239 新人ローテーション研修 攻略サポート編13
に、日曜日……
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【マイムマイム恐怖症の場合】
まず、一番大事なのは急所を守ることだと思うんです。
初心者となると満足に全身を守ることは難しいかもしれないので、安い装備を一式で揃えつつ、急所だけは少し奮発して補強する。
と考えると、予算でまず揃えられる装備を一通り見て、削れる所を削って、頭、心臓、胴と少しお金をかけるイメージです。
武器は……タンクの仕事となれば、自分からの攻撃をあまり考える必要がないので、牽制程度ですよね。
固い木の棒──あるいは軽いメイスなどの鈍器あたりが良いのではないでしょうか。
アタッカーでしたら、もう少し武器に予算を傾けるべきでしょうか。
いずれにせよ、初心者でも一番重要なのは生きて帰ること。
撤退の判断を迷わず、黒字であれば満足するくらいのスタンスが良いと思います。
【ビッグワーム天ぷら丼大盛りの場合】
重要なのは動き易さですね。
ダンジョンの探索となれば、まず気にかけなければいけないのはスタミナです。
いくら防御を固めようと、動けなければ満足に戦えない。
身の丈にあった装備というのは、それを装備した上でいつも通りの動きで戦える装備だと思います。
そうなってくると、無理に全身装備をする必要は無いでしょう。
急所くらいは守っても良いかもですが、どうせ一撃貰ってしまえば以降は満足に戦えないんですから。
それよりは、動きを阻害せず、軽く、固い、そういう装備に最初から絞って揃えて行くべきです。
最初から全身装備は狙わず、冒険で稼げて来たら少しずつ買い足して行くイメージで。
その内に慣れてきてよりグレードの高い装備を狙えるようになったら、また同じように一カ所ずつ更新して行くと良いと思います。
武器は、ソードマンでしたらある程度凝った方が良いんでしょうかね。
アタッカーの仕事を考えると、武器がなくなったら意味が無い。
まずは丈夫であること、次に威力が高いこと、そして防具と同じように軽くて取り回しが良いこと。
その点を考えると、初心者は最初のうちは剣を無理して装備する必要はないでしょうね。
固い木の棒とか、あるいはメイスといった鈍器が、使い易くて良いかと。
結論としては、ダンジョンから生きて帰るには、戻ってくるだけのスタミナは絶対必要なので、それを意識した装備が初心者には理想ですかね。
【ドラ子の場合】
当たらなければ良いんだし、防具とか要ります?
あ、攻撃力上がる加護とか付いてるなら良いかも。
でも初心者じゃ買えないですよね。
だったら、予算の中で一番火力高い武器買って行きましょう。
火力こそパワーです。
え、防具は本当に良いのか?
攻撃こそ最大の防御って言いますし、相手が何かする前に殺せばダメージないんだから良いんじゃないですか?
結論としては、やられる前にやれです。
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「というわけで、皆さんに考えてもらった装備はこちらです」
そうして並んだ三人を眺めて、メガネはぽつりと言った。
「……お転婆娘と従者二人の、ずっこけ三人組かな?」
「どういう意味ですか!」
ドラ子はすかさず言い返したが、言い返せたのはドラ子だけだった。
マイマイとビッグ天丼は、お互いがお互いの装備を見て気まずそうにしていた。
というのも、この二人、コンセプトは違えど結果的に似たような装備になっていた。
多少の防御力と素早さの互換性こそあれど、急所を守り、武器は壊れにくい鈍器というチョイスがもろ被りである。
「二人は、相談とかしたわけじゃないんだよね?」
カワセミの声に、真っ先にビッグ天丼が声をあげる。
「当たり前じゃないですか。僕だってまさかこんな被り方をするとは思ってませんでしたよ」
「私もです。でも、頂いた予算で装備を固めようと考えたら、こういう結果になるんじゃないかなと…………普通は」
普通は、という強調が何を差しているのかはよく分かる。
その場にいる人間の目が一斉に、ドラ子を向いた。
「なんですか? やる気ですか?」
「喧嘩っ早いところまで、お転婆感あるよな」
「こんな美少女を捕まえてお転婆ってなんですか」
自分の事を美少女と断じて止まないドラ子であったが、その主張はスルーされた。
改めてドラ子を見やれば、一人だけ明らかに他とコンセプトが違うことが分かる。
そもそも、防具を何一つ身に着けていない。
手元にあるのは、頑丈そうな金属製の杖一本だけだ。
「あえて聞くけど、その杖は?」
「予算で買える中で一番高いの買いました」
「うん」
いっそ清々しいドラ子の回答であった。
「ちなみに、これ殴る事もできるので、魔法使えなくなっても戦えますよ!」
「普通は、ヒーラーが回復魔法を使えなくなる前に、撤退をするものなんだけどな」
だがまぁ、普通の初心者というのは引き際を間違えるのも良くある話なので、その配慮自体はあながち間違いでもない。
ヒーラーが直接戦闘に加わっている時点で全滅の危機ではあるが。
「じゃあ、もし先輩が選ぶとしたらどうするんですか?」
結構なダメ出しをされたドラ子は、唇を尖らせながらもメガネに尋ねる。
メガネはちらっとカワセミを見た。
答えを言っても良いのか? と尋ねるように。
それにカワセミは頷いたので、メガネは少しだけ考えて。
「じゃあ、俺だったら……」
そこで、一度メガネはマイマイとビッグ天丼の方を見た。
コンセプトが固まっていて良くまとまっている装備。
ドラ子の単純な思考と比べると、随分と考えたのだろうと分かる良い装備だ。
それを一度見てから、答える。
「まず、渡された金の大半を使って──家のお婆ちゃんへのお土産を買う」
「……ん?」
「で、残った金で、ダンジョンで食べるおやつを買う」
「…………???」
「以上だ」
ポクポクポク、と三秒程ドラ子は思考停止に陥る。
それから再起動したとあとで、メガネに吠える。
「装備一個も買ってないじゃないですか!」
「そりゃそうだよ。だってお荷物役だし」
いや、それはそうなんだけど、そんなのアリなのか?
そう気になってドラ子はカワセミを見る。
彼女は満面の笑みで、頷いていた。
「メガネ先輩。百点です」
「おう」
「絶対えこひいきですよね!?」
そう噛み付いたドラ子を、どうどうと宥めてから、さらにカワセミは続けた。
「それで、総評といく前にみなさんの装備を、採点しておきましょう」
そう前置きして、カワセミは穏やかに告げた。
「マイマイちゃんと天丼君は、両方30点ですね」
「っ!?」
「え……」
さっきまでの好評とは裏腹の低い点数に、思わず目を剥く二人。
「それでドラ子ちゃん、80点です」
「うえ!?」
反対に、まさかの高得点でドラ子のほうも思わず驚いた。
「採点は私個人の考え、というより集ったデータに近いのは、という観点ですが」
そう前置きを挟み、カワセミは少し人類の愚かさを嘆く神のような目になって言った。
「そもそも初心者冒険者って、そこまで真剣に状況を考えて武器防具揃えないんですよね。それが出来たら脱初心者です」
それを聞いた新人一同は「あー」と、やや納得したような声をあげたのだった。
初心者を舐めてはいけない……
あと感想への返事遅くなってすみません、今夜くらいには返せたらなと思います
 




