142 お問い合わせ『魔王との関係性を疑われています』4
ちょっと遅くなってすみません
一同、黙々と食事を終え、食後のお茶を飲んでいるところ。
話題はもう一度、先のチケットに戻って来た。
「例えば、モンスター召喚関係の術式の修行中に、実は兄弟弟子がいて、その兄弟弟子が魔王軍に仕えている可能性がある、という王道少年漫画パターンはどうかな?」
一人だけ三杯のおかわりをしたドラ子が、妙案とばかりに言った。
それは、物語の終盤まで待たずに、中盤辺りで情報を開示していくパターンだ。
例えば、とある特殊な能力を持った主人公がいたとしよう。
主人公がその特殊な能力で順調に冒険を進めて行く中で、ある日、主人公と同じ能力を持った敵が現れるのだ。
それが自分の兄弟子だったり、身内だったりして、お互いに主張の食い違いから対立してしまう。
そのままずるずると終盤間近まで行き、お互いの意見をぶつけあって、ラスボス一歩手前で決着を付けたりするパターンが存在するのだ。
そしてこれは、主人公ではない仲間キャラストーリーでも展開可能なパターンだ。
なんなら、俗に言う俺に任せて先に行けで主人公をラスボスまで送り届ける、みたいなパターンだったらむしろ良くあるパターンの一つですらある。
だから、まだ物語は中盤だと信じて、仲間面して誤魔化すことは十分可能のはずだ。
まぁ、実際のところ恐らくこのお問い合わせ主と、件の魔王側でSolomonを使っている人は身内どころか面識すらないだろうが、ことここに至っては、そんなことは些細な問題と言えるだろう。
そんな妙案を思いついたドラ子に対して、白騎士は曖昧な笑みを浮かべながら音声ログを再生した。
──────
『────では、君は誰かから術式を学んだというわけではない、と?』
『当たり前じゃありませんの。詳しくは企業秘密ですけれど、私は誰かから召喚術式を学んだ訳でもなければ、誰かに教えるつもりもありません。そもそも、私以外にこの術式を扱える人間も知りませんわね。ですから、貴方達はせいぜい、私のご機嫌をうかがってちょうだいな? この闘技場のもたらす利益が理解できる頭をお持ちでしたらね?』
『──っ! 調子に……くっ、良いだろう!』
──────
「なんでこの人は煽っていくスタイルなの?」
「おそらく、この世界の管理者とコネクション持ってるから強気なのではないでしょうか……」
自分の過去の言動で、自分の未来を縛って行くことに余念のない問い合わせ主である。
余談だが、保守サポート部としては、大元の契約相手は世界の管理者レベルの相手であり、その管理者がどういった存在にSolomonを使わせるのか、までは関与していない。
こちらとしては、大元の契約相手ごとに『異世界○○』という番号を振り、その異世界○○の中で管理者が術式を下ろした相手ごとに『契約番号●●』という番号を機械的に振っているだけだ。
だから、術式の利用者が勝手に術式を広めたところで、契約内容外のことであれば、こちらはサポートをする義理も義務も無い。規約でもそうなったら知らんよと言ってある。
世界の管理者がその気になれば、世界の住民全てにSolomonを使わせるというのももちろん可能だろうが、その世界中から無制限にお問い合わせが来ても、こちらが対処できないので、そんな状況で無限インシデントプランなど結べる訳もない。
Solomonを利用する上で、保守サポートを含めた様々なサポートが必要な際には、当社の営業としっかり契約内容を確認して欲しい。
話は逸れたが、今までの質問者の迂闊な発言をまとめるとこんな感じになるだろう。
術式の情報は渡しません。
モンスターの入手先は明かしません。
他に術式を使える人も心当たりはありません。
「ここまで、自分独自の術式ですって顔してるんなら、やっぱり同じ術式を使っている相手が偶然いましたってのは難しそうだよな」
「ですね」
ここまで独占しておいて、急に魔王軍が同じ術式──ないし術式から召喚されるモンスターを使っていました、となったら、そりゃ疑われて当然というものだ。
誰だって『お前が協力してるんじゃねえか?』と思う。
「ここまできて、自分は魔王とは無関係ですって顔をするなら、もう術式の情報が盗まれていました、ってパターンしかないんじゃないか」
メガネは、まとめた情報から更に抜け道を提案した。
「闘技場のスタッフの中に魔王軍のスパイが潜入している可能性が高いので、こちら側で調査中です、って言っておいて少しした後に適当な報告書をでっち上げる、とか」
「こちらも被害者なんですって顔してしらばっくれるパターンですね?」
「報告書偽装の能力は必要だし、その後の展開も魔王軍の出方次第だし、なにより『じゃあ相手に渡った術式に対抗するために、お前の術式の詳細を教えろ』と言われたら、それでも『企業秘密です』でゴリ押す必要があるわけだが」
「聞くからに苦しいですね!」
メガネの提案は、こっちも盗まれた被害者なんですで押し通すパターンだった。
