表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
総合ダンジョン管理術式『Solomon』保守サポート窓口 〜ミミックは家具だって言ってんだろ! マニュアル読め!〜  作者: score


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

103/253

102 休日『ゴーレム農家の人の動画鑑賞』5




 ────ゴーレム四体討伐後


『みなさん見て下さい! この迷宮に入って初めての食べ物が目の前にあります!』


 四体のゴーレムを討伐し、出来た土をかかし一号にえっちらおっちらと運ばせて、それらを一カ所に集めたゴーレム農家の人。

 ダンジョン内の水場(Mの優しさ)の近くに作られたそれは、水はけもクソも無さそうな狭い畑だが、しかし確かに、動画上で初めて作られた畑である。

 畑に植えられた何かの植物の種は、事前説明の通りに即座に実る。

 これまでゾンビ食が基本だった動画で、初めてヒトの食べる物が現れた瞬間であった。(ゾンビ肉は食べ物に含まれないらしい)


『見て下さいこのたわわに実ったピーマン、にんじん、ピーマン、ナス、ピーマン、青唐辛子、ピーマン、パプリカ、ピーマン、ピーマン……ピーマン……いやどんな偏り!?』

「ふふっっw」


 色とりどりの野菜、と言いたい所なのだろうが、その比率は大分緑に寄っていた。

 恐ろしい程のピーマン率であった。

 それまでも画面から見える情報にツッコミのコメントは入っていたのだが、ゴーレム農家の人がしっかり口にしたところで、ようやく言えるとばかりにコメントがどっと入る。


『お子様涙目動画ww』

『R-18理解wwww』

『M「こらロック! 好き嫌いしないでピーマン食べなさい!」』

『ウチの母ちゃんでもここまで露骨な食卓は作らなかったぞwww』

『俺はピーマンよりナスが苦手だった』

『初手青唐辛子行こう』

『主に夏野菜なのはなんか理由があるのだろうか』

『※M曰く「種の出現率は均等。マジでロック君がクソ運なだけ」とのこと』

『どんだけピーマンに愛されたらこうなるんだよwww』


 確かに種のドロップは見ている限り完全なランダムっぽく見えた。

 恐らくM(動画制作者)がゴーレム農家の人を、ぬか喜びさせるために設定したであろう種のドロップだから、尚更そう思う。

 つまり、土がなくてどうせ育てられない種の種類が何だろうと、どうでもいいということだ。

 そのはずなのだが、あまりのピーマン攻勢にゴーレム農家の人でさえ苦笑いであった。


『まぁ良いです。調理法は直火で焼く一択ですが、まずはその前に生でも食えるにんじんを食して行きたいと思います』


 言うと、生でにんじんを食べる、という発言に対して否定的なコメントもいくらか上がる。

 だが、そのコメントを予期していたようにゴーレム農家の人は言った。


『生でにんじん、って言うと想像できないかもしれません。でも、焼いたゾンビ肉と生のにんじんだったらどっちを選びますか?』

「にんじん」


『にんじん』

『にんじん』

『言うまでもなく人参』

『選択肢用意して?』

『焼いたにんじんで良くない?』

『火を通す時間がもったいない』


 その二択ではさすがににんじんであった。

 満場一致でコメント欄がにんじんに染まった辺りで、ついにゴーレム農家の人は、ゴーレムの土から取れたにんじんを一本引き抜く。

 水洗いもそこそこに、鮮やかなオレンジ色に染まったそれに、先端からかぶりつく。

 バリボリ、と固いものを噛み砕く音の後、ゴーレム農家の人は涙を流さんばかりの表情で言った。


『仄かな甘さが口の中一杯に広がって……今まで食った物の中で一番美味い』

「そりゃな」


『今まで食った物が悪過ぎるwww』

『今まで食ったものリスト、ゾンビ肉、にんじん(NEW!)』

『人間が農業に目覚める瞬間を収めた貴重な映像』

『全米が泣いた食事シーン』

『むしろ笑っとるやんけ』

『これからは食事(?)から食事になるんやなって』


 各々が好き勝手なことを言っているが、曲がりなりにもここまで動画を見て来た面々である。

 その根本にははっきりと、ゴーレム農家の人と共に状況の進歩を喜ぶ感情があった。

 ダンジョン攻略動画は数あれど、パート二桁に入ってからようやく初めての食料が手に入る動画はなかなか稀だろう。

 その後もゴーレム農家の人の野菜食レポはしばらく続き、あらかた野菜を素材そのままで頂いた後に彼は言った。


『それでは一通り今ある野菜を食べてみたということで。新しい種を求めてかかし一号と徘徊狩りをしたいと思います』

「ダンジョン攻略はどうした」


 食事に目覚めた彼にとって、ダンジョンの攻略は二の次になっていたのだった。



 ──────



 それから暫くは、カットを多用しながら新しい種を見つけてはそれを植える作業を繰り返し、パートが少し進んだところでようやくダンジョン攻略のことを思い出したゴーレム農家の人。

 かかし一号はダンジョンの階段を通ることができず、別れを越えてようやく進んだその先の先──80階層のボスを上げすぎたレベルでやや強引に突破した79階層で、それは見つかった。


