表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
総合ダンジョン管理術式『Solomon』保守サポート窓口 〜ミミックは家具だって言ってんだろ! マニュアル読め!〜  作者: score


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

233/251

232 新人ローテーション研修 攻略サポート編6




「────というのが、攻略サポート部の基本的な業務内容、及びフローになります。ここまでで何かご質問ありますか?」


 カワセミの笑顔での問いかけに、新人達は自己主張をしなかった。

 だが、彼らの胸裏にはそれぞれ同じ感想が渦巻いている。


(((さっきまでのは一体なんだったんだ……)))


 そう。

 部長代理が退場してから代わりにやってきたカワセミの説明は、さっきまでの部長代理はなんだったんだと思う程、分かりやすかった。

 そもそも、この会社の業務は多岐に渡っており、各部署の新人ともなると、お互いに業務内容を知らないような状況もそれなりにあった。

 言い方は悪いが、部長代理の言ったように『攻略サポート部って、なんかダンジョン攻略する仕事』くらいの認識のものもそれなりにいた。


 その新人達は、メガネの説明から最低限の概要を知り、部長代理と交代したカワセミから、具体的な仕事の内容や流れを説明された。

 基本的には保守サポート部と同じように、サポートの依頼を受けてから、依頼の内容を確認、そのサポートに向かう人員を選定し、あとは選ばれた人員が内容に沿った攻略サポートを行うということだ。

 その具体的な話まで行くと、仮にもダンジョン管理術式を仕事にしようと思った者達なので、理解はスムーズである。

『あ、これ冒険者ギルドで見たやつだ』ってなるので。


 実際は、そこに至るまでの細かい話もあるのだが、研修に来た新人達には関係ないので省かれ、ここでの説明は終わる。



「では質問も無さそうなので、これからあなた方にやってもらうことを説明しますね」


 新人達の理解は十分と見て、カワセミは説明を次の段階へ進めた。

 つまり、集ってもらった新人達に、実際に何をして貰うのかというところだ。


「皆さんには、それぞれ3~4人のグループに別れてもらって、引率の攻略サポート部の人間と実際に攻略サポートの依頼をこなして頂きます」


 おお、とざわめきのようなものが起こる。

 これまで、言ってしまえばちょっと退屈な説明の時間だったが、ようやく研修らしい時間になる。

 今回攻略サポート部に送られて来た新人達は、その大半がなんだかんだダンジョン攻略みたいなのが好きな面々なので、喜ぶのも当然というものだ。


「班分けについては、こちらの方で予め決めさせてもらいました。一応、事前に頂いた情報を元に、できる役割に応じて分けたつもりですが、何か問題がある場合は速やかに、引率のものにお伝えください」


 言ってから、カワセミはそれぞれの新人がどの班に配属されるのか、を書き記したホワイトボードを引っ張ってくる。

 ドラ子がそのホワイトボードを確認すれば、名前は以下のようになっていた。



 研修D班


 引率者:カワセミ


 班員:

 ドラ子

 メガネ

 マイムマイム恐怖症

 ビッグワーム天ぷら丼大盛り


 ああ。

 今回も、色物と組まされるんだ、私。

 ドラ子は、少し遠い目をしてそう思った。





「それでは、あらためて自己紹介をしましょうか」


 新人達がそれぞれの班に分かれたあと、班ごとに確保されていた個室にて改めて自己紹介という流れになった。

 この個室なのだが、どうも会社の中のオフィスという感じではない。

 何故か、アルコールの匂いが染み付いていそうな、木製の雰囲気ある個室になっている。


「ああ。部屋のことは気にしないで下さい。ただの予算の無駄遣いです」

「それは他の部署としては、気にせざるを得ないことなのでは??」


 カワセミの死んだ目に、思わず突っ込みを入れてしまったドラ子であった。

 それから、カワセミの自己紹介から班員の顔合わせは始まる。


「まず、先程みなさんの前でも自己紹介しましたが、あらためて。攻略サポート部のカワセミです。今回、この研修D班の引率を務めさせてもらうことになりました。まだ若輩者ゆえ至らぬところはあると思いますが、よろしくお願いします」


 ぺこり、と綺麗な所作でカワセミは頭を下げる。

 彼女を見る目は全体的に優しい。

 さっきの代理の件で、普通にしているだけで、それなりに好印象を与えられているからだろう。


「それじゃ、時計回りで自己紹介をお願いできますか?」


 カワセミは席に着いている面々をちらりと見て、そう言った。

 カワセミから見れば、順番に『ドラ子』『メガネ』『マイムマイム恐怖症』『ビッグワーム天ぷら丼大盛り』となっている。

 まず、知り合いから自己紹介を始めるという安牌であった。

 というわけでトップバッターに指名されたドラ子は、基本的に物怖じするということがないので、堂々と自己紹介を始める。


「保守サポート部から来ました、ドラ子と言います。見ての通りのドラゴンなのでよろしくお願いします。ドラゴンなので色々できます」


 ドラゴンなので色々できる?

