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神出鬼没のレベル9~今日も死なないために~  作者: Y
第二章 『弟子と師匠』編
11/12

弟子と師匠

 激動の王都の龍騒動から一週間。あれから、泣きべそをかいているイアに毎日美味しいものをたらふく食べさせて、財布の中身が軽くなって僕が不安を覚え始めた頃、最初は1日だけのはずだったのにと思いながらも、イアは十分満足したのか『楽しかったのじゃ、また来るのじゃ』と言って龍の姿に戻って帰っていった。


 ここのところイアのご機嫌取りの為に色々と付き合わされて僕は疲れていた。

 昨晩、イアが帰ったため今日はクランマスター室で特注の執務椅子に優雅に腰を掛けていた。


「んふふーー、やっとだー!」

「…暑いよイル……ちょっと離れて」

「「や」だー」


 約束通りきっちり一週間の接触禁止令を守ったイル。幼少期からずっとのためもはや癖なのか、僕に抱き着こうとしてはハッと思い出してもじもじして堪えていた。


 その間実にご機嫌斜めな様子であったため、八つ当たりでもされたらたまったもんじゃないと、イルの不機嫌な時の理不尽さを知っているクランメンバーの皆は絶対に刺激しないようにしていた。


 そして、今日がその解禁日だ。


 そのため禁止されていた反動からか、朝からずっとこの調子で僕に纏わりついている。

 イルは普段から体温が普通の人より高めなので、こうも引っ付かれると色々と柔らかいし暑いのだ。


 ましてや、それが二人分である。ずっと抱き着いてくるイルに対抗して、リリスも反対側から抱き着いているのである。


 朝から一体何をしてるんですかという目でアンナさんから見られたんだからね。

 はいはい、離れた離れた。くっつかれたままだと仕事が出来ないでしょうが、まあ僕がやるような仕事なんてないんだけどね。


「はいはい、離れようね二人とも。今日はノエルたちが帰って来るんだからね」

「えー、ほっといたらいいじゃんールインちゃん」


 ノエルというのは僕の弟子である。

 こんな僕に弟子がいるのもおかしな話だとは思うが、これには理由(わけ)があるのだ。



 数年前、それこそクランが出来て間もない頃になるが、僕はいつも通り幼馴染たちに巻き込まれて死にそうな目に合っていた。


 そして、またもやいつも通り限界を迎えた僕は幼馴染たちに向かってこう言った。


———「弟子か師匠のどっちかをパーティーのみんながとるまで修行は禁止!それまで僕はみんなとダンジョンにも宝物殿にもどこにも行かないからね!」———と。


 リリスやアイン、オットーやティナはともかく、自己主張の強いイルや戦闘狂のジーク、錬金で頭がいっぱいのアルメリアやエルフであるシロネたちが誰かに師事したり素直に言うことを聞くはずがない。


 みんなには申し訳ないが絶対にうまくいかないだろうなと思っていた。


 そしてずっとは無理だろうが、時間は稼げるとは思っていた。一応、弟子または師匠、なんならその両方でも構わないよとは言っておいた。


 そして、


 ・・・結論から言うと、みんなはどこからか弟子を探して連れてきた。

 加えて、仲間の数人は弟子だけでなく師匠まで見つけてきた。 


 僕なんかに弟子を取れるはずもないし、師匠を見つけるのも無理だろと思ってはいたが、言い出しっぺの僕がしないわけにはいかない。


 というか、僕は見つけたからイル達も見つけるまでダメだよっていう口実が使えなくなってしまう。


 だから、僕は街をぶらぶらと散策しながら賑やかな王都の昼を堪能しながら眺めていた。

 まず、僕が挑戦したのは弟子を取ることだ。師匠を見つけるのはちょっと難しそうだったからね。


 ノエルを見つけたのは完全な偶然だ。


 いくら僕が弱いとはいえ、幼馴染たちに巻き込まれていると嫌でも少しは実力がつく。

 とはいえ、逃げる手段が上達しただけだが。


 それでも、駆け出しの冒険者にならこんな僕にも教えることがいくらかはあるだろう。

 だから弟子の条件としては、駆け出しの冒険者であること、あとは、そうだね…気弱そうな子が特にいいね。


 それで、ちょうどカフェで、見るからに初心者ですって恰好をした少女、ノエルを発見した。

 声をかけて、僕がクランを創設していることとか弟子を募集していることとか話すと意外にもほいほいと連れた。


 というのも、まだ田舎から王都へと飛び出して来たばかりで、心機一転冒険者の世界に乗り込んだはいいものの、友人も知り合いも居なくてクエストや探索にも行けなくて一人で途方に暮れていたようだ。そんなときに僕から声をかけられて、騙されてもいいからとチャンスに飛び込んだそうだ。


