41 お問い合わせ『ワープする床を設置したいです』
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件名:ワープする床を設置したいです
差出人:異世界66 契約番号57 末裔の末裔
製品情報:Solomon Ver18.2.2
お問い合わせ番号:20023010016
本文:
いつもお世話になっております。
この度は『Solomon』の機能についていくつか確認したく、お問い合わせさせていただきました。
先日、長年に渡る冒険者様達のご愛顧により、当世界の最高難度ダンジョンがついに完全攻略される運びとなりました。
そちらを記念して、かねてより計画していたダンジョンの改装と改築を実施し、ダンジョンの様々な要素のリニューアルを考えています。
ただ、現状では当ダンジョンは限界まで空間拡張を行っており、これ以上ダンジョンを広げることが困難な状況です。
そこで、地続きではなく遠隔地に新たなダンジョンを作り、既存のダンジョンと新規ダンジョンをワープ床や転送装置などで繋ぐ事を考えているのですが、Solomonにそういった機能はございますでしょうか?
もしそういった機能がないのであれば、空間拡張以外の方法で、今以上にダンジョンを大きくすることは可能でしょうか?
ご教示頂きたく存じます。
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「ちょっと面倒だな」
新しく窓口に届いたお問い合わせを見ながら、メガネの青年が呟いた。
隣のデスクにいる赤髪の少女は、そんな先輩の言葉を不思議に思う。
「そんな面倒なことありますか? 思うに簡単なチケットに見えますけど」
「まあ、簡単に答えるなら簡単なチケットではある」
「?」
禅問答でも始まったのかと思い、ドラ子は今一度お問い合わせを見直した。
前半に色々と言っているが、その辺りは回答の際にはノイズとして処理すればいい。
重要なのは二点。
ワープや転送装置で遠隔地のダンジョンを繋げる事はできるか、と、できないなら空間拡張以外の方法で拡張することができるか、だ。
「お問い合わせ1は『できる』、お問い合わせ2は『できない』で終わりですよね?」
ドラ子は自身の頭にあるSolomonの機能を呼び起こしながら回答を考える。
まず、前者は簡単だ。
Solomonには、ワープ床や転送装置を扱えるようになるサブスクリプションが二種類ある。
一つは『未来都市オプション』で、もう一つは『超古代文明オプション』だ。
どちらも、ファンタジーな世界観ではどうあがいても『無理』となる、機械や高度な魔法を使って、どうしても難解なダンジョンを作りたいというダンジョンマスターのためのオプションとなる。
前者は科学的なアプローチで、後者は魔法的なアプローチで、その世界の文明レベルでは扱えないような高度な事象を引き起こすことができる。
なお、世界観的に超古代に発展していた文明が科学文明だったとしても、Solomonのオプションでは『未来都市オプション』を使ってもらうことになるので注意が必要だ。(間違えたお客様からのお問い合わせが、それなりにある)
今回のお問い合わせなら、その二つのオプションのいずれかを導入し、それぞれ、転送の魔法や転送の機械を設置すれば、異なる座標に冒険者を飛ばすことができる。
それで飛び地に作った拡張ダンジョンを、大きなダンジョンの一部として扱うことができるだろう。
ついでに、ダンジョンのボス部屋から地上に戻る機能だけはデフォルトで付けられたりするが、それは深く考えてはいけない。
反対に、後者については、これはもうきっぱりと無理だ。
Solomonはダンジョンを作る際に、その元になる土地を空間拡張する機能がデフォルトで備わっている。
そしてそれは、ダンジョンマスター側で弄ることのできない値だ。
元々想定していたダンジョン建設予定の土地を読み込ませれば、その土地を最大まで拡張した場合の空間が『ダンジョン生成可能領域』として認識されて、その空間内にダンジョンを設計してもらうのが、基本的なSolomonによるダンジョン作成の流れである。
顧客が『限界まで拡張している』と言うのならば、それをどうすることもできないのだ。
そして、空間拡張以外の方法で、ダンジョンを大きくすることは現実的にできない。
時空魔法を越える何か画期的な術式でも開発されたら、分からないが。
「ってなると思うんですけど」
流石のドラ子としても、このくらいの製品知識は身につけたので、この説明に関しては間違っていないと自負している。
のだが、メガネの後輩を見る目は、少しだけ冷ややかだった。
「だいたい考えていることは分かるが、お前の回答はやや甘い」
「むう」
一体どこに間違いがあるのか、と視線で問えば、メガネの先輩はさらにややこしいことを言う。
「今回のお問い合わせに限って言えば、お問い合わせ1は『できるができない』で、お問い合わせ2は『できないができる』だ」
「あの、先輩?」
「何を言っているのか分からないと思うが、そう言うしかないんだよ」
やはり禅問答なのだろうか、とドラ子が訝しむのを尻目に、まずメガネはドラ子の知識不足を指摘した。
「最初にお問い合わせ1だが、これは『未来都市オプション』や『超古代文明オプション』を導入すれば可能だな」
「ですよね、だから──」
「ただし、その二つのオプションが追加されたのはVer19からだ。Ver18.2.2には入れる事ができない」
「あ」
言われて、ドラ子はそのオプションに条件があるのを思い出した。
Solomonは、たとえ目に見える不具合が全く減らないとしても──それどころかVerを重ねるごとに増えて行くとしても──一応は日々進歩している術式である。
それは初代にはなかった機能を、Verを重ねるごとに追加して行っているということでもある。
当然、過去のVerには存在しない機能もあり、それはサブスクリプションも例外ではない。
Ver18.2.2には、新たに『未来都市オプション』と『超古代文明オプション』をインストールすることができないのだ。
(なお、過去のVerのサポートが終了したことにより使えなくなった機能もあるが、これはまた別の話だ)
「だから、今回の場合は『Solomonにはそれを可能とする機能がありますが、あなたのVerでは使えないので、導入するならバージョンアップしてくれ』という回答になる」
「うーん、ちょっと面倒ですね」
「こっちはまだ良いんだよ。問題は次だ」
次、ということは、空間拡張に関するお問い合わせである。
だが、そちらに関してもドラ子としては自信があった。
実際に、過去に似たようなお問い合わせを何件かこなしているので、これ以上拡張することはできない、というのは既定路線で合っている筈だ。
「実際にダンジョンを拡張することはできない、というのは正しい。だが、ダンジョンを大きくする事は、可能だ」
「先輩さっきから、私の頭を混乱させるために言ってます?」
「そういうんじゃなくて、通称『迷いの森』機能を使えば、見せかけだけど大きくすることはできるんだよ」
「なるほど?」
迷いの森、という新しい単語に、ドラ子の思考も出口の見えない森の中を彷徨いだしたところであった。
オプション開発時の会議:
開発者A「これ『科学文明オプション』と『魔術文明オプション』でよくない?」
開発者B「いや『未来都市オプション』と『超古代文明オプション』の方がかっこいい」
開発者A「いやいや、だってわかりにくいでしょ。わかりやすいほうがいいって」
開発者B「かっこいいほうがいい」
開発者A「……まあ、そこまで言うなら」




