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総合ダンジョン管理術式『Solomon』保守サポート窓口 〜ミミックは家具だって言ってんだろ! マニュアル読め!〜  作者: score


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191 お問い合わせ『ランダムエンカウントの実装方法』5



「もちろん、濃霧の中ではそうなるから、世界の全てを霧に包んでくれ、って話にはならない」


 ドラ子の理解を待って、メガネは補足するように話す。


「何故だか分かるか?」

「そりゃ、世界を意味も無く霧で覆ったら世界観変わりますからね」


 流石にドラ子もここでは迷わなかった。

 これからオリジナルの世界を創造しようというのなら、ランダムエンカウントの代わりに見晴らしの悪い霧でも発生させれば良いんじゃない? と言えたかもしれない。

 ゼロから作るなら、それはただの霧の濃い世界という話になる。


 だが、そもそもこの顧客がランダムエンカウントに拘っているのは、謎の原作リスペクトによる完全再現を狙っているからである。

 普通のRPGの世界に、独断で濃霧を発生させたら、それはもう別の世界だ。

 植物の成長や生き物の生態系にがっつり影響を与えることは間違いないし、勝手に滅亡する村や街や国、動物やモンスター達がいてもおかしくない。

 仮に、管理世界とやらから拾って来た不幸な魂をゲーム世界に放り込んだとしても、そこをゲームの世界と認識してくれるか怪しいところだ。


「というわけで、霧を使うのは無しとすると、ドラ子はどんな手段が浮かぶ?」


 いきなり先輩に水を向けられたドラ子は、うぐっと言葉に詰まる。

 少し考えてみるも、パッと有効そうな案は出てこなかった。


「いきなり言われても難しいんですけど」

「今だけはSolomonから離れて考えてみろ。思いつき、くらいのアイデアで良いから」

「ふむう」


 その思いつきがまず難しいって話なのに!

 と、その辺りで、ドラ子はメガネが少し楽しげであることに気付く。

 どうやら、彼の中では今の時間は仕事半分、休憩にも似た頭の体操半分といったところのようだった。

 それに気付いてから、ドラ子も少し考えを改める。

 Solomonを始めとした、管理術式での実現可能性などを考えると、どうしても色々な制約が浮かんでしまう。

 だったら、本当に実現可能かどうかはひとまず置いておいて、霧の中と同じような状況を作るにはどうすれば良いかだけを考えてみたら良いんじゃないだろうか。

 制約さえなければ──言い換えれば、世界構築の労力を考えなければ、こんな方法はどうだろうか。


「例えば、人間一人一人を半径30mくらいの結界で覆うのはどうですかね。人間の視界はその30mの中のものしか見えないようにするとか」


 題して、個人ドーム作戦であった。


「30m先はどういう風に見えるんだ?」

「結界の内壁に、外側の世界のテクスチャを張り付けましょう。ただし、モンスターの姿だけは張り付ける対象から除外するんです。これで人間は半径30mに入るまでモンスターの存在にだけは気付けません」


 結界という言葉を使ったが、感覚的には映画を映すスクリーンで包むようなイメージだろうか。

 球形のスクリーンの中にいる人間は、スクリーンまでの短い距離と、スクリーンに映った映像でしか世界を認識できない。

 スクリーンに映る映像からモンスターを消す処理をしておけば、中の人間はモンスターがスクリーンの内部に入って来た時に、初めてその存在に気付くことになる。

 臭いや音などに関しては、結界で遮断しても良いし、あえてそのままにしておくのもアリかもしれない。そのあたりは裁量だが、それが残れば斥候職の仕事もあるだろう。

 濃霧の部分を強引に置き換えてみたが、これならば世界を霧に包むことなく、ランダムエンカウントもどきを実装することもできる筈だ。


「と、思うんですけどどうですかね?」


 とりあえず思いつきで語ってみたドラ子は、採点を待つ生徒のようにチラッとメガネの顔を窺ってみた。


「いけなくはないんじゃないかな。術式構築の労力はかなりのものだろうが、世界創造前ならねじ込めないこともない。ランニングコストの跳ね上がり方に対処できるかは顧客次第だがな」

「やっぱり、コストは嵩みますか」

「嵩むだろうな。最初に案を出したSolomonを使ったランダムエンカウントよりも尚嵩む。人間一人一人を監視するだけじゃなく、さらに一人一人に薄い結界を貼り続けるわけだからな。能動的な働きをする以上、運用コストは倍、さらに倍ドン倍。とはいえ、こっちはそんなの知ったこっちゃないから、Solomonで出来ない以上はそういう方法になりますよって話になるだけだが」


