貴方は誰
王都の隣町リンデンに移り住んでから早3ヶ月が経った。最近では、ラルクアン様のご友人方もお昼交代時や帰宅時に立ち寄ってくれる様になり、お客様も増えた。常連さんは毎日来てくれる。マタイさんやヤンギルさんは私の護衛だと言って必ず来てくれる。
有り難や。有り難や。
そして来なくても良いあの二人も必ず毎日やって来る。来なくて良いのに。
好き好んで自分を二度も殺した人や蔑んだ人を何故接待しなければいけないのか?
心から思う。
この二人出禁にしたい!
地味に毎日パイを顔面に打つけたり、生クリーム入りの飲み物を頭から掛けてあげているのに。
めげない。なに、王族ってあんな事されてもめげないの?精霊王をお祖父様と呼んでいたんだからあの人も一応王族でしょ?
私だったら、3回目で察して来るの辞めるけど。
大体気に入らないお客には飲み物を転けた振りして掛けたりするから次は来なくなるのに。
この二人何故めげない?
「エリーは騎士の彼氏とは結婚するのか?」
ヤンギルさんの問いに王族二人が此方を見る。内心で
こっち見るな!
と毒吐く。
「彼は親戚の人で私が一人暮らしなので、安全確認の為に見に来てくれているだけです。私同年代の男の人って苦手なんですよ。顔が良いイケメンは特にイケメンアレルギーがあって。」
頬に手を当てて困惑した様に話すと、
「そりゃ難儀な病気だな。じゃぁこの二人なんて一番に弾かれちまうな。」
マタイさんが大きな口を開けてガハガハと豪快に笑う。ヤンギルさんもマタイさんも優しくて二人を見ていると穏やかな気持ちになる。
「そういやあんたらの名前まだ聞いて無かったな。何て言うんだ?」
ヤンギルさんが、聞くが二人は肩を震わせた。
そりゃそうでしょ。貴方達名前名乗れないんじゃない?特に王太子殿下。だから来なきゃ良いのに。
「僕はアレクサンダーと言います。家族からはアレクと呼ばれています。妹を探しに来ました。」
「何だ妹家出でもしたのか?」
アレクは俯いて私の方を上目遣いに見る
「妹は赤ちゃんの頃に盗まれてつい最近まで、伯爵家でメイドとして働かされていたんですが、見つけた時に悪人だと思われて…。逃げられまして。祖父が動けないので、僕が探しに来ました。」
「そうか…見つかると良いな。妹さん。」
マタイさんとヤンギルさんは目に涙を浮かべて同情している。でもそんな綺麗な話しじゃないけどね。
こんな良い人達を騙す様な事をして。最低だわ。
「私は、…ギルバートと申します。」
本当の名前かしら?怪しいものね。王太子が簡単に名前名乗る訳ないもの。
「へぇー王子と同じ名前だな。」
えっ本名なの?逆に心配になるんだけど。
ドアが開き数名が入って来た。ラルクアン様とご友人方の近衛騎士の方々だった。
「殿下!どうして此処に?」
ラルクアン様には王太子が来た夜には伝えていた。その内来なくなると高を括っていたら、毎日通う様になり、困っている。と愚痴ったから昼の忙しい時間に来てくれた様だ。
「偶々入ったこの店の雰囲気と味が良くて。通っていた。」
顔を横に向けて、皆んなから視線を逸らす。
「殿下の食事には毒味が必要です。勝手をされては困ります。殿下に何かあった時にはエリーが罰せられます。私はエリーを守って欲しいと家族から頼まれております。不用意に街中におりる事はお辞め下さい。」
ラルクアン様最高よ!良く言ってくれたわ。ありがとう。感謝感激よ!
「本物の王子様か!そりゃ不味いよ。殿下気を付けないと。じゃぁそっちも王子様かお貴族様かい?」
アレクは俯いた。
「こっちもかい。エリーは美人で料理上手だからモテるなぁ。オジサン達もビックリだ。ガハハハ。」
茶化しているのか良く判らないヤンギルさんの言葉に誰もツッコミが出来ない。
王太子はラルクアン様が回れ右して王城へ連れて帰ってくれた。お昼ご飯抜きは可哀想なので、お弁当にして持って行って貰う事にした。
アレクも席を立ってお会計をした後外に見送りに出ながら
「ここは危険なので、もう来ないで下さい。」
と告げた。しかしアレクは全く動じなかった。
「僕は来るよ。エメラディアが森に帰るまで。何度でも。」
「余り来ると逃げますよ。」
とピシャリと断った。彼は悲しそうに私を見てから帰宅した。今更あんな顔したって遅いから。
と心で応えてドアを閉めた。
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