女の子
「おひめさまだ!」と私を指さして、小さな女の子が駆け寄ってきた。
他の人たちが遠巻きに見ている中で、彼女だけ私たちに興味を持って近寄って来たようだ。
少し離れた位置にいる、おそらく母親であろう女性が顔を青くしているのが見えたが、別に『無礼打ちじゃ!』とかやらないから平気だよ?
似非貴族令嬢だしね。
令嬢って言うと、少女ってイメージがあるけど、何歳まで令嬢って呼んで良いんだろう?
転生したからゼロ歳です、きゃぴ♪
ってやっても文句は言われないと思うんだけど、見た目前世のまんまだから、それ相応の年齢に見えるんだよね。
ちなみに前世の私は二十ほにゃらら歳だよ。
お酒飲んでも大丈夫。タバコ吸っても大丈夫。
競馬やっても大丈夫の年齢だよ。
「こんにちわ」と腰を屈めて女の子に挨拶をする。
あ、無口キャラで行くはずだったのに喋っちゃった。
女の子は元気よく「こんにちわ!」と挨拶を返してくれる。
かわいいね。
なんか汚れてるけどね。
服とか解れてるし、髪もぼっさぼさ。
ほっぺたにはどこで遊んだのか泥みたいなのがついてる。
この子、貧民ってわけじゃないんだよね?
この村では当たり前?
この村自体がスラムってわけでもないんでしょ?
ちょっとカルチャーショックだね。
まあ、飢えてはいないみたいだから良いのかな?
「おひめさまはどこから来たの?」
年齢は五歳とか六歳くらいだろうか。
まだ舌足らずな印象が拭えない口調で、彼女は割と核心を突く質問をしてくる。
まさかアンデッド蔓延る墓地に住んでいるとも言えないので、「お城だよ」と答える。
あとついでに「お姫さまじゃないけどね」と言っておく。
別段美人というわけでもない私が、綺麗な服を着ているだけでお姫さまと呼ばれるのは心苦しい。
「おしろに住んでるの?」
「そうだよ」
私はえっへんと胸を張る。
それは嘘じゃない。
どこのお城かは言わないけどね。
女の子は目をきらきらさせて、「ふわぁああ!」と興奮したような声を上げた。
その段になって、顔を真っ青にして固まっていた母親らしき女性が慌てて寄ってきて、女の子を守るように抱きしめる。
「む、娘が申し訳ありませんっ!」
大丈夫だよ?
無礼打ちとかしないよ?
私はしゃがみ込んで、母親に抱かれている女の子の頭を撫でる。
気持ち良さそうに目を細めるのが可愛い。
ハムスターみたいだ。
え、っと。
飴ちゃん、飴ちゃん。
あ、ジャーキーしかないや。
ま、いっか。
はい、ジャーキーあげるね。
我が城専属のコックによるジャーキーだよ。
美味しいよ。
まあ、前のコックに比べるとちょっと違うんだけどね。
前のコックはよっぽど私の味覚を知り尽くしてたんだな。
スケルトンだから味覚なんてないはずなんだけどね。
「ありがとう、おひめさま!」
お姫さまじゃないって言ったんだけどね。
子供って思い込んだら突っ走っちゃうところあるよね。
仕方ないからほっとこうか。
きらきらした目でジャーキーを齧る女の子。
せっかく可愛いのにジャーキーじゃ台無しかな。
今度飴ちゃんを作ってもらおう。
でも、子供に飴を配りまくるおばさんみたいになりそうだから、ほどほどにね。
「美味しいっ!」
女の子が叫ぶ。
うん、美味しいよね、それ。
保存も利くし、私も携帯食として常に持ってるくらいだよ。
もう一本いる?
私がジャーキーを差し出すと、嬉しそうに手を伸ばす女の子。
「こ、こらっ!」
慌ててその手を下させる母親。
お母さんの方はずっと青い顔だね。
やっぱ貴族って怖いんだ。
私は貴族じゃないけどね。
大丈夫だよ、って言って女の子の手にジャーキーを握らせる。
お名前は?
レニちゃんっていうんだね。
んじゃあ、レニちゃん、お姉ちゃん村長さんに用事があるから、そろそろ行くね。
ジャーキーそんなに口に入れたら喋れなくなっちゃうよ?
ばいばい。
またね。




