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総合ダンジョン管理術式『Solomon』保守サポート窓口 〜ミミックは家具だって言ってんだろ! マニュアル読め!〜  作者: score


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184 基本ダンジョン攻略技術者試験39

今回のダンジョン総評回

はっきり長いです。切りどころが難しくいつもの2倍くらい長いです。すみません。

そしてまだ続きます。



「──というわけで、私とカワセミ先輩の合体技が見事に成功し、親に歯向かう愚かなドラゴンの逆鱗を貫いたというわけです」


 しばし、時は流れる。

 最初はポツポツと仕事の愚痴などを話していたわけだが、それもすめばやはり話は試験のこととなる。

 だが、試験を受けた二人とそうでない一人の間にはどうしようもない情報の差があった。

 ここで二人だけで、あそこは辛かったなどと盛り上がるのは、奢ってもらうからというわけではないが気が引ける。

 それゆえ、いつの間にか始まったのは、二人がどういった風に試験用のダンジョンを攻略したのかという冒険譚であった。


 そして、少なくない時間をかけてダンジョンの話を語り切ったドラ子は、満面の笑みでどうだとドヤ顔をメガネの先輩へと向けていた。

 かくいうメガネは、その話にところどころ相槌を打っていたわけだが、次第に表情が困惑に染まって行き、最後のシーンでは、こうである。


「……え、殺したの?」

「はい。ぶっ殺しました」

「ええ……」


 ドン引きである。

 唐突な当たり前のラスボスドラゴンの背景については、いきなりねじ込まれた骨無しペンギンのビデオレターの話あたりから、なんとなく分かってはいた。

 だが、その状況と、階層に張り巡らされたまるで『ドラ子を狙い撃ち』したかのようなフィールド効果。

 この二つがあってなお、竜王(仮)を普通にぶっ殺したドラ子の思考回路が、あまりにもドラゴンドラゴンしていた。


「そして、それによって階層を制圧した私達は、悠々とゴールインして見事合格となったわけです」


 と、自身の活躍を十全に語り切ったドラ子は、どことなくドヤ顔を浮かべて胸を張った。

 ドラ子の語りのターンが始まって、少しだけ酔いが冷めたカワセミも、持ち点1に思う所はありそうだが、概ね合格したことに誇らしげな表情を浮かべる。

 対するメガネは、


「まぁ、持ち点1でも合格は合格か。でもなぁ」

「むっ、なんですかその微妙そうな顔は」


 と、褒めるつもりで居たのに微妙に褒め切れないという、曖昧な笑みを浮かべていた。

 ドラ子は褒めてくれる約束でいたのに(※そんな約束はない)ちゃんと褒めてくれない先輩に唇を尖らせる。


「そもそも、最初から戦おうとしてたならまだしも、どう考えても勝てない設定になってるボスをなんで倒そうとするかな」

「そこに敵がいたから、ですかね」

「武士なの?」

「ドラゴンですけど」


 メガネの目は、言外に『もっと楽な方法あるだろ』っと語っていたわけだが、その楽な方法をわざわざ選ばなかったのはドラ子でありカワセミであった。


「いやさ、ここで空気読んで、何もかもに目を瞑って普通に褒めるのと、思いついたダメだしするのどっちが良いかなって思ってさ」

「その発言をされた時点で、褒められても気持ちよくなれないんですけど?」


 更に唇を尖らせたドラ子に、メガネとカワセミの二人が揃って苦笑いを浮かべた。

 ここまでぶっちゃけられた後に褒めるも何もないとは思うが、それでも褒めてくれと言えば、きっとメガネは手放しで褒めてくれるだろう。


「まぁまぁ、ドラ子ちゃん。ここは一つ先輩の意見も聞いてみようよ」

「カワセミ先輩?」

「ダンジョン関連の仕事をやってくなら、メガネ先輩の話はためになるよ」

「むぅ」


 ドラ子としては、そんなことより手放しの賞賛を貰った方が嬉しいは嬉しい。

 ただ、カワセミはドラ子よりも少しだけ、職務に真面目であった。

 たとえ酔っていようとも、カワセミはダンジョン攻略を主軸に置いた仕事に従事している者として、しっかりとダメだしを受けた方が良い気がした。


「先輩。何か気になったならぜひ言って下さい! 私、先輩好みの女になりますから!」

「カワセミ先輩!?」


 ただし、酔って気持ち良くタガが外れた、カワセミの言葉の出力はおかしかった。

 思わずドラ子が突っ込みかけたところで、淡々とした声がかかる。


「向上心があるのは良い事だ」


 同じく酒を飲んでいるはずのメガネは、酔った素振りなど欠片も見せずにスルーした。


「それじゃダメだしを……の前に、お前らは自分らが攻略したダンジョンの違和感にどのくらい気付いている?」

「違和感?」

「ですか?」


 メガネに逆に尋ねられて、ドラ子とカワセミは揃って顔を見合わせた。

 その調子を見て、メガネは「そこからか……」と出そうになるため息を飲み込んだ。


「まぁ、普通に攻略していたらもしかしたら気付かないかもしれないが、お前らは二、三階層あたりで先の階層の情報も手に入れたんだろ? その時点で何か気付かなかったのか?」


