てる、みたいな趣旨のこと言いませんでしたか?」

「言ったぞ」

「またまたぁ」


 ドラ子はメガネの言葉を冗談だと思って笑う。


「魔王城ってこの世界最大規模の超人気ダンジョンですよ? それもめちゃくちゃ昔から営業してる。そんなダンジョンにうちのSolomonが使われてるわけないじゃないっすか。どんだけクソみたいな不具合埋まってると思ってるんですか」


「Solomon使ってるぞ」


「……またまたぁ」


 ここまで言っても信じようとしないドラ子に、メガネは論より証拠と一件のメールを見せる。

 それは本来の保守サポート窓口とは別口で寄せられたもので、その件名にはこうあった。



『【内部依頼】《☆魔王城》──イベントの処理がおかしい』




「もう一度言うぞ。魔王城はSolomon製ダンジョンだ」


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