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総合ダンジョン管理術式『Solomon』保守サポート窓口 〜ミミックは家具だって言ってんだろ! マニュアル読め!〜  作者: score


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172 過去お問い合わせ『ミミックの使い方について』2

大変遅れて(ry



「そもそもミミックが家具配置機能になった経緯は覚えているな?」

「はい。確か関連イベント機能まわりで──不具合が多発したんですよね」


 カワセミは、以前メガネに教わったミミックの来歴を思い出すように言う。

 Solomonの保守サポート部において、ミミックについて学ぶのは一種の義務教育のようなものだ。

 どれだけ鈍感な新人であっても、一ヶ月もすれば『ミミックのお問い合わせ多くね?』と気付くだろう。


 始めはモンスター召喚機能の一部だったが、パラメータ設定のあれこれで不具合が多発してトラップ機能に送られる。

 トラップ機能で暫く大人しくしていたが、関連イベント機能のクソ仕様により、余す所無く不具合が吹き荒れて、ついにそれまでのミミックは封印措置を取られ、家具配置機能に送られた。

 ざっくり言えばそういう流れである。


「実は、Solomonのミミックが宝箱を落とす、という仕様になったのは、この歴史にも深い関係がある」

「と言いますと?」

「今でこそ落ち着いたが──ミミックに何かを仕掛けたいってお問い合わせは、昔から多くてな……」


 そもそもの発端があるのかは、定かではない。

 Solomonでは、昔からミミックに何かを仕掛けたいというお問い合わせは多かった。


 先程カワセミが調べた通り、このミミックに何かを仕掛けたいという質問は、サポートマニュアルにFAQのページが存在しているレベルで頻出のものだ。

 このFAQというのは、実は保守サポート部に来たお問い合わせのうち、良くあるものをピックアップして、その回答を参考に作成されているという事情がある。

 良くある質問、というのは文字通り良くある『お問い合わせ』のことであり、それはSolomonのバージョンに関係なく舞い込んでくるものが多い。

 FAQの載っているサポートマニュアルのみ、Solomonのバージョンに合わせた管理ではなく、通し番号で管理されているのはそのためだ。

 単純に、バージョンごとに『このバージョンだとこのFAQはこういう結果になるから〜』と個別に作るのは労力がかかり過ぎる。

 だから、先程の『ミミックに何かを仕掛けたい』という質問であれば、マニュアルにバージョンごとの切り分けの形で回答が載っているわけだ。


「でまぁ、家具配置機能にミミックがやってくる前までは、そういうお問い合わせは『関連イベント機能を駆使すればできなくはない』っていう回答だったのはなんとなく分かるだろう?」

「はい。マニュアルの記載を見るに、そうするしかなかったんだと思いますが」


 ミミック本体に追加罠のカスタムができるようになったのは、ミミックが家具配置機能に移されてからのこと。

 しかし、FAQにページがあることが示すように、それ以前にも同様のお問い合わせは来ていた。

 そして聞かれた以上は、関連イベント機能を使えばできなくはない、と答えるしかなかった。

 だが。


「ミミックとは関係ない所で関連イベント機能使っても、ミミックが引っかかって散々不具合を引き起こしてきたんだぞ。ミミックを相手に関連イベント機能なんて使ったら、もうどんな不具合が起こるのか分かったもんじゃない」


 そもそも、関連イベント機能で起こる不具合の最たるものが、ミミックと関係ないところで、ミミックがいきなり現れて、ミミックが想定外の動作をしてしまうことである。

 そんな機能をミミックが関係ある場所で使ったとして、何も起きない筈があるだろうか(いや、ない)。


「俺の中で傑作だったのは、ダンジョンの宝物庫で沢山の宝箱に一つミミックを仕込んでいたら、ミミックを引いた瞬間に、全ての宝箱から毒針が発射されるっていう不具合だったな」

「いったい何をどう関連づけたらそんなことが起きるんですか?」

「なんでだろうなあ」


 もともとは、ランダム宝物庫というボーナスステージを用意したから、ミミックの中に毒針という殺意高めの『ハズレ』もついでに用意してバランスを取ろう、くらいの考えだったのだろう。

