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総合ダンジョン管理術式『Solomon』保守サポート窓口 〜ミミックは家具だって言ってんだろ! マニュアル読め!〜  作者: score


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24 ふれあい研修! Solomonモンスター牧場! 2


「みなさんは、Solomonのモンスター召喚機能の仕組みはご存知ですか!」


 バスに揺られること二時間ほど。

 辿り着いた場所は、広大な敷地面積を持つ牧場……とは少し違った。

 もちろん、目に見えるほど広大な草原なども所有しているようだが、Solomonの対応しているモンスターの種類を考えれば、どれだけ広大だろうと不足が生まれる。

 全種類のモンスターに適切な環境を揃えようと思えば、草原、森林、荒野、谷、山、洞窟、火山、雪山、海、空の浮き島などなど、とても会社一つではまかない切れない環境の土地が必要になる。

 それこそ、いくつもの大陸に股がって牧場支部を作らねばならないほど。


 だから、環境を作っているのは、恐らくSolomonだ。


 なるべく自然を取り入れた草原地帯を中心に術式を展開し、空間拡張と気候調整機能などを用いて、その時々でモンスターに最適な環境を設定するのだろう。


 場所があってモンスターを育てるのではない。

 モンスターを育てるために場所を作るのだ。


 そんな仮説の裏付けになるのかは不明だが、今、目の前に広がる草原には一体のモンスターの姿も見えない。

 代わりに見えるのはバス到着と同時に現れた、背の高い白衣を着た謎の女性である。

 彼女は牧場施設らしい小屋から一目散に飛び出して来て、ドラ子達を出迎えるや否や、歓迎の言葉もそこそこに冒頭の質問を放ったのだ。


「…………」

「おやおや、今回の参加者はどうやら恥ずかしがり屋みたいだなあ」


 ドラ子を含む参加者の全員がどう反応したものか戸惑っていると、謎の女性はふむふむと訳知り顔で頷く。

 ドラ子は思わず、近くに居るゴブリン君にアイコンタクトを取った。


(誰……?)

(知らない)


 疑問の答えは返って来なかった。

 研修参加者が状況をいまいち呑み込めずに居る中で、背の高い女性は適当に目についたらしい参加者の女性を指差した。


「さあ君! Solomonのモンスター召喚の仕組みは?」

「え? 私? えっと、あの、実体召喚と魔力形成、ですよね?」


 戸惑いながらも、参加者の女性は質問に答えた。

 それはSolomonのモンスター召喚における二つの基本的な形式だった。

 生物なまもののモンスターをそのまま召喚するのが実体召喚で、魔力をモンスターとして形成するのが魔力形成。

 どちらも一長一短があるが、どちらを取るかは各々のダンジョンに委ねられる。

 そんな返答に対して、謎の女性はうむうむと大きく頷いて、ニコッと笑顔を見せる。

 ほっ、と思わず安堵した女性に向かって、謎の女性は大きな声で言った。


「不正解!」


 そして、盛大に腕で×印を作った。


「それは! 仕様であって仕組みではない! 残念!」

「((じゃあなんで笑った?))」


 みんなの心の中の疑問は一つになった。

 だが、心の中なので女性がその問いに答えることはない。

 この場にいる全員が呆気に取られる中、謎の女性だけは楽しそうにグルグルと周囲を動き回っている。


「私が問いたいのは! たとえば実体召喚であれば、どのように『実体』を召喚しているのかというポイントだよ! その『実体』とはなんなのか! 君なりの素敵な答えを聞かせてくれたまえ!」

「え、いや、それを牧場で飼ってるんじゃ、ないかなぁ、と」

「んんー!」


 謎の女性は、再び返って来た答えに、うんうんと尚更盛大に頷き、ニコリと笑う。


「不! 正! 解!」

「((だからなんで不正解のときに笑うんだ……!))」


 みんなの心の中のツッコミは一つになった。

 だが、当然心の中なので謎の女性を止める力は特にない。


「君達も冷静に考えれば分かるだろう? Solomonを利用している世界は十や百ではきかない。であれば召喚されるモンスター数はそれこそ、桁が違う。モンスターを牧場で飼育して、必要に応じて召喚というのは、現実的ではない!」