 というわけで、僕は弟子を手に入れた。


 まあ、この後師匠も出来るんだけどね。

 と、そんなことは置いておいて、今日はそのノエルが探索から帰ってくる日だ。


「ほらほら、イルの弟子もノエルと一緒に行ってたでしょ。お出迎えしてあげなきゃ」

「いいーの、うちのシャルはそんなのしなくても。文句なんて言わせないから」


 『神速』イルネスの弟子は、シャルロット・オルタ。


 レベル5になったばかり。耳にかかるぐらいの金髪のショートヘアで、いつもニコニコして笑顔が似合う可愛らしいが何かとイルにお振り回されてばかりの不憫な子である。


 イルがどこから見つけてきたのかは知らないが、とても素直でいい子で何故か僕のことをクラマスーとよく僕の後ろについて回って懐いている。多分、イルの影響だろうとは思うが。


 僕の弟子は、ノエル・レブリカ。


 同じくレベル5。銀髪の長身で凄くスタイルのいい可憐で清楚な子で、彼女は最初、大人しくて控えめな子だったんだけど、僕たちと過ごしていくうちに自身がついたのか今ではすっかり元気に弟子たちのまとめ役を担っている。


 僕が何かを教えたわけではないんだけど、というか何も教えてないんだけど師匠ー師匠ーと今でも尊敬の目を向けてきて正直心が痛い。

 僕の弟子なのに有能すぎて怖いくらいだよ。


 僕たちの弟子たちはそれぞれ将来有望の才気溢れる子だ。


 まるで、僕たちの後釜のように同世代からも頭一つ抜き出て強く、賢い。

 流石にランクアップの速度は僕たちには及ばないけど、それでもほぼ無名の状態から凄い勢いで駆け上がり、今ではみんな同時にレベル5になっている。


 まあ、僕のパーティーメンバーに付き合っていたら嫌でも強くなるんだろう。修羅場なんて数えきれないほど巻き込まれてきたからね。それに、僕のパーティーメンバーは戦闘面では厳しくて、泣いても腕が折れようとも許してくれないからね。


「師匠ー!帰りましたー!っ!?」

「クラマスー!ただいまですーっ!?イ、イル姉さまっ」


 扉が開いて勢いよく転がるように入ってきたのはノエルとシャルの二人。

 ノエルとシャルは僕の両脇に抱き着いているイルとリリスを見て固まる。


「なーに、シャル文句でもあるの。私がルインちゃんと居たらいけないって言うの?」

「い、いえ。イ、イル姉さまがクランマスター室にいるとは、お、思っていなかったので」

「そんなこと思うはずないよねー。ノエルちゃんとシャルちゃんがねぇ?」

「「っ!?」」


 よく見ると、座っているルインに抱き着いたままのイルとリリスの笑顔の圧により、ノエルとシャルの体が気持ちばかりか強張って震えているようだ。


 イルとリリスの顔から邪魔しやがってというのがありありと伝わってくる。


「イルもリリスも、二人とも圧をかけないの。ほら怖がってるでしょ」

「えー、私たちそんなことしないよー。シャルたちが勝手に怖がってるだけでしょ」

「そうだよー。お姉ちゃんたちは何もしてないよー。ねぇ二人とも」

「「っ!?は、ハイ!」」

「……まあ、二人が帰って来たんだからそろそろ離れて。これ以上はダメだよ」


 僕がそういうとイルとリリスは、じろりとノエルとシャルを睨みながら渋々、名残惜しそうに腕が外された。 睨まれたノエルとシャルはというと、互いにヒシっと話さないように抱き着いている。

 

 ますます二人にかかる無言の圧が強まったような気がする。


 こうやって抱き着かれるのはイルの体温も相まって冬だと暖かくていいんだけど、今は少し暑く体が火照るぐらいだ。 弟子の前でこんな感じで過ごしていたら、威厳も何もないからね。


