表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
総合ダンジョン管理術式『Solomon』保守サポート窓口 〜ミミックは家具だって言ってんだろ! マニュアル読め!〜  作者: score


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/261

39 お問い合わせ『ダンジョンが水没しました』



「今日も平和ですね」


 夏の陽射しも否応無しに増す今日この頃。

 夏休みという言葉がどこか遠い響きになるのを肌で感じつつ、白騎士(仮)は自分にアサインされたチケットをまた一つ片付けた。

 まだ分からないチケットも多々あるが、簡単なチケットなら一人で処理できると自負するほどになっていた。

 その仕事ぶりは、ゴーレム部長をして『ゴブリン君の回答より信頼できる』と、褒めているのか貶しているのか分からない感想を述べていたほどだ。

 忙しいという感想は抱くが、危機を感じるほどではない。

 新人ゆえに簡単な仕事を回されているからという理由はあるが、今の仕事に少しずつやりがいを感じ初めているのも自覚があった。


「白騎士ちゃーん!」


 ふと白騎士の意識の外から声がかかった。

 自分のことをちゃん付けで呼ぶような女性は、この保守サポート部には一人しかいない。


「どうしたんですかドラ子さん」

「いやー、ちょっと助けて欲しくって」


 ドラ子と呼ばれた、赤い髪に角の生えた美少女が、少しばつが悪そうに切り出す。

 だが、助けてと言われても白騎士に心当たりがない。


「助けるのは構いませんが、私で力になれますか? お問い合わせについてなら、メガネ先輩に聞いた方が」

「あはは、いやー、そのう」


 ドラ子の教育係は依然メガネであれば、そういった相談もメガネにするのが自然な流れだ。

 しかし、ドラ子は更にばつが悪そうに、ぼそりと言う。


「あんまり、来るチケット全部尋ねてたら『このくらい自分で考えろ!』と怒られまして」

「…………」


 それは、自分に尋ねて来ても良いのだろうか?

 白騎士はそう思ったが、それと時を同じくして、メガネからのDMも届いた。


 ──────


 メガネ:簡易なチケットだから放っておいていい


 メガネ:だが、時間があるなら面倒を見てやっても良い


 メガネ:白騎士もハマりそうな『落とし穴』だ


 ──────


 こちらの返事を待たないぶっきらぼうなメッセージであったが、一応、自分が協力することに問題はないようだ。


「わかりました。微力ながら力になります」


 先輩が言っている『落とし穴』の存在もきにかかり、白騎士(仮)はドラ子の対応しているチケットに協力することに決めた。






 ──────


 件名:ダンジョンが水没しました

 差出人:異世界110 契約番号025 ゴールド埋蔵金マン

 製品情報:Solomon Ver25.2.2

 お問い合わせ番号:20023010011


 本文:

 実家の土地を譲り受けて、実家にある洞穴に地下ダンジョンを作ったら水没しました。

 原因を教えて下さい。


 ──────


「簡潔ですね」


 お問い合わせは短く、それだけであった。

 ここから拾える情報は、実家の土地とやらで作ったダンジョンが水没したということだけだ。

 しかし、当然ながら保守サポート部はエスパー集団ではない。

 たったこれだけの情報で、お問い合わせ先のダンジョンが水没した理由が分かる訳が無い。

 それはドラ子はもちろんのこと、メガネ先輩も同様で、このチケット対応では、何らかの回答の後に継続のお問い合わせが続いているようだった。


「これでどういった回答を?」

「とりあえず、良くある原因のFAQを案内して、そうじゃないなら情報くださいって」

「そうなりますよね」


 ドラ子の回答は、保守サポート部として特に問題があるものではなかった。


 ダンジョンが水没した、というお問い合わせは実はそう珍しいものではない。

 その原因は大きく二つに分けられる。


 一つは、海とか湖とか川の中とか、そういう『水で満たされた場所』にダンジョンを作った場合だ。

 はっきり言えば、原因が分からない方がおかしいが、たまにこういうお問い合わせは来る。

 基本的にSolomonはダンジョン運営管理を担っているだけで、ダンジョンを作る場所を隔離するような機能はない。

 海の中にダンジョンを作っておいて『ダンジョンの中は空気ができると思っていた』とか言われても困るのだ。

 ダンジョン内の環境は、基本的にダンジョンを作った周囲の環境に依存する。

 水の中にダンジョンを作れば、ダンジョンが水没するのは当たり前である。


 それが嫌だと言うのなら、サブスクリプションの一つである『水中オプション』を導入してもらう必要がある。

 そちらであれば、海中に都市を建設しておきながら、その中では自然に空気を生み出すくらいの設定は可能である。


「でも、実家の土地って言うくらいだから、海とか湖とかにダンジョンを作ったとは考えにくいですよね」


 独り言のような白騎士の独白に、ドラ子も無言で頷いた。

 実家の規模にもよるが、流石に海や湖を含む土地をそうそう譲り受けることはないだろう。

 となると、水没理由としてはもう一つの可能性が高くなる。


 ダンジョンが水没する理由で最も多いのは『地下に水の流れを作ったが終点を正しく設定しなかった』というものだ。

 これは地下ダンジョンに何も考えずに川とか地底湖とかを作った場合に発生しやすい問題だ。


 Solomonではダンジョン内の地形を作る上で、川や地底湖を作る機能は搭載されている。

 だが、そもそも空間を拡張して作るのが常であるため、その川や地底湖を作る為には、ダンジョンの機能で『水を生み出して』それを『流す、溜める』のが一般的だ。

 だからダンジョン初心者は、インテリア感覚で安易に川や湖を作ってダンジョンを水没させるのだ。


 そう──『水を生み出す』のなら『最終的な水の行き先』も正しく設定してあげないと、水は溜まるばかりなのだ。


 ありがちなのは、ダンジョンをぶち抜くように川を設定し、その水の湧き出す地点を決めただけで満足してしまうこと。

 そうなると、川の終点になっている地点から先の行き先がなくなって、その場に水がどんどんと溜まって行ってしまう。

 そして最終的には水を生み出す機能だけが生き続けて、ダンジョン全てが水に満たされるのだ。


 これは、自然に地底湖などを持って生まれたわけではないSolomon製の人工ダンジョンならではの問題と言えるだろう。


 Solomonではその対処として川の終点で水を消去したり、始点まで循環転送する設定を推奨していたりするのだが、相変わらず顧客はマニュアルを読まないし、コンソール上の注意も読み飛ばすことが多いので問題は尽きない。

