27 ふれあい研修! Solomonモンスター牧場! 5
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Q.『ゴ』から始まって『ン』で終わるモンスターと言えば?
A.『ゴライアスゴールドアントリオン』(巨大金色蟻地獄)
Q.『コ』から始まって『ト』で終わるモンスターと言えば?
A.『コキュートスエレメント』(絶対零度悪精)
Q.『オ』から始まって『ク』で終わるモンスターと言えば?
A.『オケアノスデッドリーシャーク』(水神死鮫)
Q.…………『フ』から始まって『ル』で終わるモンスターと言えば?
A.『フロストジェノサイドドラグワームwithドリル』(霜の破壊竜蚯蚓withドリル)
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触れ合い研修の半ばにて、骨無しペンギンの常識チェックが行われた。
ドラ子達の班だけ悲鳴の色合いが違うことに気付いたモチモチが、少しだけ担当を他に任せてやってきたのだ。
「てめえふざけてんのかぁ!!」
「痛い痛い痛いモッチーギブギブ!」
「withドリルが良かったらもうなんでもアリだろうがボケェ!!」
「痛い痛い! 出る! 出ちゃう! 第二形態出ちゃう!」
そして、チェックを行ったモチモチは、骨無しペンギンに関節技をかけていた。
その様子をドラ子達はぼんやりと観察している。
「そもそもそんな奴マニュアルに入ってねえ!」
「入ってるよ! Q&Aマニュアルにねじ込んだよ!」
「んなもん知るかボケ! てめえの私情でマニュアル変えてんじゃねえ!」
「理不尽!」
ドラ子がそっとマニュアルを思い返すと、確かモンスター召喚に関する簡単なQ&Aはあったはずだった。
基本的にSolomonを用いたダンジョン経営に関しては、この会社があれこれと口を出すことはない。
どのようなモンスターを召喚するのかはSolomonのユーザが自由に判断することだ。
だが、特にダンジョン経営初心者であれば、自分の求めるダンジョンにどういったモンスターを配置するべきか分からず、情報を欲するものだ。
事実、保守サポート部に届くお問い合わせのうち、少なくない数が状況に合ったモンスターに関する質問だったりする。
陸上生活を基本としつつ、水中での行動も可能なモンスターは何か、とか。
荒野環境のダンジョンで冒険者に食用可能なモンスターは何か、とか。
肉食モンスターと草食モンスターの組み合わせで、捕食行動が発生しない組み合わせは何か、とか。
そういったお問い合わせのうち、良くある質問に関してはQ&Aマニュアルに予めページを作っておいて、そちらを見れば必要なモンスターが分かるようになっているのだ。
サポートマニュアルのQ&Aは、保守サポートに連絡する前にまず、一通りで良いから目を通して欲しい部分だったりする。
「……まぁ、顧客がマニュアルをちゃんと読んでくれるなら、保守サポート部の人員なんてきっと半分で良いんですけどね……」
「……言うなドラ子新人。それは言わない約束だ……」
ぼそっと呟いたドラ子の隣で、ゴブリンくんもまたぼそっと返した。
ついでに、フロストジェノサイドドラグワームwithドリルに関してはQ&Aマニュアルに以下のような記載で載っている。
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Q.モンスターにこちら側で用意したアイテムをドロップさせるにはどうすれば良いですか?