 ゆったりと腰を特注の椅子にかけながらの僕は二人に話しかける。


「で、どうだったの?二人とも、今回の依頼(クエスト)は?」

「は、はい師匠。アルテノ神殿の調査ですね。無事に終わりました」

「そ、その途中で遺物拾いました。うちにはわからないのでクラマスに渡しますね」


 そう言うとシャルが腰のポーチから腕輪の遺物を取り出して渡そうと、サッとイルに取り上げられた。


「ふーん、腕輪型かぁ。ねえ、これルインちゃんにあげるよね」

「も、もちろんです!イルお姉さま、うちにはさっぱりなので」


 遺物には種類がある。


 よく宝物殿に転がっていてたりするのだが、ダンジョンからも産出されることもある。

 宝物殿から手に入る遺物には、その宝物殿の環境や過去の歴史にちなんだものが出やすい。

 そしてダンジョンから排出されるものには特に法則性はなく、千差万別だ。武器がでたり、防具が出たり、それこそディーカップの魔道具が出たりだとか様々である。


「くれるなら貰っておくけど…うーん、何かお返しにご褒美でもあげようかな」


 年下の、それも弟子たちの成果物を貰うのは心苦しいけど貰えるものは貰っておこう。

 決して、遺物だから気になったわけじゃないからね。


「な!?ズルいルインちゃん!私の弟子なんだから私のおかげでいいよね」

「そーだそーだ」

「ズルくないし、リリスの弟子はまだ帰って来てないでしょ。それにそれだとシャル達がかわいそうだよ。ほら、何がいいか二人とも言ってごらん。僕に出来ることだったらなんでもしてあげるよ」

「な、なんでもですか!?」

「ほ、本当に?」


 何でもと言った瞬間、両隣からわかってるよねとでも言いたげな視線が二つ。そんな二つの頭を撫でて宥めながら、ノエルとシャルに気にしないでと促す。


 疑わなくても何でもといった何でもだよ。まあ、僕に出来ることなんてたかが知れてるけどね。可愛い弟子のためなら人肌脱いであげようじゃないか。


 これまで何もしてこなかったお詫びも込めてね。


「じゃ、じゃあ、今回の依頼で肘あてが壊れたので師匠と一緒に買い物に行きたいですっ」

「いいよそのくらい。なんなら僕が買ってあげるよ」

「な、ならうちはクラマスと何か美味しいもの食べに行きたいです」

「…全然いいけど、そんなことでいいの?遠慮しなくてももっとこう、なんかないの?」


 ノエルとシャルが上目遣い、いやこの場合は僕が座ってるから下目遣いになるのか?まあいいや、余りに欲のない謙虚なお願いに拍子抜けする。

 正直、もっとお金が飛ぶようなことを覚悟していた。 このくらいなら安いもんだよ正直。


 するとノエルとシャルはどこか必死な様子で、


「い、いえ。それがいいんです!」

「ダメ、ですか?」


 いや、全然いいんだけど逆にこっちがそれでいいのとは思う。


「……ノエルー?シャルー?わかってるよね…?」

「…ルーちゃんとデートするつもり…なのかな?」

「「ひっ!?」」


 僕の隣で大人しく頭を撫でられていたはずのイルとリリスが、いつの間にかノエルとシャルの二人の後ろに回り込んで、背中から抱きしめ、肩に頭を乗せるように耳元で囁く。


 ノエルとシャルは今にも泣きだしそうな顔でがくがくと震えている。


「イル、リリス。これは二人のご褒美なんだから脅さないの」

「…だって…羨ましいんだもん」

「そうですー!お姉ちゃんにも何かすべきですー」


 震えて僕に助けを求める二人を見て、僕は仕方なく諦めて妥協案(助け)を出す。


「……はぁ…二人にはまた別で買い物でも何でも…宝物殿やダンジョンとか戦闘以外なら付き合ってあげるから離れてあげて。ノエルもシャルも二人には逆らえないんだから」

「やったー!」

「デート!デートっ!」


 するりとノエルとシャルから離れて、ご機嫌になった二人はまた僕の後ろへと回り込んで僕の髪を弄ったり、頭の上に顎を乗せたりとちょっかいを出すことに勤しむ。


「まあ、明日にでも二人とも一緒に出掛けようか。あ、そういやノエル。肘あてが壊れたって言ってたけど何かあったの?」

「あ、いえ、何かあったというか…その、少しイレギュラーというか強いガーディアンがいたんです」

「ふ、二人で協力したので何とか倒せたので問題ないです!」


 ガーディアンとは魔物とは違い宝物殿に稀に出現する存在のことである。


 ダンジョンと宝物殿は似て非なるものであり、ダンジョンにはダンジョンボスという存在がいるが、宝物殿には存在しない。その変わりにガーディアンと呼ばれる存在が居ることがある。それは単体で出現したり、複数体であったりとまちまちで確定していない。