 問われて、ドラ子はぽかんと口を開けた。

 そもそもドラ子は、ダンジョンの攻略計画についてはカワセミに丸投げしていたので、違和感どころかダンジョンの全階層の情報すらマトモには持っていない。

 逆にカワセミは、少し酔いが冷めたようなしっかりとした顔で、しゅんとする。


「すみません、ドラ子さんの能力の把握がだいたい終わって、どういった部分で活用できるかな、と考えるのに精一杯で」

「あー、そういうことか……ううん……」


 カワセミの至った思考をトレースし、メガネは少し頭を押さえた。


「そうなると、カワセミの予想以上にドラ子は有能だったかな?」

「端的に言うと、はい」

「なるほど、まぁ、それじゃ仕方ないかもしれない」


 メガネの納得の理由が分からず、カワセミとドラ子は更に不思議そうに青年を見つめる。

 その二人にどこから説明したものか、と悩んで、結局メガネは全部説明することに決めた。


「まず、ダンジョン関連の仕事に従事している以上、二人もダンジョンの成り立ちというか、ダンジョンを作る上での基本的な部分は理解していると思う」

「ええと、はい?」

「ダンジョンを作る上での設計段階の話──ようは『そのダンジョンはどういったコンセプトのダンジョンなのか』って話からだ」


 飲みの席にも関わらず、メガネ先輩の講義タイムが始まったことを、新旧二人の後輩は揃って肌で感じた。

 そしてどちらからともなく、そっと姿勢を正した。


「まず、今回のダンジョンのテーマは説明するまでもない。『基本ダンジョン攻略技術者試験に相応しい攻略不能ダンジョン』ってところだ。そして、一口に試験用のダンジョンと言っても、毎回毎回無作為に階層を作ってるわけじゃない。毎年、階層を通したなんらかのコンセプトがあるはずだ。それは普通のダンジョンを作る上でも基本だろう?」


 普通のダンジョンマスターは、いきなりダンジョン管理術式を渡されて、思うままにダンジョンを作れるわけではない。

 道具を渡されたとしても、作りたい正解が無ければ、道具をどう使えばいいのか分からないだろう。

 だから、ダンジョンを作成する上で、最初に必要なのは『テーマ』と『コンセプト』を決めることだ。

 このうち『テーマ』とは、かなりざっくりとしたダンジョンのイメージとでも言えば良いだろうか。

 例えば『めちゃくちゃ難しいダンジョン』とか『癒されるダンジョン』とか『頭を使うダンジョン』とか『初心者向けダンジョン』とか、まず作るダンジョンの大枠を決める段階のことだ。

 ここで大枠を決めたら次はそれを具体的にどう実現していくかがコンセプトの段階になる。

 例えば『癒されるダンジョン』だとすれば『モフモフと戯れる』とか『美しい景色がある』とか『色とりどりの花畑』とか『スパ回復の泉で心身ともにリフレッシュ』とか、癒されるにしても具体的にどういった方法で、というのを詰めて行く。

 ここで、テーマとコンセプトを決めたら、あとは階層がいくつくらいで、出てくるモンスターやアイテムは、とより具体的な設定に入って来て、その辺りが固まったところでようやくSolomonの出番が来るのだ。


 そして、ダンジョン攻略においても、そのダンジョンのコンセプトを理解するというのは、効率的な攻略を視野に入れた場合に必要な視点になってくる。


「一口に高難度ダンジョンと言っても、砂漠階層の後に火山階層が来るダンジョンと、砂漠階層の後に雪山階層が来るダンジョンだと、高難度の切り口が変わってくるだろう」

「前者はより強力な熱耐性が必要ですし、後者は柔軟な熱への対応が必要になってきますよね」

「ああ。そしてそれは今回のような攻略不能ダンジョンでも言える。一貫性の無い無軌道な階層の連続であれば、臨機応変な対応が必要になるが、そこに何か一本の『筋』が見えれば、ミスリードを警戒しつつも、より効率的な対処が可能になってくる」


