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召喚術師の被隷属宣言  作者: くらすなむ
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プロローグ

衝動的に初作品作りです。ぼちぼち更新して行こうと思いますので宜しくお願いします。

分厚い本やメモ書きの山が部屋の隅に散らばる、薄暗く埃の舞う雑然とした室内に夕日のような赤く柔らかな光が生まれる。


地下であるこの部屋に外界からの光は締め切られている現状、直接は差し込まない。


ではこの光はどこから発生しているのか。

下から上に向けて円筒状に―――そう、部屋の中央の床に描かれた円に沿って大樹のごとく光を伸ばし天井を照らす。


「――ッ!」


暗所に慣れた目には光は柔らかくとも視界が塗りつぶされ、反射的に世界を薄く見る。

と同時に自分とは違う存在を認識した。


ああ、ついにやりきれたのか。

そう思うと同時に、自分の五感が薄らぐのを感じる。

だがまだ、まだだ。


室内を照らす光が弱まることに相反して、光の中にあった存在が己の存在を誇示するように圧をこちらに向けてくる。


「はっ!こんな小娘に呼ばれるとはなぁ、私の格も落ちたか?」


意思の強い、凛としたソプラノが鼓膜を揺らす。

力が抜けつつある足に、ありったけの意識を込めつつ立ち上がる。


見える世界の輪郭が曖昧になりつつも、ソプラノを頼りに歩みを進めてその存在の前に崩れ落ちるように跪く。


「召喚師が絶対的隷属権を持つこの召喚陣で私を呼んでおいて、何をしている。」


ようやく、ようやくだ。

きっと成功する、だって呼ぶことができたのだからこの願いも叶うはず。


あまり時間が残っていないと認識しながらも、根拠のない自信がふつふつと湧き上がって言葉を紡ぐ。


「…貴方様の…」


息を吐く力も薄らぎ、声が消えそうになるのを必死に抑え込みつつ絞り出す。




「貴方様の、奴隷にしてください。」




紡ぎ終えた言葉の後に広がる静寂。


「…は?貴様、何を言っている。」


疑問を持つのは当然であろう。

その存在を呼ぶために使った召喚陣は、呼び出した対象を絶対的に隷属できる契約を召喚時に強制的に結ぶものであるからだ。


隷属させられたと思ったのに、隷属させてくれと言われては困惑するのも当然のこと。


「貴様を私に隷属させろ、だと?

 そんなもの聖女に乞うか、貴様が命を落とさぬ限り不可能ではないか。」


一般的に結ばれる隷属権は術式を解析したものが解除を行える。

絶対の隷属権の解除は一般のものとは異なる。


絶対の隷属権は術者の落命、もしくは聖女の聖術による解除の2つしかないとされているこの世界。


「私には貴様を生き返らせる力はないぞ。

 呼んでおいてそれを理解していない阿呆なのか?」


呆れたと、言外にそう伝えてきている。


「貴様からは聖の力を感じない、聖女も近くにいない。

 これでは貴様を隷属させるのは不可能であろう。」


一般的にはそうだろう、だが私はそうでないことに賭けて胸から下げた細長い結晶を折る。

その瞬間、電撃にも似た衝撃が自分の全身を襲う。


「ッッッあッぐぅっっ!」


「やれやれ、自害する気か…人の話を聞かん奴だな。」


薄らぎつつあった五感が、最後の輝きのごとく自己主張する。

永遠に感じる一瞬が過ぎて五感が急速に失われ始めた。



ああ、賭けには負けたのか。



床に倒れ伏したことにようやく気付き、薄れゆく意識の中で諦めを覚える。


「――む?この感覚は…実に信じがたい…。」


かの存在が言葉を発しているが、かなり聞き取りづらい。

こちらはいよいよ無に入ろうかという状態だ。


来世ってあるのかなぁ…出来れば普通に生きていられる人生がいいなぁ…。

そんな願望を抱きつつ、下がる瞼に抗わず世界の帳を下ろす。


「微弱ながら息は残っているな。

 まったく、隷属権が無くなった後に私が従わない可能性を考えてないのか…だが。」


感覚がほぼ失われた闇の中で、ほんのり残っていた顔の触感が反応する。




「実に面白い。貴様の命、私が拾ってやろう。」




湿り気を帯びた何かが触れた途端、闇の中に暖かな光が生まれた。


降り注ぐ太陽の光に包まれたように私の心は穏やかに晴れ、睡魔に負けるかの如く意識を沈めていった。

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