起き抜けの一杯に人生を左右される
セーフエリアはダンジョンの中だと必ず存在するらしい。
モンスターに襲われず休憩出来る場所が用意されているなんて、どうにも不自然に感じるのは私が異世界人だからだろうか。
セーフエリアの中は常に清浄な空気が流れていて、生き物にとっては暮らしやすい空間になっているらしい。
異世界人の私からすると、意図的に攻略難易度を下げているようにしか見えない。
攻略してほしい何者かがいるのだろうか。
ダンジョンマスター的な何かが。
目を覚ます。
ずっと使っていなかった布団らしいが、驚くほどに清潔でふかふかだった。
思ったよりもぐっすり寝てしまった。
緊張で寝れないかと思ったけど、緊張も過ぎれば寝られるのかもしれない。
牢屋の前では骸骨が門番のように立っている。
朝から骸骨はやめてほしい。
外の空気は冷たいので、布団から出たくない。
身体をほぐすように布団の中でもぞもぞしていると、スケルトンの中で連絡係でも決めていたのか、呼んでもいないのにクリスが姿を見せた。
同じ骸骨でも、クリスはローブを着ているから分かり易い。
「起きたか、主よ」
「う……ん」
仕方ないので身を起こす。
血圧が低い私は朝が苦手だ。
ベッドから降りる。いつの間にかサンダルが用意してあった。
野戦病院ではシャツとズボンしか見つからなかったので、靴は履いていなかった。
ずっと裸足で歩いていたので、足の裏が汚れまくってる。
眠かったからそのまんまねちゃったんだよね。
ずっと裸足だったのに、不思議と痛いとは感じなかった。
感覚が鈍いのか、もしかしたら神様が身体を頑丈にしてくれた効果が出てるのかもしれない。
「朝食の用意が出来ている」
クリスが言うので、彼の後についてカタコンベから城へ上がる階段へ向かう。
道中ゾンビがたくさん出たけれど、昨日と同じようにクリスがあっさり片付けた。
階段を上がると暖かくなった。地下の方が寒いらしい。
なんか滅茶苦茶豪華な食堂に案内された。
さすが城!
ところでなんで地下墓地の上に城なんて建ってるの?
作った? クリスが?
僕に作らせた? 僕って?
骸骨とかゾンビみたいな?
でもクリスはテイムのスキル持ってないよね?
魔法?
死霊魔法ってのがあるんだ?
怨念のスキルで死者を集めるのに苦労しない?
なんか分からないけど凄いね。
クリスと会話をしていると、骸骨がカートを引いてやってくる。
この骸骨は私がテイムしたスケルトンだ。
なんか勝手にクリスの言うこと聞いてるな。
死霊魔法で操られているわけではなさそうだけど、テイムモンスターにも序列みたいなのがあるのかもしれない。
並べられた食事は、質素なものだけれど美味しかった。
パンにシチューに卵焼き。
どれも美味しかった。
パンがちょっと硬かったけれど、シチューと卵焼きの味付けは私の好みだ。
クリスは食事しないの?
骸骨だから食べれない?
不便だね。
寝る必要も食べる必要もないから便利?
そんな社畜根性は私には理解出来ないよ。
あ、でも、徹夜でゲームし続けられると考えたら便利かも?
トイレも行かなくていいから途中で席を外す必要すらない。同じ態勢でいても肩だって凝らないのだろう。
骸骨は食事しないっていうなら、この食事は私のためだけに作ってくれたの?
なんか至れり尽くせりでお姫様にでもなった気分だ。
私が食事を終えたのを見計らって、クリスがテーブルの上に瓶を置く。
中には液体が入っていて、何かの薬のようにも見える。
「死にたくないなら飲むといい」
え? 私、脅されてる?
いや、そうじゃないのか。
これを飲まないと死んじゃうって話ね。
つまりクリスは死にそうな私を助けようとしてくれてる?
死にそうな自覚とかないんだけど。
もしかしてこの地に漂う瘴気が身体を蝕んでるとかそういう系?
テイムモンスターは主を殺したりしたくなくなるって話だから、殺されそうになってるわけじゃないよね、たぶん。
まあそれも、クリスの言ってることが正しければの話なんだけど。
もしもクリスが私を殺そうとしてるんだったら、まどろっこしいことをしないでも簡単に殺せるんだろうし、死にたくないから飲んでおこう。
ごく、ごく。
苦い…………。
これ何の薬?
「不老の薬だ」
ぶはっ!
げほ! げほっ!
思わず咽る。
けどすでに薬は飲み終えた後だ。
「一つだけ手に入れたは良いものの、我はこの身体だからな。老いることなどない。いずれ人間との取引にでも使おうと考えていたが、死なれては困る主が出来たからな」
クリスはどこか上機嫌だ。
「これで殺されない限り死ななくなったぞ」
いや、うん……。
なんか凄いのは分かったけど、そういうのはちゃんと覚悟してからなりたかったよ。