21 お問い合わせ『HAダンジョンが不具合らしき動作をします』3
◆前回までのお問い合わせ内容
【迅速対応希望】
お世話になっております。
緊急の要件によりなるべくく早めの対応をお願いいたします。
問題の起きたダンジョンは弊社のHAオプションを利用してし、ツインタワーダンジョンをHA構成にて運用していまっす。
ここのおツインタワーですが今までの設定では片方が攻略されたさいに二時間以内にもう肩法も攻略されなかった場合は、攻略状況がリセットされ中に煎る冒険者をまとめて排除する設定となっております。
この二つのとうの同時攻略は後に続くだんじょんへの入場件となており、我がダンジョン運営を目玉要素の人つです。
それなのですがつい先日、片方のダンジョンを攻略し二時間が経つと、もう片方の塔も二時間で爆発して攻略完了になる現象が二時間で発生しました。
ダンジョンを一次風さして原因を調べましたが爆発物は存在しません。
このままでいくとはダンジョン運営に大きな問題が出ています。
支給解決お願いします
とりあえず用意できる情報は全部出し増したので四球お願いします!!
『そのメッセージは、ダンジョンに入っている筈の冒険者の数と、実際にダンジョンで感知されている冒険者の数が異なる場合に発生するメッセージですね』
ようやくゴーレム部長に状況を説明し終えたドラ子が、メッセージの意味を尋ねると返って来た答えはそれであった。
曰く、ダンジョンに入っている筈の冒険者の数が、実際の数字と合っていない=ゴーストが存在している場合に出てくるメッセージだと。
そこまで聞いて、ドラ子は浮かんで来た疑問を尋ねる。
「ダンジョンに入っている筈の冒険者、とは?」
『……製品説明会で聞いてはいないのですか?』
「ど忘れしました」
部長の言葉に並々ならぬ雰囲気を感じ取ったドラ子だったが、二回目なので颯爽と言い訳をした。
誰にも口を挟ませぬ、あまりにも鮮やかな不勉強の報告であった。
ゴーレム部長からのポイントが1下がったが、ドラ子はそれを知る由もない。
『言葉通りの意味です。冒険者として登録のある人間が入っている数のことを差します』
「あの、どうして冒険者として登録されているとか、Solomonで分かるんです?」
『……冒険者の登録は大抵、その世界の国やギルドで行われます。その管理のために、色々な世界では、ギルドカードや冒険者証などが使われていますね?』
「はぁ」
冒険者、というものの立場も当然世界によってマチマチだ。
広義で言えば、安全な街があるにも関わらず危険な外をぶらついているものはみんな冒険をしている冒険者だろうし、狭義で言えば、ゴーレム部長の言った通り、制度として『冒険者』という登録をしたものが冒険者と言えるだろう。
その狭義の方でたまに出てくるのが、オーパーツじみた力を持ったギルドカードだの冒険者証だのだったりする。
たとえば、人間の能力を数値化して、それを表示したりする機能をもっていたり。
たとえば、倒した魔物の数や内容を記録していたり。
たとえば、登録した人物と紐づいて買い物や通話に使えたり。
そういう、明らかに文明レベルがおかしいアイテムを作っているのは、当然のように、神様だったり、世界の管理者だったりするわけだが。
そんな彼らが、オーパーツを一から作っているという保証はどこにもない。
『ギルドカード系の術式を世界に卸している企業のおよそ94%と我が社は提携を結んでいます。そのため、ギルドカードの情報をダンジョン側で読み取り、データ管理ができるのです』
「なるほど」
ダンジョンのシステムを作っている会社があるなら、当然ギルドカードのシステムを作っている会社もある。
もちろん神様が一から手作りしたシステムを使っている世界もあるだろうが、利用できるものならなんでも利用したいのが、神というものだ。
この会社と同じように、オープンソースの術式があれば当然それを利用していてもおかしくない。
そうして作られたギルドカードの規格は、利用術式が同じなら当然同じものなので、やり方さえ分かればダンジョン側で読み取れるのだ。
その形式を作っている会社のほとんどと提携までしているのなら、尚更だろう。