 そもそも、Solomonを普通に使っていると、運用上は問題なくても『道が狭過ぎる危険性』とか『設定した値が小さ過ぎる危険性』とかそういった警告がいくらでも出る。

 そんな中に混じって『水源の終点の設定がされていない』とか出ていても、特に気にする事無く読み飛ばされるのが常である。


「でも、今回は終点の設定も正しくされている……」


 そこまでがテンプレの回答であるのだが、今回は更に事情が異なるようだ。

 ドラ子の回答では、それらの問題点は解決しているにも関わらず、水没するという問題が発生しているなら情報を寄越せと言っている。

 そして、それが継続した。

 貰ったという情報を解凍して、水源の設定を確認してみると確かに問題がない。


 このお客様は、珍しくもSolomonのコンソール上で出てくる警告を読み飛ばさず、地底を流れる川の終点である地底湖に、ちゃんと水が逃げて行く設定をしたのだ。

 にもかかわらず、ダンジョンのより深部のほうが何故か水没してしまっているのである。

 これは、場合によってはSolomonの何らかの不具合を疑うような、重大な問題が発生している可能性だって、あるのではないだろうか。


 白騎士が考えることは当然ドラ子も考える。

 だからこそ、ドラ子はメガネに助けを求めたが、メガネは貰った情報をざっと確認した後に言ったという。


「先輩、鼻で笑ったあとに『クソ簡易チケット』って一蹴したんですよ……」


 ドラ子は眉をへの字にして困り果てた様子であった。

 白騎士も、現段階では原因が全く分からずに、ドラ子と同じような顔を浮かべてしまいたい気分だった。


「でも、メガネ先輩が言うなら本当に簡単なはずですよね」

「それはそうだと思うけど、だって鬼畜メガネだし、単に可愛い後輩を無駄に苦しめたいだけの可能性も」

「いやいや、穿ち過ぎですよ」


 さらりと自分を可愛い後輩と自称したドラ子を流しつつも、白騎士はもう一度、お客様から頂いた情報を見る。


 各種ログファイル。

 Solomonの設定情報。

 事象が発生した際の条件等もろもろ。


「ひとまず、私達でもう一度、情報を整理してみましょう。大丈夫です。先輩が簡易チケットと言うなら、きっと私達でも見つかる問題があるんです」

「白騎士ちゃん……!」

「私も今は少し余裕がありますから、頑張りましょう!」


 白騎士はドラ子を励ましつつ、これからやるべき事を整理した。

 まずは設定情報をもう一度見直し、顧客の設定と同じ条件の検証環境を作るべきだろう。

 それで状況が再現されるなら問題を探し、されないなら、ログファイルの見直し。

 メインログとエラーログを入念に確認して、再度不具合の可能性を当たる。


「きっと、解決してみせます!」


 決意を新たに、ドラ子と白騎士の共同戦線は始まった。



 ──四時間後。



「……何も、問題がない……」


 白騎士とドラ子は頭を抱えていた。

 顧客に貰った設定情報を使ってダンジョンを作成しても、当然水没するようなことはない。

 何か設定が違っているのかとやり直しても、問題は発生しない。

 さりとて、システムログやエラーログを見ても何も見つからない。

 水浸しになってますよ、という報告はあれど、なぜ水浸しになっているのかの原因については何も吐いていない。

 不思議なことと言えば、そう。


 普通、ダンジョンが水没するときはダンジョンがまるまる全部水没するのが普通なのに、今回の事象では下の階層だけが水没していることくらいだ。


「うう、どうして……くっ」


 白騎士は、思わず泣き言を言いたくなる自分を自覚して、唇を引き締めた。

 最近、色々なチケットを対応して、自分が出来るようになったと調子にのっていた。

 だけど、現状はどうだろうか。

 メガネ先輩があっさりと簡易チケットと見なしたお問い合わせに、まるで歯が立たないではないか。

 そんな沈んだ気持ちで居たから、声をかけられるまで彼女は気付かなかった。



「見る場所が違う」

「ふぇ!?」



 いつの間にか、項垂れていた自分の隣にメガネ先輩が立っていた。

 先輩の突然の登場にドギマギしている白騎士を尻目に、メガネの青年は再度言う。


「見る場所が違うんだよ。今回のヒントは相手が漏らした『実家にある洞穴』って単語。そこをもっと意識するべきだった」

「へ? でも、ただの洞穴……ですよね?」

「実家の規模にもよるが、海や川なんかが実家の土地であることが少ないように、山や谷なんかが実家の土地であることも少ない。じゃあ『実家にある洞穴』ってなんだよ。そう最初に疑問に思うべきなんだ」


 それだけ言って、メガネ先輩は白騎士が開いていた各種情報の中から一つのログファイルを指差した。


「答えはこれだ」


 それだけ言って、後は任せたとばかりに去って行く。

 白騎士(仮)は、メガネの先輩が指差した『Solomonインストールログ』を開き、それをつらつらと眺めていって。

 そして『そこに書かれていた情報』を見た瞬間脱力した。



「クソ簡易チケット……」



 がくりと肩を落としたあと、白騎士は大きく深呼吸をして、ダンジョンの検証環境を作成しながら「ああでもないこうでもない」と唸っている筈のドラ子に、DMを送るのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