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総合ダンジョン管理術式『Solomon』保守サポート窓口 〜ミミックは家具だって言ってんだろ! マニュアル読め!〜  作者: score


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148 基本ダンジョン攻略技術者試験5



 それからのドラ子は、順調であった。

 胸の支えが取れたことで仕事も前向きになれたし、早く帰して貰っているという事情からきちんと勉強にも取り組めた。

 ドラ子自身、自分で言うのもなんだがこんなに勉強するとは思わなかったと感想を零す程度に、真面目に勉強した。


 それでも、白騎士(仮)のような余裕のあるところまでは行かなかったが、十分に合格が見える程度には勉強したのだ。

 もともと、Solomonを通して基本的なダンジョン関連の知識と術式を知っていたのも大きかっただろう。


 一冊買った基本ダンジョン技術者試験の参考書も、苦もなく解けるところまでしっかりと持って行ったのだ。

 その点を見れば、彼女は優秀だったと言えるだろう。


 ただ、彼女が優秀ではなかった点は。

 骨無しペンギンのお墨付きを過信して、基本ダンジョン攻略技術者試験の情報収集をちゃんとしなかったことなのだ。





「…………なんか、空気違わない?」


 時は飛んで、現在は試験当日の朝。

 申し込み期間が終わったのち、割とすぐに通知された案内に従ってドラ子は本日の試験会場へとやってきていた。

 会場はどこぞの多目的ホールのような場所で、誤解を怖れずに言うなら、遊びを抜いた真面目な魔王城のような雰囲気だった。

 まぁ、中にはきっと試験用のダンジョンか何かが作られているのだろうと、ドラ子は推測する。そう広いものでもないだろうが。


 ドラ子は、試験の案内のページをもう一度確認した。

 基本ダンジョン技術者試験の方は土曜日の筆記試験と、日曜日の実技試験に別れていることは知っていたが、こちらの方はそういう区分けはなかった。

 それなのに、試験の日程は二日間であった。


 ドラ子としては、試験会場は日帰りできる距離だったのであまり気にしていなかったのだが、試験会場に着いたところで、ようやく、違和感のようなものを覚えていた。

 どいつもこいつも、これから戦争が始まるのかってくらいピリピリしているし、もしかしてダンジョンで寝泊まりするつもりですか? と尋ねたくなる重武装をしている。

 その中では見るからに場違いなドラ子は、頭に疑問符を浮かべながらも、近くに居た格闘家みたいな強面の男に尋ねてみた。


「……あの、ここって基本ダンジョン攻略技術者試験の会場で合ってますよね?」

「あ? 馬鹿か?」

「あ、すみません」


 会場を間違えたかもしれない。

 ドラ子はそう思った。


 だって見る人見る人明らかに、新人というには些か行き過ぎた貫禄を纏っている。

 まぁ、殴り合いになれば負けるつもりはないが、問題はそこじゃないように思えた。

 ドラ子は案内を何度も読み返し、上下逆さまにしたりして何か違う答えが出ないかを試してみた。


「いやでも、やっぱり会場はここで合ってるよなぁ」


 しかし効果はなかった。地図は無慈悲にこの場所を示している。

 となると、まさか、ダンジョンに泊まり込む必要があるのだろうか?