A.モンスター召喚機能の召喚設定より、付属アイテムの項目をチェックし、その付属アイテムに貴ダンジョンで用意したアイテムを設定してください。なお、どのモンスターにどのようなアイテムが設定可能かについては、ユーザマニュアルのモンスター召喚機能の項目に記載がございますのでご参照ください。
以下に、モンスターに付属アイテムを設定する際の例を記載します。
例1.フロストジェノサイドドラグワームにドリルを装備させる場合。
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いわゆるモンスターごとの追加ドロップの話だ。実体召喚、魔力形成の如何に関わらず、Solomonではモンスターがドロップするアイテムを設定することもできる。
この付属アイテムを説明しているQ&Aにて、画像でチェック項目とかの設定を解説しているところに、フロストジェノサイドドラグワームwithドリルが居るというわけだ。
単純にポーションとかを設定するなら大体どのモンスターでも可能なのだが、武器などの装備品については、モンスターに関連しているアイテムしか設定できない。
ユニークでもなんでもないただのウルフにミスリルの剣を設定させるのは、基本的に問題だというわけだ。
もちろん抜け穴というのはあって、カスタムモンスター召喚でただのウルフをユニーク扱いにすれば設定はできる。が、実際にウルフにそんなものを持たせるのは稀だろう。
その際に必要があれば、装備をドロップさせるだけでなく、実際にモンスターに武器を装備させることもまた可能。これで、フロストジェノサイドドラグワームwithドリルの完成である。
というかその設定がないと、アンデッドは全員素手になってしまう。
「そんなドマイナーなマニュアルの画像を根拠にしてんじゃねえ!」
「ドマイナーじゃないもん! ドリル落とすから人気モンスターだもん!」
「文明が発達してない世界にそもそもドリルをねじ込むなやぁ!」
モチモチとペンギンがやり合っているので、研修参加者達は手持ち無沙汰であった。
特にやる事もないので、ドラ子は思い出したようにカワセミに雑談を振る。
「そういえば、この前、保守サポート部でも装備武器に関するお問い合わせ来てました」
「あら、どんなの?」
「アンデッドの住まうダンジョンを作りたかったってお問い合わせなんですけど、なんでもアンデッドの装備を全部ピッカピカの新品にしたせいで、めちゃくちゃ怪しまれて誰も入ってこなかったらしいです」
「ああー」
ドラ子の話を聞いたカワセミが想像してみても、ちょっと怪しいどころではないダンジョンであった。
その話を聞き、カワセミもまた過去にあった保守サポートのお問い合わせを、と思ったところで、すかさず話しに入ってくる声があった。
「ふん、攻略サポートを利用しないからそういうことになるんだ」
ドラ子が鳥の巣頭と呼ぶ、攻略サポート部の男であった。
ほとんど初対面であるカワセミとの交流に割って入られたドラ子は、かなり不機嫌に男を睨む。
「盗み聞きしてくださってんじゃねえぞてめえ様ぁ?」
「き、聞こえるように言うのが悪いんだ!」
「ああ?」
盛大にメンチを切っているドラ子をまあまあと宥めながら、カワセミも苦笑混じりに男を擁護した。
「まぁ、確かに攻略サポートを利用してくれたら、問題点に気付けたかもしれないわね」
「…………あのぅ」
カワセミの返事を聞きつつ、ドラ子は実は少し気になっていたことを聞いた。
「カワセミ先輩。一つ聞いても良いでしょうか?」
「なぁに?」
「そもそも攻略サポート部ってどんな仕事してるんですか?」
それは、ドラ子のかねてからの疑問であった。
ドラ子は入社以来、保守サポート部にてそれはもう忙しく働いていた。
他部署の仕事はただでさえ分からないのに、そんな状況では輪をかけて情報が入ってこなかったというわけだ。
知っているのはSolomonのCMで、いくつかあるサポートの一つとして攻略サポートを売り出しているということだ。
「ふん! そんなことも知らないでよく保守サポートをこなせると思ったものだな!」
「…………一回絞めるか」
「!?」
