せいこうきしだん
晩ごはんと朝ごはんを村長さんにお世話になったけれど、正直に言って不味かった。
ごはんは城のスケルトンが作ってくれた保存食の方がずっと美味しい。
ごめんね、なんか違うとか言って。
めちゃくちゃ美味しかったんだね。
舌が贅沢になり過ぎてたよ。
届かないけど心の中で謝っとく。
晩ごはんが不味かったから、朝ごはんは断ろうと思ったのだけれど、断り切れなかった。
私って結構押しに弱いんだよね。
なんかこの辺りで自慢の山菜とかいうのが出て来たんだけど、苦くってエグくって咽そうになったよ。
何とか飲み込んだけどさ、あれ、毒じゃないよね?
人間が食べたらダメなやつかと思った。
この世界ってもしかしてメシマズなのかな?
でもスケルトンは美味しく作ってくれるのだから、場所にもよるのだろう。
日本で食べたのを再現してもらったりもしたけど、元からスケルトンの作るごはんは美味しかったしね。
ごはんを食べて村長さんにお別れを言って、私とクリスは馬を連れて村を出ることにした。
馬はいつの間にか村長の家の近くにある厩舎に入れられていて、そこから引いて行くことになる。
途中、キャイキャイと騒がしい声が聞こえてきて、そちらを見ると昨日の女の子がいた。
なんて名前だっけ?
うんと……、えっと……。
駄目だ! 思い出せない!
うん?
レニ?
うーん、そんな名前だったような気もするなぁ。
よく覚えてたね、クリス。
レニちゃんは私を発見すると、「あー、ジャーキーのお姉ちゃん!」と言って私を指さす。
そんな認識なのか、私。
残念すぎる認識だ。
最初はお姫様とか言ってくれてたのにね。
お姫様はジャーキーには勝てませんでした。
私を見つけたレニちゃんは私に向って突進してくる。
レニちゃんを見守っていたレニちゃんのお母さんがまたしても顔面を蒼白にしているが、たぶんこの性格でなんにでも飛びかかっていくとなると、苦労は絶えないだろうね。
近くにはレニちゃんの友達もいたのに、突進して来たのが彼女だけなのを考えると、このくらい小さくても、普通は『貴族には近付いちゃダメ』って認識ぐらいはあるんだと思う。
それなのに貴族に見えるだろう私に近づいて来るのは、アホの子なのか、怖いもの知らずなのか、その両方なのか。
まあ、子供は嫌いじゃないので、怖がらずに近づいて来てくれて、私は嬉しいけどね。
私は昨日と同じように腰を屈め、「こんにちわ」と言う。
そう言ってから、まだおはようの時間帯だったことに気づいたけれど、レニちゃんが元気よく「こんにちわ!」と繰り返したので、まあいいとしておこう。
「今日は何してたの?」
レニちゃんは手に木の棒を持っている。
友達と棒倒しでもしていたのかと聞いてみると、彼女は満面の笑みで「戦闘訓練!」と少し舌足らずに言った。
戦闘訓練をしていたらしい。
うん、チャンバラごっこってやつだね。
チャンバラごっこ好きなの?
女の子なのにね。
性別は関係ないかもしれないけど、日本でもそういうのが好きなのって大抵男の子だったし。
友達は男の子みたいだから、一緒にいたらそういう遊びが主流になっても不思議じゃないのかな?
チャンバラごっこじゃなくて戦闘訓練?
そっかそっか。
子供の頃ってチャンバラごっこって言われると、馬鹿にされてるような気分になるよね。
この世界で強くなろうとしてるってことは、冒険者にでもなりたいのかな?
うん?
冒険者じゃない?
「せいこうきしだんに入るの!」
せいこう騎士団ってなに?
えっちな話じゃないよね?
えっと、確か城を攻めて来たのが聖光教会とか言ったっけ。
それと関係ある?
その教会の保有する軍事力?
クリスはよく知ってるよね。
たまにウィキペディアなのかと思うよ。
それじゃあ私たちの敵だよね、それ。
レニちゃん、騎士団より冒険者の方が良いんじゃない?
ほら、自由だしかっこいいよ。
聖光騎士団じゃないと駄目なの?
「アンデッドを倒しておとうさんの仇を討つの!」
仇……?
私が首を傾げると、レニちゃんのお母さんが事情を説明してくれた。
なんでも、レニちゃんのお父さんはアンデッドに殺されたらしい。
レニちゃん家はシングルマザーの家庭だったんだね。
こういう話、レニちゃんに聞かせていいの?
ジャーキーあげるから向こうで遊んできな。
レニちゃんのお父さんは三年前にアンデッドに殺されたの?
なんかヘヴィーな話だね。
でも、レニちゃんはまだ五、六歳だし、三年前って言ったら二歳とか三歳だ。
それじゃあお父さんのこともあんまり覚えてないんじゃないかな?
だからレニちゃんは、仇とか言ってる割りに悲壮感がないんだね。
でも、聖光騎士団って危険な仕事なんでしょ?
城での戦いでも何人か死んだし。
これから行われるであろう戦いでもたくさん死ぬんだろうし。
親として止めなくて良いの?
「あの子が立派な騎士になって、アンデッドを駆逐してくれるならこれほどの誉はありません」
うわぁ、そういう感じ?
夫を殺されて闇落ちしちゃったのかな?
なんていうか、レニちゃんが自発的になりたがってるというよりは、親に進路を決められているのかもしれない。
一人娘を戦場に送り出そうとするなんて、レニちゃんのお母さんは結構ヤバいやつなのかもしれない。
お母さんがこれじゃあ、止められそうにはないね。
なんかフラグが立ったような気がするよ。
成長したレニちゃんが、聖光騎士団に入ってアンデッドを倒しに来る。
そして出会った親玉は、幼い頃にジャーキーを貰った優しいお姉さんだった!
あ、なんかこれで感動のストーリーでも書けそうじゃない?
まあ私は、レニちゃんに滅ぼされないように、今の内から力を蓄えておかなくちゃね。
私はのんびりと暮したいだけなんだけど、のんびりと暮すためにはとんでもない武力がいるという、本末転倒な状態になってきたような気がする。




