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総合ダンジョン管理術式『Solomon』保守サポート窓口 〜ミミックは家具だって言ってんだろ! マニュアル読め!〜  作者: score


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150 基本ダンジョン攻略技術者試験7



 発端は、上司の思いついたような言葉だった。

 曰く「攻略サポート部は他の部署と比べて『基本ダンジョン攻略技術者』の資格を持っているものが少ない」と。


 そんなことを、反省会と言う名の飲み会で聞かされたカワセミは、何を当たり前のことを言っているのかと思った。

 基本ダンジョン攻略技術者の資格は、難関資格である。

 他のダンジョン関連資格に比べても、その取得難易度──要求されている技量は頭一つ高い。

 カワセミもいつかは、と思いはしていても、まだ自身の能力も足りず、仲間集めも進んでいない。

 この部署で取得している人間がいるとすれば、それは他部署から引き抜かれて来た『牧羊犬』であり、同時にそれは他部署で経験を積んだから取れたものである。

 この攻略サポート部で、その基準に到達する者など居る筈が無い。


 だが、そんなカワセミの思いとは裏腹に、攻略サポート部の面々は盛り上がっていた。

 これは由々しき事態であると。

 たかが資格一つの話ではあるが、これでは攻略サポート部が他に劣って見えるのではないかと。


 劣って見えるどころか、明確に劣っているだろうとカワセミは思った。

 しかし、そもそも、ここは飲みの席である。

 彼らの胸中までは知らぬが、そんな無粋なことをカワセミは言うつもりはなかった。

 どうせ明日になれば、ここでの会話など忘れていると思っていた。



 その翌日、カワセミとその他三人が上司に呼び出された。

 そして上司は、四人に『基本ダンジョン攻略技術者資格』の取得を命じた。

 上司は言った。


『君達、攻略サポート部の精鋭四人なら、見事資格を取得し、攻略サポート部の有能さを知らしめることができる』と。



 ──────



「出来るわけないでしょうが!」

「どうどう」


 涙目になりつつ、キレ気味に語ったカワセミをドラ子は慰めていた。

 と同時に、攻略サポート部マジヤベーなと思った。


「ちょっと怪しいかなとは思ったんですよ。試験前日決起飲みをやろうとか言い出した時には『こいつら流石に冗談だよな?』って思ってたんですよ。でも、私が断ったから大丈夫だと思ってたんですよ」

「そうですよね。普通やりませんよね」

「なんでスト君を私代わりに引き連れて! 記憶なくなるまで飲んでるんですか!?」


 ドラ子は一瞬、スト君って誰だっけと思った。

 そして思い出せなかった(鳥の巣頭くんのことです)。


「ああ、もうやだ! ただでさえ無理筋も良い所だったのに! これで落ちたら私のせいにされる……それどころかまた来年もあいつらとパーティ組まされる!! 絶対いやあああああああああああ」

「そうですよね。絶対嫌ですよね」


 あの、いつも微笑みを絶やさず、優しく美人なお姉さんをやっていたカワセミが本気で絶望していた。

 ドラ子はどう慰めて良いのかも分からず、ただ優しく彼女を宥めるにとどめる。


「業務時間の合間を縫って教育して、私が編成やら準備やら全部考えて、それでも合格の可能性は僅か。でも、それでもようやく可能性を生み出したのに────…………待って」


 恐らく、その業務命令が下ってから時間と精神を犠牲に捧げて来たカワセミが、急にストンと落ち着いた。

 そのまま、ハイライトの無い目でドラ子を見る。


「ドラ子ちゃん。空飛べるよね?」

「え? はい。ドラゴンですから」

「水中行動は?」

「できますよ。ドラゴンですから」

「地中探知とか、魔力感知とか、状態異常への耐性は?」

「一通りは、ドラゴンなので」


 ドラ子はその後も出てくる質問に、だいたいイエスと答える。

 ドラ子は割と万能タイプのドラゴンなので、大抵のことはできた。

 こと戦闘に限って言えば、ほとんど隙のないドラゴンであった。

 特に状態異常耐性には自信があった。

 ドラ子のご先祖様の仲間達は、状態異常にガバがあったが故に狩られてきたものが多かったとかで、その辺りは念入りに高めて行ったのである。


 そのため、ドラ子はこの世界では珍しいほどの、戦闘に特化したハイブリッドモンスターであった。


「……いける」


 ドラ子の能力を確認し終えたカワセミは、そう呟いた。


「考えてみれば当然よね。攻略サポート部の掃き溜めの中でマシなゴミを使うより、メガネ先輩に教育されているドラ子ちゃん一人の方が、当然強いよね」

「あの、メガネ先輩は別に戦闘訓練をしてくれてるわけじゃないんですけど」


 ドラ子は当たり前のツッコミを入れたが、今の状態のカワセミには届かなかった。

 ハイライトを消した目を、今度は爛々と輝かせ、ドラ子の肩を掴んだ。


「ドラ子ちゃん。私と組みましょう」

「えっと、それは私としては願ったり叶ったりではあるのですが」


 ドラ子は躊躇った。

 カワセミには良くしてもらっているし、ドラ子が一人で困っているのも事実だ。だから組んでくれるという提案は嬉しかった。

 のだが、今のカワセミが正気に見えなかった。

 有り体に言って、ちょっと怖かった。


「大丈夫。ドラ子ちゃんの足りない知識は私が埋めて上げる。経験の部分でも、先導できるところはあるわ。ドラ子ちゃんは私の指示通り、その能力を発揮してくれれば、私も助かるし、ドラ子ちゃんも助かる──win-winよ? 良いわよね?」

「アッハイ」

「私はなんとしても、今回で合格をもぎ取ってやりたいの。また来年も、連中のお守りをするなんてうんざりなの。合格さえしてしまえば、もう私が巻き込まれることはなくなるの」

「あの、上司の命令からは、結構逸れる感じになるけど大丈夫なんですか?」


 ドラ子はらしくもなく会社の事情を考慮した。

 ここでカワセミとドラ子が合格したとすれば、攻略サポート部の上司が言っていた『他部署に比べてうんたらかんたら』の部分が、面倒なことになりそうである。

 部内政治的に、カワセミの不利益になる可能性もあるのではないか。

 そう思ったドラ子だったが、カワセミはまたハイライトを消した。


「私がどうして、無理難題をふっかけてくる上司と、社会人として最低限の常識もない同僚達のことを考えて試験を辞退しないといけないの?」

「仰る通りかと思います」


 ドラ子は頷いた。

 はっきり分かることが一つだけあった。

 それは、カワセミがめちゃくちゃキレていることだった。

 そこまで確認して、ドラ子は考えるのをやめた。

 カワセミのことを思う気持ちはあるが、それ以上にドラ子は、食費が減るのが嫌だった。


「まあいいや! カワセミ先輩がそう言って下さるならこっちも助かります! どうぞよろしくお願いします!」

「うん、よろしくねドラ子ちゃん!」


 かくして、ドラ子とカワセミはこの場で臨時のパーティを組むことになった。

 ただし、先に述べたようにこの試験の合格者のうち、二人組の『デュオ』で合格したものは、全体の0.2%に過ぎない。



 二人の厳しい戦いは、まだ始まったばかりであった。



鳥の巣頭くんは巧みに『カワセミが参加している』と思わされてホイホイ参加しました。

アホですね。

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