「つまり、ギルドカードを持った冒険者の数と、実際にダンジョンにいる冒険者の数が異なる場合は、『ゴースト』がいる、とメッセージが出るわけですね」
『そういうことです。大抵は、無所属の盗賊が潜んでいたり、難民が隠れ住んでいたりというパターンですね。その情報をログに上げることで、ダンジョンマスター側に盗賊を排除したり、難民に食べ物を分けてやったりといった選択の余地が生まれます』
ダンジョンに冒険者以外の存在が居て、喜ぶかどうかは人それぞれといったところ。
初心者向けに作った成長のためのダンジョンであるなら、盗賊の存在は看過できないだろうし、逆に罠なりモンスターなりで殺しにかかるタイプのダンジョンなら、わざと泳がすことだってあるだろう。
まぁ、顧客は一部の公開されているログメッセージ以外は、特に内容について知らないので、それをそのまま活かせるとは限らないが。
『ちなみに、こちらのメッセージについては、サポートマニュアルの方に記載がありますが、なぜあなたは知らないのですか?』
「すみません」
『私は理由を聞いているのですが』
なお、別にゴーレム部長は、先程からドラ子を責めているわけではないのだ。
ただ、新人への教育を考えた際に、どういう理由で何を知っていて、何を知らないのかの情報をきちんと集め、次の新人教育へのフィードバックに使いたいだけなのだ。
だが、彼の岩のように固い性格と口調が、その未来への投資の為の資金を集めにくい状況にしているだけなのだ。
「そ、それでメッセージの意味は分かったのですが、これは事象に繋がる情報なのでしょうか?」
ゴーレム部長の目からは見えないところで半分泣きそうになりながら、ドラ子はなんとか話題をチケットへと戻した。
ゴーレム部長は、考える素振りも見せずに即答する。
『そうですね。だいたいの原因は推測できました。あとは検証で同様の結果が出るか、ですね』
「なるほど」
ちなみに、ドラ子の方は原因の推測など欠片もできていない。
ゴーレム部長からの答えを待っているだけだ。完全にでくの坊である。
だが、新人教育に熱心な部長は、そのドラ子の待ちの姿勢を許さなかった。
『ではドラ子さん。原因についてあなたなりの推測を述べてみてください』
「うぇ!?」
思わず少女の口からは出ては行けない声が出てしまった。
もはや完全に話を聞いていなかったドラ子だが、それでも、懸命に考えて答える。
「ええと、登録のある冒険者の数と実際の数が食い違っているんですよね? つまり、あれじゃないですか? このツインタワーを攻略しようとしている冒険者に怨みのある何者かが、陰の存在でも雇って、冒険者が入ったのとは逆のタワーに爆発物をしかけ、冒険者ともども殺そうとしたとか」
『なるほど、面白い考え方ですね。ただ、ログは確認しましたね? この爆発が起こったのは、ぴったり片方の攻略から二時間後です。つまり、ダンジョンマスターの指定している、冒険者排除の時間ピッタリということです』
「えっと、では」
『他人が偶然、システムの時間ピッタリに爆弾を爆発させた、と考えるよりは、システムによる何らかの作用により、爆発が起こったと考える方が自然でしょうね。あと、二時間でダンジョン全体を爆発させる爆薬を、用意するのも設置するのも困難でしょう』
ゴーレム部長のダメだしも、確かに尤もだとドラ子は思う。
二時間というのは存外短い。
自分であれば簡易チケット一つ終わるかどうかという時間で、建物の隅々まで爆弾を設置するのは難しい。
であるならば、部長の言う通りSolomonの側で爆発を起こしたと考えるのは確かに妥当。
「だけど、設定は『爆発』ではなく『冒険者の排除』だったのは確認済みで……」
『はい。それも合っているんです。Solomonは与えられた設定を守って、忠実に『冒険者の排除』を行おうとしました』
「それは、どういう?」
そこでゴーレム部長は、自分が答えを教えて良いものかと少しの逡巡をする。だが、顧客が回答を支給──失礼、至急望んでいるために早々に答えることにした。
つまり、こういうことだ。
『Solomonは、このダンジョンの『ゴースト』を排除するために『爆発』するしかなかったということです』
「なるほど、完全に理解しました」
つまり、どういうことだ?