ただ、ありもしない被害をでっち上げる関係上、後々ボロが出そうなので、この迂闊なお問い合わせ主にどこまで出来るかは甚だ疑問だが。
「で、どう思う白騎士?」
「それではこちらの音声をご確認ください」
そして、白騎士は悲痛な面持ちを浮かべたまま、サルベージした音声を再生した。
──────
『──万が一、術式の詳細が漏れて、モンスターを使ったテロなどが行われた場合はどう責任を取るつもりだ?』
『見るだけでは術式の解析ができないことは、むしろあなた方のほうが良くご存知では? それに我が闘技場はセキュリティも万全ですのよ? 万が一、術式の詳細が外に漏れるようなことがございましたら……責任を取って王都を全裸で一周してあげてもよろしくてよ。ありえませんけれど。うふふ』
『──その言葉、確かに記録したからな!』
────
「…………」
「…………」
「…………」
メガネも、ドラ子も、そして白騎士も無言であった。
言葉も出ない、という感情を皆が理解したあと、少しだけ温くなったお茶を啜ってからメガネは言った。
「まぁ、こいつが全裸で王都一周するくらいなら特に問題ないな。解決だ」
「異議無しです!」
「待ってください!」
メガネとドラ子が問題解決と判断しかけたところで、白騎士は慌ててツッコミを入れた。
恐らくきっと、ほぼ間違いなくその解決法でお問い合わせ主は納得しないことだけは確かだった。
「もうちょっとだけ、もうちょっとだけ頑張りませんか?」
「と言ってもだな」
現状、ぱっと思いつく言い訳は並べてみたのだが、その悉くを潰して来たのはお問い合わせ主である。
ドラ子は、聖母のような優しい笑みで、白騎士を諭す。
「諦めよう? どうあがいてもこの闘技場、まっくろくろのくろくろくろすけだもん。助かる要素ゼロだもん」
「本当はシロなのに……」
ただでさえ、保守サポート部の仕事の範疇から逸れているのに、これ以上どうしろと言うのだろうか。
メガネの親切心は底をつき、既にマイナスに向かって振れ始めているところで、ドラ子はぼそりと尋ねた。
「そもそも、どんなモンスターが被ったら、こんな疑われるようなことになるわけ?」
純然たる疑問だった。
言ってはなんだが、Solomonで扱っているモンスターの種類はそこまで奇抜なわけではない。
凝ろうと考えればとことんバリエーションはあるが、普通に闘技場で召喚する類のモンスターが、そこまで特徴的な要素を持つとは思えない。
仮に、それほど特徴的なモンスターなら、魔王サイドと被るとも思えない。
だからこの状況は、良く考えると発生したこと事態が、かなりレアケースの筈だ。
いったい、どんなモンスターを召喚していたらこんなことになるのか。
「…………それは、多分、この音声から」
そして、白騎士が再生したのは、恐らく、このお問い合わせの発端になっただろう、会話であった。
──────
『──答えて貰おうか? なぜ、貴様の闘技場の目玉モンスターと、新たに魔王が使役しているモンスターが同じものなのか』
『な、なにを。モンスターですもの、被る事くらい……』
『しらばっくれるな! 普通のモンスターならいざ知らず! この『フロストジェノサイドドラグワームwithドリル』などというおぞましいモンスターが偶然被るものか!!』
『そ、そういうこともあるわよ!』
『あるわけあるか!! ドリルまで被るか普通!?』
──────
「……Solomonのせいだな」
「……Solomonのせいですね」
「……Solomonのせいなんですよ」
今まで完全にアホを見る目をしていたメガネとドラ子だったが、いたたまれなさそうな顔で、白騎士から目線を逸らした。
そりゃ、そんなトンチキなモンスターなんてSolomonからしか生まれないだろうし、そんなトンチキなモンスターが被ってしまうことも十分に有り得た。
だって! マニュアルに例として! 作り方が載っているから!
「これが、なんとか誤魔化してあげたいと思う、一番の動機と言いますか……」
「完全に自業自得のはずなのに、なぜこっちが悪い気がしてしまうんですかね……」
今まで、ドラ子は心のどこかで問い合わせ主に問題があると思っていたし、実際に先程までの答弁の態度からして、それで間違いない筈なのに。
気持ちとしては、今回の原因をマニュアルにねじ込んだ某ペンギンに、土下座させたい気持ちで一杯になるドラ子であった。
「あっ」
と、某ペンギンの顔を思い浮かべたとき、ドラ子は一つ閃いてしまった。
その顔を見て、白騎士は空から差し込んだ一筋の希望を見るような目でドラ子を見やる。
「どうしましたドラ子さん? 何か名案が?」
「名案っていうか、なんだけど」
それはくしくも、あの変態と同じ発想であった。
彼女は、あのふれあい研修の際、一体何をどうしようとしていたのか。
そう、あのペンギンは──
「逆に考えるのは、どうかな?」
そして、ドラ子の話を聞いた白騎士は、渋い顔をするのであった。
しかし、現状ではその提案以上の妙案がないのも事実なのであった。




