テストは出来たのかな〜
昼過ぎにしっぽが帰ってきた。私に変身した状態ではなく、すでにしっぽに戻っていた。昨日から二足歩行で袴姿なのだが、さすがにまだ見慣れないな。でも袴は似合ってると思うよ。二足歩行はキモイけど。
「おかえり、もう変身解いたんだね」
私は満点を取ってきてくれたであろうしっぽを出迎えた。
「え? 変身解けてる!?」
しっぽは驚いた様子で自分の体を見た。
「解けてないじゃ〜ん! 海ちゃんは冗談キツイなぁ⋯⋯ハッ! 解けてるわ!」
目腐ってんのかな。まぁ、ビーム出したり映像写したりしてるし、普通の目とは見えてるものも違うんだろうな。それよりもっと大事なことがある!
「帰ってきたらやることはひとつだよね!」
私は猫吸引の構えをとった。
「なにその構え。知らんし」
二足歩行状態だと吸引されるの嫌なのかな? 今までもずっと嫌だったのかな。でも猫吸引しないと元気出ないからなぁ。
「ちょっとで良いからさ、1回だけさせてくんない? ね? 1回だけさせてよ!」
「海麿ちゃん、何クソ男みたいなセリフ言ってんの」
ドン引きされてしまった。マジで引いてる顔してるわ。猫のそういう顔知らんけど分かる。
「そんなことよりさ、ザビ山に行こうよ! ムナムナを簡単に倒せる裏技を思い出したんだ!」
なんでそんな大事なことを今まで忘れてたんだよ。まぁ、裏技なんて無くても今の私なら余裕で倒せそうだけどね。ブラックホール出せるんだぜ。仕方がないのでついて行ってやるか。
「そうだね、行こうか」
私としっぽは仲良くおててを繋いで家を出た。今日は曇りだ。暑いよりはマシだな。⋯⋯あ! テストどうだったか聞かないと!
「しっぽ、テスト出来た?」
「えっ? あ、うん、出来たよ!」
大丈夫かこいつ。
「なにその反応、大丈夫なの? 裏技のことばかり考えててテストに集中出来なかったんじゃないの?」
単位落としたら死ぬんだぞこちとら。留年なんて死んでも嫌だからな。
「余裕余裕! ハハハ!」
どうも怪しい。だが、これ以上聞いても意味がなさそうなのでやめにした。夏休みに入る前には分かることだし。
それにしても凄いよね、4年生始まったばかりなのに留年の危機だなんて。今回落としたら後期が満点でも留年なんだよね。
お、スポーツ店の前に凄く前衛的な格好の人がいる。後頭部にポン・デ・リングついてんじゃん。おもしろ。
そろそろザビ山の麓だ。私は心の準備を始める。城を住処にしているとは言っていたが、今日もちゃんといるのだろうか。
「ムナムナはまだ城にいるのかな」
「いるよ! あ、いると思うよ!」
ちょっと緊張してきたな。あ、お腹痛い。どうしよう、山だからってさすがに野グソをするわけにはいかないし、家以外のトイレだと落ち着かないし⋯⋯
「ごめんしっぽ! うんちしたいから家帰る!」
私は全力で走った。覚醒のおかげで新幹線並みのスピードが出る。
「ちょ、海麿ちゃん! え、足はっや!」
しっぽが何か言っているがかまっている暇はない。間に合うか心配だ。さすがに大学4年生にもなって漏らす訳にはいかない!
よし、家が見えてきた。ん? しっぽがいる! 新幹線並みのスピードの私より早く家に着くなんて、さすが何でもありのしっぽだ! ん? しっぽの後ろに何か置いてあるぞ!
「あ、海ちゃん。もう具合は良くなった?」
何か言ってるようだけど、しっぽの後ろにあるハチャメチャにでかい何かが気になって全く頭に入ってこない。なんだあれ。
家の前まで来てようやく理解した。畳まれた卓球台だ。なんでこんなものが。大学から持ってきたのか? いや、そんなことよりうんちだ!
