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02. 護国騎士団2

 ぞろぞろとやって来たのはむさ苦しい筋肉の集団だ。


「チリアン、王宮騎士たちは追い払ったぞ」

「あいつら弱いくせに口だけは達者だよな」

「ようコルク、色男が台無しだな、居心地はどうだ」

「なんだ、意外に元気そうじゃないか」


 護国騎士団は一から五までの隊で構成されている。チリアン隊長と俺は第一隊に所属しているが、その他の隊を率いる隊長たちが連れだってやって来た。


「これはこれは皆様、ようこそいらっしゃいました。なんのおもてなしもできずに申し訳ありません。ここから出していただければ、すぐにでも美味しいお茶を淹れて差し上げるのに残念でなりません」


 普段からよく顔を合わせている隊長たちなので、軽口を叩いて迎えると呆れた視線を向けられた。


「どこにいても口の減らない奴だな、お前さんは」

「出たら茶など淹れる間もなく、王宮騎士に引っ立てられるだろうよ」


 やっぱりというかなんというか、俺を引き渡すよう要求されているようだ。


「それにしてもお前が女で失敗するとはな」


 第二隊長の言葉を皮切りに、チリアン隊長以外がにやにやと笑った。この状況を面白がられているのがわかる。

 俺の人生がかかっているからこそ、笑い話にして気を紛らわせようとしてくれているのかもしれないが、冗談のセンスのない人たちである。


「よりにもよって錬金術室長に手を出すとは、なかなか肝が据わっている」

「待て待て、他に聞くべきことがあるだろう。そう、つまりは噂どおりの神秘的な美人だったのかどうかだ」


 錬金術室は護国騎士団などに比べると、普段はまず表に出て来ない。だからこそ皆、面白がって噂をする。錬金術室は美女の集団だとか、男も美形を揃えているとか、王族のお気に入りだけを集めたのだとか。


「ええ、噂通りの美人でしたよ」


 それらの噂を踏まえた上でにっこり答えると、隊長たちは揃って白けた顔になった。


「こいつ全然、反省の色が見えないぞ」

「おい、王宮騎士を呼び戻したほうがいいんじゃないか」

「そうだな、きつく取り調べてもらうべきだ」

「お前に言っているんだぞ、チリアン。他人事のような顔をするな」


 他の隊長たちに訴えられた我が上司は不思議そうに首を傾げた。


「神秘的な美人とは如何なるものか」

「食いつくところがそこか? 部下も部下なら上司も上司だな」

「神秘的といったら、儚げで今にも倒れそうなそんな感じじゃないか」

「それじゃただの病弱な女じゃないか」

「だったら何をもって神秘的というんだよ」

「そりゃ何を考えているかわからないような女のことだろう」

「不思議な顔つきをしているんじゃないか、魚みたいな顔とか」

「美人の要素が抜けたぞ」


 結論。うちの隊長もおかしいが、他の隊長だって似たり寄ったりだ。なんだこの、どうでもいい会話は。


「ともかくその美人が目を覚まさないかぎり、コルクはこのままなんだろう?」

「美人は決定なのか」

「だってコルクがそう言ったじゃないか。どうなんだ、チリアン」

「美醜の如何は人それぞれだろう」

「つまりお前は美人と思っていないのか?」

「いや、あまりよく見ていないだけだ。服を着ていない女性を凝視するのは失礼だろう」

「隊長、言い方!」


 いや事実そうだったんでしょうけど、皆さん笑い話にしようとしてくれたのに、現実を突きつけられて、気まずい表情になってしまったじゃないですか。美人と下品なネタが好きな人たちを黙らせるとか、うちの隊長ってば本当に怖い。


「だが思い返してみると、それなりに整った顔立ちだったような気はする。しかし一見して美人であればもっと記憶に残っていそうなものだが、一番印象に残っているのは」

「隊長、もういいですから」


 本当にもう止めて。俺まで恥ずかしくなってくる。


「ちょっと待て、そこで止めたら逆に気になるじゃないか。一番印象に残っているのはなんなんだ」


 第四隊長が、女性への配慮よりも好奇心を満たすことを選んだ。


「燃えるような赤髪だった」

「赤髪?」

「それが一番の印象なのか」


 隊長たちはあからさまにがっかりした様子で、噂ほどの美人ではないと判断したようだ。

 たとえ美人だったとしても、隊長たちにはなんの関係もないだろうに、これも男の性なのかもしれない。

 などと考えていたら、隊長たちの表情が引き締まった。


「まあ冗談はこれくらいにして、俺たちが集めた情報を共有しておこう」


 隊長たち自ら、事件の情報収集にあたってくれていたとは恐れ入る。


「ずいぶんと強力な催淫剤が使われた痕跡があったらしい。意識が飛ぶほど強力に調合されたもののようだが、効力は一時間ほどで消える。その後はこれまた強力な脱力感に襲われるそうだ」

「コルクが消えていた時間はおおよそ一時間半といったところだから計算としては合うな」

「その間、あの部屋の近くは人払いされていたらしい。だが人払いの情報は出回っていても、誰がなんのためにというのは、誰も知らされていなかった。まあよくあることなんだろう、貴族たちが密会に使っていた部屋だそうだからな」


 だからあの部屋にはベッドなんか置いてあったのか。


「最初に見つけたのは王宮の侍女らしいが、その当人を見つけることは出来なかった。面倒ごとに関わり合いたくないか、もしくはお前たちを見世物にするのが目的だったのだろう」

