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総合ダンジョン管理術式『Solomon』保守サポート窓口 〜ミミックは家具だって言ってんだろ! マニュアル読め!〜  作者: score


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158 基本ダンジョン攻略技術者試験15



「──というわけで、ドラ子ちゃんの身体が高度に転移の術式に適応したが故に、自身にかけられた転移を解析し、任意で拒絶することが可能になったというわけね」

「なるほど完全に理解しました」


 ドラ子は綺麗な目で頷いた。

 この世界の美しさを信じて疑わないと言わんばかりの、曇りなき眼であった。


「…………」

「と、ところで、この後どうしましょうか?」


 ドラ子がそれまで述べたカワセミの考察を、何一つ理解していなさそうなことは明白であったが、カワセミはコメントを差し控えた。

 この程度で文句を言っていては、攻略サポート部ではやっていけない。


 ついでに現在地は、転移ギミックの通路を抜けた先の部屋の中である。

 どうやらそこはボス部屋も兼ねていたらしく、立ち並ぶ防衛装置型モンスターを薙ぎ払い、ギミックの設定をオフにしたと同時に、奇襲のごとく巨大ロボット型防衛装置が襲い掛かって来た。

 ──のを、ドラ子が真っ直ぐいってぶっ壊したのが現在である。

 本当は、様々な破壊装置に加えて、転移ビームまで乱射してくる強敵であったのだが、耐性を得てしまったドラ子には、ただの的の大きい防衛装置にすぎなかった。

 対象を強制転移して、用意していたキルゾーンで一斉掃射する──という初見殺しを仕掛けた結果、無防備な隙を晒して初見殺し返しされたのはロボであっても可哀想だった。

 その様子を見ていたカワセミが、ぽつりと考察をしたのが冒頭になる。


「この後かぁ」


 カワセミは時計と支給されたデバイスの両方で時刻を確認する。体感時間と経過時間のズレはなさそうだ。

 となると、朝からダンジョンアタックを始めていたので、良い時間というわけだ。


「そうだね。チームによっては食料を持ち込んで休憩無しの強行軍、というところもあると思うけど、ドラ子ちゃん、食料は……持ってる訳ないよね」

「うす」


 ドラ子は自信満々に頷いた。

 こんな試験だと思っていなかったドラ子の服装は、着の身着のままと言っても過言ではない。財布と筆記用具と自前のデバイスくらいしか持っていない。


「あ、でもポケットに飴ちゃん入ってますよ」

「お昼ご飯それでいいの?」

「なんでもないです」


 恐ろしい結末になりそうな問いかけに、ドラ子は自身の迂闊な発言を無かったことにした。

 カワセミはそんなドラ子の慌てように、毒気を抜かれたように柔らかく微笑む。


「じゃあ戻ってお昼にしましょう」

「はい!」


 ドラ子が今日一番の元気の良さで頷くのを確認し、カワセミはボスを倒して出現した続きのゲートの反対側に、帰還用のゲートを創造した。


「え、大丈夫なんですか? 持ち点とか」

「ボスを倒した後の空白地帯なら、少しの間なら大丈夫よ。ずっと放置してボスが復活する時間になったら大問題だけど」

「ほほう」

「それとも、来た道を全部戻って最初からやりたい?」

「さぁ、帰りましょうカワセミ先輩!」


 言うなれば中断セーブである。

 ボスを倒した後は、その状況を一度セーブして休憩を入れられる。

 実際のダンジョンアタックではなかなか難しそうな気がするが、その辺りは試験特有の温情とでも思えば良いのだろうか。

 ドラ子のイメージの中で、試験運営の『人の心』含有率が少し上がった。




「さて、今後のアタックの前に現状を少し確認しましょう」

「はい」


 試験用ダンジョンから試験会場に戻って来た二人は、その足でこの会場の中心部──まるで魔王城の冒険者ギルドのようだった場所に向かった。

 そこではドラ子がまるでギルドのようだ、と思った通りの光景が展開されている。

 すなわち、大勢のむくつけき漢どもが、何かを食しながら激を跳ばし合い、給仕らしき人々が忙しなく行き交っている。


「……でも、誰もお酒は呑んでないんですよね」

「あの、ドラ子ちゃん? 今は試験中だし、そもそもお昼よ?」


 カワセミの話を半分に、周囲を見て思わず漏らしたドラ子に、カワセミは眼を丸くしながら応えた。

 言ってから、ドラ子は慌てて取り繕う。


「あ、あはは、何でもないです! そうですよね! 今は試験中ですし、そもそも昼間からビール空けて、動画サイト見るような人なんて居ないっすよね!」


「「「…………」」」


 ドラ子の言葉に、何人かが恨めしそうな目を向けたような気がしたが、恐らく気のせいであった。

 周囲の冷えた視線が現実になる前に、カワセミは話を戻す。


「とにかく私達の現状は、持ち点はほぼ無傷のまま、恐らく3割程度はダンジョンを攻略できたと思っています」

「順調ですよね?」

「もちろん。デュオでの攻略であることも加味すれば、奇跡的な進行と言っても良いでしょう。保守サポート部的に言うなら、障害解析のチケットでとりあえず適当にデータを見てみたら、そこに原因が全部集ってたくらいの順調さかな」

