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06 王子11歳の冬~会えない寂しさ~

 時間が経つのは早い。気付けば木々の葉が落ち、本格的な冬が目前に迫っていた。

 私は18歳の誕生日を前に領地運営の手伝いを本格的に始め、毎日を忙しく過ごしていた。王都と領地を交互する日々で、ウィルとのお茶会も自然と間隔が空いてしまっている。

 手紙のやり取りはしているものの、あのキラキラ天使に会えないのは少し寂しいなと思っていた頃だった。


「お嬢様、お手紙です」


 執務室で書類を読んでいると、この冬から私の専属執事となったオーウェンが数通の手紙を持ってきた。

 オーウェンが既に開封し、優先順にしてくれているので上から順に読んでいく。3通目にウィルからの手紙を見つけ、私はそっと開いて読み始める。


『親愛なるキャリー

 寒さが厳しくなってきたね。前回会ってから3週間が経ったけれど、忙しすぎて風邪はひいてない?

 僕は最近、いろんな領地の勉強を始めたよ。将来キャリーの役に立つと良いのだけれど。

 もうすぐキャリーの誕生日だね。パーティーで会えるのは分かっているけど、早く会いたいな。

 君のウィリアムより』


 ああ…ウィルの成長を感じるわ。頻繁に手紙のやり取りはしているから短い内容だけれど、私の身体を気遣い、近況を報告し、婚約者に会えなくて寂しい心境を書く。子供の成長って早いのねぇ。

 次に会えるのは私の誕生日パーティー。既に招待状を送ってあるし、エスコートもお願いしてある。

 私は後でゆっくり返事を書こうと、手紙を引き出しにしまった。まずは今日の分の仕事を終わらせるべく、机に向かった。


『親愛なるウィル

 先日庭で霜が降りているのを見ました。寒いはずです。私は毎日忙しくしていますが、元気です。

 ウィルこそ勉強を頑張るのは良いことですが、たまには息抜きをしてくださいね。

 パーティーで会えるのを楽しみにしています。

 あなたのキャリーより』


 他愛もない内容だけれど、こうやって手紙で繋がるというのもなかなか良いものね。

 私は書いた手紙を丁寧に封筒にしまうと、封蝋でしっかり封をしてからオーウェンに渡した。


 数日後、またウィルから手紙が届いた。


『親愛なるキャリー

 お返事をありがとう。キャリーが元気そうで良かった。

 少し早いけれど誕生日プレゼントを贈るよ。生地は僕が選んだんだ。気に入ってくれると良いのだけれど。

 良ければパーティーで着てほしい。

 君のウィリアムより』


 私は手紙と一緒に贈られてきた大きな箱を開けてみた。中には深紅のドレス。

 これ、オーダーメイドよね…ネックレスとイヤリングもセットだわ。流行の型だけれど、あまり派手なものを好まない私でも着たいと思えるデザイン。

 うん、また私の個人情報が漏れているわ…お母様、私のサイズを売ったわね?

 私はふぅとため息をつくと、侍女にドレスをクローゼットにしまってもらう。お礼の手紙を書かなきゃ。


『親愛なるウィル

 誕生日プレゼントをありがとうございます。とても素敵なドレスで、パーティーが楽しみになりました。

 あなたに会える日を励みに頑張ります。

 あなたのキャリーより』


 そうやって手紙のやり取りを何度もして、ようやく誕生日パーティー当日を迎えた。


「キャリー! 会いたかった! お誕生日おめでとう。僕が贈ったドレスを着てくれたんだね、嬉しい。それにすごく似合ってる。僕だけの大輪の薔薇みたいだ」


 控室で顔を合わせるなりウィルは一息でこれだけ言い切った。

 私は少々面食らってしまい、咄嗟に笑顔で返事ができなかった。

 だって去年とのこの大差。だれが予想できるかしら。もう初めて会った時の尊大なクソガキの面影はどこにもなく、ここにいるのは品行方正な由緒正しい王子様だった。


「あ、ありがとうございます。ウィルのおかげで素敵なパーティーになりそうですわ。そうだわ、今日はウィルに紹介したい人がおりますの」


 私は部屋の隅に控えていたオーウェンを呼ぶ。


「彼はオーウェン。最近私の専属執事になりましたから、ウィルと顔を合わせる機会も多くなると思います」

「ウィリアム殿下、オーウェンと申します。どうぞお見知りおきくださいませ」

「そう、よろしくね、オーウェン…ところでオーウェンは何歳?」

「今年23歳になりました」

「ふぅん…キャリーは頑張りすぎるところがあるから、よく様子を見てあげてね」

「かしこまりました」


 …なんで年齢を聞いたのかしら? それにウィルの視線が少しきついような…気のせい?

 何か分かるような気がして考えたけれど、すぐに入場の時間がやってきてウィルのエスコートで会場入りし、考えていたことは霧散してしまった。


 ウィルのエスコートは去年のよりもスマートで、私を正しく婚約者として扱い、招待客と歓談する姿はまるで物語の王子様のようだった。いえ、本物の王子様なのだけれど、どうしても初対面の時の印象が強くて…。

 ここまで変わるともはや別人のようだけれど、多分これが本来のウィルの性格なのだとも思う。彼は第4王子であると同時に末っ子でもあり、少々甘やかされて育てられていた。そのせいで増長していた部分を、私はちょこーっと直してあげただけなのよ。多分。


 ウィルはまだ成人していないから、夜が更ける前に王宮に帰らなければならない。


「本当は最後までエスコートしたいんだけど…早く大人になりたいな」


 そう言ってウィルは私の右手を取り、指先にキスをした。

 まぁああ! いったいどこでそんなキザな行動を覚えたの!? 私は教えてなくってよ! まるでどこぞの物語に出てくる貴公子みたいじゃない。あ、いえ、貴公子に育てようとしてるのは私だったわ。

 私が驚きと混乱で動けずにいるうちに、ウィルは身を翻して馬車に乗ってしまった。

 …なんだか将来が恐ろしくなってきたわ…。


 これがウィリアム殿下11歳、私が18歳になった冬のことである。

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