とドラ子は思ったが、とりあえず頷いたのだった。
──────
「回答案アップ完了っと」
それからもゴーレム部長とのやり取りをなんとか終えたドラ子が、上機嫌で回答案の作成を終えた。
時刻は定時間際であるが、なんとか一日で対応を終えたところだ。
その隣で、ふぅ、と重いため息を付いたメガネの先輩も、同様に回答案のアップを終えたところだった。
困っていたところを全く助けて貰えなかったドラ子は、少しばかりの不満も込めて言う。
「可愛い後輩を放っといた割には、私のが先ですか先輩!」
嫌味なのか煽りなのか分からない後輩の発言に、メガネのこめかみが少しピクリとした。
だが、午前の沸騰した怒りもいささか落ち着いたこともあって、彼は静かに意趣返しをする。
「……三件」
「ん?」
「俺の回答案は、これで今日三件目だ」
「ナマ言ってすんませんした」
欠片も威張れる状況でなかったドラ子は、静かに頭を下げたのだった。
そんな殊勝な心があるなら、俺のサバンナについて謝れよと思うメガネだったが、オープン環境だから仕方ないかと諦め、ドラ子の状況を尋ねる。
「それで、原因はなんだった?」
「ゴーストが囁いてました」
「やっぱりか。となると、回答自体は比較的簡易だな」
メガネはドラ子の大分説明を端折った答えで納得した。
つまるところ、お問い合わせの内容を見た時点で、彼はなんとなく答えを察してはいたのだった。
だが、その答えが合っているかを検証する時間が惜しかったために──あとついでにドラ子の成長のために、チケットをドラ子に押し付けたのだ。
「まあ良い。ちゃんとチケットが片付いたんなら、飯でも食いにいくか」
「奢りっすか!?」
「奢りなわけねーだろ給料日じゃねーんだぞ」
「ドケチ眼鏡先輩」
言いつつ、これもまた珍しい社会人らしい誘いと、ドラ子はやや上機嫌になった。
あとは今日の日報を作成して、本日アサインされた簡易チケットを軽く流し読みして終わり。
華々しい週末が待っている!
そう浮かれたドラ子のもとに、ピコンとゴーレム部長からのレビュー結果が返って来る。
──────
ゴーレム部長:回答案の確認をしました。
ゴーレム部長:レビュー結果はアップしてありますが、端的に言えば回答の再作成をお願いします。
ゴーレム部長:はっきり言って論外です。
ゴーレム部長:顧客は知識がない前提で回答を作成してください。
ゴーレム部長:今まで何度も言っていますが、あなたの文章をSolomonの知識がない人間が読んでも理解できるか、を念頭に置いた表現を心がけてください。
ゴーレム部長:今のままでは意味がわかりません。
ゴーレム部長:このチケットは今日中に提出したいものです。
ゴーレム部長:心苦しいですが、終わるまで残業をお願いします。
──────
「…………」
「…………どんまい」
目を見開き、真っ白な表情になったドラ子の肩をメガネはぽんと叩いた。
ついでにメガネの方の回答案には、即座に『問題ありません、提出お願いします』という返事が来た。
「せんぱいいい」
「分かった分かった。ちょっと見てやるから泣くなよ」
涙目になった後輩に、メガネの青年は大きくため息を吐きながら、少し付きあってやることを決めたのだった。
そして、花の週末。
ドラ子が残業を終えて退社したのは22時であった。
ちなみにゴーレム部長が退社したのは24時であった。
ここで書き溜めが尽きてしまったのでこの先から不定期更新になります。
このお問い合わせの回答に関しては明日投稿できる予定です。
その先については書き上がり次第の投稿になりますが、目標として三営業日は開けないように努力します。
なお、この次はまた少しチケットと関係ない掘り下げ回になる予定です。




