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総合ダンジョン管理術式『Solomon』保守サポート窓口 〜ミミックは家具だって言ってんだろ! マニュアル読め!〜  作者: score


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10 プレ新人歓迎会4


 Solomonの保守サポート部全体の新人は、実のところもう少しいる。

 だが、その中でも二人は、保守サポート部の回答作成の班に入れられた二人である。

 その他の新人は、オペ子が属する受付窓口システムの新人であったり、保守点検を行うチームに配属されたりしており、回答作成班とはそれほど密な繋がりはなかったりする。

 というわけで、その期待の新人二人であるが、赤と白の二人は互いに自己紹介を譲りあった。


「ええと、白騎士(仮)さんから、お先にどうぞどうぞ」

「いえ、ドラ子さんからどうぞ」

「いえいえ、ここは回答作成ではやや先輩の白騎士(仮)さんから」

「いえいえ、年功序列で私より少し年上のドラ子さんから」


 この二人は互いに新人であるのだが、実はそれほど面識がなかった。

 というのも、回答作成という作業は、チームよりも個人作業に依るところが大きい。

 そして新人は、個人で回答を作成する能力が足りないので、先輩に協力を求めることになる。同じ新人に相談してもどうしようもないからだ。

 となると、新人同士の交流は必然的に少なくなる。新人歓迎会のようなもので顔合わせしたわけでもなければ、まともに顔も見た事がなかったりする。


 普通はそれでも、昼時に一緒にご飯を食べたりして、自然と仲良くなることもある。

 だがしかし、ドラ子は先輩に付いて外食派、白騎士(仮)はお弁当持参派であり、ここですら繋がりはなかった。

 この、新人同士が仲良く成り辛い構造が新人の離職率を上げており、ひいては保守サポート部の人員不足を呼ぶ遠因ではないかと思われるが、具体的な証拠(エビデンス)はない。


 そんな二人の唯一の接点は、共に一番お世話になっている先輩が眼鏡の青年であるというところである。


「いや、どっちでも良いから。じゃあドラ子が到着遅れたから大トリで、白騎士(仮)から」

「は、はい……わかりました」


 先輩から雑に指名された白い髪の少女が、困惑顔で自己紹介に応じた。


「ええと、そもそもなんですけど、私なんで白騎士(仮)っていう名前を与えられてるんですか? 私、確かに白いですが、騎士でもなんでもないのですが」

「そこからか」


 おずおずと、今まで実は疑問に思っていたことを白騎士(仮)が口走った。

 当然のことだが、ここにいる全員──ハイパーイケメン蝙蝠にも、レッサーゴブリンにも、オペ子にもメガネにも、ちゃんと本名がある。

 あるが、基本的に社内では本名ではなく、自己申告した──あるいは上から与えられた『社員名』を名乗ることになっていた。


 なぜそんなことになっているのかと言えば、それはこの社会が、雑に色んな種族が混ざり合った世界であるためである。

 この世界は、大雑把に言えば、もともといた種族や、どこかの異世界から転移してきた種族との交雑が繰り返されて出来ている。

 となると当然、人名の命名規則だのなんだのも、色んな世界のものが入り交じっていて面倒なことになっているのだ。

 例えば、おんなじような顔をした似た様な種族の二人が居て、共に通称は『マキさん』なのに、片方は『カタギリ・マキさん』、もう片方は『マリダオジデアオヂ・エミュィユゥゥヒモエダネ・ゴシルドウキノマキさん』、だったりする。


