126 継続お問い合わせ『ダンジョンが臭い』2
『ダンジョン全体で同時に二十個以上の宝箱が開かれると宝箱の補充が上手くいかない場合がある』
違う。
『モンスターの召喚を行う際に稀に予定外の階層に召喚してしまう場合がある』
これも違う。
『清掃機能を利用した際に、誤ってトラップの一部が作動してしまう場合がある』
惜しいけど違う。
『領域使用率が高い場合、ミミックが稀に複数同時に配置されてしまう』
……………………。
「だあああああ! 不具合が多過ぎる!」
不具合一覧を見てクラクラし始めた頭を冷やすかのように、ドラ子はデスクに突っ伏しながらモゴモゴと呻くように叫んだ。
本当は大声で叫びたかったが、他の人の迷惑にならないように声を抑えた結果そうなった。
いったいどれくらいの間、不具合一覧と睨めっこしていたのか。
既に半数以上の不具合は確認を終えた筈だが、深刻な精神的疲労により、一時的な休息を脳が欲していた。
「日が暮れてしまう」
ぼそっとドラ子が零したところで、隣のメガネが呆れた様子で声をかける。
「今度はなに不毛なことしてるんだ?」
「不毛なのは私じゃなくてSolomonの不具合のほうです」
ドラ子が本音を零せば、それだけで事情はメガネに伝わった。
そしてメガネは、少しだけ考えた後に、ぼそりと言った。
「そもそも、清掃機能が途中で終了するのは珍しい。だから既存の不具合だとしても、清掃機能の方で検索した方が出てくるんじゃないか」
「…………」
言われたドラ子が、清掃機能の方で検索をかけてみる。
すると、さくっと一件の不具合が見つかった。
──────
不具合番号:71106
不具合概要:清掃機能が途中終了する
発生バージョン:Ver28.2以前
内容:
領域使用率が極端に高い状態で清掃機能を作動させた場合、機能を利用するための領域を十分に確保できない場合がある。その状態で、なんらかの要因で確保した領域を減らされるようなことがあると、その時点で清掃機能が異常終了してしまう。
発生条件:
ダンジョンの領域使用率が97%を超えた状態で清掃機能を発動する。
その際に、モンスターの召喚やトラップの設置などなんらかの要因で更に領域を確保しようとすると、清掃機能用に確保した領域に影響を与え、事象が発生する。
備考:
本不具合が発生した際は、エラーログに『Out of Memory Error』が出力される。
──────
「私の時間……」
一発で求めていた不具合を発見できたドラ子は、再び力が抜けたようにデスクに突っ伏した。
自分が無駄な時間を過ごしていた徒労感がマシマシであったが、同時に難しいと思っていたチケットが簡単そうだったという安堵もある。
なんだ既知不具合なら、あとはその説明をしてバージョンアップを促せば済む話じゃないか。
と、ドラ子が安易に考えていたところで、隣のメガネはまだ少し難しそうな顔をしていることに気付いた。
「どうしたんですか先輩? これが見つかったらもう、不具合案内するだけの、簡易チケットとして処理して良いんじゃないんですか?」
「いや、ちょっとな」
少し気になることがあったのか、メガネはさらに不具合チケットの内容を読み込んで言った。
「やはり、そうだな」
「何がそうなんです?」
「ドラ子。多分だが、今回の事象はこの不具合だけの問題じゃないぞ」
「うぇ?」
もうチケットは終わった気分でいたドラ子は、更に気の抜けた声を出す。
だが、メガネはそんなドラ子におかまい無しで話を進めた。
「この不具合内容から察するに、この不具合の発生確率は100%じゃない。それは何故かというと、Solomonは領域使用率が著しく高い場合は自動でのモンスター召喚などをストップする設定になっているからだ」
「ええとつまり?」
「本来、この不具合が発生するのはかなり稀なことで、ダンジョンが臭いとはっきり分かるまで、清掃機能が中断し続けるのはおかしいってことだ」
ドラ子も釣られてもう一度不具合情報を読み直してみる。
発生条件は清掃中にモンスターの召喚など何らかの要因で領域を更に削った場合とある。
だが、メガネが言うには、そもそも領域の使用率が高いと自動でそういった事は起きないと言う。
「ということはなんですか。清掃機能作動中に顧客がわざわざ手動でモンスターを配置していると?」
「もしそんなことしてるんならそれで良いんだが、恐らくそんな心当たりありそうなことやってたら流石に申告するだろう。そもそも、それ以前の話として、領域使用率が極端に高くなってるのがまず怪しいんだ。この規模のダンジョンで、コアを圧迫するほど領域を使用している現状がおかしい」
メガネは顧客が送って来たダンジョンの設定情報も眺めながらそう答える。
事象が発生しているダンジョンはオーソドックスな地下迷宮型で、階層数は12。
階層の広さ自体も、一階層の攻略に要する時間は2〜3時間程度を想定したものらしく、特におかしなところのないダンジョンだ。
ドラ子は決してダンジョンとコアの関係については専門ではないが、この程度のダンジョンであれば、安い中古のコアでも領域は必要十分だろう。
よっぽど強いモンスターを大量に配置しているなら話は別だが、ダンジョンの作り的にそういうわけではなさそうだ。
つまり、ダンジョンの情報と、メガネの言葉から導き出される結論は。
「先輩はこう言いたいわけですね。そもそも清掃機能が作動していないというのは副次的な不具合で、本当の不具合は異常な領域使用率の方なんじゃないかと」
ドラ子が神妙に尋ねる。
メガネは、どこぞのクイズ番組の司会のように、神妙な面持ちでしばし押し黙ったあと、カッと目を見開いて言った。
「正解」
「いやだあああああああああああああ!」
一方、クイズに正解してしまったドラ子は、全く嬉しくなさそうに頭を抱えたのだった。
そうやって嘆き苦しんでいる後輩に、メガネは良い顔で言う。
「良かったなドラ子。環境構築システムのログだけだったらもう一回情報取得投げる必要があったけど、顧客がたくさんログ送ってくれたから手間が省けたぞ」
「そんな嬉しくない幸運ありませんけど! え、ていうかこれ、私に手に負えるチケットなんですか?」
「やってみないと分かんないな」
「やってみて三日経っても分かんなかったらどうするんですか!」
ドラ子は回答の〆切ということになっている三営業日を盾に、自分には難しいのではと吐くが、メガネは素知らぬ顔で答える。
「そんときは、そんときだ」
「やっぱり、最近私に回ってくるチケット難易度高いですよね!?」
そして、既知不具合を案内するだけで済むかと思われたチケットは、やはり障害解析チケットに化けるのであった。




