畑
「主、畑を作ったぞ」とクリスは言った。
「なんで?」と私は聞く。
クリスをテイムしたら何故か畑が出来た。
「我らは食事をしないが、主は食事をするだろう。今朝の分は近くの村から仕入れて来たが、いつまでもというわけにはいかぬからな」
私のために!?
私のために畑を作ってくれたって言うの!?
素敵っ!
いや、よく考えろ。全然素敵じゃないぞ。
畑をプレゼントされて喜ぶとかいつの時代の人だよ。
まあ確かに、食糧事情を考えると畑は必要なのか?
人間食べなきゃ生きていけない。
でも、近くに村があるなら、そこで買うわけにはいかないのだろうか。
畑を作るよりも簡単だと思うけども。
お金はないけど、ダンジョンがあるんだからほら、魔石とかそういうの取れるんじゃないの?
っていうか、どうやって村から調達したの?
骸骨と取引してくれる人とかいるの?
仕入れるってどうやって!?
血なまぐさい想像が頭を過ぎる。
食い物よこせー。
人間はいらねー。
焼き尽くしてやるー。
「それでも良いのだがな。いちいち欲しい物があるたびに人間の村を滅ぼしていてはきりがない。村がなくなってしまえば、二度とそこでは物が手に入らないわけだからな。ちゃんと金を払って買ってきた」
こうしてな、とクリスが顔を手でなぞると、そこには人間の顔があった。
え? 骸骨どこ行ったよ。
幻影魔法?
それで人間の顔を作ってるの?
実際には骸骨のままなの?
「触るか?」
いや、触んない。骸骨なんでしょ?
骸骨とか触りたくないよ、怖いし。
それから無駄にイケメンなのはなんで?
生前の顔?
お前イケメンだったのか。
何気に生前って言葉が出てきたな。
ダンジョンとかにいるモンスターは自然発生するらしいから、あそこにいるゾンビには生前なんてものはないのかもしれないけれど、死んだ人間がアンデッド化することもあるらしい。
私のテイムしたスケルトンたちはどうなんだろう。
「村で買ってきても良いが、遠いから毎日とはいかぬぞ」
「買い置き出来ないの?」
「そうすると保存食になるが良いのか?」
「保存食じゃまずいの?」
「ああ、不味い」
不味いらしい。
ぱっさぱさでかったいんだって。
保存食の加工技術がいまいちらしい。
缶詰とかないし、真空パックとかないし、仕方ないと言えば仕方ない。
パンも今日食べたのが柔らかく思えるほど硬いそうだ。
歯が折れる。
ってなわけで畑を作ったそうだ。
そうすれば取れたての野菜が食べ放題。
それまではクリスが村で買い出して来てくれるそうだ。
片道二時間は掛かるらしい。
クリスのステータスで走って、そのくらい掛かるらしいから、私の足だと半日くらい掛かるのかもしれない。
クリスは食べもしない食料の買い出しに、往復で四時間も走らされる。
なんだか申し訳ないけれど、私が行くと帰ってこれなくなりそうなので頼むしかなかった。