 ぶっちゃけ名前の幅が広すぎて管理する側が面倒なので、この世界の会社では社員名というものを別で発行し、それで管理することになっている。

 そしてこの社員名を含めた情報を政府に提出することで、社会人としての身分を得ることになっている。

 で、この社員名は一応公的なものでもあるのだが、拘る人間とすごい適当に決める人間の二通りがいる。

 拘る人間は『少し待って欲しい』とかいうので、『(仮)』のついた仮名が期間限定で与えられ、適当に決める人間は『メガネ』とか『ドラ子』とか、まんまの名前が付くのだ。


「というわけで、君が正式名称を決めるまでの、こっち側で適当に付けた仮名だから『白騎士(仮)』というわけで」


 そんな説明を淡々とこなすメガネに、ふむふむと頷く白騎士(仮)。

 だが、頷いている途中で気付いた。


「なるほど……いえ、すみません(仮)の部分は分かったのですが、白騎士部分が分かりません」

「それは俺も知らない。なんでなんです蝙蝠さん?」


 そこでメガネは、自分で社員名に『ハイパーイケメン』とか付けちゃうちょっとアレな頭をした蝙蝠に尋ねた。

 蝙蝠はメガネの話の最中にグビグビと飲んでいたビールジョッキを空にしてから、んー、と思い出すように唸る。


「確かアレだよ。白騎士(仮)ちゃん、面接のときにすんげーガチガチだったじゃん? ちょっと痛いとこ突かれると、めちゃくちゃ深刻な顔してたのが、面白くて。なんか追いつめられたら『くっ殺せ』とか言いそうだなこの子、って思ったから俺が推しときました」

「付けたのあんたかよ」


 しかも、付けた理由がわりとどうしようもなかった。

 なお、良い子の白騎士(仮)ちゃんは、首を傾げて「くっ……ころ?」などと呟いている。


「とにかく、そんなわけだから、君がちゃんと名前を決めたらそれになるので気にすることなし。確か入って半年くらいが期限で、そこ過ぎると正式に『白騎士』になるから気をつけてね」

「はぁ……では改めて、自己紹介いたします」


 いまいち腑に落ちていない様子の白騎士(仮)であったが、いつまでもそのままというわけにもいかず、自己紹介をはじめる。


「改めまして、ええと、白騎士(仮)です。なんでしたっけ、ああ、好きなダンジョンは財宝の眠る古代遺跡型です。白騎士、と呼ばれていますが、種族は白虎の流れを汲むものです。よろしくお願いします」


 折り目正しく丁寧な自己紹介であった。

 だが、お互いに勝手知ったる先輩連中と違って、新人の自己紹介がそんなすんなり終わることを許される筈もない。

 とりあえずなんか聞いたろ、という精神で蝙蝠が手を上げていた。


「はい! 質問です!」

「ええと、はい、蝙蝠さん」

「好きな男性のタイプは?」

「んえ!?」


 白騎士(仮)は、気が動転したように唸り声を上げていた。

 なるほど確かに、世が世であるなら顔を真っ赤にしながら『き、貴様ぁ! なぜそんなことを聞くのだ!?』とか言い出しそうな唸り声であった。

 そしてフリーズから再起動した白騎士(仮)は、言葉遣いは違えど、同じような意味の言葉を返す。


「な、なぜそんなことを聞くんです!?」

「だってさほら。一緒に仕事をしていく上で、どうせなら嫌われるより仲良く仕事したいじゃない? 生理的に無理とかならともかく、ある程度は付き合いたいタイプを把握しておけると、接する時にありがたいかなと」