「狙われる心当たりは?」


 尋ねられたことに、肩をすくめて苦笑を返した。


「職業柄、恨みは山ほど買ってますからね」

「だよなあ、怪しいっつったら王宮騎士隊の奴らの嫌がらせってこともあるだろうしな」

「それはさすがにないんじゃないか。よりにもよって嫌がらせの相手に錬金術室長をあてがわないだろう」


 錬金術室長に王侯貴族との結婚の話が出ていることは有名なので、わざわざ彼女を使いはしないということだ。

 そういえば王宮騎士隊長も、その噂相手の一人だったような気がする。


「しかし短時間のうちによくそこまで調べられましたね。王宮騎士たちが黙っていなかったでしょう」

「ま、それなりに伝手を使ってな」

「お手数をかけてしまい申し訳ありません」

「馬鹿言うな、お前をみすみす向こうに渡して犯罪者に仕立て上げられたら、今後の騎士団の運営に差し支えるじゃないか」

「護国騎士団の上部から犯罪者を出しては、他から何を言われるかわかったものではないからな」


 間接的に気にするなと言われているのはわかるが、自分の油断が招いたことなのでやるせない。


「まあお前は被害者でもあるんだ、そんなに気に病む必要はないさ」

「いえ、一番の被害者は錬金術室長でしょうから」

「それはまあ、そうだな」

「ずいぶん酷いありさまだったらしいしな」

「馬鹿!」


 うっかり口をすべらせた第四隊長の脇を第五隊長が肘で打った。


「あの、酷いありさまってどういうことですか」


 隊長たちは気まずそうに視線を逸らし、チリアン隊長だけが俺を静かに見つめてきた。


「痣が多数見られたそうだ」

「痣ですか?」

「主に手足や腹部で、最中に強く握られたせいだろうということだ」


 すべてを説明されなくともわかった。つまり俺はずいぶんと乱暴に彼女を抱いてしまったのだ。

 淡々と話す隊長に、他の隊長たちが苦い顔をした。


「おいチリアン、もう少し言い方があるだろうが」

「起こったことを取り繕っても仕方あるまい。彼女が被害者と決まったわけでもないのだ、事実を見なければ真実には辿りつけない」

「え、お前、女を疑っているのか?」

「もし彼女が、持ち掛けられた見合いを断りたいと思っていたら、どこかでコルクを見初めていたら、護国騎士団に恨みがあったのだとしたらどうだ」

「どうだと言われても、自分の体を差し出して騒ぎを起こすなんて、まともな女なら考えないだろう」

「彼女がまともだという根拠がない」


 戸惑う隊長たちとは裏腹に、チリアン隊長に揺らぎは見えない。本気で言っているのがわかる。


「それに痣やちょっとした傷が出来たとしても、自分で作ったポーションで治せるだろう」


 錬金術室は護国騎士団を含め、王宮の各組織が使用するポーションを作成している。数に限りがあるので十分に行き渡っているとは言えないが、それでもその恩恵はとても大きい。

 市井にも錬金術師がいることはいるが、その技術は王宮の組織として集められた錬金術室とは比べ物にならないレベルで、ポーションの効果にはっきり差が出ている。


「ちょっと待ってください、俺は彼女が犯人だとは思えません」

「なぜだ」


 たしかに錬金術室長なら自分の傷くらい簡単に治せるだろう。しかしチリアン隊長の仮説には何か引っ掛かりを感じた。

 がりがりと頭をかいて記憶を探る。思い出せ思い出せ、思い出せ。


「えっと、そう、あの部屋に入って彼女を抱き起こしたとき、言われたんです。逃げてと」


 その後はしなだれかかられ俺も催淫剤の効果で我を失ってしまったが、確かに彼女はそう言っていた。


「逃げるとは催淫剤からか」

「たぶん、そうだと思います」


 チリアン隊長は頷きながら顎に手を当てた。


「彼女が目覚めたとして、お前のように記憶が曖昧だとしたらまずいな」

「その前にこちらの聴取に応じてくれるとも思えんが」

「それこそ王宮騎士隊が邪魔をしてくるだろうよ。奴らと錬金術室はそれなりに付き合いがあるのだろう?」

「組織的な付き合いはわからないが、侯爵の子息である王宮騎士隊長は、幼い頃から国王陛下の遊び相手として王宮に来ていたらしいので、王宮で育ったという錬金術室長と接点があってもおかしくはないだろう。年の頃も同じくらいのはずだ」


 容赦ないチリアン隊長の推測に、同情的な視線が俺に向けられた。

 王宮騎士隊とは仕事で関わることがない。当然ながらその隊長と付き合いのある者もここにはいない。

 噂では国王陛下の信頼が厚く、人望も優れているとのことだが、どこまでが本当か定かではない。




 そうして一通りの情報共有が終わると、隊長たちは留置所を出て行った。

 一人になると途端に静けさに襲われ、やることもないので今日の出来事をなるべく詳細に思い出そうと試みる。

 しかし白くて柔らかい肌の感触だったり、たぶん催淫剤の影響だろうが、彼女を求めた記憶が蘇り、妙な切なさに襲われて止めた。まだ薬が抜けきっていないのかもしれない。


 それにしても彼女の顔か。実はおぼろげにしか思い出せないけど、不美人という感じはしなかった。ただどこかで見たことがあるような気もするんだよな。

 騎士の仕事で錬金術室と関わることはないし、行動範囲が違うからか、王宮内で錬金術室員を見かけることもほとんどなかった。職業柄、人の顔は憶えている方なのに、どこで見たのか思い出せないということは、やはり気のせいだろうか。


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