滝 蓮、姫を口説くーー。
「はあ〜〜〜? お姫様を口説いてる?口説いて『来た』だと?!」
「そう。『ベニバナちゃん』な。ーー可愛いかったし口説くだろ、あれは。」
此処は、と或る楽屋。と或るーーというより平たく言って『テレビ局』ーーである。芸能人が楽屋でラブ・トーク、お前等『ファン舐めてんのかっ、』ーーというなかれ。
其れは其れらしい。ーー舐めてるな。
部屋の中には、滝 蓮他、『ジャンピング・スモール・スモール(Jumping・small・small)』ーーという名で活動するバンドのメンバーが居たのだった。滝はヴォーカルを務めていた。ついでにだが、ギター・瀬野尾 太一、ベース・佐木 大和、ドラム・山田 理一というメンバー構成であった。四人組である。キーボードかピアノメンバーを探したのだが、ピンと来る人物に遭遇出来ずに、見送った。全員が30代前半に入った、そろそろベテランのバンドマン達であった。デビューは未だ10代だったのだ。芸能歴10年を越えて来たならば、ベテランと呼べるのだろう。デビューから常に首位を独走して来た人気絶大バンドだが、勿論実力以外も在った。当然だ。殆ど事務所の力だ。ーーが、事務所の売り出しに伴う『実力』ならば、備えているつもりだ。その努力はして来た。
更に因みにだが、滝以外のメンバーは、皆幼馴染みだった。滝だけが違う。三人に見合うだろうと、事務所が引き合わせたのだ。更に言えば太一達は全員『重役』の『息子』達だった。やはり滝だけがーー違う。
太一の父が代表瀬野尾 篝、ギタリストだったが、今は経営に専念している。ギターは未だ『趣味』だが。
大和の父は、専務の佐木 夏央。やはりベーシストだった。今はやはり経営に専念し、ベースは『趣味』だ。
同じく理一の父も、常務だ。名は山田 達生というーー『達君』ーーと友人であり、仲間でもある経営陣、つまり篝や夏央達からはそう呼ばれている。そしてやはりドラマーだった。
会社設立前は、此のメンバーの他に、ピアニストの『森 太郎』と、ツイン・ヴォーカルとして、未だ『歌手』として活躍中の『織 洋太』ーーという人物と、会社『副社長』をほぼ嫌々やっているーー彼等の『ボス』、華月 陽藍ーーというメンバーで、アマチュア・バンドを組んでいたそうだ。
何度もスカウトされたが、デビューしたのはヴォーカルの片割れ『織 洋太』のみだった。彼等には思惑があったのだ。初めから『会社』を起業する気で活動していたのだった。ーーそれは又別の話になるので、割愛させていただく。
因みにだが。彼等は『人』ではなかった。
正確に言うならば『人』ではある。ただ、ーーーー
『中身』が『人』ではない。言うならば『神』だった。ものの例えではーー無く。
ジャンピング・スモール・スモール。訳して『ジャン・スモ』と呼ばれる『彼等』の方は、『まちまち』ではあるがーー。『人より神に近い』ものーーであろうか。
言うならば。
彼等は未だ呼ばれない様であり、未だ談笑していた。『姫様』の話を。
『普通ーー異世界の「姫様」は口説かねーよな。』 『…………』 『滝は「普通」じゃないんだろ。』 『………………。』 『「可愛い」は理由にならねーよ。な?』 『…………………』
「大和………………………、リアクションしろよ。……………………………………、頼むよ。………………………」
瀬野尾 太一と山田 理一、同い年の彼等が軽口でディスる横で、マイペース・ベーシストは我関せずか黙々と出演の『段取り』を確認していたので在った。そして滝は『泣き言』を言ったので在った。………………………………誰とも無しに。又は全てに。『え?何?』と言った大和は其処で初めてワイヤレス・イヤホンを外し、聴いていなかったと判明したので在った。大和はいつも『こう』で在った。それを滝は『知って』いた。