 と、ドラ子の自己紹介はざっくりとし過ぎていたが、別に突っ込むほどのことでもない。

 攻略サポート部は文字通り、ダンジョンの攻略を実際に行っている部署となっているため、その中で自分はどういう役割をこなせるか、というのは業務において重要となってくる。

 前衛役しかできない人間と、前衛と斥候と、ついでに弓も使える人間だと、仕事の幅が変わってくる。


 まぁ、だからと言って、ドラゴンだから色々できるというのは、結局何が出来るんだよという疑問を生むだけなのだが。

 その辺は、カワセミが事前に理解しているので今回は問題無い。当たり前のように前衛に付かされるだけだ。


 自己紹介の流れは、後輩の雑な紹介に目を細めているメガネへと移った。



「…………同じく保守サポート部から来たメガネと言います。自分は新人ってわけじゃないんですが、まぁ、研修中はあまり気にしなくて大丈夫です。ぶっちゃけると、そこの問題児の監視役が研修中の主な仕事です。基本的にこなせない役割はないので、適当に穴の空いている役割をこなします」


 ドラゴンなので色々できる、という宣言と大差ない大雑把な説明だった。

 ただし、ドラ子と違って本当にだいたいなんでも出来るので、メガネはどんな役割を振られても困ることはない。

 そんなメガネの自己紹介に、要監視対象が唇を尖らせる。


「なんで監視役とか言っちゃうんですか」

「こう言って置くと、お前が問題を起こしたときの通報がスムーズだろ」

「既に問題を起こす前提!?」


 信用度は限りなくゼロだった。

 ここまでくると、むしろ問題を起こす事を逆に信頼しているとも言える。


「とりあえず、メガネ先輩には余った役割をこなしてもらうので、よろしくお願いします」

「おう」


 カワセミがぺこりと頭を下げると、メガネは軽く応じた。

 そのやり取りで、他の新人にも二人が知り合いであることや、その実力に信頼が置けるだろうことはなんとなく伝わっただろう。


「それじゃ次は、あなたで」


 メガネの自己紹介を終えたと判断した、カワセミは、時計回りで次の新人に自己紹介を促す。

 その新人は、見覚えがあった。

 ちょっとオドオドした印象の少女は、先程部長代理にパワハラされていた少女であった。

 少女は、ドラ子のような堂々としたものとは違う、おっかなびっくりと言った調子で自己紹介をする。


「えっと、広報から来ました、マイムマイム恐怖症です。その、広報なんですけど、見ての通り、ちょっとコミュニケーションが苦手なので、あの、優しくしていただけるとありがたいです」


 言って、少女はぺこりと頭を下げる。

 広報と言えば、社内のあれこれを社外に向けて情報発信する部署。完全にサポート系の部署とは畑違いである。

 仕事内容は、広告宣伝と大まかな部分は一緒、というかこの会社ではその辺がごっちゃになっている。部署的にも一緒くたになっているし。

 まぁ、雑に宣伝部署と思ってもらえれば良い。たぶん厳密には違うが、この会社ではそうだ。


 そんな少女の自己紹介を聞いていたドラ子は、うずうずしながら尋ねた。


「それでマイマイはさぁ」

「マイマイ!?」


 ドラ子は初手で名前を略した。

 だって呼ぶの面倒だったから。

 いきなり名前を省略されたマイムマイム恐怖症は驚くが、ドラ子は特に譲る事もなく続ける。


「マイマイはさ、どうしてマイマイ恐怖症なの?」

「その略し方だと、ただのかたつむり苦手な人だけどな」


 メガネが思わず突っ込む。

 ドラ子は先輩をキッと睨んだ。

 それから、じっとマイムマイム恐怖症の言葉を待っていると、彼女はぼそりぼそりと語り出す。


「その、実は私、運動会とか文化祭とかの、マイムマイムが苦手で」

「それだけ?」

「…………わたし!」


 意を決したようにマイムマイム恐怖症は声を上げ。

 そして、マイムマイムがなぜ苦手なのか宣言した。



「私、特異体質で! 手を握った異性をうっかり虜にしてしまうんです!」


「…………ほう? 詳しく聞こうじゃない」



 何やら面白いエピソードが聞けそうだな。

 と思って、ドラ子はにこりと微笑んだ。


 隣でメガネは溜息を吐いた。



続々と集まる厄介者たち……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
職によるが異性の手を握る事あんまりないから、魅了系だと生き易い部類かな
魅了系かなぁ、、、?とはいえこれまた現代では生きにくそうなの出たな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