「やべー順調じゃないですか。順調すぎてゴーレム部長のレビューがめちゃくちゃ辛くなるやつです」


 そう、進行は頗る順調であった。

 攻略速度も、持ち点のダメージも、何一つ問題がないと言っても過言ではない。


 余談であるが、ゴーレム部長のレビューは基本的に辛口だが、チケットの〆切まで余裕がある場合は、細かい文章の表現までチェックする余裕があるので更に辛口になる特徴がある。

 だからドラ子は、ゴーレム部長レビュアーのチケットは後回しにする悪癖があり、そのせいで〆切まで余裕がなくなり、結果としてゴーレム部長と自身の胃にダメージを与えていたりする。


「ですが順調と言っても、それは運良く私達二人の能力とダンジョンのギミックが噛み合った結果なので、今後もそうなるとは限りません」

「それはそうですね。いくら私が最強無敵のドラゴンだと言っても、できないことはありますので」


 順調に進み、更に転移耐性という無二の特性を手に入れたドラ子は調子に乗っていた。

 そんなドラ子に、カワセミは尋ねる。


「ところでドラ子ちゃん。身体が転移に適応して転移耐性を得たということはね──」

「はい?」

「──身体が転移を特技として習得したと言っても過言ではないわけなんだけど、転移使えたりしないかな」

「…………え」


 え、そういうことなの?

 ドラ子は自身の転移耐性を深く考えていなかった。

 そして改めて言われて、使えるんだ自分、と思ったのだが、どうやって使うのかはさっぱりであった。


「てへ」

「…………まぁ、そう都合良くはいかないよね。大丈夫です」


 カワセミはダメもとで尋ねてみたが、やはりダメであった。

 もともと、転移はそれだけで資格試験が用意されているほどの高等術式である。

 術式を発動させるだけでも高度な理解が必要であり、それを自在にダンジョン攻略に利用するとなると更に難易度が跳ね上がる。

 デバイスを使えば、持ち点と引き換えにダンジョン内でなら補助ありきで利用可能だろうが、それを身一つで行うとなれば、その難易度は計り知れない。

 ……メガネ先輩であれば、そのくらい難なく行っても不思議ではないが、無い物ねだりをしても仕方ない。

 仕方ないのだが、ドラ子が目覚めたのが転移耐性ではなく、転移魔法(転移術式ではない)の使い方の方だったらどれほど楽だっただろうと、心の片隅で思わずには居られなかった。


「私達が現状持っている武器は変わりません。ドラ子ちゃんの高度な戦闘能力と、私のある程度のダンジョン理解だね。ダンジョンアタックには必要最低限のものを持っているとは思うけど、今回みたいなギミックで、更に殺意が高くなってくるとそこで持ち点を使い果たす可能性も十分にあります」


 と、カワセミは警戒を厳にして言うが、ドラ子はこれまで順調だっただけに、思考がやや楽観的だった。


「そんなことあります?」

「今回の転移ギミックが、即死ギミックだったら十分有り得たことだよ。ドラ子ちゃんもあの壁の中に転移されたら、流石にどうにもならないでしょ?」

「たしかに」


 言われて、ドラ子は頷いた。

 今回は入口に戻されるだけだったが、最悪ランダムテレポートで『いしのなかにいる』も十分有り得たことではあるのだ。

 その場合は、術式を解析したカワセミが無謀なチャレンジをさせる前に改変していただろうが、今後そういうことが増えれば持ち点はあっという間に枯渇するだろう。


「なので、ここで情報を買いましょう」


 ここ、というのはこのギルドもどきのことだろうか。

 つまり、試験の運営がダンジョンのギミックの情報も売っているということか。

 運営のあこぎな商売ここに極まれり。

 と、ドラ子が勝手に不信感を募らせているところで、そんなドラ子の表情から考えを読み取ったカワセミが答えを言った。



「運営も流石にそんなお金稼ぎはしないよ。情報をやり取りする相手は、同じ受験者です」



 そう言ってカワセミが示したのは、この場所で喧々諤々と言い合っている、同じ立場の者達であった。



術式ではなく特技としての転移は、基本的には転移魔法に分類されます

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