それまでの威嚇の気配から、本格的に闘争の気配に変化したドラ子のオーラ。特に何をしているわけでもないのに、ドラ子の背後では超高熱による陽炎が揺らめいている。
明らかに、問題行動一歩手前であった。
なお、こういう状況を止めるために一緒に来た筈のゴブリンくんは、ドラ子に目を合わせないように、お隣のプロレスを必死で観戦していた。
「ド、ドラ子ちゃん。攻略サポート部っていうのは主に、お客様の要望に応える形で攻略を実際に行ってみる部署なの」
「はい。でもそれが実際にどういうことなのか良く分からなくて」
陽炎をゆらゆらさせながらも、話を始めたカワセミに耳を傾けるドラ子。
カワセミは人質を取られた状態で強盗と話し合う刑事のような気持ちで、冷や汗をかきながらも説明する。
「例を上げるとこういう感じになるわね」
そしてカワセミは攻略サポート部の仕事を簡単に説明した。
例えば、ダンジョンマスターが毒の沼地ダンジョンを作成したとしよう。
毒の状態異常を与えてくるモンスターに、継続ダメージの発生する空気や地面、魅力的な毒素材や、毒を中和する植物が生えたセーフゾーンなど、工夫を凝らして作成したものだ。
毒の対策をしっかりと行えば中級者パーティなら踏破できるが、対策を怠れば上級者パーティでも撃退できる、という想定だ。
だが、実際にその想定通りの出来映えになっているかは、作った本人には分からない。
そして、一度ダンジョンを開設してしまうと、仮に問題があったとしてもそれを解決するのは困難になる場合もある。
そんなときに利用するのが攻略サポートだ。
毒の沼地のダンジョンであれば、実際にいくつかのパーティを作ってみて、攻略できるかどうかを試してみるのだ。
例えば、能力を駆け出しくらいまで抑えたメンバーで、毒対策だけをとにかく万全にしてみたらどうなるか。
想定されているレベル通り、中級者で準備を適度に行ったらどうなるか。
全員が上級者だが、とにかく前衛だけを集めたような火力パーティだとどうなるか。
事前に与えるダンジョンの情報や、装備、アイテムなどもパーティごとに制限し、どんなレベルのパーティがどこまでダンジョンに入れて、どんな所に苦戦したり、逆にどんな所が楽勝だったかなどをフィードバックする。
初心者パーティだとどれだけ準備をしても、モンスターに勝てないので進めなかったとか。
中級者パーティでは消費アイテムが手に入るアイテムと割に合っていなかったとか。
上級者パーティだと毒の耐性もあって準備が無くても実は進めてしまったとか。
ダンジョンマスター側も、そういった情報があればダンジョンの再調整などを、取り返しが付かなくなる前に行えるようになる。
これが大まかな攻略サポート部の仕事である。
ダンジョンを攻略するサポートをするのではなく、ダンジョンが攻略されることのサポートをするのである。
「なんとなく理解できたかしら?」
「はい。確かにそれがあれば、お問い合わせのいくつかは事前になくなりそうです」
カワセミの話を聞いて、ドラ子はしきりにうんうんと頷いている。
話している途中で後ろの陽炎も落ち着き、場はなんとか平穏を取り戻していた。
「となると、カワセミ先輩が保守サポートから攻略サポートに移ったのは?」
「攻略サポートの欠員で、丁度私みたいな支援術師系のロールをこなせる人が不足していたらしくて……」
苦労の滲むカワセミの顔を見て、ドラ子はプレ新人歓迎会での攻略サポート部の様子を思い出す。
週三回もあるという飲み会とその騒ぎっぷり。
まるでファンタジー世界で話に聞くような、冒険者の集まりだ。
もちろん、実際に命をかけている冒険者達であれば、命懸けであるからこそ、そういった時にハメを外すこともあるだろう。
だが、なんとなく鳥の巣男の行動も考慮すると、こんな感想だった。
「ウェーイ系脳筋ばっかりっぽかったですもんね、そっち」
「本当に……い、いえ! そんなことはないのよ!」
うっかり本音を漏らしたあとに、カワセミは慌てて否定した。
その声は、丁度佳境に入ったプロレスの盛り上がりのおかげで、鳥の巣男には聞こえなかったようだった。
遅くなってしまいすみません。まだ寝てないので体感土曜日。
次もまた体感水曜日までには投稿する予定です。
脱字修正しました。報告して戴いてありがとうございます。