 このあたりは、どちらかと言えば保守というよりも設計や攻略の話である。

 先程のテーマやコンセプトは設計の話だが、それを読み取ることは攻略にも繋がってくる。


 簡単に言えば、ダンジョンの特色にあった攻略が重要だというだけの話である。


 先程の暑い寒いだけの話ではない。

 獣が溢れるダンジョンでは臭い消しが重要になってくるが、無機物モンスターしか出ない場所ではその準備は必要ない。

 暗いダンジョンでは明かりが必要になってくるが、明かりによって亡者が群がるような場合なら、目に頼らない空間把握能力が欲しくなる。

 こういった、特徴の尖ったダンジョンを攻略するための道具や能力は、適材適所であることが多い。

 パーティで一人、臭い消しの魔法が使えるか使えないかで、難易度が大きく変わって来たりといったこともあるわけだ。


 それ故に、人はダンジョン攻略でパーティを組んで、それぞれの能力を補い合う。

 これは何も、前衛後衛だけの話ではなく、それぞれの知識や技能、時には種族特性といった話になってくるわけだ。


「翻って今回の試験のダンジョンだが、まぁ、一見するとバラバラだよな」

「そう、ですよね?」


 メガネのダンジョン評に、カワセミも戸惑いつつ同意を返す。

 そう、今回のダンジョンは階層ごとに特色がバラバラだった。


 廃村型だったり、洋館型だったり、超古代遺跡だったり、灰の降る沼地だったり。

 切り立った剣山のごとき岩山だったり、睡眠ガスに満ちた洞窟だったり、トラップ満載の古城系だったり。

 そして海底遺跡だったり、龍の巣だったり。


 ざっと並べてみた所で、共通項などまるで見えてこない。

 カワセミとて攻略サポートでそれなりに馴らしてきたのだ。ダンジョンごとの特色を注意する癖はついている。

 そして、今回はそういったものは存在しなさそうだ、と判断していた。


「確かに階層単位で見るとバラバラなんだよ。だけど、ギミック単位で見ると実はそうじゃない」

「……ギミック……」

「言うなれば、このダンジョンの特色は『分断』といったあたりか」


 それに対して、メガネは一歩引いた視点から言った。


「今回のダンジョンはな、階層ごとに求められる能力が『違い過ぎる』んだよ。あまりにもバラエティに富んでいて、階層ごとに『必要な人間』と『不要な人間』が分かれ過ぎる。後半なんかは、露骨に分断を図って来てるしな」

「なるほど、そうか、だから私は気付かなかったんですね」


 メガネの説明を受け、この段階でカワセミは、先程メガネが言いたかったことを理解した。

 あまりにも階層ごとの特色がバラバラすぎる、それこそが今回のダンジョンの特色だった。

 そして、それを横で聞いていてドラ子は全く追いついていなかった。


「ええと、すみません、なんでその、階層がバラエティ豊かなことが、分断に繋がるわけなんですか?」


 ドラ子が理解しないことは想定の範囲内だったので、メガネは呆れることもなく答えた。


「簡単に言うとだな、四人パーティで一人役立たずが居ると、そいつは悲しいことになるって話だ」

「……あー」


 簡単な説明だったが、なんとなく分かった。

 今回は、必要な能力が違いすぎて、階層ごとにパーティにお荷物が出来やすいダンジョンだったということだ。


「もう少し詳しく言えばだ。今回の試験を受けるパーティってのは、基本的に試験のために集った臨時パーティだろ。多少の合わせなりはしてきたと思うが、長年一緒にやってきた絆の深いパーティってわけじゃない。そんな中で、極端な有能とお荷物が、入れ替わり立ち替わりになってみろ。良く知った仲ならお互い様で流せることも、臨時のパーティなら即座に不和の原因に早変わりだ。それでも均等に出番があればまだ良いだろうが、変に偏るとなおさらな」