「な、なるほど。今後のお仕事のためなんですね」


 ペラペラと、何やら説得力がある風なことを口走る上司に、思わず納得する新人。

 だが、それを第三者視点で見ていたもう一人の新人は、そっと隣の眼鏡へと尋ねる。


「とか言ってますけど、あの人、単に若い女の子をからかいたいだけですよね?」

「おそらくな。大丈夫、まだイエローだ。奥さんに報告するほどじゃない」


 実は影でこっそり、蝙蝠の奥さんに旦那の監視を頼まれているメガネは、自分の携帯デバイスに伸びかけた手を引っ込めた。

 そんなメガネの葛藤をよそに、白騎士(仮)は生真面目に質問に返答する。


「そうですね。あんまり派手に遊んでいるような人は少し苦手です。それよりは、無愛想でも仕事が正確な人が良いです。あと優しいに越したことはないですね」

「なるほど。静かで、仕事が正確で、優しくて、ハゲてない人と」


 蝙蝠の確認の言葉に、一人が盛大に反応して跳び上がる。


「今ハゲ関係なかったでしょ!? え、なかったよね!?」


 大袈裟に反応するレッサーゴブリンの剣幕に、白騎士(仮)は慌てて答える。


「は、はい! 頭髪の話はしてませんでしたよ」


 新人の若い女の子にフォローされ、ほっと胸をなで下ろすレッサーゴブリン。

 その隙を狙って、メガネがぼそり、と尋ねた。


「でもハゲよりは?」

「ふさふ……いえ! 何も言ってません!」


 思い切り口走りかけたことを、全力でなかったことにする白騎士(仮)であった。

 レッサーゴブリンは振り向きかけた身体を、今度は必死に抑え込んだ。

 ここでハゲに反応しては、逆説的に自分がハゲであると認めるような気がしたからであった。最初に反応した時点ですでに遅い気もするが。

 そんなレッサーゴブリンの努力に苦笑いしつつ、オペ子が白騎士(仮)へ尋ねる。


「それじゃ、なんでウチに入ってきたの?」

「あ、はい。私昔からずっとダンジョンとか好きで。ただ、こういう世界だとやっぱりダンジョンマスターとか求人ほとんどないですし。かといって自分でダンジョン作ろうにも、開場資金もないし、安定した収入を得るのは難しいですし。それなら、せめてダンジョンに関わる仕事がないかなと思って、親に相談したところ、こちらに」


 キラキラとした目で答えた白騎士(仮)に、メガネとオペ子が口を揃えて言った。


「「なるほど、なら悪い事は言わないから転職しよう?」」

「な、なんでですか!?」


 白騎士(仮)、本日二回目の盛大な疑問であった。

 だが、ミミック時代を戦ってきた猛者であるオペ子とメガネは、目のハイライトを消しながら言う。


「白騎士(仮)よ。断言するけどこんなところで働いたら、ダンジョン嫌いになるぞ」

「今までダンジョンに思い描いていた夢と理想が、崩れ去ると言ったほうが正しいわね」

「ダンジョン──特にSolomon製のダンジョンを嫌いになる前に、早く他の会社に移った方が良い。でないと今後まともにミミックを見ることができなくなる」


 先輩二人の声は、脅しをかけているわけでもなく、ただただ真剣だった。

 白騎士(仮)が二人の負のオーラに気圧されないうちに、蝙蝠が割って入る。


「こらこら、新人にそんなこと言ったら信じ込んじゃうぞ、ははは」

「「真実ですが」」

「ははははは」


 蝙蝠もまた、曖昧な表情で「ははは」と笑いを浮かべるだけの人形と化した。

 否定できる材料がないためであった。

 深堀りされる前に、蝙蝠が場を流す。


「とりあえず、まぁ、色々とあるとは思うけど、これからもよろしくね」

「なぜか、そこはかとない不安感が拭えませんが、よろしくお願いします」

「じゃあ、次いこっか」


 いまいち腑に落ちない顔をしながら白騎士(仮)は自己紹介を終えた──というか蝙蝠が終わらせた。

 そうなると、最後に残ったのは赤い髪に、二本の角を生やす少女である。

 少女は大トリで少しやり辛そうにしていたものの、勢いを付けて椅子から立ち上がり、そのままの流れで自己紹介を始めた。



「はい! それでは最後に、私の名前は──」

「唐揚げでーす!」



 始められなかった。

 ちょっと前にビールが届くよう注文していたということは、そこから少し経ったころに注文していた料理が届くということである。

 この時間差攻撃は、ダンジョンにおける時差式トラップに通じるところがある。

 時差式トラップは、忘れた頃にやってくるのだ。

 料理を運んできた店員は、ちょっとやっちまった感を出すが、気を取り直して料理を次々と運び込む。

 そして注文の品を運び終えたところで、失礼しましたーと元気よく去っていった。


 立ち上がったまま、所在なさげにしていたドラ子は、すっかり勢いを削がれてぼそり。


「……以上で自己紹介を終わります」


 それから静かに座った。


「いや始まってねえよ唐揚げ。このままだとお前の名前『唐揚げ』だぞ」

「もはや羞恥プレイなんですけど!」


 とは言うものの、この状況で自己紹介終わりというのは許されず、ドラ子はもう一度渋々と立ち上がるのだった。


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