レベル9の冒険者
勢い。
ある年のある村で一人の少年が誕生した。その少年には4人の幼馴染がいた。
5人は共に家族のように過ごし一つの夢を思い描いた。
「僕、世界最強の冒険者になるわ」
そう、この少年は偶に村に訪れる金持ちの冒険者を見て思った。金持ちになって贅沢してええぇ!!!
「んー、ルインがそういうなら俺もー」
「なになに面白そう!」
「なら私も!」
「それならみんなでやろ!」」
そんな発言をこの幼馴染たちが逃すはずもなく世界最強の冒険者というのは5人の共通の夢となった。
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…とまあ僕にもそんな純粋な時期もありました
今になってなんでこんな事を言っちゃったんだろうと後悔してる。
そもそも、冒険者というのは普通の職業と違って安定もしなければ、危険もたくさんある。いや、実際に危険しかなかった。正直18本も足のある20メートル級のクモを見たときは気絶するかと思った。
ただ、この冒険者という職業は人気でもあった。成功すれば富、力、権力、なんだってすべてが手に入る。そもそも冒険者なんて実際のところ異常者だらけだ、荒くれ者も多く正常者を探すほうがどうかしてる。
そんな異常者だらけの冒険者にもルールみたいな存在がある。それは冒険者協会だ。
数多くの荒くれ者や化け物どもを従わせるやばい所だ。この協会にはそんな冒険者たちを御するために引退した最上位冒険者やそれに近しい人達などが働いている。週休一日制の超ブラック企業。
もちろん、普通の人もいるよ、とゆうかそんな奴らばっかりだったら、今僕はこの世にいないだろうし、こんな晴れの天気のいい日にその協会にも向かっていないだろう。
扉開けると一斉に鋭い眼光がこちらを向く。だからここは嫌なんだよ。
いつもどうり、綺麗なお姉さんの受付に向かう。誰が好き好んで野郎の所に行くものか。
「おめでとうございます!ルイン・ウォレストさん。この度、深度レベル9に昇格しました!」
「ーーーーーーーーーーーえ?」
受付嬢がそういうとまた一斉に視線が集まってくる。まったく、ここにいるのは暇人しかいないのだろうか。そんなに暇ならとっととクエストか宝物殿に探索に行ってくればいいのに...と思ったりもするのだが、有能な僕は口に出して言ったりなんかしない、そう決して。
「あ、ああ。ありがとう受付嬢さん」
冒険者にはランクというものが振り分けられている。深度、まあランクは主にS、A、B、C、D、Eと分けられている。そして、レベルというものは、レベル1~2がE、レベル3がD、レベル4がc、レベル5~6がB、レベル7~8がA、レベル9~10がSとされている。
だが正直レベル7から正真正銘の化け物だ。本当におかしい奴らだ。例えば、剣を振り回したかと思えば都市が真っ二つに切断されたり、軽く殴って間違えて相手を殺してしまったりとか。
そう、そしてこの僕がその頭のおかしい奴らの仲間入りしてるのだ。ナンデダロウネ。
「なぁ、ルイン・ウォレストってあの軌跡のクランマスターだよな」
「お、おぅ。俺も初めて見るわ」
「王国で有名なトップクランか」
軌跡というのはここ最近に出来て怒涛の勢いで名を轟かせてトップまで駆け上がった新鋭クランのことである。そう、なんとこのクランのリーダーこそが僕である。なんでこうなっちゃったんだろ、ほんと...
そしてこのクランのクランマスターというのが僕のレベル9というのに関係してくる。
僕には冒険者としての才能が無かった。というか冒険者に限らず色んなことにも才能が無かった。雑用なら出来るかなぁって思って就職したら一日でクビにされたよ。僕が何をしたんだか。
だが、残酷なことに幼馴染たちはそうではなかった。ある友人は無類の強さを誇る剣士になり、ある友人は千を超える魔法を使いこなす魔法使いになった。
僕を除く全員が異常なほどの才能を持ち、冒険者としてすぐに頭角を現した。ただ幸いなことに僕に才能が無いことはすぐに自分で気づけた。そもそもやる気も意志も欠片もない僕が冒険者なんてものになろうとしたことが間違いだったのだ。
そして、そのことを仲間に打ち明けて死ぬのは目に見えてるし僕はここらで抜けるよと言った。すると友人はみな、
「ルインが辞めるなら俺もやめるわ」
「「「だね」」」
「ならこの後何するー?」
とか言いやがったのだ。流石にそれはそうかと思い、説得してみたのだが皆の意思は固かった。すると友人が思いついたかのように言った。
「そうだ!戦えねぇんだったら俺たちの指揮をすればいいんじゃね!」
「あ、なら私たちでルーちゃんを守るね!」
「いいね!」
これを聞いて流石にバカなんじゃないのと思った。だが仲間の中ではこの事で決まっているらしく、困ったことに幼馴染たちを放っておくこともできず、何故か、名案を思い付いたっみたいな顔をしている仲間についていくことになった。
そして何度か、いや、100回は最低でも死ぬ思いをして、このままじゃ流石に死んじゃうと思った僕はすぐさま逃げ道としてクランを作った。クエストと宝物殿に潜るのが嫌で、クラン運営を頑張っていると毎回友人たちは、偉業を成し遂げてきてそれがパーティー、クランの功績となった。
良くも悪くも僕は仲間に恵まれてしまったのだ。それに何故かリーダーとして僕が活躍したことになっているらしい。いろいろあってクランも拡大して所属するパーティーも多くなってここまで来てしまったのだ。
で今この状況なわけ、どうかしてるようちのクラメンと友人は。
視線の嵐から早めに逃げるとしますか。
「あ、ちなみにルインさん。ギルドマスターがあとで来いとだそうです」
「用事あるからちなみに帰れたりとかは?」
「いいですけど、来なかったらあとで覚えとけ。だそうです!」
のおおおぉ、僕が何をしたんだっていうんだい。
これはあれか、この前の上位クランの会合に参加しなかったとか、それとも友人が間違えて家を10軒くらい壊したやつか。それとも王城の招集を三度無視ことか、考えると思い当たることしかなくてどうしよおおお!