 これは今回の試験の性質によるものだ。

 今回は資格試験という性質上、どうしてもビジネスライクなパーティ編成になりやすい。

 多少の意気投合があったからこそパーティを組んでいるのだろうが、それでも気心の知れた仲とは言えず、言ってしまえばみんなが他人同士である。

 そんな中で、今回のダンジョンは階層ごとに、誰かに負担が集中しやすい構成をしていた。言い換えれば、特定の個人が不満を溜めやすい構成であった。

 廃村や洋館あたりはまだしも、古代遺跡あたりからは移動能力や知識の要求が増え、沼地や剣山では環境適応能力が大きく試される。

 夢魔の分かれ道や、背刃の牢獄になると物理的な分断が入ってくるし、海底遺跡まで来ると、水中適性の有る無しでギミックまで違う。

 そういった諸々の要求で、パーティの関係をズタズタにするのが、今回のダンジョンのコンセプトだったのだ。


 ついでになぜカワセミは気付かなかったのかと言えば。

 ドラ子が万能過ぎて、全部ドラ子に任せればなんとかなるんじゃないかな、という結論に至ったが故、頭脳と肉体でほぼ完全な分業体制が完成してしまったからである。

 こうなると、そもそもお互いがお互いを必要としあっている二人組なので、分断もクソもあったものではない。


「……でも、そうなるとおかしいですよね」

「ああ。おかしいな」


 そこまで理解したあと、カワセミは今回のダンジョンのおかしさに気付く。

 そんな彼女にメガネもうむと頷き、ドラ子は首を傾げる。


「あのカワセミ先輩。何がおかしいと?」


 もはや聞くが一時の恥ですらないドラ子が素直に尋ねれば、カワセミは今気付いた違和感を言葉にした。


「ダンジョンの全体的な傾向が『分断』だったとして、それが最終階層の『竜王の巣』にはあまり当てはまらないの。そりゃランダム転移の罠くらいはあるけど、まるで取って付けたような感じというか。どちらかと言えば、それは分断のためじゃなくて、緊急離脱のためって感じじゃない? だから最終階層だけ、各個人の適性に関係ない『絶対的な敵』が出てくるなんて、おかしいような?」

「言われてみると? 確かに?」


 そして、カワセミとドラ子は、その疑問を持ったままメガネを見やる。

 メガネは『あくまで俺の推測だが』と前置きをしてから言った。


「その『竜王の巣』っていうのは、恐らくだが、本当に取って付けた階層なんだよ。そして、攻略中にそれに気付いたとき、コンセプトの『分断』を理解できていると、更にダンジョンのおかしな点に気付けるわけだが」

「ちょちょちょい先輩」


 あまりにもあっさりと言ったメガネに、ドラ子は思わず待ったをかけた。


「するってえとなんですか? 本来はあのひよこドラゴン野郎は登場しない予定だったと?」

「そうだな。これもあくまで俺の推測だが、試験の運営側は『ユニークモンスター』を使いたかったんだけど条件が合わず、仕方なく今年の分断ダンジョンを製作していた。そんな折に、急に『ユニークモンスター』の候補が見つかって、せっかくだからと入れたくなった、みたいな感じじゃないかな」

「…………あのペンギンがぁあ」


 普段は人の陰謀に弱いドラ子であるが、先輩の言葉で今回はしっかりと線が繋がった。

 おかしいと思ったのだ、あんなドラ子達をピンポイントで煽るようなメッセージが、ひよこに添付されていたなんて。

 つまり、あの日、ドラ子とペンギンが出会った日。

 ペンギンが会議をしていた社外の人は今回の試験担当者で、あの日、ドラ子が試験を受けると決めたから、ペンギンは試験そのものにちょっかいをかけてきたのだ。

 なんてはた迷惑な女であることか。そしてなぜ、そのタイミングでいっちょやるかしてしまったのか。


「まぁ、ダンジョン改変の真相は知らないが、竜王の巣が最後に後付けされた階層だってのは恐らく間違ってないと思う」

「では先輩。もともとのダンジョンは、海底遺跡が最終階層だったということですか?」


 一人ペンギンへの怒りを燃やすドラ子を置いておいて、メガネの推測に対してカワセミが尋ねる。

 ただ、彼女の中では腑に落ちないところがあった。

 確かに海底遺跡では厄介なボスモンスターが存在するが、それは王道ルートで進んだ時にばったり合うモンスターで、邪道で進めば基本的に回避できてしまうボスでもある。

 それが最終階層というには、あまりにも、適性による有利不利が大き過ぎる。

 故に、そこに違和感を覚えてカワセミが尋ねると、メガネはあまり考える素振りを見せずに即答した。




「いや。俺の予想だと、本来の最終階層は『夢魔の分かれ道』だったと思うぞ」

「…………」




 その言葉は、カワセミの酔いをいい具合に吹き飛ばし、背筋に冷たいものを感じさせる効果があった。

 それは、カワセミとドラ子をもっとも苦しめた階層であったのだった。


どうしてメガネ先輩はそう考えたのか

おそらく次の更新で最後のはずです

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― 新着の感想 ―
[一言] 他の人のコメントを読んで攻略部長を見直しかけたけど。カワセミさんダンジョンの中身話してないしダンジョンのコンセプトは毎回違うから攻略部長は分かってないのでは???となりました まる(描写され…
[良い点] つまり、分断をテーマとしたダンジョンで即席チームでは困難と攻略サポート部の上司は分かっており、攻略時間は十分あるため飲みすぎて遅刻しても途中参加は可能。カワセミが飲み会を断ったのが悪い。と…
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