嫌がらせ
アテナとラルクアン様は残りの夕飯を綺麗に食べて、お茶を飲んでゆっくりしてから帰って行った。
それから1週間ラルクアン様は来なかった。
今迄こんな事は無く、病気になったのかと不安になり、お昼を食べに来ていた近衛騎士にラルクアン様の事を聞いてみると、驚く事にラルクアン様は所属が変わっていて、王太子殿下直属になっていて、中々自由が効かないらしい。
新たな嫌がらせ?ちっさー王太子ちっさいわー。
こんな人が王様になるの?その時には絶対この国から逃げ出そう。
この前お店のドアにカウベルを購入して来てヤンギルさんに付けて貰った。偶にお客様が入って来た事に気が付かない事があるから。
ドアが開くとカウベルが、カランカランカランと鳴る。キッチンから飛び出して
「いらっしゃいませ。」
と笑顔で挨拶して来たお客様の顔を見て口端が引き攣る。後ろにラルクアン様を連れた王太子がやって来た。
来るなーっ!
と叫びたいが、他のお客様の手前言葉を飲み込む。
「毒味係はおりませんが。」
王太子は満遍の笑顔で
「お弁当を取りに来た。」
とあの夜の落ち込みは何処へ行った?と言う位に明るい。ラルクアン様を見ると疲れた顔をしている。
先日森へ行き摘んで来た木苺で作ったジュースを差し出した。
「お身体大丈夫ですか?これ、私の元気になっての祈りを込めて。良かったら飲んで。」
ラルクアン様が受け取ろうとした所を王太子が奪って一気に飲み干した。
何で貴方が飲むのよ!
キッチンへ行きまた木苺ジュースを注いで、さっきの3倍エネルギーと癒しと解毒を施したグラスをしっかりと両手で包む様に手渡した。が、それも王太子が飲み干した。あの人木苺が好きなのかしら?だったらと、木苺と苺のWベリージュースを2つ用意して、片方にはエネルギーと癒しと解毒を5倍にして王太子とラルクアン様に渡した。ラルクアン様は一口飲むとグラスを見つめてその後一気に飲み干した。
ラルクアン様に顔を近づけて耳打ちした。
「疲れを取り、ラルクアン様に何かしようとした人にはしようとした事がそのまま降り掛かります。」
口元に人差し指を立ててウィンクした。
王太子にお弁当は渡せないので、ラルクアン様にお弁当を手渡した。ありがとう。と消えそうな声を拾うと嬉しくなった。アテナとラルクアン様が助けてくれたお陰で今生きているのだから、こんなのは微々たる恩返し。ラルクアン様には何をどう返したら良いのか解らない。
「ラルクアン様お夕飯はどうされているのですか?」
今迄は夜様子見に来てくれた時に、自分の分と一緒に作って出していた。でも先程の様子を伺う限りではしっかり食べている感じがしなかった。
ラルクアン様は王太子を一瞥した後、言い難そうに口を開いた。
「…殿下も…忙しく、中々食べる時間も無くて。」
「えっ!食べて無いのじゃあ今晩からお弁当届けましょうか?迷惑じゃなければ。」
「迷惑じゃない!待っているから。」
ラルクアン様に言ったのに、王太子が応えた。えっ?貴方の分も届けるの?確かにラルクアン様だけは食べ難いかも知れないけど。なんか腑に落ちない。
「幾つつくればラルクアン様の口に入るのかしら?」
先程のジュースを見る限り、王太子の分がなければ、ラルクアン様の分は無くなってしまう。
「四つ、いや五つ作って欲しい。」
態と王太子を見ずに、ラルクアン様の目を見て
「解りました。彼女の所へ行く手順で伺います。」
ラルクアン様にはテレポートて行きますよ。と暗に解る様に伝えた。
「やっぱり彼氏じゃねぇーか。」
とヤンギルさんに揶揄われた。
違います。と言ってドアを開けて王太子とラルクアン様を見送った。
夜お弁当を届けに行くと、王城内がバタついていた。
庶民から性格悪!と嫌われているレグルス公爵が毒で倒れたらしい。しかも公爵は
「何で私の食事に入れた!弁当に入れろと。」
と叫んで吐血したらしい。お弁当って私が作ったやつ?ラルクアン様が狙われたの?慌ててラルクアン様の元までテレポートで飛ぶと、狙われたのは王太子だったらしい。
あっ…この人私が出した解毒3倍ジュース飲んだんだ。
だから、毒を盛った相手に返っていった訳ね。
てっきり王太子に何か嫌がらせされているのかと思って掛けたのに。
結果2回殺した人を助けてしまった。
「エリー。ありがとう。君のお陰で助かったよ。」
今は微笑まないで欲しい。悔しくて涙が出てくるから。
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