 いやでも、そんなこと急に言われても困るぞ、それこそちゃんと案内しておいてくれ。

 と、ドラ子が思い悩んでいたところで、不意に聞き覚えのある女性の声がかかった。


「…………え!? ドラ子ちゃん?」

「はい?」


 声に反応して目をやれば、ドラ子の知り合いの姿があった。


「カワセミ先輩?」


 そこに居たのは、少しばかり付き合いのある元保守サポート部、現攻略サポート部所属の美人な先輩、カワセミであった。


「おはようございます先輩! 今日も綺麗ですね!」

「えっと、おはようドラ子ちゃん……じゃなくて! なんでここにいるの!?」


 声をかけた相手がやっぱりドラ子だったと確認したカワセミは、挨拶もそこそこにそう尋ねた。

 尋ねられて、ドラ子は首を傾げながら答える。


「なんでと言われましても、試験を受けに……?」

「こ、ここ、違うよ!? 基本ダンジョン技術者試験の会場はここじゃないよ!?」

「…………ああ、なるほど」


 そこでようやく、ドラ子はカワセミが何を驚いているのかに気付いた。

 そう、普通の新人は今日、基本ダンジョン技術者試験の会場に居る筈なのだ。

 ドラ子はどうあがいても新人であり、カワセミからしたら、ドラ子がここに居るという事態が、そもそも理解不能の異常事態に他ならないのである。

 と、ドラ子は状況を理解したが、逆にカワセミはドラ子以上に慌てていた。


「と、とにかく急いで会場に向かわないと!? 電車は無理……タクシー……ももう間に合わないから、ああ、テレポート便ならギリギリ会場に間に合うかも!? ドラ子ちゃんお金持ってる!?」


 カワセミがデバイスで時間とルートを確認しながら、どうにか本来ドラ子が居るべき試験会場への到着時間を計算し始める。

 そんな彼女の後輩思いな面にほっこりしながらも、ドラ子は静かに言う。


「カワセミ先輩落ち着いて下さい」

「ドラ子ちゃんなんでそんなに落ち着いてるの!? 試験開始に間に合わなかったら問答無用で不合格だよ!?」

「大丈夫です、私はちゃんと基本ダンジョン攻略技術者試験を受けに来たんです」

「…………そ、そうなんだ……それなら会場はここだから良かった…………どういうことなの!?」


 ドラ子の言葉に一瞬カワセミは安堵するが、それも束の間のことで再び驚愕した。

 ただ、ドラ子はそんな時の言い訳はしっかり考えていたので、得意気な顔で返す。


「いえ、実は基本ダンジョン技術者試験と間違えて申し込みしてたみたいでして……まぁ、それでもこっち合格すれば技術者試験も通ったみたいなもんかなって」

「…………??????」


 ドラ子の言葉に、カワセミは理解できないモノを見る顔をした。

 少しばかり、頭痛を抑えるように頭を抱えて考え込んでから、深呼吸をして落ち着いたあとに、ドラ子の肩をがしっと掴んだ。


「えっと、ドラ子ちゃん。この、基本ダンジョン攻略技術者試験って、どういう試験だか知って来てるんだよね?」

「なんか、基本ダンジョン攻略者試験と、基本ダンジョン技術者試験が合わさったような感じですよね? 大丈夫です、基本ダンジョン技術者試験の勉強してきましたし」

「…………あぁぁぁ……」


 暢気に答えたドラ子を見て、カワセミは我が事のように絶望した。

 だめだこの子、はやくなんとかしないと。


「ど、ドラ子ちゃん。ついでになんだけど、過去問とかやったかな?」

「基本ダンジョン技術者試験のやつなら」

「あああああああ! メガネ先輩! どうして私にこんな試練を!?」


 なぜそこでメガネ先輩? とドラ子は思った。

 ついでに口走ったカワセミも、なんでメガネ先輩と発言したのかは良く分かってない。


「ドラ子ちゃん……これ、私が使った参考書なんだけど、分かるかな?」

「ええと?」


 ドラ子は、カワセミから渡された参考書をぱらぱらと捲り、適当なページを読んだ。

 そしてその直後に、パタンと参考書を閉じる。

 この場で初めて、ドラ子の表情に焦りが浮かんでいた。


「……ふっ、何一つ意味がわかりませんでした」

「…………」


 ドラ子はキメ顔でそう言った。

 カワセミは、どうすればこの可愛くも無知な後輩を救えるのか必死で考えて、その答えが出ないことに絶望した。

 だから、せめて優しく真実を告げることにした。


「ドラ子ちゃん。この、基本ダンジョン攻略技術者試験はね……エキスパートクラスのダンジョン攻略者資格と、エキスパートクラスのダンジョン技術者資格を持った人達向けの、難関資格なのよ」


「くそペンギンんんんんんんんんんんんんんんんん!!!!」




 ドラ子は始めて自分が嵌められたことに気付いた。

 気付いても、そもそも自業自得であることは棚の上に置き去りにした。



更新遅くなり申し訳ない。


ドラ子は仲間に出会った

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