「……はぁ」

「だからこそクエスチョン! では、どうやっているのでしょうか!」


 謎の女性のテンションは高かった。反比例するように参加者のテンションは低かった。

 まったく状況は理解できていないながら、参加者の心はまとまり一つになりつつある。

 つまり、皆がこう思っている。


 誰か、この状況を説明してくれ、と。


 そんな願いが通じたのか、女性が出て来たのと同じ小屋から、今度は白衣を来た眼付きの悪い女性が全力ダッシュで駆けてきた。

 ようやくこの謎の状況が終わると皆が安堵したのも束の間、小柄な女性はそのままの勢いで謎の女性の腰に飛び膝蹴りをかました。


「ゴパァ!?」


 背の高い女性が奇声を上げながら倒れ込むと、追い打ちをかけるように目を吊り上げた女性が怒鳴る。


「何やってんだこのボケカスコラァ! てめえは案内係じゃねーだろうが!」

「ちょ、たんまたんま、腰はやばいってマジで」

「てめえの背骨へし折ったら、二度と勝手に出歩かなくなるかなぁ?」

「いやほんとまじごめんて、ちょ、まじで腰は無理だって」


 さきほどまで謎の勢いで突っ走っていた女性が、割と必死に懇願していた。

 何から何まで付いて行けていない参加者達だったが、小柄な女性もドラ子達の存在をようやく思い出したのか、表情を一瞬でよそ行きの笑顔に変えた。


「こちらのゴミが突然申し訳ありません。改めましてみなさん、牧場研修へようこそ。私はモンスター生産管理部のモチモチと申します」


 さっきの言動のどこに、モチモチなんて可愛らしい要素が?

 ドラ子はそう思ったが何も言わなかった。

 彼女が余計な事を言った人を痛めつける術に長けているのは、横を見ればなんとなく分かったからだ。

 そんなモチモチさんは、未だに悶絶している謎の女性に汚い物を見る視線を向けたあと、すぐに小屋の方へと手を向けた。


「お疲れのことと思いますが、まずは研修についての簡単な説明がありますので、一度大会議室までご案内いたしますね。こちらへどうぞ」


 女性は何事もなかったかのように、研修参加者を案内しようとする。

 悶絶女性には一切触れない方針に思えたが、さすがにみんな気になっている。

 そこで率先してドラ子は尋ねた。


「あのモチモチさん。そちらの腰をやらかした女性は?」

「…………あ、はい」


 まるで、苦虫を噛み潰したかのような表情になったあと、モチモチは淡々と言った。


「こちら、モンスター生産管理部の部長。骨無しペンギンです。覚えなくて結構ですよ」


 どういう名前付けてんだよ、と一瞬思ったが重要なのはそこじゃない。


「ぶ、部長なんですか?」

「不本意ながら」


 モチモチさんの口内に居る苦虫は、苦さを増したようだった。

 ペンギンさんはその紹介に応えようと立ち上がり、途中で腰の継続ダメージを受けて崩れ落ちた。

 そのまま、無理をせず生まれたての子鹿のような姿勢でプルプル震えながら言う。


「ふ、ふふ、私がいると出世できないから実力で排除しようだなんて、モッチーは過激なんだからぁ」

「殺すぞ」

「……あの、部長にはもっと優しくしよう? 言いたくないけど査定に響くよ?」

「殺すぞ」

「……あ、あのね、もっとふわふわした言葉遣いにしようよ、君モチモチなんだから」

「縊り殺すぞ」

「あっはい、勝手な行動してすみませんでした、はい」


 ペンギンさんはモチモチさんの圧力に折れた。

 どうやらモンスター生産管理部において、部長のヒエラルキーは想像以上に低い様子だ。


「それじゃ、そこの変態は放置して向かいましょう」

「え、ちょ、放置は」

「忘れてなければ迎えに来ますね」

「本当!? モッチー本当に迎えに来てくれるの!?」

「本当ですよぉ…………っち、っせーな」

「舌打ちした! 可愛い顔して舌打ちした! 置いてかないでね! 本当!」


 そして大声で喚いているペンギンさんを放置したまま、研修参加者たちはモチモチさんの指示に従って小屋へと向かうのだった。

 改めて、モチモチさんも、名前の印象から感じるほどにはモチモチ感ないな、と思ったドラ子だった。

 そして、この研修本当に大丈夫かな、と不安に思うのだった。


遅くなってすみません。次回の更新は土曜日までには

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