大和はマイペースだ。しかし、真面目でもある。滝は不真面目なつもりも無いが、集中し過ぎると、周囲が見えなく為る事はーーある。天才肌なのだ。何方かというと感覚の生き物だった。
大和も天才で在ろうが、又違った。全体をみる、冷静な判断力。先を『みる』力ーーさり気ないフォロー。大和無しに、今の滝は『いない』と言って過言で無い位に、今迄も助けられ、フォローされてここ迄来たのだ。感謝はしていた。ーーが、事プライベートに成ると其れが一転する。
滝は大和の『プライベート・テリトリー』に、入り込めない。彼の私的領域は滝には侵入不可だった。彼の妻、『絋』は、なんと太一の姉でもあるというのに、滝は彼女に数える程しか会った事が無く、オマケの様に当然だが、話した事は、ほんの数回だった。太一の姉ーーつまり『社長』の娘なのにだ。自分の『立場』でその回数は流石に可怪しいと彼は思ったのだ。
大和にしてみれば、絋は魅力的で、プレイ・ボーイ滝には、会わせられなかった。何か有っては非常に困る。篝も勿論恐いが、何より絋の『叔父』、ーー華月 陽藍がーー恐かった。
陽藍は篝の『異母』兄弟なのだ。ふたりの父は『画家』だった。『売れない絵描き』だった。売れない絵描きの何がーー魅力か。女性達は父を助けた様だ。陽藍が愛人のーー等では無い。篝の母親と離縁した絵描きは、違う女性と関係を持った。なので篝と陽藍には『もうひとり』兄弟が在る。ーーが、残念か否か此の物語りには出て来ない。ーーその後、その女性との関係も終わった父親の絵描きは、陽藍を産んだ女性と出会いーー結果だけ言うと女は子供は産んだが育てなかった。父親の元に連れて来て、置いて行った。置いて行かれた赤子は絵描きのその男が育てられる筈も無く、ーー『吉田』という名の女性に預けられた。赤子の異母兄弟の『母』である。がーー、其の女性はーー体調を崩して亡くなってしまった。困った父親はふたりの『子供』を、駄目元で最初の妻の元に連れて行った。ーー結果だけ言うとそうして『子供達』はーー無事育てて貰えた訳だった。
酷い話で在るーー嫌、酷い父親で在る。此れ以上は何も言うまい。因みにだが、其の父ーー嫌売れない画家ーーだが、その他の女性と共に、暫く前に旅立ち、今はどうしているかーー判らない。捜しても見つからなかったらしい。生きているのかすらもーー又然りで。
『アメリカ・エリア』に渡ったーーと聴いて、捜索に行ったと聴いたが、陽藍でも見付けられなかったらしい。彼に見付けられないのなら、見付かる事はーー無いのだろう。
華月 陽藍は、人間ではなかった。人間の身体を使用して人と共に『普通』の人生を生きるーー『神』だったモノの『魂』を持った『人』ーーで在った。
強いて言うーーならば。彼等の言う『普通』が、少し『ずれて』いるのだが、彼等は『其れ』を『気のせい』ーーで済ませてしまうーーのだった。
傍から見れば恐らくも何も『気のせい』では無いのだがーー言うまい。色々と恐いのだ。ーー彼等は。やり込められるだけだ。ーーーー
『平和』の為なら『何でも』するーーそんな『人達』ーーで在った。
此れはそんな彼等のほんの一篇だ。ーーーー恐らくは。彼等にとっては『吹く風』の様な些細な淡い香りの様な話ーーなので在ろう。そう、恐らく。
『出番』だとスタッフが呼びに来たので、彼等ーージャン・スモのメンバーは部屋を後にした。滝が姫様を『妻にしたい』話はーー続きがある。彼は『バツイチ』なのだ。×が、一つ。未だ『姫君』にはーー伝えていない。かつて妻だった女性の事は。未だ其の時期では無いーーと。