 それが何故か、ボーナスステージに足を踏み入れたものは、ミミック混じりの宝箱でロシアンルーレットをすることになる。

 調子良く宝箱を選んで行ければ良いが、ミミックを引いた瞬間に全ての宝箱から致死の毒針が放たれるのだから。

 しかも毒針が放たれるのは関連イベント機能による新規イベントなので、事前に罠として解除することもできなければ、一度開けて無力化することもできない。


 あと一つ、あと一つなら、と強欲に宝箱を開けると最終的に命を落とすとして、そのダンジョンのランダム宝物庫は『強欲者の墓場』とか言われていたのである。


「しかもその状況に気付くのが遅れたせいで、その部屋がダンジョン名物みたいになっていたんだよ。修正したことで客足が減ったらしく、アンケート下げられた」

「理不尽ですね」

「まぁ、俺も盛大に笑ったからお互い様だが」


 評価は下げられたが、事象が面白かったので差し引きプラマイゼロの気持ちであった。


「ということでな、関連イベント機能とミミックは切っても切れない因縁があって、家具配置機能に移そうってなったときに真っ先に決められたことがある」

「それは?」

「それは『可能な限りミミックの機能を拡張して、関連イベント機能とか使われないようにしよう』ということだ」

「ミミックを怖れていたんですね」


 聞いているだけのカワセミでも気持ちは痛い程分かった。

 例えるなら、二人揃うと悪さをする悪ガキを、どうにかこうにか引き離そうとする先生の努力のようなものだろうか。

 少なくとも、片方の悪ガキにたくさんの娯楽を与えて、勝手に新しい遊び(悪戯)を始めないようにしたのだ。


「独自の家具であるミミックを新たに設計し、ミミック一つのために沢山の工数を注ぎ込んでいたわけだが、ここで当初の問題に差し掛かる」

「宝箱としてのミミックに他の罠を仕込みたい、みたいな問題ですよね」

「その通りだ。本来関連イベント機能と連動させて起こすような諸々を解決するには、それまでのSolomonのミミックでは難しかった」


 ミミックを宝箱として扱い、中に宝を詰めつつ、さらに罠も付ける。

 ただ、それだけのことが従来のミミックには難しかった。

 戦闘になる前に発動する罠なら辛うじて問題無いが、戦闘後に罠をどうこうするのはもう不可能に思えた。

 最初にカワセミが考えた通り、罠で自爆するミミックの出来上がりである。

 そんな中で考え出されたのが『宝箱ドロップ案』であった。


「宝箱ドロップというが、実際は置き換えに近いな。ミミックとの戦闘が終わり、ミミックが機能を停止したときに、そのミミックの外観そのものの宝箱を、ミミックと入れ替わる形で自動的に配置する、みたいな動作になっている」

「それって結構難しくないですか? ミミックは飛んだり跳ねたりするわけですし、トドメの一撃を貰ったときに空中にいることだってありますよね。他に口を開けて絶命することもありますし、戦闘中の傷だって千差万別じゃないですか」

「そこをなんとかするために多大なリソースが使われているのが、Solomon製ミミックのアホらしいところだ」


 実際、カワセミの指摘はごもっともだった。

 ごもっともだったが、そこは開発チームがすごく頑張った。

 ミミックのへこみや傷をリアルタイムでトレースし、モーションやベクトルも完璧に合わせた上で、誤差無しで宝箱に置き換え、ついでに自然に蓋は閉じる。

 考えるだけでもうんざりするような、ミミック一つにかける労力としては明らかに異常な労力が開発には必要だった。

 だが、そこで頑張って後で不具合が減るのと、そこで諦めて関連イベント機能周りで不具合が出まくるのだったら、前者がマシと考えたのだ。

 そう考える程度には、開発チームは不具合とのいたちごっこに疲れていたのだ。

 結果として、Solomonのミミックは戦闘終了後に全く相手に違和感を抱かせないレベルで、自然と宝箱に置き換わるという、超ハイスペック家具へと生まれ変わったのだ。


「というわけで、Solomon製のミミックは、普通なら頭を悩ませなければいけないような設定でもカスタムで対処可能になっているし、関連イベント機能を使う必要がないように、色々な状況にシームレスに移行することができる」


 実体のミミックにアイテムを仕込む必要も、魔力形成ミミックの実体をどうにか残そうとする必要もない。

 家具としてのミミックの仕事は、擬態と戦闘だけ。

 ミミックに何か仕込みたいなら、残った宝箱に設定をすればいいだけだ。


「ある意味ではSolomon製のミミックは、モンスターでもトラップでもない『宝箱の一種』として完成された、一つの答えに辿り着いたとも言えるだろう」

「そう聞くと、Solomonの中でもミミックは誇るべき部分に聞こえますね」


 実際、もし他のダンジョン管理術式開発者にこれを伝えれば、呆れながらも作り方を聞きたがるだろう。

 総合術式としてのSolomonの強みは、様々な機能を連携させられることなのだが、ミミックに限っては、これ一つで様々な機能を内包していると言える。

 Solomonのミミックは、それ単体で他社の術式にも流用可能であるということだ。

 そう言った点で見ても、Solomon製のミミックは画期的であったと言える。


「ただし、勿論問題はある」

「それは……?」


 だが、そんなミミックにも弱点はある。

 先輩の話のオチを待つカワセミに、メガネは言葉で説明するのではなく、自分のデバイスの画面を見せた。

 そこには『ミミックが見つからない』というお問い合わせ名が。



「ミミックがモンスター召喚機能やトラップ機能に無い、というお問い合わせは、この先一生なくならないだろう、ということだ」

「……いずれ人間の認識が変わる事に期待しましょう」



 果たして、人の認識がそう簡単に変わってくれるだろうか。

 少し未来の赤毛の後輩は、その答えがどうだったのかを知っていることだろう。



ミミックの内情はともかく、お問い合わせは簡易レベルなので過去回答は挟まずに次回から試験に戻ります

次回の更新は、ちょっと一旦息を入れてまた来週の体感水曜日とさせてください

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― 新着の感想 ―
[一言] やばい、そこまでことのリソースをミミックという罠一つに注ぎこむ状況がすでに面白いwむっちゃ笑いましたw
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