ここのギルドマスターには昔、村から上がってきたばかりの田舎者だった僕たちのルーキー時代にいろいろとお世話になったので、今も頭が上がらないのだ。主に迷惑を。
でも!仕方がないと思う。あれは僕じゃなくて友人たちがやったのだから。
「はあ、分かった行くよ、行けばいいんでしょ」
ため息をつきながら受け付け横の階段を昇る。
あのハゲに会わないといけないと気が滅入る。本当なら自分の部屋でくつろいでるはずなのに。
「ほぉ、ハゲで悪かったなルイン」
「.........え?」
そこには2メートルを優に超える柄の悪いハゲがいた。頭に刺青の入っていて、腕なんか僕の2倍ほどもある。そうこの男がギルドマスターである。
ギルドマスターはレベル7で引退したが当時は知らないのもがいないほど有名だったらしい。この男もれっきとした化け物の一員である。二つ名はちなみに劫火の悪鬼らしい。いかにも似合ってるw。
とゆうか、口に出してたっけ...
「ゲルドさんちなみに聞いてなかったことに出来ない?」
「出来るかボケええええ!!」
ああもう!唾が散ったじゃない。
ゲルドさんは毎回僕を呼び出しては怒り散らかしてくる。
「で、毎回毎回、僕を呼び出して今回は何の用です!!実は暇だったりw」
「なわけあるかっ!とゆうか毎回呼び出しをするのはお前が呼び出しを無視するからだろうが!今回も20回は無視しやがって!」
「まあまあそうカッカしないで、頭に血が上るよ。取りあえず中入ってほら座って」
「ここは俺の部屋だあぁっっ!」
中にはいると美人秘書さんのエマさんがいた。
この人にはいつもお世話になっている。ゲルドさんを止められる数少ない人だ。
「やっと来ましたかルインさん」
エマさんはため息をつきながらいつものようにお茶を出してくれた。
「元気にしてるーエマさん。ゲルドさんが迷惑かけてない?」
「いつも迷惑かけてるのはあなたですよルインさん」
「またまた、冗談を」
「――冗談じゃないんですけどね...」
頭を抱えて何やら呟くエマさん。ゲルドさんが迷惑をかけて困ってるんだろうな、うんうん。苦労しているようだから今度、何か差し入れを持ってきてあげようかな。
王国で一番人気の甘味がいいかな。
「おい、ルイン。レベル9になったんだからそろそろ会合に参加しろ。前回も前々回もその前もずっと無視しやがって。俺のところに何度も参加要請が陛下から来てんだよ。俺の立場も考えやがれ」
「え、やだよ。会合なんて行くわけないじゃん。それにそのほら僕...忙しいから」
ほんとに困ったものだよんね、この僕だって仮にも軌跡のクランマスターだよ。
こう見えてもいろいろと忙しいんだよ。例えばこうその、帰ったら宝物磨きとか、ペットの世話とかさ。
「とりあえずだ、行けルイン。行かなければ毎日、お前の部屋に突撃するぞ」
「そ、それは流石に嫌だなあ。わかったよ、行けばいいんでしょ。はあ、まったくもう忙しいのに手間をかけるんだから。じゃあ用事はそれあだけだよね、僕は帰るよ」
「おい、ルイン!まだ話は終わってないぞ!!」
おっさんがまだ何か言ってるけどここは無視一択、ここにはもう居たくないので僕は早めに退散するとしますか。
外は相変わらずの快晴、嫌になるよ。僕は夜しか活動できない夜型なんだよ。もしかして前世は吸血鬼だったりして。
それにまた面倒なことになったな、会合なんて最初の一回しか行ったことないに。前回は幼馴染かつ友人が王国の城壁を吹っ飛ばしたみたいなので参加したし。
はあ、今回は何も起こらないといいなぁ...
今はそんなこと考えずに美味しいごはん屋でもいこうかな。
頭が痛いなあ...