カタコンベ
さっき城を最上階まで昇ってきたところだが、今度は逆に一階まで下りて行く。
一階では留まらず、地下へ向かう階段まで降りる。
「何か不気味」
私がそう言うと、クリスティアン・クラベル・オースティンがカタカタと顎を鳴らす。
名前が長すぎるから、これからはクリスと呼ぼう。
クリスがいて、背後には名もない骸骨たちが大量について来る状況で、ここが墓地の中にあることを考えると、不気味というのも今さら過ぎるんだけど、階段の下は暗くて、何か出て来そうな感じがする。
先が見えないので目をパチパチして暗闇に慣らそうとするけれど、闇が濃くて何も見えない。
歩くのすら不安になっていると、突如としてぽう、と火の玉が浮き上がった。
驚いてそちらを見ると、そこには骸骨の顔が!
ひぃいいいぃいい!
クリスか。
「元はカタコンベだからな。生者には不気味にも見えよう」
「カタコンベ?」
「地下墓地と言った方が分かり易いか?」
ひぃいいぃいぃい!
光源となる火の玉は、クリスが魔法で出してくれたらしい。
クリスのステータスには、【魔法】というスキルが結構な高LVであった。
火の玉を出すくらいはお手の物なのだろう。
地下に降りると、冷え冷えとした空気が漂ってくる。
野戦病院の跡地らしき場所で手に入れた、薄いズボンとシャツだけでは肌寒い。
「うあ、うぁあ、ヴアア!」
突如として聞こえた不気味な呻き声。
私が身を固めて立ち止まると、正面から現れたのは人……だったもの。
けれど私が散々テイムしたスケルトンではない。
それにはまだ肉が残っていて、血まみれで、目玉が飛び出していて、腐っていて、臭い。
ゾンビだ!
ひぃいいぃいいぃい!
咄嗟にテイムを使いそうになるが、鼻がもげそうな臭いに思いとどまる。
あんな臭いのは絶対に仲間にしたくない。
私がテイムを押し留まった瞬間に、ゾンビは燃えだして、あっという間に燃え尽きた。
どうやらクリスが魔法を使ったらしい。
さっきの火の玉もそうだけれど、魔法を使うのに詠唱などは必要ないようだ。
こんな状況でなければ魔法に興奮でもしたかもしれないけれど、今は怖くてそれどころではない。
ゾンビは定期的に出てきた。
その度にクリスが燃やしていく。
やはりゾンビ程度ではクリスの相手にならないらしい。
そして、辿り着いたのは牢獄のような場所。
部屋は結構広くて、十二畳くらいはあるだろうか。
病院のベッドのような、真っ白なシーツと布団のベッドが二台置いてある。
「何で地下墓地に牢獄なんてあるの?」
「何故だと思う?」
ひいいぃいいぃい!
なんか聞かない方が良さそう。
うん、私は聞かない方が良いことは聞かない主義なのだ。
たぶんここで寝ろって言われてるんだろうし、嫌な情報は知らない方がいい。
もしもここに人が閉じ込められて、人体実験だとか、拷問だとかされてそのまま葬られたとか言われたら……。
ひいぃいいぃい!
怨念が凄そう。
血とか付いてないか部屋の中を確認してしまう。
妄想だけでこんなに怖いんだから、真実なんて知るもんじゃない。
牢の中に足を踏み入れると……。
あれ?
私は違和感を覚えた。
なんだか空気が綺麗なのだ。
いや、今までが濁っていたというわけではないのだけれど、さっきまでの不気味さが大分和らいでいるように感じる。
「気づいたか?」
「なんなの、これ?」
「このカタコンベは、今はダンジョンになっている。ここはセーフエリアというやつだ。モンスターは入れない」
いや、クリスとか名もないスケルトンとか入っとるやんけ。
「テイムされたモンスターは別だがな」
質問する前に教えてもらえた。
テイムされているモンスターは、人間の仲間ということで入れるらしい。
「城に掛かっていた結界の亜種だ」
「結界?」
「死者しか通れない結界を通って来ただろう?」
そういえば、薄い膜を潜ってきた。
スケルトンたちに開いてもらっていたが、そうか、あの膜が結界か。
あれは死者しか入れない結界で、ここはモンスターが入れない結界が掛かっているらしい。
私がいることで、クリスや他の骸骨たちがここまで入って来られているのだ。
それにしても、ダンジョンなのか、ここ。
そのうちゾンビを倒してLV上げでもしてみよう。