 ドラ子本人としても、ちょっと重いかなとは思った。

 相手側の利用している世界管理術式にも依るとはいえ、住民全てともなれば、そりゃ負担は計り知れないだろう。

 そもそも個別管理が難しいから、Solomonではできないって話なわけだし。

 基本はまとめて管理──というか監視しておいて、問題を検知したらそこにフォーカスする、という従来の管理術式の在り方に真っ向から喧嘩を売っている。


 例えるなら、卵かけ御飯を作る際に熱々ご飯に玉子をぶっかけるのではなく、米粒一つ一つを丁寧に玉子に潜らせるような、壮大に無駄な作業をしている感じだろうか。


「かくいう先輩だったらどうするんですか?」

「俺か?」


 今度は反対に、ドラ子がメガネに尋ねると、メガネはさして考えることもなく答える。


「俺も、ドラ子の考えと似たようなものにはなるんだが」

「ふむふむ」


 やはり、ダンジョンについてを学んでいる関係上、思考はどこか似てくるのだろうか。

 ドラ子はそう思った。


「生まれてくる人間の設計を最初から弄っておいて、脳に細工なりなんなりして初めから30mまでモンスターを認識できない住民にするかな。ランニングコストも安くなるし」


「そんなマッドな考えと一緒にしないでくれます!?」


 そんなこともなかった。

 ドラ子はそう思った。


「何を言っているんだ。マッドな考えと言うが、スキルがある世界だの、ステータスウインドウがある世界だの、異世界は人体改造が当たり前の世界ばっかりじゃないか。モンスターへの認識を弄るくらい些細なもんだろう」

「そう言われるとそんな気もしないでもないですけど、生理的拒絶感が半端ないんですよ脳とか言われると」


 確かに言われてみれば、この多次元でなんの改造もされていないプレーンな人間の方が珍しいかもしれない。

 先天的、あるいは後天的違いはあれど、基本的に世界の管理者はやろうと思えば世界の住民を改造できたりするわけだし。

 だが、それを当たり前の手段として持ち出してくるのが、ちょっと、引く。

 コストの問題まで視野に入れて人体改造しようとしてるのが、現実的で更に引く。


「なにはともあれだ。これでドラ子も分かっただろう。Solomonでは仕様上不可能な実装でも、Solomonを使わないところで工夫すれば、擬似的なランダムエンカウントもどきを実装することもできなくはない、かもしれないと」

「それはまぁ、そうですね」


 メガネの例にはドン引きしつつも、それはドラ子も認めざるを得なかった。

 ランダムエンカウントという考え方自体、ダンジョンの何かを弄れば解決するような代物じゃない。

 始めから、世界の仕組みの方に組み込んでおくべき何かだろう。


 そもそも、こんな質問をSolomonに送ってくる方がおかしいのだ。

 モンスター召喚機能はSolomonの機能の一つではあるが、モンスターの繁殖だの生態系の管理だの、世界レベルで考えるのなら世界を管理する術式の方の専門なのだから。

 Solomonはあくまで、ダンジョン管理術式なのである。


「まとめると、こんな感じですかね」


 これまでの雑談内容から、ドラ子は改めて回答の方針をまとめ直す。



 まず、Solomonには、モンスターとの出会いをランダムエンカウントにするような機能は実装されていない。

 参考に、もしダンジョンでランダムエンカウントを実装しようとするなら、こういった手法は考えられる。

 ただし、ワールドマップにはSolmonは仕様上対応しきれない。

 だから、言える事は三つ。

 ワールドマップでのランダムエンカウントは諦めろ。

 どうしてもSolmonを使いたいなら改めてそういう契約を結んでくれ。

 それも難しいなら、世界の仕組みの方を弄って、ランダムエンカウントもどきでも採用してくれ。



「こう書いていると、どう考えても、Solomonの保守サポート部が出せる回答から逸脱してますよね」

「諦めろ、Solmonの歴史が参考情報を付ける回答を続けてきてしまったんだ」

「悪しき風習は断ち切るべきでは?」


 回答を貰う側からすればありがたい参考情報おまけかも知れないが、回答を作る側とすれば面倒な足枷に違いは無かった。

 とはいえ、今のドラ子にはそれについてゴーレム部長に直談判するような気概はないので、改めて回答方針を練るのみである。

 そう考えて自分のデスクに向き直ったドラ子に、メガネがぼそりと言った。


「そういえば、このランダムエンカウントもどきなんだが、一つだけ大きな問題があるんだよ」

「ええ? このタイミングでやめて欲しいんですけど」


 ドラ子はうんざりした気持ちでメガネの言葉を待つが、返って来たのは、意外と大した事が無い問題だった。




「このランダムエンカウントもどきだと、モンスター側も自由に動くわけだからさ。戦闘が終わって一歩も動いてないのに、当たり前のようにもう一度エンカウントしたりするんだよな」


「0歩エンカするのはやめろ繰り返す当然の権利のように0歩エンカするのはやめろ」




 大したことのない問題ではあったが、それは微かにドラ子のトラウマを刺激する問題でもあったのだった。



もちろん頼んでないのに敵の増援もきます。



どうやら拙作が日間ランキングの方に入っているみたいです!

読んでくださっている方々、大変ありがとうございます!

ニッチな作品ではございますが、これを機によかったらブックマークなどしてもらえると嬉しいです!

忙しい状況ではありますがランキングに入っている間くらいは更新頻度を高められるように頑張りますね。

(回答の方は、レビューを頼んでいる友人の返答待ちになってしまいますが……)


また、宣伝目的込みで、自分の過去作の方で特別編を更新しています。

書く書く詐欺になっていたところでしたがようやく書いていますので、もし過去作からお付き合いいただいている方はよければご覧ください。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 更新ありがとうございます。いつも楽しく読ませて頂いています。前回の更新の際からこの案件の対処法についてクレームが来るのではないかと思っていたのですが、この仕様の場合、ガンナーがあまりに…
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