『えー、現在79階層に到着しましたが……死にたい』


 そう言って、ゴーレム農家の人は力を失い地面に膝を突いた。

 そう。床ではなく、地面に、である。

 ダンジョンの80階層を越えた先は、これまでの石造りのダンジョンから一変して、土と草、そして僅かに太陽の見える森林系ダンジョンになっているのだった。


「ゴーレムを倒した意味www」

『流石にワロタ』

『M「だからはよ進めって言ったのに」』

『そりゃそうだわwww嫌がらせのためだけに種ドロップはしねーわwww』

『M「この先で畑作れるのになんでこいつゴーレム倒してんだ……?」』

『動画見てるだけでこんな愉悦感じることそうそうないよwww』

『苦労して畑作ったのになwww』

『良く見るとご丁寧にスタート地点からここまでワープできる魔法陣もある』

『Mにも人の心はあったらしい』

『あの畑どーすんのwww』

『かかし一号は新しい畑が作られたとも知らずに一生待ち続けるんだろうなぁ……』

『かかし一号「まだかな? まだかな?」』

『ひのきの棒「浮気者にはお似合いの末路ね」』


 ゴーレム農家の人の心情を考えるといたたまれないのだが、それ以上に状況が面白すぎてドラ子は腹を抱えて笑い転げるしかなかった。

 そう。彼女は、どちらかと言うと人の不幸で楽しめるタイプであった。


「ダメだ。酒が止まらん。もう少し呑んじゃお!」


 もはやなんの為に動画を見始めたのかもあまり覚えておらず、ドラ子は冷蔵庫から新しい缶ビールを用意するのだった。


 ちなみに、この辺りで土曜日は終わっていた。


 その先も、ゴーレム農家の人の挑戦は波乱万丈、山あり谷ありの様相を呈す。

 だいたい、何かエサのようなものが現れて、それに食いつくと悉く罠だが、最終的に得る物自体はあるといった感じ。

 その一連の流れが恐ろしいほどにハマっていて、ゴーレム農家の人のリアクションと共に、ダンジョン制作者の性格の悪さも窺える。

 この動画を投稿しているのはゴーレム農家の人だが、面白くしているのはもしかしたらMの方なのかもしれない。

 そんな思いでドラ子は酒を飲み、つまみを食べ、そしてそろそろ眠くなって来たなと思ったところで外を見る。

 外は、暗かった。


「ありゃ、もう土曜日終わっちゃったかぁ」


 もしも、もしもドラ子が思慮深かったらこの時点で気付いただろう。

 いま終わろうとしているのが、土曜日ではなく日曜日であることに。

 しかし、本気になったドラゴンにとって一日という区切りはあまりにも曖昧だ。

 その気になれば何年でも、平気でダンジョンの奥に篭っていられる生き物なのだ。

 しかも、本当にその気になれば睡眠も食事も排泄も必要の無い生き物なのだ。

 動画を見ていたらうっかり、三十時間以上経過していたなどと、このときのドラ子は考えもしなかった。

 さっき動画を見始めたばかりくらいの認識であった。


「キリの良い所までは見たし……ま、お仕事は明日やれば良いか」


 ドラ子はそう言って、今日はすやすやと眠ることを選んだ。

 本気になれば睡眠も食事も要らないが、彼女はその『娯楽』をむしろ積極的に貪るタイプのドラゴンであった。

 だから『ちょっと眠い』と思ったら『もう寝よう』に思考はシフトする。




 そして案の定、彼女が目覚めたのは、月曜日の朝であった。




「どうして……?」




 アラームもセットしていなかったのに、ドラ子の身体は律義にいつもの起床時間に目覚めた。問題はいつもの起床時間ではやろうと思っていたことができないことであった。


「なんでなんでなんで? 日曜日は? 丸一日寝てたってこと? 嘘でしょう?」


 知らぬは本人ばかりである。

 混乱した頭のまま、バタバタと出社準備を進めつつ、ドラ子は冷静にここから先にどうすれば良いのかを考えはじめる。


「大丈夫。会社まで電車で一時間弱。参考動画は単発で二十分強。1.5倍速で見て要点をまとめるだけなら電車の中で出来る。余裕余裕。そう私は出来る女ドラ子。この程度の危機何度も乗り越えて来た。そうでしょう?」


 と、出来る女とはほど遠い独り言を零しながら、ドラ子は算段をつけた。

 朝のミーティングまでに、回答の方針を説明できるようになっていれば良いのだ。

 そう考えれば、むしろ時間に余裕があるくらいではないか。


「よし。そうと決まれば焦らずのんびりご飯食べて行こう」



 出来る女かどうかはともかく、神経の太さだけは誰にも負けないドラ子であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
性格が悪い…頭文字M…生かさず殺さずの難易度…まるで混沌・悪かのような滲み出る悪辣さ…この人を弄ぶ事に一切の良心の呵責を覚えてなさそうな扱い、もしかして…いやまさか(
[一言] M、、、メガネ、、、ロック、、、ゴーレム、、、ゴーレム部長?!(迷推理)
[良い点] ドラ子、むしろ土日だけで済んで良かったね………。 [一言] Mの良心を信じきれなかったゴーレム農家さん…どんまいw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