「海ちゃんおかえ」
しっぽの言葉を聞く間もなくトイレへ駆け込む私。ふぅ⋯⋯20人分くらい出た。うんちした後は余韻が残るので少しの間そのまま座る。そして、落ち着いたら出る。
「ごめんねしっぽ、もう我慢の限界でさぁ」
私はそう言いながらトイレを出た。しかし、家の中にしっぽの姿は見当たらない。玄関が開いている。まだしっぽは外にいるのだろうか。あ、そうか、卓球台がでかすぎて入ってこられないんだな。
「なんでお前が私の格好してんの! 海ちゃんに何かしたのか!」
「してないよ! 世間話してただけだよ!」
外からしっぽの声が聞こえる。他の声は聞こえない。1人芝居をしているのだろうか。
「しっぽ、1人でなにやってんの⋯⋯え?」
外に出た私は驚愕した。しっぽが2人いる。いや、2匹いるのだ。
「海ちゃん、こいつムナムナだよ! こいつに何かされなかった? 大丈夫?」
右側にいるしっぽが言った。
「いやいや、こいつがムナムナだよ! 私がしっぽ! どこまでも汚い奴だよまったく!」
左側のしっぽも自分をしっぽだと言っている。私はどうすれば⋯⋯そうだ、今朝の話をしてみよう。
「問題です。私が今朝チョップで跡形もなく消した下駄箱は、なぜ跡形もなくなった?」
本物のしっぽしか知らないことだ。
「ブラックホール!」
右しっぽが答えた。
「正解!」
ということは、左しっぽがムナムナか。
「くそー、分かってたのになぁ。先越されちゃったなぁ」
往生際が悪いなこいつ。
「でも残念、ここまでボクを近付かせた時点で君たちの負けだ」
そう言うとムナムナは変身を解き、私の手を引っ張った。私はまた人質になってしまった。
「君の技は派手だからねぇ。人質がいると何も出来ないもんねぇ〜」
「ぐぬぬ⋯⋯」
ムナムナがしっぽをおちょくっている。昨日足を引っ張りたくないと言ったばかりなのに、すぐに捕まってしまうとは情けない。
「じゃあね七宝、海麿ちゃんは貰ってくよん」
そうだ、私には覚醒した力がある。幸いムナムナは私の力に気付いておらず、油断している。今がチャンスだ!
「ぬん!」
私は全身に力を込めた。すると、ムナムナの右腕は吹き飛び、私は抜け出すことが出来た。また捕まらないようにすぐにしっぽのもとへ駆け寄った。
「痛いなぁ。海麿ちゃんひどいよ」
こーちゃんはもっと痛かったんだぞ。ムナムナは本当に殺してやりたい。こーちゃんを殺された心の傷、哀しみは一生消えないのだ。しかし、その哀しみこそが私の力となる。
「フ⋯⋯ムナムナよ。貴様には感謝せねばなるまい。貴様のおかげで私は哀しみを知ることができ、その結果覚醒したのだ」
「海ちゃん、ラオウみたいになってるよ」
ムナムナはまんまるの目でこちらを見ている。逆三角の口はいつもより笑っていないように見えた。
「やっぱり受け継いでいたんだね、海麿ちゃん。いいよ、今日の所は帰ってあげる。でも次は必ず君を手に入れる。またね」
「お前敵のボスのくせに2日間で3回も現れて、結局海ちゃんを奪えなかったね。弱い弱い」
しっぽがムナムナを挑発している。
「あとなんなのその顔。表情変わらなすぎでしょ。目なんかずっとまんまるで、瞬きしてるとこなんか見たことないよ」
それはただの悪口では? 二足歩行してるしっぽも中々のもんだぞ。
「うわぁーんもう帰る! バーカ!」
ムナムナはザビ山の方へ走って行った。しっぽに聞いた話では、今日一緒に行動していたのはしっぽに化けたムナムナだったらしい。めっちゃ危なかったじゃん。
大学でテストをしていたしっぽはしっかり満点の自信を持っているようだった。教科書を全てスキャンして脳内に取り込んでいたらしい。カンニングじゃないか。
「さぁ、始めるよ」
卓球台を準備したしっぽが言った。もしかしてこれが修行?
「反射神経を鍛えるんだ。楽しく強くなろう!」
なるほど、さすがしっぽだ。私の性格を知った上でちゃんと配慮してくれている。けど、ラケットはくれないのかな⋯⋯無しでやるのかな?