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総合ダンジョン管理術式『Solomon』保守サポート窓口 〜ミミックは家具だって言ってんだろ! マニュアル読め!〜  作者: score


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147 基本ダンジョン攻略技術者試験4



「こ、こうしちゃ居られねえ、早く受付を!」


 それは、唐突に降って湧いた蜘蛛の糸のような希望であった。

 ドラ子はあたふたとしながら自身のデバイスを開こうとするが、それを骨無しペンギンがやんわりと止める。


「慌てるなドラ子くん。君の話じゃなくて、君の知り合いの話だろう?」

「あ、そ、そうでした!」


 ドラ子はそこで設定を思い出し、冷や汗をかきそうになる。

 そんな彼女の様子を見て、骨無しペンギンは静かに笑った。


「ただ、申し込みの仕方は教えてあげられた方が良いかもしれない。だから試しに、ちょっとやってみようか?」

「そ、そうですね! あくまで知り合いのためですが! 試しに!」


 ソワソワしていたドラ子は、そういう名目で申し込み画面に進んだ。

 否、静かに、それでいて抜け目なく、骨無しペンギンがドラ子を申し込みに誘導した。

 その際、目に入っては『都合が悪そうな情報』は、巧みに指などを使って、隠しながら。


「おっと、間違えて申し込みしてしまいました!」


 そして申し込みを終えたドラ子が、猿でも分かりそうな芝居を打つ。ペンギンはそれに慈愛の表情を浮かべ、乗っかってあげた。


「それは大変だねドラ子くん。早くキャンセルしないとお金がかかるよ?」

「でも仕方ないから、受けてみようかな、とか、あはは」


 そんなドラ子の呟きを拾って、骨無しペンギンはアドバイスをした。


「君の能力があれば、ダンジョン攻略の方は問題ないかもしれないね。ならば知識を重点的に高めるのが良いだろう」

「ですかねぇ!」


 そう煽てられ、ドラ子は気を良くした。

 そんな赤髪のドラゴン少女を、ペンギンはまるで可愛い実験動物を見るような目で見ていることに、当のドラ子は気付かなかった。


「では、名残惜しいが試験前の子を長々と引き止めるわけにはいくまい! ドラ子くん、いいや同志ドラ子、間違いとは言え試験には全力で挑むんだ! 健闘を祈るよ」

「了解です! ありがとうございました!」


 そして、ドラ子は先程までとは打って変わった、明るい表情で本社ビルを出て行く。

 その様子を暫く見守っていた骨無しペンギンは、さて、そろそろかと今度はエレベーターの方に目を向ける。

 程なくして、トイレ?に行っていた、骨無しペンギンの部下であるモチモチが、その小柄な身体で、精一杯肩を怒らせてペンギンの方に向かってくる。


「やあやあモッチー、遅かったね」

「どこぞの上司が『じゃああとはよろしくまとめておいてね』とか丸投げしてくれやがったおかげで、調整に大分時間がかかりましてねぇ」

「大変だったねぇ。でもこっちも大変だったんだよ」

「あぁ?」


 モチモチは、上司を射殺さんばかりに睨むが、肝心の上司はどこ吹く風であった。

 ここが、本社のエントランスでなく、生産牧場であれば背骨の二、三本へし折るのにとモチモチが残念がっているところで、ペンギンが何気なく尋ねた。


「ところでモッチーって『基本ダンジョン攻略技術者』の資格って取ってたんだよね?」

「はい? ええ一応。ランクは『パーティ』ですけど、持ってますよ。だから──」

「それはすごいねぇ」


 骨無しペンギンの言葉には、手放しの賞賛が含まれていた。

 この女は、本気で、モチモチが資格を持っていることを『すごい』と褒めているのだ。


「それじゃあさ、この会社に入って半年の、何の実績もない新人が、攻略技術者の資格を取れると思う?」

「はい?」


 いったい、何を分かり切ったことを聞いているんだ、とモチモチは思ったが、それでも問いかけには、正確に答えた。





「そんなの、無理に決まってるじゃないですか」





 なぜ、そんな当たり前のことを聞くのか、と思いつつ、モチモチは続ける。


「だって攻略技術者って、『エキスパートクラスのダンジョン攻略者資格』と『エキスパートクラスのダンジョン技術者資格』を持ってる人間向けの『攻略不能ダンジョン攻略者資格』ですよ?」

「名前の割に、大層な資格だよねぇ」


 ドラ子が聞かなかったから、骨無しペンギンはあえて言わなかった。

 否、聞かれないように、骨無しペンギンはわざと、ドラ子の目に付きそうな場所にあった、攻略技術者の情報を隠した。

 攻略技術者とは、従来のダンジョン攻略者のやり方では攻略できない『攻略不能ダンジョン』を、ダンジョン技術者の能力で以て、無理やり攻略可能に置き換えて攻略する技能を持っていることを示す、上級資格であるということを。


 だが、それくらいドラ子でも少し考えれば気付けることではあったのだ。

 この骨無しペンギンが、ただの善意でドラ子に手を差し伸べることなど、有り得ないのだから。

 そんな迂闊な少女を思い出すように、ペンギンはぼそりと言う。


「始めから魔法剣士になることはできない。剣士と魔法使いの両方を極めて、始めて魔法剣士の道が開ける。そんな当たり前の話ではあるんだけどね」

「魔王城の話ですか?」

「魔王城は、最初から魔法剣士になれちゃうからねぇ」


 それが魔王城のウリであり、同時に誰でもなれる基本職に人気がない理由であろう。


「ところでモッチー、これは私の持論なんだけどね。冒険のための愉快な仲間を集めるのに適した場所は、酒場なんかじゃないと思うんだ」

「…………じゃあどこだと?」

「大学とかの合格発表の掲示板の前さ。そこでこの世の終わりみたいな顔で項垂れている人達ほど、仲間に引き入れるのが簡単な人種はいないよ。こっちが壊すまでもなくぶっ壊れてるし、優しい言葉で簡単に心を開くからね。まぁ、偏差値が全体的に低めなのが玉に瑕だが」


 ははは、と笑うペンギンの言葉が、本音なのか冗談なのかモチモチは判断に困った。

 とりあえず、次のテロを考える前に、合格発表シーズンの監視は厳しくすることに決めただけだ。

 それで話は終わったとばかりに、骨無しペンギンは椅子から立ち上がった。

 そしてモチモチを引き連れて、歩き出す。


「ところでモッチー」

「今度はなんですか」

「さっきまとめてもらった話なんだけど、一点訂正することができた」

「…………」

「怖い顔で睨まないでくれたまえよ。大した手間じゃないんだ。はっはっは」


 だったら、最初から言えよ、とモチモチは表情一杯に不満を浮かべていた。

 しかし、こればかりは最初から言うことはできなかった。



(だって、ドラ子くんと話していたら思い付いた、面白そうなアイデアだからねぇ)



 果たして、ドラ子が無事に試験を終えることができるのか、それとも項垂れた顔でいるところで骨無しペンギンに勧誘されるのか。


 その答えもまた、再来週の土日が終わったら分かることだろう。



『混沌・中庸』もしくは『混沌・悪』

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