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運命の苦しさ

 それはソルが七歳の時、シエロが風邪をひいて、倒れてしまった事から始まった。ただの風邪であったが、弱気なソルはそれでも心配した。司教士官ではない女の司教、医師がソルとシエロの家に泊まり込んで看病していた。元々風邪をひくと高熱を出すタイプがシエロだった。

 魔法園を休んでソルはシエロの側にいた。シエロの熱はなかなか収まらなかった。シエロの風邪は少々やっかいになり、シエロは食事がろくにできず、衰弱していた。女の医師の司教が使う体力を回復させる魔法を何度も使ったが、魔法で風邪が治るわけではなかった。

「こんな時にも父さんやアクリラがいないなんて」

 ソルはその時にはっきりと自分の運命への恨めしさに気づいた。

 数日そんな日々が続いた後、やがてシエロの容態は落ち着いた。それに安心した女の医師の司教は、代わりの男の医師の司教を呼んでくると一時いなくなった。ソルはその女の司教の丁寧で優しい説明を聞いても、不安で怯えた目をしていた。

 女の司教が消え、僅か三十分後に代わりの男の司教がやってきた時だった。男の司教はシエロが休んでいた部屋に入るなり、眩い黄色の光を目にした。ソルが体力を回復する魔法をシエロに使っていた。

 男の司教は感慨深くその光景を見守り続けた。十歳からの魔法学校でようやく使えるようになる魔法を、僅か七歳のソルが自分の意志で使い、制御していた。

 しばらくした後、ソルは魔法を使うのをやめた。シエロは安らかな顔で寝息をたてていた。

「魔法を自分の意志で使うようになったのはいつからだい?」

 男の司教は尋ねた。

「去年の秋。怪我をした猫や鳥に使いました。アクリラがいなくなった後」

 恐る恐るソルは答えた。

「大人には話したの?」

「話していません。話すとなんかおかしくなるから」

「おかしくなる?」

「だって魔法を使ったら、皆がおかしい目で僕を見るし、お父さんもお母さんも変だし、お姉ちゃんはいなくなるし」

「お父さんとお母さんのどこが変なの?」

「怒ってくれなくなった。前はいつも勇気を出しなさいって怒ってばかりいたのに、怒ってくれなくなった。なんか王子様みたいに僕を見るんだ」

 平凡な家庭の子供として育ったソルには、激変した生活は苦痛でしかなかった。

「魔法を使うのが嫌いなの?」

「今は嫌い。アクリラだけ生き返せば終わりだったのに」

 子供のソルにはシエロとの二人だけの生活は寂しすぎた。

「そうだね。魔法なんかなければいいのにね」

 まだ幼いソルに男の司教は共感した。魔力や魔法がなければ、ベルーラスの脅威もなくなるだろうという意味だった。ベルーラスは魔力を持たず、魔法も使わないただの獣になるという意味だった。

「でもね、魔法が使えて良かったと思える日もきっとくるよ」

 男の司教はそうも伝えた。

 ソルが魔法を使えるようになったのは一部の者だけに伝えられていった。ソルもアクリラと同じように英才教育のようなものをさせるか法王と将官クラスの司教士官は協議した。結論はその時はまだアクリラと同じようなことはしないというものだった。ただでさえ特別扱いを受けていることに息苦しさを感じているソルに、特別な英才教育など心を痛めつけるものでしかないというのが結論だった。

 ただ週に何度か、法王が直々にソルと話をする時間を作る事にはなった。

 できれば法王達もソルの能力を早く開花させ、ベルーラスとの戦いで一翼を担ってほしかった。しかしまだまだ子供のソルにそれは過酷だと判断された。物怖じするソルの心の成長をまず最優先にしようというのが協議の結論だった。

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