 ダンジョンボスは倒してしまえば一定時間湧かないが、逆に言ってしまえば一定時間経過するとリポップする。そして、宝箱が出現するのが大きな違いだ。


 宝物殿によってガーディアンが出現するかしないかは違いがある、そしてガーディアンが再度リポップするのかどうかもはっきりしない。


 過去の遺跡跡が魔力溜まりによって宝物殿化したり、ダンジョンに飲み込まれる形で併合することもある。


「……へえー、苦戦したんだ…」

「い、いえ、そのなんというか…その…っ」

「……ねえ、シャル…気が抜けてるんじゃないの?」

「っ!?」


 急なイルの様子の変化というべきか、一瞬にして怒気を孕んだ気配を察したシャルは額に汗を滲ませがくがくと怯えだす。


 緊張に包まれた部屋でリリスは笑顔で二人を見つめている。


「ご、ごめんなさい、ごめんなさい…で、でも…た、倒しました…イルお姉さまっ!!」

「あ゛、舐めてんの?そんな雑魚相手に手こずらないでよ、私の弟子だろーが!」

「っ!?…ご…ごめ、んなさい…っ」


 涙目になって必死にひたすら謝っているシャルにゆっくりと近づくイル。

 手をおでこの辺りに持っていき、そのまま頭を掴もうとして、


「…熱くなり過ぎだよイル、そこまでにしてあげて。そのガーディアン、強かったんだよね?」

「は、はい」

「なら仕方ないよ。倒せただけ偉いね。それに、一緒だったんだからシャルだけじゃなくてうちのノエルもだからね」

「…ごめんなさいイルお姉さま」


 自らの師匠によって、急に矛先が自分へと向いたノエルはびくっと体を強張らせてそれはもう小っちゃくなった。


「……んー…ルインちゃんがそういうならいいけどー…」


 少し納得しない様子のイルは一拍おいて、

 

「…でも苦戦したのは事実だよねシャル…ちょっと私から離れただけで緩んでるようねー。今から鍛え直してあげるから地下の訓練場にいくわよ、ついてきなさい」

「…は、はぃ……」


 泣きそうなシャルを引きずるようにて部屋から出ていこうとするイルに、


「あ、待ったイル」

「なーに?ルインちゃん」


 僕が呼び止めるとパァっと泣き顔から一転、顔を輝かせこちらを向くシャル。


「シャルだけだとかわいそうだからうちのノエルも連れてきなよ」

「ぴぃっ!?」

「おっけー♪」


 ピシっと固まって、え、まさか、そんなことしませんよね師匠っ!という顔をするノエル。


 が、容赦のないイルは扉からまで進んでいたが引き返して、僕の前で小さくなっていたノエルの首根っこを掴んだかと思うと、シャルと同じように引きずるようにして部屋を出ていく。


「…あ!明日は二人のご褒美で連れだすからちゃんと加減してあげてねー!」

「し、師匠の薄情者おぉぉぉーーっ!」

「へ、へへ…地獄に落ちるときは二人一緒だよノエル」


 半泣きになりながら僕への恨み言を言うノエルと道ずれになったノエルを見て壊れた笑みで笑いかけるシャル。そしてそれを引きずるイルは僕の言ったことが聞こえたのか聞こえてないのか、そのまま角へと進んでいき消えて行った。


「…リリス、ごめんだけどイルがやり過ぎないように見てあげて」

「ふふん、お姉ちゃんに任せなさーい」

「…お礼は今度するから」

「やったぁー!」


 その日、訓練場はイルによって実質立ち入り禁止となった。

 というか、イルと引きずられる二人を見て、そしてそれを追うリリスを見て…クランにいた冒険者全員がその結末を想像してノエルとシャルに同情の眼差しを向け、巻き込まれては大変だと一目散に自主的に訓練場から退出した。

 

 どこからともなく響く衝撃と悲鳴に『軌跡』に所属する冒険者一同、気まずそうに目を伏せたのであった。

 

 うきうきで三人の後を追い、訓練場の分厚い扉を閉めたリリスの姿を最後に、それからノエルとシャルの姿を見たものは誰も居なかったとさ…

 まあ、翌日普通にボロボロにしごかれたノエルとシャルと僕の三人で希望通り色々と見て回って買ってあげたけどね。


2章突入しましたね


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